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EX-26 AF「『ロールプレイ戦術班』に戦々恐々としてなかったっけ?」

もしかすると、この話で第2シーズン終了とするかもしれません。区切りがいいというか…。

 私が大学の講義室で数学科の講義を受けていると、隣に座っていた学生がささやきかけてきた。


「ね、あなた、あの(・・)佐藤春香(さとうはるか)さんでしょ?あたし、別の学科の学生で、篠原(しのはら)あかねっていうの」

「はあ」

「この講義が終わった後、あたしと話をしない?…『SOE』のこと、って言ったらわかるかな?」

「…!?」


 それは、聞かないわけにはいかない。罠かもしれないが、とりあえず聞くだけなら。



 講義の後、篠原あかねと名乗った学生と大学食堂に移動する。ちょうど昼時なので食事を取りながら話を聞くことにした。しかし篠原さんとやら、なぜそんなにA定食を勧めてくる?


「それは、おかずがカニクリームコロッケだからです!中身がクリームシチューみたいでしょ?」

「はあ」

「はずしたかー。じゃあ、本題ね。あたしのイトコの友達の知り合いの会社同僚のお隣さんが、国際警察機構の捜査官でね」


 それは…ほとんど他人だな。


「SOEの本部は、北海道にあるって言ってた」

「…」

「あ、信じてないなー。あたしのイトコの…」


 それはもういい。しかし、デタラメもいいところだ。私が聞いたのは…


「あ、なんかね、同じSOEメンバーであっても、末端には偽の本拠地を伝えているみたい」

「…え?」

「なんだっけ…ああ、そうそう、『ロールプレイ戦術班』だっけ?特にそのメンバーには、嘘ばかり伝えてるんだって!」


 なんだって?そんなこと…しかし、それが本当なら、これまでの情報がアテにならないということになる。


「ほーんと、かわいそうよねー。同志だと思って信じてたのに、嘘八百教えられて利用されているんだから」

「…その捜査官は、どうやって本部の情報を?」

「んー、潜入捜査だって言ってた。ああ、もちろん今はもう潜入してないんだけどね。でも、先週抜ける直前まで、SOEの幹部のひとりの右腕だったって」


 そうなのか…。いやしかし、その右腕とやらが急に消えたら、本部も混乱しないか?


「それがね、国際警察機構の技術班がすんごい装置を開発したんだって!えっと…『記憶ナクース』って名前だったかな?」

「…はい?」

「『ナクース』って日本語の『無くす』をもじったように聞こえるけど、なんかどこかの外国の言葉から取ったんだって。アラビア語だったかな?」


 それは…脅威だ。この上なく。そんなものが秘密裏に開発されていたとは。


「佐藤さんが有名になリ過ぎたこともあって、別の『現界』能力者に設計を依頼したらしいよ?」

「別の?それって、渡辺 凛?」

「ああ、うん、そんなこと言ってた。ごめん、なんか悪い人ってことで有名らしいんだけど、あたし詳しいこと知らなくて」


 そう、なのか。とにかく、それが理由でSOE本部が何事もないような状況ということなのか。


「あ、その装置の名前付けたのも、その渡辺って人だったとか言ってたな。私に教えてくれた人が言うには、それが一番重要なんだって。なんでも…」

「いや、それはいい」


 本当に、どうでもいい。


「肝心なことを、教えてほしい。なぜ、その捜査官はあなたにSOE本部のことを話した?そして、なぜあなたが私に?」

「あれ、聞いてない?おっかしーなー、『クロイゼル』って人が『師匠に直接!こっそり!』ってことで、SOEに察知されないだろうあたしが頼まれたんだけど」


 その師匠というのはよくわからないが…とりあえず、情報を吟味するだけの価値はありそうだ。


「わかった。この情報は有効活用する。あなたは、私に話したことは他の誰にも言わないで」

「りょーかいです、春香様!」

「あと、向こう何日間は私に接触しないで。あなたが事件か何かに巻き込まれるかもしれない」

「えー?残念、後でゆっくりサインもらおうと思ってたのに」


 それは困る。とにかく困る。


 その後、篠原あかねと別れた私は、先ほど得た情報を早速吟味するため、大学を出た。



「知りませんねえ。私もそんな話は初耳です」

「そうよねえ。なんとかナクースとかはともかく、SOEの本部のことは。あり得なくない?」

「私も、あり得ないと思っている。しかし、その装置が実在するなら…」


 ドゴオオオン!!

 ‎ダダダダダダダ!

 ‎ガン!ガシャーン!


「な、なに!?」


 部屋の外から、物凄い破壊音や戦闘のような騒音が聞こえてくる。

 と、思った直後、ガチャ!と部屋の扉が乱暴に開かれる。


「3人とも、逃げて下さい!奴がもうすぐここに…がふっ!」


 後ろから衝撃を与えられたのだろうか、扉を開けて喋り終える前に、倒れる。


 そして、そこに現れたのは…。


「はろー、篠原あかねだよ!追跡装置を付けたの、気づかれなくて良かったよー」


 あっけらかんとのたまう、あの、篠原あかね。体術を駆使した戦闘など、とてもできないような、そんな風貌だったはずの…!?


