EX-37 IF「鎮魂と永遠のレゾンデートル」
注意:これはIFです。EX-28~31『終焉と再生のエトランゼ』からの分岐のため、それっぽいタイトルにしています。
ウチの大学に、美里とその学友様方がやってこられた。
「わかった」
「やったー!」
美里の求めに応じて『神剣フリューゲル』を転移させ、剣技を披露する。
「ふんっ!はっ!」
「「「きゃー!!」」」
美里の思惑通りウケたようだ。でも、このまま解散してほしいなあ。
「じゃあ、次は食堂で春香の食事の様子を愛でる会よ!」
「なにそれ」
◇
「ごめん、春香ちゃん!まさか、SOEの諜報員が火星にまで来るなんて!」
「で、自我認証プログラムのオリジナルも、盗まれたと…」
まあ、いいか。どうやってロックが解除されるかわからない認証プログラムなんて、なんの役にも立ちそうにない。
とはいえ、念のため『鍵』を作っておこう。プログラム作り直しのためのサンプルとして抽出した『リーネ・フェルンベル』の自己認証用データが手元にあるから、すぐに作れるだろう。
仮に、どこかのシステムにオリジナルが接続されてロックされても、『こんなこともあろうかと、渡辺 凛の自我認証用データを作っといた。ああ、あの人昔「リーネ・フェルンベル」とか名乗ってた』という感じか。
いいよね、『こんなこともあろうかと』ってフレーズ。一度言ってみたいよ。
◇
「こんなこともあろうかと」
『登録No.0001、「リーネ・フェルンベル」であることを認証しました。ロックを解除します』
「全く、凛も自分で作ったものをちゃんと管理してほしいものだのう」
ごめん、おじい様。いやまあ、間違いではないんだけど。
「帰ろっか、春香ちゃん」
「そうですね、高橋さん」
言ってみたいフレーズも言えたし、良かった良かった。
◇
「春香、今日は私が夕食を作ったぞ!普通の丸焼きだ!」
「まあ、おいしそう!明日は私が普通のカレーを作るわ!」
「後片付けは私がするね」
カチャカチャ。
「あら、春香?あなた、背が縮んだ?」
「そ、そうかな?伸びたと思ったの、測り間違いだったのかも」
「このアパートも長いからな、柱が古くなって伸び縮みするのかもな!」
いやいやいや。…とは、言いづらい。
あらためて『現界』を試してみたのよ。まさか、体が伸び縮みするとは…私の素性がいよいよわからなくなってきた。
◇
「子供が生まれた!男の子!」
「良かった…本当に…」
「春香ちゃん、そんなに喜んでくれて私も嬉しい!」
「春香さん、ありがとうございます」
目元は、高橋さん似かな?口元は田中さんにそっくりだ。
あははは、なんかすっかり近所のおばちゃんだよ、私。
「春香ちゃん、なんか吹っ切れた顔してるわねえ」
「美樹さんの病院への搬送から、私の出張先からの緊急転移まで…感謝してもしきれませんよ」
◇
「春香、大学卒業おめでとう!」
「おめでとう!来月から社会人だな!」
「会社勤めは、初めて。がんばるね」
確かに、初めてだなあ。今も昔も。
数学の先生とどっちにしようか迷ってたけど、結局、普通の事務職にした。
「でもさ先輩、お爺様との仕事は続けるんだろ?あと、世界各国の政府や捜査機関と」
「渡辺 凛の軟禁状態が、ようやく解除される。彼女に、多くを任せる」
「ちょっと、不安ね…。あたしも来月からお爺様の秘書としてお手伝いするけど」
「ちょっと、不安」
「春香、酷い」
4年間でなんとか『仕上げた』けど、どうなることやら。健人くんは、あと1年がんばれ!
「春香ちゃん、卒業おめでとう!」
「おめでとうございます、春香さん」
「おめでとー」
「ありがとうございます、田中さん、高橋さん。ありがとう、光希くん」
ちなみに、高橋さんのお腹の中には、二人目がいる。今度もサポートするよ!
