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EX-43 AF「うがあああああ!ちゃんと仕事しろー!」

「高橋代表、篠原さんから『攻略』完了の連絡がありました!」

「え、もう!?」

「はい!SOE『ミラージュ』ロサンゼルス支部をクリア、ということです!」

「そう…。篠原さんにメッセージを伝えて。『ありがとう』って」

「『ありがとう』ですか?」

「ええ、『ありがとう』よ」


 リーネ、ありがとう…!

 ‎でも、『ミラージュ』を発見した時のリーネの顔、鬼の形相でちょっと怖かったよ?実さんも震えていたし。嬉しいけどね!



「攻略、完了!」


 現地捜査員もいるから、『認識阻害』をかけたまま拳を高く上げてポーズをとる。


 VR研諜報部門は今日も絶好調。雇った人々の活躍が目覚ましく、何人もが早々に諜報レベルの情報収集活動に入った。

 ‎おかげで、『篠原あかね』としては最後の実力行使だけで済むことがほとんどである。潜入捜査も必要ないから、時間をかけたロールプレイ重ねがけも必要ない。だから、割とおおっぴらに活動している。


 ‎そして、美樹を陥れようとしたSOE『別働隊』(クソ野郎共)と共に活動するため日本に『出張』していた、『ミラージュ』というSOEの部門の存在が発覚、とりあえず先の詐欺に関わった連中を追い詰め、捕縛した。

 ‎相応のエネルギーを消費する転移門の使用許可を得ての活動だったが、必要経費はこちらが負担(口座残高消化)したため、現地当局からは誰も文句が出なかった。

 ‎とはいえ、表向きは『篠原あかね』しか出動しなかったから、現地での記者会見はこんな感じである。


「篠原さん、佐藤春香嬢の今日の予定を教えて下さい!」

「佐藤さん?今日はずっと大学でサークル活動(伊藤先生と口裏合わせ)だって言ってたよ?」

「ありがとうございました!おかげで、今日の番組コーナーで紹介できます!」


 いや、そんなん紹介してどうすんのよ。しかも、日本じゃなくてこっちのTV局の番組でとかさ。

 ‎ちょっと聞いてみたら、『佐藤春香は将来の太陽系連合初代総裁』という話が割と伝搬しているらしく、それを踏まえた動向の報道なのだそうだ。よくわからんけど、もしそうなったら、その頃までにはたぶん『リーネ・フェルンベル』と名乗っていると思うよ?


「ところで篠原さん、あなたは何か『現界』能力をお持ちなのですか?」

「ああ、うん、手刀スキルを含む体術がそうだねー。私もFWOの古参プレイヤーだけど、発現にはかなり時間と手間がかかっちゃったよ!FWO内時間で累積5年くらい?」

「そ、そうですか…」


 佐藤春香と渡辺 凛の『現界』能力は割と早くから知られているので、変な噂が流れる前に、『現界』能力が伝搬することもあっさり公表した。

 ‎でも、FWOで一番長い付き合いのミリー美里でさえ剣士基本レベルである。そんな簡単に身につかないということも併せて強調した。両親の『認識阻害』は、本人達が無意識ということもあって公表していないが、マスコミ関係者ならお察しであろう。そして、どうしようもない。


「篠原さん、あなたの撮影は問題ないですか?」

「いいですけど、数分に収めて下さいね。これでも一応諜報員なので!」


 諜報員が記者会見など前代未聞だが、いわば佐藤春香のスケープゴートである。数分程度なら、私の『認識阻害』は記録媒体や通信手段にも影響を与えることができるから、そういう対応も行っている。実際、これだけ目立っても『篠原あかね』の素性を調べようとするものはいない。そしてそれを不思議にも思わない。両親のそれのように。


「それじゃ、日本に戻りますね!」


 今日は、現地スーパーでいいロブスターが手に入った。今から転移門で戻れば、両親との夕食に間に合うだろう。これくらいの役得はあったっていいよね?



「『リーネ総合オフィス』?」

「うん。これまでの佐藤春香としての仕事の窓口を一元化しようと思ってね」

「『リーネ』って、『リーネ・フェルンベル』?それとも、『リーネ・フリューゲル』?」

「本当は前者なんだけど、世間一般的には後者だと思うだろうね」

「『入れ替わり』を、公表するまで」


 今日はFWOビリーくんオーナーのエリアの小さな家に、リーネ&ケインとしてお邪魔する。エリアの開拓は割と進んでいるようだ。やればできるじゃない。


「お爺様の仕事を参考にしてみたら、なんとかな。本当は、このエリアで実力つけて、リアルで『現界』能力を発揮したいところなんだけど」


 とりあえずそれでもいいと思うよ?実際、私…というか、将来的にはその方が都合がいいだろうし。


「で、オフィスはどこに作るの?やっぱり首都圏の一等地を買い占めるの?」

「しない。作るのは、FWO第一エリア」

「FWOに!?え、専用VRサーバとかでもなくて?」

「あくまでFWOにだよ。これは、『Second Stage』への布石でもあるんだ」

「え、あの構想、マジだったの!?FWOを汎用通信だけでなく、社会機能の多くのプラットフォームにするっての!?」


 『フェルンベル・ワークス・オンラインSecond Stage』。VRゲームの枠をはるかに超えた、社会インフラともいえる仮想世界ネットワーク。将来の転移型通信路の普及を想定し、『太陽系連合』樹立プランとも連動したものでもあるが、それが、『コアハート』をベースとした次世代FWOを用いることを検討していることは、あまり広く公表していない。


