EX-31 AF「終焉と再生のエトランゼ」(4/4)
注意:IFではありません。繰り返します。IF回ではありません。
私は、他の4人を会議室に残して、転移門に向かう。現地の治安部隊が対処しているとは思うが、念のため。なお、『神剣フリューゲル』という名の模擬剣を手に持っている。
ダダダダダダ!
カン!ガガガガ!キン!
既に、戦闘が始まっているようだ…ん?
転移門の扉が、閉まっていく?もしかして、占拠した集団は先に地球側の転移門を占拠し、そこから月に来た?私達と同じように?そして月面側では、開けて閉じる間のみの短い占拠と、戦闘、そして、撤退。
現在の月面の転移門は、まる一日かかるフルチャージで4回しか使用できない。つまり、往復分x2。そして、今回は地球と火星の双方で往復する必要があり、既に2回使用していた。
それが、計3回使われてしまったから、月か火星のどちらかしか帰れない。更に、地球側からもう一度扉を開けられてしまったら、帰還できるまでにだいぶ時間がかかる。加えて、地球側には複数の転移門があり、いくつも占拠されてしまっているのなら、月面に向けて何度も開いてしまうかもしれない。そうして、消費されていく…。
と、いうことは!
◇
「くっくっくっ、これで、終わり…ごふっ」
よし、攻略完了。模擬剣で叩いて、倒す。見事に白目をむいている。
転移門から少し離れたところにある、電源供給施設。やっぱりというか、ここを破壊しようとしていた輩がいた。
長時間の転移不可を避けるため、転移門を死守しようとして人員を割く。そのスキに、手薄になった電源供給施設を破壊する。あと1回は転移できるが、そこから先は24時間どころではない。何日も行き来がストップすれば大打撃である。特に、月と火星の双方のトップがいる今は。
え?いくら手薄でも誰かが守ってるだろうって?その守っているはずの人間が、破壊しようとした輩である。『ロールプレイ戦術班』の十八番だ。
あらためて、転移門に向かう。鈴木のお爺様やフェルンベル総裁、田中さん、高橋さんと、全員が揃っている。あ、記者団と一緒に美里と健人くんも一緒にやってきた。やっぱり捕まったのか。
ここにいる人々に状況を伝え、今後の対応を考える。
「まず、地球に連絡をとって、地球側の転移門の様子を確認しよう。遠回りになるが、占拠されていない転移門を通って帰還することが可能だ」
「火星は、しばらく留守にしてもよかろう。転移門がなかった時と同じ不在対応を行っている」
「あまり、問題はないようですね」
電源供給施設は無事だし、最悪でも、まる一日の間に帰還は可能である。
「地球から連絡がありました。SOEの一派と思われる集団は、占拠していた転移門から全て撤退したそうです!」
おや?ずいぶん、あっさりと。なんだろうなあ。
「では、とりあえず地球に転移しよう。まだ何があるかわからん、会談の続きは、またの機会に」
「そうだな。転移型通信路を更に活用するしかないだろう」
むー、結局、とんぼ返りみたいなものか…。
「鈴木会長!転移門がロックされています!」
「ロックだと!?バカな、最近、自我認証プログラムを導入したばかりだぞ!なぜそんなことが起きる!?」
「それが…同じようなプログラムと差し替えられたようです。何をしても、反応がありません…」
同じようなプログラム? 何をしても、反応がない?
…ま、まさか!?