◇
「佐藤春香と、申します。よろしくお願いいたします」
「ほ、本当に、ウチの会計事務所に来てくれた…従業員数名の、小さな地方部署なのに…」
「うわー、TVとかで見るよりかわいい!」
「今年度中は、これまでの仕事が残っています。御迷惑をおかけしますが、来年度からは、こちらの仕事に専念します」
渡辺 凛次第というか、健人くんのがんばり次第というか。大丈夫かなあ?
「では、佐藤さんにはこちらの書類整理をお願いできるかな?」
「はい。…終わりました」
「…え?」
「ヘッドセット経由で事務処理VRサーバにアクセスして書類データを転送して時間加速100倍で済ませました。既に課長の決裁待ちです」
「「「もう、佐藤さんひとりでいいんじゃないかな」」」
いや、それはまずいよ。
◇
「春香ちゃーん、手伝ってー!」
「ダメ。時間加速を、適材適所で使う」
「春香ちゃんのいけずー!」
「それはもう聞き飽きた」
渡辺 凛には(財)仮想世界総合研究所に就職してもらい、『コアハート』統合開発部門で主に『コアワールド』融合作業を進めさせている。もちろん、名目上、やらせているのはあくまで高橋さんだけど。
「あなたには、もうすぐ二人目の子供が生まれる高橋さんの分まで…あ、生まれそう。ここは任せる」
「あー!また転移したー!もう、私だっていい年なんだからさっさと結婚したいのにー!」
◇
「美里、健人くん、結婚おめでとう」
「ありがとう、春香!」
「ありがとう、佐藤先輩。俺達の披露宴まで全て任せちゃって…」
「いい。私も、最後の仕事」
そう、これで、最後だ。
「え?最後って、何言ってるの、は…あれ?」
「姉貴、どうした?…あれ?なんだろ、この感じ」
「もう、私のことはいい加減、美里って呼んでよ!」
「そうだっけ。…そうだったな、美里」
ぱちぱちぱち。
「おめでとう!お姉ちゃん、お兄ちゃん!キレイでカッコいいよ!」
「あ、ああ、うん、ありがとう。…ごめんなさい、あなたは?」
「篠原あかねと言います!お父さんと一緒に披露宴に参加しています。今年小6です!」
「そっか、あと数か月で中学なんだな。思い出すなあ、初めてやったVRゲームのこと」
「中学に入ってすぐだったわよね。それで、1年でやめて…あれ?なんでやめたんだっけ?」
「そういえば、思い出せないな…あれ?あの娘は?」
◇
ある高校の、ある教室での、ある授業中。
「…そういうわけで、仮想世界技術は人類に多くの恩恵をもたらしました。ですが、これは決して、たったひとりの人間によって作られたわけではありません。みなさんを含む、人類全体で作り上げてきたのです…」
つんつん。
「なに?」
「ねえ、あかね、今日、放課後にお茶してかない?」
「いいよ!あれ?でも、今日は…」
「あ、そっか、早く帰らないと!『FWO2』で会いましょ!」
そう、今日は待ちに待った『フェルンベル・ワークス・オンラインSecond Stage』の稼働開始日だ。初めて『コアハート』のみで作り上げた、FWOの次期バージョン。初期バージョンよりもはるかに豊かで、はるかに楽しい、攻略とスローライフの集大成である。
そして、サービス対象地域が凄い。なんと、太陽系全域だ!『ソル・インダストリーズ』を始めとした企業が、たった5年で転移型通信路を隅々まで普及させた。『FWO2』は、その通信路全体を初めてフル活用する、鳴り物入りのサービスだ。
同時に、FWO2をベースとした人類全体の活動計画も発表されている。『太陽系連合』の樹立と、超転移技術による太陽系外への進出が主な柱だ。誰もがその計画に期待し、成功を願っている。
…みんな、がんばったんだな。
「篠原さん!ちゃんと聞いてますか?この『仮想世界概論』は高校の必須科目ですよ!」
「すみません!」
いかんいかん、感慨にふけってぼーっとしてしまった。
ふと、窓から空を、見上げる。
透明なドームの壁の向こうに見える、青く輝く、地球。
待っててね、みんな。私もひさしぶりの『アバター同時接続』で、攻略とスローライフの両方を楽しむから!
あの、本当にIFですよ?ただし、ここまでで第3シーズンとする予定です。