「そりゃあ、この間の会合でもその可能性は言われていたけど…」

「あたし達が毎日のように楽しんでいたこのFWOが、太陽系連合の基盤システムに…」

「まだ、何年も先を想定した構想レベル。でも、一番可能性が高い」


 まあ、まだまだ先の話だ。繰り返すが、世界はみんなで少しずつ作っていくものだ。決して、ぽっと出の能力者の気まぐれやテロリスト共の野望によって湧き出るものではない。


「先輩、相変わらず自虐的っすね…」

「ぽっと出なのは、間違いない。私が本格的な活動をするようになって、まだ1年くらいしか経っていない」

「そうなのよね…」


 何度言ったかな、これ。ぽっと出でこれだけ影響があると、何かあって私が急に死んだら大変なことになりそうだ。

 ‎それもあって、こうして組織的なものを立ち上げようとしている。まあ、FWOの拡大分社化やVR研設立、そしてあの諜報部門も、その一環だったけどさ。


「…そっかー、そういうことかあ…」

「なに?」

「ああ、うん…。あたしはね、かわいくて強いリーネが、ぞんざいに扱われるのが嫌だったのよ。ケインに貢ぐとか、利用されるのとか。だから、今のリーネは凄く輝いていて、ああ、報われてるんだなあって思っていたんだけど…」


 おや?ミリー…いや、美里だな。なにやら神妙になってる。どしたどした。


「違うんだよね。リーネだって、普通の女の子なんだよね。かわいくて強いことを褒め称えられても、負担になっちゃって、嬉しくないんだよね」


 ああうん、そうだね。特にほら、この間の『現界』能力の素性のことなんか考えるとね。アレがあの伝説のままのソレだったら、そして、それが広く知られたらと思うと…。正直、『神様のような人間』の方がまだマシだ。多少は人間扱いしてくれるだけでも。


「高橋さんは…ううん、田中さんも、そのことを早くから理解していた。リーネがふたりと話している時の『幸せそうな顔』って、そういうことだよね」

「ミリー…ううん、美里」

「え?」


 私は、大変珍しいことに、FWO内で、『ロールプレイ』をやめる。


「美里も、わかってくれたんだね。嬉しいよ!」

「リーネ…!」

「だから、美里も幸せになってね」

「当然よ!健人と一緒にね!」


 うん、よしよし。


「…先輩が、着々とハーレムを築いている…。『英雄色を好む』って、お爺様が言ってたけど」


 健人くんはまだまだの模様である。健人くんと一緒にって、美里も言ってたのに。


「え、俺も先輩のハーレム要員なの?」

「違う」


 ロールプレイ解除、短かったなあ。



 というわけで、FWO第一エリアに『リーネ総合オフィス』を立ち上げる。最初の従業員がミリビリ姉弟である。まあ、ここでの仕事に限っては、美里と健人くん、でもいいんだけど。

 ‎いやあ、確かに地価が凄いことになっていた。最近ダンジョンで稼ぎまくっていたケインの懐で余裕だったけど。ヒモ疑惑完全返上である。


「現実の取引に限ってRMTがOKとなるよう、制度改革されたよ。まあ、通販相当だね」

「各国首脳を含めた著名人相手に、通販…」

「一般プレイヤーも対象だからね、そんなに畏まらなくていいよ」

「でも、リーネやケインがいないこともあるんでしょ?あたし達だけじゃ…」


 あー、ふたりは内勤相当かな。受付を含めた営業担当は別に用意した。多少、いや、かなり不安だけど、そろそろ働かせないとヤバいから。


「未来の世界の指導者、渡辺 凛でーす!」

「違う」


 やっぱダメか?

 ‎火星への転移型通信路が本格的に機能するようになったから、ある意味先手を打って取り込んだんだけど。


「渡辺 凛には、受付の他、『コアワールド』の『コアハート』による拡張に関するアドバイスを担当してもらう。仮想世界活用の需要は多い」

「まあ、偉い人のあしらい方や仮想世界技術の売り込みは得意だけどー」


 そうだよね!おかげで、私がさんざんな目にあったよね!間接的にも直接的にも!

 ‎…と、はっきりとは言わない。渡辺 凛には両親同様、最後まで『入れ替わり』について話すつもりはない。最終的には、『既に使われなくなった「リーネ・フェルンベル」という名前を、佐藤春香が仕事用に継承する』とかなんとかするつもりだ。『認識阻害』能力をフル活用してでも。

 ‎そうなると、『リーネ・フェルンベル』としての本来の私の性格は、見せないことになる。両親にとっては私は『佐藤春香』でしかないからやりやすいが、渡辺 凛にはそうでもないところがある。気を付けねば。


「これから、ある月面都市の開発責任者が、アバター接続でやってくる。太陽系連合の樹立準備に関わっている人でもある。丁重なおもてなしを」

「わかった!賄賂は高性能核融合発電設備の『現界』でいい?」

「よくない」


 うがあああああ!ちゃんと仕事しろー!


「あたしにも、見える…!リーネの、心の中の叫びが…!」

「リーネ先輩、今までずっと苦労してたんだな…」


 そうだよ!だから、渡辺 凛(こいつ)の躾を手伝って!お願い!

注意:最終話ではありません。本編黒幕キャラが再び野に放たれただけです。首輪付きで。

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