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EX-35 SS「え、王子がまだあきらめていないの?」

AFではなくSSって時点でお察し下さい。

 市内の喫茶店。

 (春香)と健人くんが向かい合って、お茶を飲んでいる。


「え、そのローレンスとかいう王子がまだあきらめていないの?」

「そうなんだよ、先輩。ったく、あのへっぽこ王子…」


 大変珍しいことに、健人くんが私にリアルで直接会いたいと言ってきた。ひさしぶりのFWO第一エリア露店地域で、ビリーくんがケインにこそこそとそんなことを話す絵面は、大変悩ましいものだった。視線が痛かったってことだよ!おかしなアバター目をしている淑女のみなさま、ケインの中の人が誰か忘れているでしょ!


「というわけで、お願い!先輩も懇親パーティに出席して!」

「出席自体は別にいいけど、私は何をすればいいの?」

「姉貴の近くにいるだけでいいから!あいつ、へっぽこだけど押しだけは強いんだよ!」


 へっぽこだけど押しが強い、って、


「へっぽこだけど押しが強い、って健人くんのことじゃないかなあ。あ、ごめんなさい」

「…はっきり言うようになったよね、リーネ(・・・)先輩って」

「それはお互い様でしょ」


 月面でのあの一件から、健人くんは私のことを『リーネ先輩』と呼ぶようになった。まあ、普段は『先輩』と省略して呼ぶから特に違いはないんだけど、時々こうして名前を付けられると、何か思惑があるんじゃないかと勘ぐってしまう。

 いやね、『田中さん』のことを『実くん』と呼ぶようになってから、連想するようになったのよ。健人くんって、実くんに似てるなあって。記憶をなくしてたし、年齢的な違いも大きいから気づかなかったんだけど、


『…!そ、そんなこと、ないよ!大丈夫、佐藤先輩、見た目そういう雰囲気だから!…あっ』

『…!そ、そんなこと、ないよ!リーネ、見た目そういう雰囲気だから!…あっ』


 なに、この一致ぶり。あと、大層なイケメンだけどヘタレなとことか。ローレンス王子とやらのことをへっぽことか言える立場なのかな?かな?


「別の言い方をしようかな。ローレンス王子とやらのことをへっぽことか言える立場なのかな?」

「…先輩、厳しい」

「私は別に、健人くんの人となりを責めているわけじゃないの。自分自身を棚に上げて陰口のようなことを言うのはどうかなあって思うのよ。わかる?」

「…仰る通りでございます。反省いたします」


 まあ、私も『棚上げ』はよくやる。やるけど、あくまでフェアであるべきだ。私が棚に上げるなら相手のそれも棚に上げる。そうしてようやく話が前進するということもある。


「それで?その王子自身に何か問題があるの?」

「いや、だから、俺のこと知ってるのに、やたらと姉貴に露骨なモーションかけてきて…」

「そのモーションで、美里がその気になるの?」

「まさか!いつも嫌そうな顔をして、俺のところに逃げてくるんだよ」

「なら、それでいいんじゃない?」

「それがパーティ中何回も、しかも、会う機会があるたびにそんなことしてくるんだよ…」


 なるほど、それは確かに問題だ。

 と、すると。


「わざとそうしている、ということが考えられるかな」

「?どういう意味?」

「美里にとことん嫌われるため。もしくは…」

「もしくは?」

「健人くん、あなたに嫌われるため」

「俺に?なんで?」

「ああ、それか、あなたの気を引くため」

「うぇ!?」

「まあ、最後のはないか。健人くんに気があるなら、直接的なアプローチもしてくるか」

「脅かさないでくれよ…」


 脅すつもりはなかったんだけど。まあ、ブレインストーミングだ。最初から否定的に捉えず、いろんなことを考えてみる。別名、他人事(ヒトゴト)


「あ、もうひとつあった」

「なに?」

「あなた達姉弟を破局させる」

「えっ!?」

「その王子、パーティとか以外に接触はないの?美里にこっそりと会いに行ってるとか」

「大学や高校に通ってる以外はほとんど一緒にいるから、たぶんないと思うんだけど」

「大学か…」


 あそこの大学、セキュリティがそこそこに高いよね。王子のような立場の人間が出入りして騒ぎにならないはずがない。ああうん、たぶん今、私自身を『棚上げ』してるよね。知ってる。


「なら、破局の線もなしか…。鈴木のお爺様の差し金であなた達を試しているのかとも思ったけど、王子という立場の人が自らの評判を悪くしてまでそんなことを引き受けるとも思えないし」

「あ、それは既にあった。平々凡々な野郎だったから引っかからなかったぜ!」

「健人くん、反省」

「はい」


 うーん、『現界』能力の関係で少しはしっかりしてきたのかと思ってきたのに。それともあれかな、渡辺 凛と同じ轍を踏む傾向もあるのかな?美里が手綱を握るべきなんだけど、美里も調子に乗ることがあるからなあ。


