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EX-40 AF「はー、さっさと成長したい…」

すみません、『きゃっきゃうふふ』ネタが続きます。高橋さんが面白くて…。

 FWOクルーズ船エリアの、喫茶コーナー。

 いつもの面子のリーネ&ケイン+ミリビリ姉弟。


「春香、高橋さんと楽しくやってるみたいね」

「ミリー、今の私は、リーネ・フリューゲル」

「そうそう。ちゃんと区別してね」

「わかってるわよ…」


 なぜか、ぶすっとした顔をしている、ミリー。


「姉貴、あきらめたんじゃなかったのかよ。リーネ先輩に俺達の家に住んでもらうっての」


 なんの話!?

 理由はともかく、ウチの両親をアパートに置いてけないよ!


「いやほら…春香も成長するんでしょう?そうしたら、あのアパートでは手狭かなあって…」

「といったことを口実に、家で先輩をかわいがりたいんだってさ。俺もだけど」

「私はペットじゃない」


 つーか、そんなことぶっちゃけるな!美樹との違いはここなんだよなあ…。あと、大学の先輩とか同じ講義を受けている学生とかも。一家に一台、あると便利な設備という感じがしなくもない。

 ‎好かれているんだろうけど、私が求めている人間関係はそれじゃあないんだよ。ほら、リーネの頃のジロジロ見てきた男性共と同じみたいでさ。ああ、美樹と語らいたい、お出かけしたい、お茶したい…!


「田中さんも、哀れよね…。仲人みたいな存在にさんざん結婚しろと言われて結婚したのに、その仲人に高橋さんを取られるなんて…」

「まあ、否定はしないな。もういっそ、先輩と高橋さんでくっついちまえよと思うことはあるな」


 田中さんと同じようなことを姉弟にも言われてしまった。そんなに酷い状況なのかな?でもたぶん、美樹の方から誘われたら断れないよ、私。


「姉貴、先輩がついに色ボケになったみたいだぞ」

「あたしが言うのもなんだけど、不潔よね。女同士で…」


 誘われるって、そういう意味じゃないよ!取られるがどうとか、そっちが先に言ったんじゃない。どっちが色ボケなのよ。


「美樹…高橋さんは、社会的に重要な立場。誰かが守らなければならない」

「それもあって、VR研に諜報部門を作ることになったんじゃないの?まあ、春香も『篠原あかね』だっけ?そのロールプレイで参加するらしいけど」

「『佐藤春香』は有名になりすぎた。両親の無意識な『認識阻害』にばかり依存できない。だから、『篠原あかね』として活動することにした」


 SOEも、『ロールプレイ戦術班』は多くが捕まったが、『別働隊』なるネットワーク技術活用組織が活発になっている。おそらく、『ロールプレイ戦術班』が奪取した火星のストレージ装置の中身が渡ったのだろう。

 ‎ったく、ろくな連携ができていない割には、そういう技術受け渡し的なものはやたらスムーズだ。月面でのオリジナルの自我認証プログラムとかさ。もしかして、内部でも奪ったり奪われたりしているのだろうか?だとしたら、迷惑過ぎる。


「よし、あたしも現実世界では春香のこと『リーネ』って呼ぶ!まだちょっと抵抗があるけど、高橋さんには負けてられないわ!」

「姉貴、だから、あきらめろって…」


 いみふめ。もう、好きにして。



「ごめん、美樹。私、調子に乗ってたみたい。こんなに仲良くできる親友ができたの、今も昔も初めてだったから…」

「リーネのせいじゃないよ!忙しいあなたを振り回していたのは私の方!だから…だから、そんな悲しい顔しないで!」

「美樹!」

「リーネ!」


 ちらっ


「ところで、VR研の情報収集部門の面接結果ですが…」


 ちっ、スルーしやがった。もっと拗ねれば『やーい、へたれー、女の私にやきもちー』とかって煽って、そのまま美樹に渡して停泊中のクルーズ船に押し込んだのに。まあ、いいや。次の機会を狙おう。


