EX-38 AF「篠原あかね、といいます。よろしくお願いいたします!」
第4シーズン始めまーす。
「はい、では次の人」
「失礼します!」
背筋を伸ばして、はきはきと。面接は最初の印象が肝心だ。
「はい、それじゃあ、そこに座って。名前と、現在の所属を言ってもらえる?」
「○○大学人文学部1年、『篠原あかね』といいます。よろしくお願いいたします!」
「元気があっていいわね。リー…佐藤春香ちゃんと同じ大学なのね。彼女と会ったことは?」
「いいえ、遠くから見かけた程度です。学部が違いますし、興味本位で近づくのは失礼ですから!」
うん、これはどんな人にも言えることだ。有名税反対。
「あら、珍しい。彼女のこととなると、すぐに称賛する人が多いのに。…怖がる人もいるけど」
「そうなんですか?あたし、高橋さんの方が素敵だと思います!…ごめんなさい、突然」
「そ、そう?ああ、いいわよ、そんな畏まらなくて。でも、彼女より、私みたいなおばさんがいいなんて…」
何言ってるかなあ、この娘は。
「おばさんだなんて、とんでもない!若くて美人でスタイルも良くて、そして、とっても聡明な方です!」
「あ、あら、そんなに褒めても、面接に通るわけじゃないのよ?」
「いえ、あたし、この間の記者会見を見ました!記者の人達に冷静に、かつ、適切に対応していました。あたしも、高橋さんのようになりたいです!」
うん、まあ、嘘ではないよね。その方がいいということで、あれこれアドバイスしたんだし。
「そ、そう?そうなの?嬉しいなあ。うふふふふふふ」
「…美樹さん、そろそろ本題を」
「ご、ごめん、実さん。…じゃあ、次の質問ね。この仕事に応募した理由を教えてくれるかな?こう言ってはなんだけど、VR研…仮想世界総合研究所の本来の仕事から、だいぶ離れているけど」
まあ、そうだね。だからこそ、こんな求人面接をやっているわけだ。
「いえ、情報収集も立派な仕事だと思います!仮想世界は『みんなで』作るものです。いろんな人と、いろんなことを、いろんな形で関わっていくことは、この研究所の大切な仕事だと思います!これは、あたしの応募理由でもあります!」
「そう…わかったわ。(ひそひそ)この娘、いいわあ」
「(ひそひそ)そうですね、リーネの理念にも合致していますし」
聞こえてるよー。
その後、しばらく質疑応答が続き、面接が終わった。
「はい、面接は以上よ。結果は明日には連絡できると思うわ」
「わかりました。ありがとうございました!」
「おつかれさま。気をつけて帰ってね」
そうだね、そろそろ戻るか。
パチン
私は、指を鳴らす。
「あら、まだいたの?面接はもう…え、あ…えええええ、リ、リーネ!?」
「…!?え、あ?…そ、そういえば、『篠原あかね』って、SOEの時の…!?」
うん、うまくいったようだ、私の『認識阻害』能力。両親ほどじゃないけど、というのが凄まじい話だが。
◇
VR研に、情報収集部門を作ることになった。と言っても、実態は『諜報部門』である。様々な人材を集め、最初は普通に情報収集をさせる。そのうち、これはという人に声をかけ、諜報活動を主体にした仕事に入ってもらう。
『コアワールド』の『コアハート』への統合作業が進むにつれ、VR研も利害関係が世界規模で増してきた。そうすると、おかしな産業スパイの暗躍に対処したり、逆に、こちらからしかけて問題の芽を摘む必要が出てくる。
これまでは、私と捜査当局が合同で適宜対応してきたのだが、私にしても捜査当局にしても、VR研専属ではない。なので、内部に常設組織を設けようということになった。美樹もこれで、立派な『裏の顔』をもつ組織の長となるわけだ。
「リーネなんて、大っ嫌い。絶交よ!」
「裏の顔のボスは、やっぱり嫌?」
「そっちじゃないわよ!私達まで騙すことないじゃない!」
いや、だって、こうでもしないと怪しまれるでしょ?
「怪しまれる?何に?」
「情報収集部門の、他のメンバーに」
「リーネも入るの!?」
「入りたいのはリーネでも春香でもなくて『篠原あかね』だよ。面接は合格?」
「そりゃあ、合格に決まってるじゃない。『篠原あかね』としてもね」
うん、やっぱり美樹はちゃんと理解してるね。
「ごめんね、美樹。敵を騙すにはまず味方から。他の面接者の手前、こうするしかなかったんだよ」
「ううん、私の方こそ絶交だなんて言ってごめんね?嬉しかったよ、私のこと、あんなに褒めてくれて!」
「あれは、私の本音だよ?『篠原あかね』というロールプレイで、私という存在が語った正直な気持ちだよ」
「リーネ!」
「美樹!」
がしっ
ちらっ。
「…予定調和、という言葉の意味がだいたいわかってきましたよ…」
よろしい。実くんもだんだん慣れてきたね。もっともっと慣れていいんだよ?
「じゃあ、合格ということにしておくわね。部門の自我認証システムは『佐藤春香』の個人番号に結びつけておくから。もちろん、認証結果表示は『篠原あかね』ね」
「よろしくー」
「ほんっとーに、手際がいいですね…。美樹さん、あなた本当に騙されていたんですか?」
「そうよ?少なくとも、面接している間はね」
うんうん、細かいコントロールもきちんとできているようだ。この辺の自由度だけは、両親よりも強力だ。…っていうか、両親のあの半径数キロ範囲の常時効果って、何が一体どうなっているのかと。
「記憶を奪うとかじゃないから、安心していいよ。なんていうのかな、『思い込み』を利用した能力とでも言えばいいのかな?」
「思い込み、ですか?」
「私のロールプレイに対する周囲の反応に近いかもね。演技とかじゃなくて、存在そのもののあり方を変えるっていうか」
「なんとなくわからなくもないけど、じゃあどうすればいいかってところまではイメージできないわねえ。私に『現界』は無理ね」
「なんとなくわかるだけでも凄いと思いますが…」
そりゃあ、美樹は私の心の友だからね!
「ところで、『認識阻害』を解除するのに、指を鳴らしたのはなぜなの?」
「ああ、アレはただのカッコつけ。頭の中でやめるとはっきり思い描けば解除されるよ。でも、指を鳴らすことが、はっきり思い描くきっかけになる場合もあると思う」
「そうなんだ!ねえねえ、指ってどうやって鳴らすの?どうしてもうまくいかなくて」
「ああ、それこそ『認識阻害』だね。指を鳴らすと言っても、指だけで鳴らしているわけじゃ…」
きゃっきゃうふふ。
「…そろそろ、FWOプロモーションに戻りましょうかね…」