「み、見せて、下さい!」
「春香さん!?」
ピッ
ピピッ
…
……
………
見事だ。そういう使い方を、してくれるとは。
「春香ちゃん、何かわかったの? 春香ちゃん!?」
「…差し替えられたのは、SOE諜報員に盗まれた、自我認証プログラムのオリジナル。開発者自らの自我認証によって起動するよう、ロックされたもの」
「開発者…って、渡辺女史じゃないですか! 彼女は今、火星ですよ!?」
「じゃ、じゃあ、その人を呼び寄せて…ああっ、そのための転移門がロックされてるんだった!」
「宇宙船じゃあ、何か月もかかるぞ…。その宇宙船も、転移門ができたからって、民間用に少し残ってるだけなんだろ?」
「ええ、その通りです。認証パネル方式だから、転移型通信路経由の認証もできない…。くっ、SOEがそこまで計算して仕掛けてくるとは…!」
いや、偶然だろう。たまたま同じAPIのプログラムモジュールだったから突っ込んだら置き換わった、ってことなのだろう。
確かに、中身はごっそり作り直したけど、既存のオペレーティングシステムへの組み込みの都合上、オリジナルと同じ外部仕様にした。しちゃったんだよ…。
だから―――
◇
私は、――――――――――。
―――――、――――――――――――。
◇
「春香さん、渡辺女史抜きでなんとかなりませんか? オリジナルから現在のプログラムモジュールを作ったのは、あなたなのでしょう?」
「そうよ、春香ちゃん!こうなったら、いつもの『現界』能力フルパワーで…春香、ちゃん?」
ん?どうしたのかな、高橋さん?
「ん?どうしたのかな、高橋さん?」
「どうしたのって…春香、ちゃん、また、その…それ…」
「ああ、ごめんなさい。また、不思議な感覚をもたせちゃって。ほんっとーに、ごめん。わかってる。わかってるんだけど、もう…ダメかなって」
「…え、な、なに、言ってるの?っていうか、それ…その喋り方…なに?なんなの?何かの、ロールプレイ?こんな、ところで?」
ロールプレイ?ああ、そうか、うん。
「ロールプレイ?ああ、そうか、うん。そう、見えるかあ。むしろ、逆なんだけどね。ロールプレイをやめたら、こうなるっていうか、心の中であれこれ考えてることが、普通に口に出るっていうか、ね」
「春香?あなた、春香よね!?『ロールプレイ戦術班』とやらの、誰かじゃないよね!?」
あ、それは大丈夫だよ、美里。それだけはあり得ないから。
「あ、それは大丈夫だよ、美里。それだけはあり得ないから。なんなら、携帯端末組み込みの自我認証プログラムを試してみる?あ、それ、貸して、田中さん」
「え、あ、はい…」
「えっと…うん、はい、こんな感じ!」
「確かに、春香、よね…え…?」
まあ、当然なんだけどね。だって、
「まあ、当然なんだけどね。だって、新しく自我認証プログラムを作った後に、自我認証用データを『佐藤春香』の個人番号に結びつけたんだから。当然だよね!」
「…先…輩?一体、何を言ってるんだ?言ってることはわかるけど、でも、何か、おかしい…?」
そりゃあ、おかしいよ。だって、
「そりゃあ、おかしいよ。だって、ここにいる『私』は佐藤春香であって、佐藤春香じゃないんだから。こんなおかしな存在、私くらいだよ!」
「春香…さん?あなたは…まさか…まさか…!」
「そうか、春香…ちゃん…ううん、あなたは…!」
あ、田中さんと高橋さんは気づいた?
「あ、田中さんと高橋さんは気づいた?さすがだね!…じゃあ、もう、もったいぶる必要も、ないかー。あ、鈴木のお爺様、認証パネルを貸していただけませんか?」
「え、あ、ああ…」
「春香さん、一体、何を…?」
「ああ、フェルンベル総裁、…いいえ、おじい様、もう少しだけ、待っていて下さいね」
「…え?」
そうして、認証パネルに手を置く、私。
◇
『登録No.0001、「リーネ・フェルンベル」であることを認証しました。ロックを解除します』
◇
そのメッセージを確認した私は、ゆっくりと、みんなの方に向き直る。
そう、私は、
「そう、私は、リーネ・フェルンベル。佐藤春香の、ロールプレイをしていた者―――」




