EX-46 AF「リーネ14歳、ピチピチの中学生です!」(3/4)
「こちらこそ、よろしく…。あ、そうだ、君の名前は?」
…どうしよ?
須藤くんは、ちゃんと本名を言ってくれた。証明もしてくれた。
でも、ここで佐藤春香のFWO会員証を見せたら、たとえ認識阻害があっても、おそらく終了だ。
ついでに言えば、年齢もバレる。中身アラフォーなことはバレないが。
…ん?中身?
「生徒手帳はないけど…須藤くんは、『自我認証プログラム』って知ってる?」
「ああ、うん、親父の携帯端末に入ってる公式アプリ見たことある。俺の情報も登録したけど、使ったことはないかな」
「そっか。じゃあ、私の携帯端末に入ってる公式アプリを使うね」
「え、中学生で携帯端末もってるの!?しかも、そんなアプリまで入ってるなんて!」
え、中学生だとそんなもの?…そんなものかな。
「ウチの両親が忙しくてね。家にひとりでいる時、宅配とかで認証するために使うんだ」
「そっかー。それで?」
「…起動完了。ここに指を当てて?」
「うん。…うわっ、僕の名前!?あとこれ、個人番号?すっげー!」
そりゃあ、【運営No.00】権限で、登録した世界中の人々の認証が可能なのですよ。必要な情報だけ表示するようにもしてあるよ(訳:年齢は表示しない)。
そして!このアプリに限っては、オリジナルの自我認証プログラムが優先して機能する。こないだ各国首脳と会談した時に使おうと思っていたものだ。結局、使わなかったけど。
したがって、
「で、私はね…」
「…なんて、読むの?」
ズコー。
ああそうか、カタカナ表記じゃなくて、オリジナルの『Line Fernbell』が表示されたか。しかもこれ、英語読みだと『ライン・ファーンベル』だよ。なんてこったい。
「これはね、『リーネ・フェルンベル』って読むの」
「え!?FWOの有名アバターの!?それに、フェルンベルって、FWOのフェルンベル!?」
うん、普通はそっち思い浮かべるよね。
「火星公社の『フェルンベル総裁』って知ってるかな?私のおじい様なの」
「…!こないだ、TVで映ってた!」
「FWOって、もともと私達の名字を採用して付けられたものなの。FWO創始者とおじい様が知り合いでね」
うん、全部本当だ。
「私は、母親が日本人でね。見た目はこんなだけど、一応ハーフなんだ」
うん、ほとんどが嘘で、ほとんどが本当だ。どーいう。
「はー…。えっと、じゃあ、君のこと、なんて呼べばいい?」
「リーネでいいよ。今はアバター名として有名だけど、もともとよくある名前だから」
「そっか。じゃ、じゃあ…リーネ、さん」
「リーネ、だけでいいよ。私は、誠くん、でいい?」
「い、いいよ!じゃあ、行こうか、リーネ」
「うん!」
ショッピングモールに向かって歩き出した、私達。
…えいっ。
「はあっ!?」
「ん?ダメだった?彼女なら、彼氏の腕を取って歩いた方がいいかなあって。それとも、手をつないだ方がいいかな?」
「え、や、腕のままでお願いします!」
なぜいきなり敬語。ああ、うん、私も告白…じゃなかった、『素敵』とか言われ…ひゃああああ!!…はあはあ、いや、その時に敬語になったよね、うん。
「…」
「…」
自分でしかけておいて、自分で照れてるの図。
でも、その腕は離さない。彼女だからね!
◇
ショッピングモールに、到着。
「ま、負けた…」
「ちょっと、負けたって何よ!?知らない!」
「あ、ちょま」
終了。
言うまでもないだろうが、このやりとりは、誠くんのクラスメートとその彼女のやりとりである。確かに、勝った負けた言ったらダメだろ。彼女はアクセサリーか何かじゃないんだから。
とりあえず、その彼女は去っていき、彼氏のクラスメートが追いかけていく。そして、いつまでも戻ってこない。だから、終了。
「えっと…ありがとう、付き合ってくれて」
「どういたしまして。でね、今度は私からのお願いなんだけど」
「な、なに?」
私は、このショッピングモールに、
「私は、このショッピングモールに、服とかを買いに来たんだ。付き合ってくれる?」
「え…!?」
◇
ざっ。
「これ、どう?」
「あ、うん、似合ってる」
「じゃあ…」
しゃっ。
ざっ。
「これとは?」
「えっと…さっきのが、いいかな」
「なるほど…」
誠くん、ちゃんと見てくれてる!嬉しい!
