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EX-36 SS「美樹と、お買い物」※

※R15…っていうか、R18的なセリフとかがごっそり省略されているとお考えいただくとちょうどいいかもしれません。訳:御想像にお任せいたします。

「リーネ、こっちこっち!」

「お待たせー。…実くんはいないよね?」

「もちろん!下着専門店に連れていけるわけないよ!」


 今日は、美樹とおでかけ。と言っても、お互い車で合流するという形である。会話から察していただけると思うが、私の下着を買いに来たのである。…えへへへ。


「バストもそれなりに成長していたとはねえ。あーあ、実さんを寝取られるのも時間の問題かなあ」

「またそんなこと言うー。さっさと子供作れば?そんな心配なくなるからって言ってるじゃない」

「いやー、がんばってはいるんだけどねー。実さんってさー、結構…」


 …というトークも楽しみたいから、お母さんや美里と買いに行くのは厳しいのだ。だってほら、お父さんや健人くんのぶっちゃけ話ができるわけじゃないでしょ?


「それにしても、なかなか複雑な理由よね。『小さいサイズは詳しくないから選ぶの手伝ってほしい。大きいサイズならなんとかわかるんだけど』って」

「こんな悩みは、私のケースしかないよね…」


 リーネとしての昔の私は、自分で選んで買う頃には相応のサイズだったのである。小学生の頃は、そのサイズがもう嫌で嫌で…男子やら男性やらの視線がだよ!当時の私、なんかモテてたみたいだけど、そーいう理由でモテても嬉しくないよ!どこかのないすばでぃな彫刻でも見てればいいじゃん!とかいう。

 一方、佐藤春香。最初に創り出した『割と発育が良かった8歳頃の佐藤春香』アバターのイメージが、無意識の『現界』発動でずーっと定着してたってことだったんだねえと。発育がいいったって所詮は小学校低学年だ。背丈はともかくその他は寸胴のまま。なに、この落差。

 もしかして、私の服飾センスが残念なのは…そうだよ、わかってたよ、センスが残念なのは!…はあはあ。ああいや、そのあまりの落差で狂ったんだろうか?リーネの頃の私がセンス良かったとは言わないけどさ。


「リーネってさ、『佐藤春香』のロールプレイやめると、これまで以上に頭の中が凄いことになってない?体だけじゃなく」

「なってる。特に、美樹と一緒にいると」

「なんで!?」

「なんかもう、いろいろと遠慮がなくなっているというか、ストッパーがなくなっているというか」

「喜ぶべきことなのかな?」


 まあね。楽しいのは確かだ。



「いらっしゃいませー。お客様、申し訳ありませんが、こちらで『認証』をお願いいたします」

「認証?え、これ、自我認証システム?」

「はい。その、実は…」


 もともと、カード払いの認証の簡素化を検討するために試験導入したのだが、導入目的と関係なく、いろいろと偽っている人々が発覚したらしい。性別とか性別とか性別とか。同一性障害への対応を悪用した残念な人がいるということらしい。自我認証は心の認証。開発した私自身は意識してなかったが、そういう方面にもむしろ適切な手段のようだ。


「この店、女性しか入れないの?」

「いえ、そういうわけではありません。性別を意図的に偽って悪意ある行動をする人がおりまして」

「更衣室の覗きとか?」

「そうですね」


 なんだかな。そこまでして…とも思うが、やる人はやるんだろう。なんだかな。大事なことなので二回思いました。


「理由は、わかった。でも、その前に」

「その前に?」

「まずあなたが、認証して」

「!?え、あ、あの、私は、店員…」

「認証して」


 佐藤春香orリーネ・フリューゲルとして、ぐいぐい攻略する。私には、自我認証がなくてもわかるんですよ、性別的なものも含めた演技は。あと、美樹を差し置いて私のあれやこれやを見つめないでほしい。ロリコンは要らん。



