EX-29 AF「終焉と再生のエトランゼ」(2/4)
リアルで包丁と釣り竿がある会社、それがFWOエンターテインメント(株)。FWO内アイテムデータ作りの参考材料として。
「私の包丁さばきスキル、重複率95%…」
もしかして、リアルでの料理上手って、無意識に『現界』能力発動していた?でも、VRゲーム始める前から上手だって言ってたっけ。
「田中さんはどうだった?…田中さん?」
「実さん?」
「100%…」
「「「「えっ!?」」」」
私と同じレベルってこと!?
「あ、でも、レベル10のスキル『一本釣り』は重複率が低いですね。基本の『釣り上げ』だけのようです」
限定的なのは間違いないようだ。
さて、ある意味、ここからが本番。
「いよいよ、健人くん」
「え!?俺、前のゲームのスキル忘れちゃったよ!?FWOでは商人だし!」
「だからこそ、判断材料になる」
ヘッドセットを装着してもらい、FWOサーバ…ではなく、2Dプリンタに接続してもらう。3Dではない、2Dである。
「うぇ!?俺、どうやって接続していいかわかんねーよ!」
「前に言った。慣れれば大丈夫。転移魔法陣を、思い浮かべて。どんなものか、仕組みも含めて」
「ううう…あれ?これって…」
うん、うまくいきそうだ。
そうして2Dプリンタから生成されたのは。
「…設計図?なんの?」
「転移装置の一部。健人くんが理解している範囲の」
「それじゃあ…」
健人くんも『現界』能力が発動しました、はい。
「これは…渡辺 凛が『現界』能力をもっている理屈と、同じということですか…」
「私と一緒に長くフルダイブしていると、能力が身につく。超加速時間ではないから、極めて限定的だけど」
なんだけど、ね。…はあ。
「ちょっと待って!?約10年前の時は、春香ちゃんとあの渡辺 凛って人、直接接続のフルダイブ装置で一緒にフルダイブしてたんでしょ?私達、直接接続じゃないよ!?」
そう、そこなんだよなあ。…はあ。
「では、この『現界』能力は、肉体に宿っているものではなく…」
「…心?精神?…そういったものになるの?それって…!?」
やっぱり引っ張り出されてきた、VR研謹製、自我認証プログラム。…はあ。
「自我認証プログラムで、『現界』データの製作者が特定できますね…。今まで、春香さんしかデータを公開してなかったのでわかりませんでしたが…」
「自我に結びつく『魂』とでもいうべき存在があり、そこに『現界』能力が宿っている、ってこと…!?」
「ただのオカルトだと、思っていたのに…」
そんなわけで、状況証拠のみながら、『魂』の存在が証明されてしまいました。…はあ。
え?なんでさっきからため息をついてるのかって?
私の『現界』データは世界中にバラまかれているからだよ!ネット上で簡単に手に入ってしまうんだよ!
あの、『リーネ・フェルンベル』が認証できてしまうオリジナルの自我認証プログラムが、もし流出してしまい、かつ、至る所にある『佐藤春香』の現界データと照合されてしまったら…!
「春香さん、どうしました?まだ何か、あるのですか?」
「単に、今後のことを考えていただけ。『魂』の存在以上の何かは、特にないと思う」
うん、嘘ではない。嘘ではない、が。
はあ…惜しいけど、プログラムに組み込まれている『リーネ・フェルンベル』の自我認証用データは、消去するべきだろうな。知るべき人だけに知られるだけならともかく、世間一般に知られたらヤバいことこの上ない。特に、あのSOEあたりは。
◇
今回判明した事柄は、当面公表しないことになった。
なにしろ、限定的ながらも『現界』能力を他の人が比較的手軽にもつことができてしまうのだから。時間はかかるけど、それを補って余りあるメリットがある。
というか、『オリジナル』の私は、普段からFWOにフルダイブしているのだ。気づかないだけで、やはりそれなりの『現界』能力を有するプレイヤーが他にもいるかもしれない。昔よく組んでいたリーネパーティのメンバーとか。
「消去、と…」
携帯端末に残していた、最後の『リーネ・フェルンベル』の自我認証用データの、コピー。それを、断腸の思いで、消去した。
これで、私が『リーネ・フェルンベル』であることを証明するものは、全てなくなった。もともと、そんなことができるとは思っていなかったのだ。私自身が、確信するためのものだったと捉えればいいだろう。これで、良かったんだ…。
◇
そう、ある種の感慨にふけっていたのに。
「…火星のストレージ装置に、不正侵入された?」
「ごめん、春香ちゃん!まさか、視察に来た政治家の秘書が、SOEの諜報員だったなんて!」
「秘書…『ロールプレイ戦術班』か。でも、私に謝ることでは」
火星に呼び出されたと思ったら、渡辺 凛が、珍しく頭を下げた。まあ、状況自体は、そうせざるを得ないものではあるが。
もっとも、私に関わるものといえば、『コアワールド』のオリジナルくらいだ。アレは膨大なデータである。短時間の不正侵入でどうにかできるものではない。データのごく一部だけかっぱらったところで、何かの役に立つとも思えない。
「そ、それがね、火星のストレージ装置には、『コアワールド』のオリジナル以外も、全部コピーしておいたの」
「…!?まさか、あの時使った遠隔ストレージ装置の、記録媒体の中身を、全部…!?」
「ほんっとにごめん!『コアワールド』は大きいから不正アクセスされた形跡はないんだけど、その他の細々としたプログラムやデータ、特に最近、春香ちゃんが復活させた…」
自我認証プログラムのオリジナルも、盗まれたと。
『リーネ・フェルンベル』の、自我認証用データごと―――




