EX-24 AF「NPCあれこれ」※
どの辺が※なのかは御想像にお任せいたします(なんだそれ)。
「この娘が1号店の店長にはちょうどいいと思うよ。オリジナルは、学園コースのハンバーガーショップの店員だね」
「よろしくお願いします!がんばります!」
「あ、うん、よろしく!」
「はい!!」
ミッキー高橋さんの言葉に満面の笑みを浮かべる、NPCのひとり。ああ、良かった、NPCだからって無下な態度をとると悲しむのよね、この娘の場合。
FWO第一エリアの魚屋1号店を任せていたプレイヤーが、リアルの都合でできなくなったというので、私がNPCを用意した。一応、ケインとして。
「え、ケイン…春香がNPCを作ったの?それに、学園コースって?」
「確かに、あの時のハンバーガーショップの店員さんだけど、作り直したのか?」
ああ、ミリーとビリーには言ってなかったっけ。当時は『アバター同時接続』のこと伝えてなかったしね。かくかくしかじか。
「あの、震えが止まらないんだけど…」
「よくわからないけど、ごめんね」
「あの世界のほとんどのエキストラが、先輩だったなんて…」
うん、本当にごめん。まだよくわからないけど。
「他のNPC同様、NPCマーカー必須ね。でないと、完全にプレイヤーアバターと思われちゃうよ!」
「いやあの、むしろ驚かれると思うんだけど。どうしてもNPCに見えないって」
「先輩のロールプレイから生み出されたAIだからなあ…。アバターそのものは俺達と変わらないわけだし」
演算しているというよりは、こういう時にはこういう反応、っていう言動パターンの集積体だ。メモリの消費容量が大きいのが欠点だろうか。
「そういえば、FWOは相変わらずプレイヤーが多いし、他の人が見つかったらやめてもらうことになるけど、それでもいい?」
「はい、わかってます。私はバイトですから!」
バイト店長は珍しくないし、すぐに交代しても問題はないだろう。
「うう、働き者の春香ちゃんに似ていてかわいい…。でも、プレイヤーの『職』の機会を奪うわけにもいかないし…」
「そこは、気にしなくていいですよ。クビになったら待機モードに移行しますから。なんなら、チラシ配りとして『再雇用』してもいいかもしれませんね」
「店長からチラシ配り…この世の無常を感じる。VRゲームだけど。NPCだけど」
「あたし、リアルのファミレスのウェイトレスのバイト、クビになりたくない…デート代が…」
健人くんは未だ美里のリアルなヒモらしい。まあ、健人くんは受験追い込み時期だし、今はしょうがないか。
◇
「へっへっ、いいじゃねえか。どうせNPCなんだろ?」
「やめて下さい!通報しますよ!」
「なあ、閉店時刻になったら宿屋に行かねえか?朝までかわいがってやるぜ!」
第一エリアの街をひとりで歩いていたら、ひさしぶりにNPCに絡むアホなプレイヤーを発見。以前リアルでもクレームかましてた3人組のうちのふたりかと思ったら、別人のようだ。ちなみに、今回の場所は花屋だ。
「ちっ、面倒だ。奥に連れ込もうぜ」
「だな。おら、来いよ!」
「いやああああっ!」
露骨な急展開だなおい!ええい、とにかく止めよう!と、店に飛び込む私。
「…ん?なんだ、お前?そんな派手な格好しやがって」
「こいつもNPCか?プレイヤーにしては動きが滑らかすぎるからな」
あら?『私』に気づかない?いやあ、なつかしいなあ。変な意識もされず、しかも、NPCにまで間違われるなんて。前のゲームではよくあったよ、ホント。
「よくわからんが、邪魔するってんならやっちまうぞ!」
「手加減してやるぜえ。弱ったところを一緒に奥に引きずって…ぐえへへ」
ぐえへへって。精神的グロ注意。
ヘドロよりキツい嫌悪感を覚えていると、ふたりが剣を抜いて切りかかってきた。
ふむ、ひさしぶりのVR対人戦闘か。このアバターはもともと対人向きだからね、覚悟してもらおう!
◇
孤高の魂よ、我が刃の盾となれ。
◇
腰の日本刀を抜くと同時に、切りかかってきたプレイヤーのひとりを斬り刻む。そりゃあもう、粉々に。居合抜きの乱切りバージョンだ。さすがにリアルでは実現不可能か。
斬り刻まれたプレイヤーはひとことも反応できず、光の粒となっていく。
「ふんっ!」
キンッ!
「ば、バカな、斬り刻んですぐに俺の剣も受け止めるだと…!?」
「遅いのう。そんなことでは、妾どころか、雑魚魔物すら討伐できんぞ?」
「…!?み、『巫女装束のハルカ』…い、いや、佐藤…!」
その先の言葉は聞こえなかった。私が一閃して光と化したから。
しかし、『巫女装束のハルカ』か。二つ名としては悪くないかも。厨二過ぎず、単純過ぎて紛らわしくもなく。むしろ、VRでも『佐藤春香』と呼ばれるリーネとしての私が一番紛らわしいよね。まあ、今のリーネアバターは高速スキャンした…
「ありがとうございます、ハルカお姉様!」
「あ、ああ…ん?『お姉様』だと?」
「はい!前のゲームでもファンでした!」
ああ、そういうプレイヤーも何人かいたっけ…って、ちょっと待って!?
「お主、NPCではないのか!?そのマーカーは!?」
「あ、はい、アイテムでNPCのフリをしていました。これだと、面倒なプレイヤーから絡まれることがないんですよ。今回はちょっと失敗しちゃいましたけど。てへ」
あー、確かに規約違反ではないなあ。今回のようなことがあるから自己責任で、という但し書きが付くが。
しかし、アイテム…仕組みは簡単だから初心者生産職でも作れるはずだけど、ケインとしてレシピを考えて公開した記憶はない。偽装を促すものはちょっとね。え、私が言うな?私のロールプレイは偽装じゃないよ!
「ところで、ハルカお姉様はこれからお暇ですか?あたし、もう少しでここの仕事終わるんですよ。デートして下さい!」
「暇と言えば暇だが…って、で、デート!?」
「ああ、しかも中身があの春香ちゃんだなんて…でへへ」
通報ー!運営、変態を通報させてー!!
って、NPCほとんど出てないじゃん。