 すったもんだの後、選ぶものを選んでほくほく顔の私。美樹のチョイスもなかなかにナイスだった。そうか、小さいとかわいいのが多いのか。


「価格やブランドによるけどね。それにしても、店員が性別を偽ってるなんて…。『ロールプレイ戦術班』の発想って、どこにでもあるのね」

「どこにでもあるけど、めったにないよ。世も末だよ」


 店で採用する時点で既に偽ってたっていう。なんだかな。大事なことなので三回。


 そんなことを振り返りながら、美樹と専門店の近くの喫茶店でお茶を飲む。


「あ、そうそう。こないだ『渡辺家』に行った時アルバムデータもらってきたんだけど、見たい?中学の頃のが多いけど」

「見たい!もちろん、実さんの若い頃のもあるんだよね?」

「それなりに。あっちの両親はあんまり家にいなかったから、むしろ機会あるごとに撮りまくってたんだよ」


 こっちの両親は、携帯端末さえ持ってないからなあ…。デジカメ専用とか銀塩カメラとかもないのだから徹底している。


「ねえ、それって『認識阻害』に関係してない?」

「…なるほど。私自身、理屈がわかっていないからアレだけど、なんかありそう」

「画像とかが残ると拡散するよね。それを避けたかったんじゃない?『普通』じゃないって」

「それにしては、TVとかに映る私を『普通に凄いね!』とか言うのよね」

「よくわかんないわねえ…」


 両親は発想の時点で人知を超えているようだ。これも『そういうもの(神のみぞ知る)』と捉えるべきなのだろうか。本人達も無意識なわけだし、あれこれ理屈を考えてもこじつけにしかならないよね。偶然。たまたま。うん。


「神のみぞ知る、って確かにあるわよね。だから、仮想世界データももともと『みんなで作る』ことが想定されていたんでしょ?」

「誰かひとりが意図的に作ると偏りが出るからね。現実と見紛う世界で、それは危険過ぎるよ。まあ、『コアワールド』のオリジナルは無意識に創り出したようなものだから、『神々の視点』に近いのかもだけど」

「あ、それ、やっぱりリーネも知ってるんだ。仮想世界技術に関する理論の、更に基となった提唱概念だから、知ってて当然か」


 そりゃあ、知ってる。


「むしろ、美樹が知ってたのがちょっと不思議なんだけど。その辺の哲学的なことは、どちらかというと実くん…この場合は『田中さん』か、その領分だし」

「私一応、大学学部でVR基礎理論をひととおり学んだからね。その中で、教養的な位置づけでその方面の内容も学んだんだ」

「今でも持ってる?その内容を学んだ時に使ったはずの、専門教科書のデータ」


 それを見てもらった方が、手っ取り早い。


「あるよ!今でも、ネット上の個人ストレージ領域に置いてあるから、携帯端末で…これよね?」

「その、『神々の視点の概念に基づく世界構築の考え方』の章の執筆者は?」

「ああ、これって複数の人が分担執筆してるから、編者の人の名前しか覚えてなくて…うわお」


 そういうことである。


「え、でも、この頃のリーネって、まだ学生だったんでしょ?」

「論文を書いて学会に投稿したら採用されたんだ。それが基になってる」

「フルダイブ装置の大幅改良もしてるよね?VRの何から何までリーネの成果じゃない!なのに『リーネ・フェルンベル』がほとんど知られてないのはなんで?」

「『渡辺 凛』に置き換わったから」

「あう」


 それと、だ。


「リーネとしては理論の方が多かったからね。実用化の方が知名度が高いのはしかたがないよ。『渡辺 凛』だけでなく、『佐藤春香』としての実績を考えるとわかるでしょ?」

「反重力の『現界』、ものすごいインパクトだったわよねえ…」


 うん、やっぱり、美樹と話すのは楽しい。これまで頭の中で(作者注・)考えていたこと(地の文のこと)の多くが口に出せるし、それをきちんと理解して話題にしてくれる。美里ともこれくらいできれば…無理か。これまで通り、FWO内に限った方がいいかもしれない。面と向かってそんなことは言えないけど。



 暗くなってきた夕方、喫茶店の横の駐車場に移動する。日が落ちるのが早くなったかな?