「な、なぜ!?ここのセキュリティは完璧のはず…!?」

「そ、そうよ!ウチの組織の粋を集めて万全にしていたのに!」

「粋を、ねえ。あっさり『攻略』できたけど?ああ、『スローライフ』のようだった、とでも言えばいい?それが決まり文句なんでしょ?」


 なに?なにを、言っているの?


「まあいいわ。へー、ここがあなた達の溜まり場なんだー。じゃあ、遠慮なく…」


 彼女はそう言って、右手を構え、


「【ストレージアウト】神剣フリューゲル」


 光輝く剣を、その手元に出現させる。


「この『ロールプレイ戦術班』を、攻略する」



「春香さんに変装してロールプレイをするとは、身の程知らずですね…」

「ホントだよー!狂信者って、まともな判断ができなくなっているのかしら?」

「私達が周到な準備をして、おびき寄せた。その成果」


 田中さんに高橋さん、ふたりとも『ロールプレイ戦術班』に戦々恐々としてなかったっけ?こういうのも手のひら返しって言うのかな。


 佐藤春香が珍しく風邪をひいてこじらせ、何日も寝込んでいる。しかし、そのことを知られたら騒ぎになるので隠しておかなければならない。とりあえず表向きは、また仕事を請け負って何日も不在にするということにしておこう。

 ‎それにしても、困った。実は、佐藤春香が通う大学には、『ソル・インダストリーズ』やアサバ産業、国際警察機構などの名立たる組織の諜報員が、彼女との情報交換を密にするため、交代制で何人も潜伏している。ああ、これももちろん機密事項だ。しかしそれだけに、佐藤春香が病床にあることを、それら組織に正確に伝えることもままならない。

 ‎だからもしかすると、大学に潜伏している諜報員たちがよく知らないまま、早めに大学に復帰したと偽る佐藤春香の偽物が、彼らから重要な情報を得てしまうかもしれない。いやいや、あの佐藤春香のフリができる者など、この世にいるはずはないだろう。うん、マネることなどできはしない。絶対に―――


「本当なら、この時点で気づくべきよね。春香ちゃんなら、たとえ寝込んでいても、FWOその他の仮想世界ネットワーク経由でいくらでも情報交換できるのに」

「まあ、その後のアオリも重要でしたけど。彼らにとっては、情報うんぬんよりも、こちらの方が本懐なのかもしれません」


 と、いう情報一式を、命からがらSOEの末端メンバーに伝えてきた『同志』がいた。ああしかし、その同志はその情報を伝えた直後におとりとなり、志半ばで当局に捕まった。今頃は、『裏切者』達の圧力で熾烈な拷問にあっているに違いない。

 ‎SOEを見くびるな!我らには、日々研鑽を詰み、佐藤春香をも超える技術をもつ『ロールプレイ戦術班』がいるではないか!こんなこともあろうかと、FWO創始者の田中 実、VR研代表の高橋美樹、そして、他ならぬ佐藤春香の『ロールプレイ』の訓練を受けている者達がいる。ちょうどいい、目にもの見せてくれよう…!


「という感じで、私達3人の偽物も用意していることを得意げに暴露してたわよね、こないだ捕まったSOEメンバーのひとり」

「あの強襲の時もそうだった。彼らには彼らなりの信条があり、それを世間に知らしめる必要がある」

「そこがますます狂信的なのですよね…」


 彼らには彼らの避けがたい人生や経験があり、その結果が今の彼らだ。同情も贔屓もしないが、それだけは認めたいところだよね。罪を憎んで人を憎まずだ。


「普通なら『甘い』と言われる考え方ですが、きっちり捕縛した後に語る春香さんのそれは、否定しがたいものがありますね」

「そうそう。まるで、春香ちゃんも理不尽な人生や経験を送ってきたかのよう…ごめん」

「別に、いい」


 しかし、『コアワールド』創生の件だけでこれである。もし、あの事(・・・)まで知ったら、どんな反応するかな。なにしろ、今の私という存在を全否定しかねない『事実』なのだから。


「私が言いたいのは、彼らをなめてかかってはならないということ。私達の人生も、彼らのようになっていたかもしれない。同じ人間なのだから」

「春香さん、あなたの『ロールプレイ』は、その役割をもつ人の性格だけでなく、人生全体を演じているのでしょうか?そんな気がしてきました」

「間違いでは、ない。ただ、演じているわけではない。私にとっては、人生そのもの」


 そう、私は10年以上も佐藤春香のロール(役割)プレイを(を果た)している。もし、渡辺 凛が『リーネ・フェルンベル』の肉体や記憶を自らのものとせず『佐藤春香』のままだったら、それは今の私とは別の人生である。そういうことだ。


「わかったわ、これからも気を引き締めていきましょ!ねえ、実さん?」

「そうですね。今回は春香さんだったから難を逃れましたが、同じく準備されていた私達の偽物が先に活動していたらと思うと…」

「安心して、実さん!私が実さんを偽物と間違うことはないよ!」

「私もですよ、美樹さん」


 …今、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、『ロールプレイ戦術班』の連中に八つ当たりしたくなってきた。えっと、どこに拘留されてるんだっけ…?

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