EX-44 AF「リーネ14歳、ピチピチの中学生です!」(1/4)
すみません、過去回とかIF回ではなく普通の番外編です。普通?
ひじょーに心配な要素が残ってはいるが、『オフィス』の立ち上げやVR研諜報部門によって、私がこれまでやってきたあれやこれやの負担がだいぶ軽減された。
つまり、佐藤春香としての本業にかなり専念できるようになったわけである。大学生であり、FWOで攻略とスローライフを楽しむプレイヤーであり、両親と自宅で暮らす19歳の娘であり、そして、
「えへ、えへへへ…」
「春香が、なんか気持ち悪いわ…普通じゃないわ…!」
「男性とのお付き合いは、まだ春香には…!」
おっと、ついリーネとしての心境が出てしまった。あ、いや、これは春香の心境をリーネとして表現してるのかな?まあ、いいや、どうでも。
また!伸びて!大きく!なったのである!私の!背と!胸が!わーーー!(パチパチパチ)
えへへ、これなら間違いなく女子中学生くらいには見えるよね?リーネの時と比べたら雲泥の差だけど、変な視線を受けることもないし、これくらいがちょうどいいんだよね。えへ、えへへへ。
そうだ!
「お母さん、今日は私ひとりで、服を買ってくる」
「え!?だ、大丈夫なの!?」
「うん、み…高橋さんに、いろいろと、教えてもらった」
そう言って、携帯端末のファッション雑誌データを何冊か見せる。以前、美樹のアドバイスがあったのは確かだけど、リーネとしての記憶も掘り起こしてみたのだ。それらを基に、私に似合いそうな服をピックアップしてみた。付箋機能も使いまくったよ!
「春香が…ファッション雑誌…」
「お母さん?」
「…はっ。え、ええと…あら、悪くはないわね…えっと、これ、どう操作するの?」
「これは、こう」
「ああ…うん、お値段も手頃よね。店頭ならもっと割引があるでしょうし…」
んー、お母さん、やっぱり携帯端末が苦手っぽいなあ。お父さんのも含めて、私が買ってあげようと思ったこともあったんだけど、買ってもあまり使わず重しか何かにされそう。押し花作るときとかの。軽すぎるかな?
「じゃあ、行ってくる。今日は、車は使わない。電車を使うから」
「そ、そう…。気をつけてね」
「は、春香、痴漢には気をつけるんだぞ?」
やだなー、お父さん。自分で前に言ったじゃない、模擬剣があれば痴漢が撃退できるって。私、今は剣を召喚できるんだよ!
◇
てくてくと歩き、最寄駅に到着する。さて、ここら辺から両親の『認識阻害』の範囲外だから、気をつけないと。車を使っている時はさほどではないけど、徒歩だとじっくり見られちゃうんだよね。大学構内とか。
『佐藤春香』以外のロールプレイでもしようか?でも、『篠原あかね』として私自身の認識阻害能力を使う手もあるけど、今は諜報員じゃないし。とはいえ、まさか『ケイン・フリューゲル』や『ハルカ』のロールプレイをリアルでかますわけにはいかないし、『リン』は幼すぎるし…。
よし、ここは!
「よし、ここは、あえて素の私でいく!」
つまりは、リーネ・フェルンベルである!中身アラフォーの、そのくせ未だ両親と過ごしていたいお子ちゃま発想で、会社勤めしたことないからちょっと世間知らずで、それでいて筋だけは通したい、もともと研究畑で理屈っぽいところがあって、あと割と厨二病的な…。
orz
ダメじゃねえか、素の私。特になんだよ、中身アラフォーの厨二病患者って。ああそうだよ、渡辺 凛のこと言えないよ。あそこまで無鉄砲で雑じゃないけど!もうちょっとなんとかしてよ!なんなの、こないだ某国に引き渡そうとした1回撃ったら半壊するレーザー砲は!あれなら、私のピコピコ光線銃の方がまだハッタリに使えるよ!はあ、はあ…。
「ま、まあ、とにかく、この線で。佐藤春香としての認識は『阻害』してっと…」
よし、これで…。
「あああ!FWO会員証しか持ってない!」
これ買い物で出したら即バレじゃん!最近の私、どうかしてたよ!これじゃ『わたくし、お父様から渡されたブラックカードの家族カードしかなくて…』とか言い出しそうな浅羽瑞乃嬢のようなお嬢様みたいじゃん!いつも自分で言ってるじゃん、分相応を考えろよ、私!
「銀行カードでもあるから、ATMで現金下ろそう。えっと…」
駅構内でATMを探す。探す。…ないよ!?あれ、そういえば、私が最後にATM使ったの、いつだったけ?えっとえっと…ああっ、リーネの時じゃん!この10年くらいで、ATMの設置状況が大きく変わった!?
「こ、コンビニなら…」
駅前のコンビニに入る。リーネの時代でもコンビニATMは増え続けてたから…あ、あった!
「はあ、なんとかなった…」
とりあえず、想定していた予算の分を下ろす。
「ぐっ、財布がない…」
カード入れしか持ち歩いてなかったっていうね。最後に財布持ち歩いたのっていつだっけ…ああ、あのパラレルワールドに飛ばされた頃だ。いや、あの時だってたまたま母親から『はい、首都圏にお出かけするんでしょ?これくらい持ってないと!』とかって渡されたのだけだったし。お母さん、私の資産、未だわかってないでしょ!もしかして、あの『【認識阻害】普通』、自分自身にもかかってませんか!?
両親の認識阻害の分析は横に置いて、とりあえず札束…というほどのものでもないけど、それを備え付けの封筒に入れ、バッグに収める。うう、金銭をこんな風に雑に扱うのは私の信条に…いいから、今は筋通すのも横に置けよ、私。