「ねえ、ウチで御飯食べてかない?実さん、今日は関係者との交流会で遅くなるから」

「お邪魔しようかな。ウチの両親も今日はどちらも遅くなるって言ってたから」

「決まりね!じゃあ、スーパーに…きゃあっ!!」


 車の陰から突然男が現れ、美樹を後ろから押さえつけようとする!


「【ストレージアウト】神剣フリューゲル」

「大人しく…うおっ!?」


 右手を男の肩の辺りに近づけ、そのまま剣先が首筋スレスレに位置するよう、剣を転移させる。ふむ、とっさの微調整も結構うまくいくな。


「な、なにを…がっ」


 ひさびさの『現界』スキル、手刀で眠らせる。技術スタッフさんで確認済だよ!

 そして、右手の剣はそのまま、私に近づこうとしていたもうひとりの男に向ける。


「誰?」

「い、いいのかよ、そんな剣なんか町中で振り回してよ!」

「私には帯刀許可が出ている。あと、これは模擬剣。誰?」


 悪い見本のような『棚上げ』をのたまう男。


「だ、誰って…」

「もういい、後で調べる」

「かはっ」


 手刀スキル再び。やれやれ。


「ありがと、リーネ。…SOEかしら?それとも、他の諜報員?」

「…ただの、痴漢だった。地元当局に前科のデータがあった」

「ああ、そう…」


 ヘッドセット+携帯端末+自我認証プログラム+【運営No.00】で確認終了。剣を転移させるまでもなかったか…。



「この辺は治安が悪いのかしら?あの専門店とかを含めても」

「偶然じゃないかなあ。少なくとも、被害報告は多くないみたい」

「私も、護身術とか習おうかしら。包丁を転移させるわけにはいかないし」

「包丁スキルで痴漢って撃退できるの?ああ、いつも振り回しているか」

「ひどーい!」


 あとは、リアルでも踊れるあの怪しい踊りで回し蹴りとか。


「それはともかく、警察呼んだら、時間かかるわよね…」

「後始末終わったら、そのまま解散かな」

「そうね…」


 うーん、楽しいお買い物のはずが、なんとも残念な終わり方をしそうだ。終わり良ければ全て良し、終わりが良くなければ?


「うん、やっぱりウチに来て!実さんと3人で御飯食べよ!」

「えー、新婚カップルのお邪魔したくないなあ」

「その後、昔の写真を一緒に見るのよ!ちょうどいいじゃない!」


 ああ、それは面白そうだ。実くんがどんな反応するか楽しみだ。

 それと…


「なに?」

「んー?美樹が、昔の私の写真を実くんと一緒に見て、どう思うかなーって」

「え?昔のリーネって、要するに『渡辺 凛』なんでしょ?中学から背格好あまり変わらないって」

「中学はセーラー服だったよ?」

「セーラー服!?あのスタイルで、セーラー服なの!?巫女服でも目を引きそうなのに…ぐぬぬ」


 いやあ、あらためて写真見て思ったよ。アレは酷い。酷すぎる。

 さっきの痴漢じゃないけど、なんで当時の私は何も危機感を持たなかったんだろう。いやまあ(作者注・)何事も(リーネ)なかった(親衛隊が)けどさ(殲滅)


「写真見た実さんがどうにかなる前に…いや、それをうまく使って…」

「…なんか、不穏な言葉がダダ漏れてるんだけど」

「リーネ!帰る前にコスプレ専門店に直行よ!私が持ってるの、佐藤春香アバター仕様の制服だけだから!」

「やっぱり持ってたの!?ていうか、なんのつもりでそんなの使うのよ!?」

「え、そりゃあ、観賞用っていうか…うへへ」


 だああああ!

 行く、行くから!行って実くん含めて問い質すから!うがー。

一応、本編でちらっちらっと出てきたネタの回収も兼ねています。なお、作者注をふりがなにしてるのはわざとです。こういう使い方も面白いかなって。

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