前に、別のショッピングモールで引きこもりプレイヤーと同じことしたけど、センスが掲示板通りがどうとかなんとかちくしょうという感じで。母親や美里は、自分で勝手に選んで『かわいい、かわいい』しか言わないし。
美樹くらいだよ、『かわいいけど、こっちとかも…』って、ちゃんと見てくれるの。その美樹だって、以前はリーネのコスプレできゃーきゃー。まあ、あの辺から既にざっくばらんに話すようになったっていうのはあるかも。閑話休題。
「じゃあ、これを買うね。ありがとう、見てくれて」
「役に立ったのかな?妹のを選んだことがあるくらいで」
「へー、妹さんいるんだ。いくつ?」
「ふたつ下の小6。これがもう、生意気でさあ…」
ふむ、それで慣れてるのか。生意気とか言ってるけど、いいお兄さんって感じだよ!
「小6なのに、もう、彼氏がいて…」
「そ、そう…」
「…」
うわああああ、なんでいつもこのパターン!?
次だ、次!
◇
「財布?」
「う、うん。その、穴があいちゃって、買い直そうかなあと」
「そっか。でも、僕にはわからないなあ。持ってるの、こんなだし」
見事なガマ口。母親からのお下がりらしい。
「一緒に見るだけでも、お願いできるかな?」
「まあ、いいけど」
財布コーナーであれやこれやを見る。
長財布…は、パス。紙幣に優しいとか言われてるけど、バッグや上着に優しくない。
折り畳み…これが一番数が多いのかな。でも、あんまり好みの色がない。
あ、一応長財布だけどポーチ型の革財布が結構好みかも!よし!
「じゃあ、これを…」
「えええ、そんなに高いのを!?」
あ、やっべ。数万円クラスのだった。しょせんは財布と値札見てなかったよ。
「そ、そうね、これはちょっと高いよね。こっちの革財布の方が手頃かな」
「ちょっとって額じゃ…リーネの家って、もしかしてお金持ち?おじいさんが偉い人みたいだし」
「ど、どうかな?そうでもないと思うよ?」
お金持ちっていうと、鈴木姉弟のあのででーんな豪邸とか、瑞乃嬢の執事高級車付きで紅茶飲みながらおほほほとか。春香としてはもちろんリーネとしても、あーいうのに比べたらとてもとても。
…ふと、こないだ転移門を急遽使った時に確認した口座残高を思い出す。3桁区切りの記号、たくさんあったなあ。結局、転移門使用料も経費だからって地元当局から補填されたし。あと、そもそも私の資産は、投資ってことでほとんどが株式とか不動産とかに…。
「…うん、そうでもないよ。両親とアパート暮らしだし」
「そ、そうなのか。あ、ごめん、変なこと聞いちゃって」
ここはまあ、あの両親の娘である佐藤春香のスタイルで行こう。いろいろごっちゃになってきたな。
「ううん、アドバイスありがと。買ってくるね!」
うーん、中学生のフリって結構難しいなあ。見た目は確かに中学生っぽいはずなのに。あと、言動だって中2…厨二…いやいや。
これはあれか、中学生がどうこうより、生活様式が大多数の中学生っぽいかってことだな。瑞乃嬢やその学園がその範疇に入るとは思えないし。そう考えると、鈴木姉弟は珍しいよね。瑞乃嬢の家より規模が大きい資産家のお嬢様お坊っちゃまなのに。隠してたって言うから、鈴木のお爺様あたりの方針かな。でも、それならもーちょっと…。
「お客様、カード払いですか?」
「あ…ああ、いえいえ、現金で!」
考え事してたらいつものノリでうっかりFWO会員証出しかけたよ!カード入れからチラ見されたけど、券面見られてないよね?うん、大丈夫だ。
買った財布は包んでもらわず、その場で現金残りを突っ込んでバッグに入れる。ふう、落ち着いた。家にも前使ってたのがあるけど、古くなったし、これからはこっち使おう。ていうか、バッグに入れっぱなしにしとこう。
「お待たせ。おかげで、いい買い物ができたよ。ありがとう!」
「…!あ、ああ、うん、そ、それは良かった」
「?」
あれ、誠くんがなんかしどろもどろ。私、またなんかやっちゃった!?
…あ、私、笑ってた。え、えっと、また『笑顔が素敵』って思ってくれたのかな?かな?ひゃ、ひゃあああ。