「FWOプロモーション経由の宣伝で応募が多かったこともあって、いい人材が揃いそうですね」

「リーネ…『篠原あかね』としてはどうする?バイト扱いの娘を部門長にするのは変だけど」

「『篠原あかね』は最初から諜報活動要員ということで、組織外の情報収集という体裁かな。部門長はとりあえず美樹兼任で、リーダーだけは部門員の中から決めておくとか」


 明日、合格者を集めての部門の初会合だ。そこであらためて決めてもいいだろう。



「「「「よろしくお願いいたします」」」」

「よろしく!じゃあ、リーダーだけど…瑞穂川(みずほがわ)麗羅(れいら)さん、あなたにお願いするわ」

「えっ!?わ、私ですか!?」


 うん、あなただよ。私が決めた。


「あなたが一番、時間が取れそうなのよ。他のメンバーはバイトが多いし、分担収集した情報を整理して報告する役としてはピッタリだと思うんだけど。ダメ?」

「い、いえ、突然のことでびっくりしただけです!やります!やらせて下さい!」

「じゃあ、よろしくね。あ、篠原さん、あなたはネットカフェとかのバイト経験が多いみたいだから、カプセル型の利用状況の実地調査をお願い」

「わかりました。早速行ってきます!」


 と言って、VR研のあるビルから外に出る私、篠原あかね。


 さーて、今日は時間があるから、本当に実地調査しておこう。

 あ、公衆回線経由でFWOでのノルマもこなしておこうっと。エリア151の雑魚魔物が一掃(攻略)できそうなんだよね。あと、新規に公式設置された50層規模のダンジョンの調査(スローライフ)。FWO技術スタッフもがんばってるんだなあ。



「はい、潜入できました。簡単なものでしたよ」

「ネットワーク経由での履歴書の改ざんには手こずったが、なんとかなったか」

「ええ。幸運にもこういう立場になれたので、これから収集される情報は全て、私経由に…」


 ドゴオオオン!!


「はーい、『別働隊』首都圏支部、いっちょあがりーっと」

「し、篠原あかね!?」

「そうだよー!いやあ、クロイゼルさんを襲った連中に協力していたのが、あなた達だったとはねえ。マフィアのアジトで見かけなかったからずっと探していたんだけど、棚ボタだね!」


 変装すらしてなくて笑っちゃったよ、レイラ・ミズホガワさん!


「くっ、撃て撃て!」


 もー、ワンパターンだなあ。

 よし、新必殺技、初お披露目!


「【連鎖発動(イニシエート)】転移魔法陣!」


 弾が撃ちまくられる前に転移(・・)する、篠原あかねとしての私。


「き、消えた!?…ごふっ」

「かはっ」


 うん、この程度の連中なら、体術と手刀で『攻略』できるな。超短距離転移装置を併用して。


 『神剣フリューゲル』が佐藤春香の必殺技として有名になっちゃったから、篠原あかねとして使うのは避けることにしたのだ。あと、あれ出すと『リーネ・フリューゲル』のロールプレイになっちゃうし。

 代わりに、お馴染み『ソル・インダストリーズ』技術スタッフと開発したのが、携帯用の転移装置。反重力装置が常にバッテリを消費するんで空飛ぶのはちょっとねーと議論してたら、発想の転換でこれ作ってみてバッチリOK。HS-01のバッテリ容量なら、数メートル規模の転移が4回は使えるよ!

 ちなみに、ある程度試用(今実用的に使っちゃってるけど)したら、VR研諜報部門の標準装備とするつもり。まあ、しばらくは『外回り』である篠原あかねの専用装備だ。


「よし、攻略完了!」


 死屍累々(気絶させただけだよ!)の中で、ひとりガッツポーズを決める、篠原あかねの私。VR研諜報員としての初仕事、終了である。



「そんなこと、できない…」

「だよなあ…」


 たまにはと、美里と健人くんとで市内の喫茶店でお茶をしている時に、『篠原あかねの初仕事』を語って聞かせたら、そういう反応が帰ってきた。


「VR研の諜報員になれば、現実の春…リーネと一緒にいられる時間が多くなると思ったのに…私の『現界』能力、剣士の基本技だけだし…」

「いや、ふつーに内勤で情報収集活動してもらってもいいんだよ?」

「それ、既にFWOでやってるし」


 ああ、他のプレイヤーの『現界』能力発現状況と併せて、FWOでいろいろと調べてもらってるんだっけか。受験生の健人くんには悪いけど。

 あと、VR研の諜報員の私は『篠原あかね』なんだよ?わかってる?わかってないだろうなあ。


「まあ、いいじゃない。FWOでは古参で有名なふたりなんだから、それで貢献してもらってるってことで」

「あたしは!現実のリーネと!一緒にいたいの!」


 今、一緒にいるじゃない。


「今、一緒にいるじゃない。その時点で、何かおかしいと思わないのかな?」

「うぐっ…」

「この場じゃ、頭撫でるの難しいもんな…」


 私のペット化禁止。

 はー、さっさと成長したい…。

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