「じゃあ、美里か健人くん、もしくはその両方に嫌われるため、という線で考えてみようか。的外れかもしれないけど、とりあえず」

「なあ先輩、パーティの前にこんなこと考える必要はあるのか?」

「ん?あるよ?事前にいろいろ把握しておかないと『ロールプレイ』できないし」

「え!?先輩、もしかして『佐藤春香』として参加するわけじゃないの!?」

「まあね。佐藤春香として参加したら、王子が警戒して近寄ってこないでしょ?」

「だから、それを狙ってるんだけど…」

「パーティのたびに私を参加させるつもり?その王子、しつこいんでしょ?」

「ああ…そうか…」


 美里もそうだけど、FWO絡みのことはあんなに把握・分析能力があるのになあ。ウチの両親の『現界』能力だって、それで気がついたようなものだし。まあ、今回の件をFWO内の事例に置き換えて考えようとするのは厳しいか。私もすぐには思い浮かばないや。


「仮説その1。王子が身内の誰かに美里を落とせと強く言われている。が、本人は別に好きな女性がいる。嫌われ続けてタイムアウト、つまり、健人くんと正式に婚約すればめでたしめでたし」

「その可能性は確かにあるなあ。『ソル・インダストリーズ』令嬢を公国プリンセスにできるなら、話題性もバッチリだ」

「ただ、時代錯誤でもある。中世とか創作物とかならともかく、政略結婚を露骨に求めることを公室関係者がするのかどうか」

「その関係者が時代錯誤なんじゃね?」

「あと、健人くんと正式婚約するまでどのくらいかかるかわからない。なら、時代錯誤な政略結婚を非難し続けた方が手っ取り早いかもしれない」

「…そうなんだけどさ」


 この点だけは、実くんと違うよね、健人くんって。まあ、まだ高校生のお坊っちゃまだしな。


「仮説その2。王子は、実は王子ではなかった」

「?どういうこと?」

「偽の王子で、本来の王子を貶めるために、『ソル・インダストリーズ』関係者に嫌われるようなことをした」

「それは…さすがにないんじゃないかなあ。直近のパーティ、参加者確認に自我認証システム使ってるし」

「私と同じトリックを使っているかもしれない。最初から偽物」

「…自虐的っすね、リーネ先輩」

「あとは、王子は実は王女だったとか。まあ、これも時代錯誤&創作的か」

「俺、会場のトイレで鉢合わせたことがあるから」

「ん?それが何か?」

「…先輩が『深窓の令嬢』っぽい理由が、よくわかったような気がする」

「?」


 公衆男子トイレの仕組みを指摘された。ちくしょう、リアルでは男の子のロールプレイしたことないからうっかり忘れちゃうんだよ!え、そういう話じゃない?


「仮説その3。…もう、ないか」

「はやっ」

「嫌われているうんぬん自体がそもそも仮定だから、キリがないんだよね。SOE『ロールプレイ戦術班』のメンバーの可能性まで考えたら,派生する仮説はそれこそ無限だよ」

「でも、これまで先輩、やたら的確に撃退してるよな?」

「鈴木のお爺様の件以外は、どちらかといえば私達が誘導したのよね、あれ」

「なるほど…」


 という感じで、健人くんとの話はあまりまとまりのない感じで終わった。


 とりあえず美里とも連絡をとり、私は『美里の大学の友人で「篠原あかね」、ソル・インダストリーズの研究者のお母さんの代理で、私も重力理論とかを学んでいるよ!』ということにした。SOE絡みの可能性は低いので、非実在人物を流用することにした。『リン』はちょっと幼すぎるし。



 この時私は、いつも思い出しているはずの、ある言葉を、失念していた。


『あまりに複雑怪奇で理解不能な状況は、たったひとつの知られざる事実が判明したとたん、単純な話となる』


 では、その事実とは?



 首都圏某所のホテルで行われた、懇親パーティ。


「もう、いいかげんにして!あなたに興味はないって、いつも言ってるでしょ!」

「僕は、君のお爺様を紹介してほしいだけなんだが。ああ、弟くんでもいいよ」

「姉貴に近づくなって言ってるだろ!」


 ということだった。

 以上。































 え、わからない?ああ、そうか、私の感覚だとこうなるんだよ。えっとね、


「もう、いいかげんにして!あなたに興味はないって、いつも言ってるでしょ!」

「فقط أريد منك أن تعرف جدك ... أوه، شقيقها! كنت على ما يرام، أيضا!」

「姉貴に近づくなって言ってるだろ!」


 お互い、言葉が通じていなかった。


 なに、懇親パーティって通訳いないの?え、商談じゃないからいない?あと、だいたい英語が通じるから日本語知らない?ダメだよ!このふたり、特に英語リスニング能力酷いから!『water』を『妾』かとか言い出して勘違いするから!ところで、なんで今アラビア語で?英語がダメだからとりあえず使ってみた?もっとダメだよ!


「あの、実は私…」←(王子の母語)

「おお!あの佐藤春香さんだったのか!ということは…」←(王子の母語)

「はい、私が御紹介いたします」←(王子の母語)


 終了。


 後日、VR学習システム『英会話1時間コース』が姉弟の毎日の予定に追加されたのは言うまでもない。

本文中のアラビア語は、日本語ではなく英語に翻訳してもらうとわかりやすいかもしれません。

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