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EX-22 AF「花も恥じらう15歳の乙女ですわ!」(後編)※

 春咲様とお昼にカフェテリアでクリームシチューを食べた、その日の午後の授業中。


 ジリリリリリリリリリリリン!!


 この音は、非常ベルですの!?


「みなさん、落ち着いて!校内放送があるはずですから、しばらく待っていなさい!」


 授業を担当していた先生が、そう伝えました。大人しく待っていると、確かに放送が流れました。


『倉庫で火災発生、倉庫で火災発生。生徒は教職員の指示に従い、グラウンドに避難して下さい。繰り返します、…』


 火事ですの!?大変ですわ!!


「みなさん、他の人を押さないように、出入口に近い人から順番に廊下に出て下さい!」


 わたくしや春咲様は出入口に近い席です。早速、扉を…


「!?あ、開きませんわ!?」

「え!?」

「どうして!?」


 先生や他の生徒が試してみましたが、やはり開きません。ど、どうしましょう?

 ‎他の皆さんに出入口の方を譲りましたので、わたくしと春咲様は、廊下とは反対の窓側にいます。窓からグラウンドを見ると、わたくし達のクラス以外の方々は全員避難したようです。本当に、どうしましょう?


 ガシャン!!パリン!!


「きゃあ!」

「な、なに!?」


 急に、廊下側の窓ガラスが割れたかと思うと、


「動くな、大人しくしろ!」

「両手を頭の上に置いて、膝をつけ!」


 銃を持った、兵隊さんのような格好をした人達が教室に入ってきました!!


「あ、あなた達、一体…!」

「膝をつけと言っただろう!」


 何か言いかけた先生の体に銃を突きつけ、膝をつかせようとする、兵隊さんのような人達。こ、これは、わたくし達も大人しく従った方がいいですわ!


 クラス内の生徒と先生が全員従った後、


「ふん…。おい!いたぞ!」


 わたくしの方に向かってくる、兵隊さん達。あら、もう『ような人』と思えなくなってしまいましたわ。怖いです…!


「おい、お前が、浅羽瑞乃か!」

「あ、あ…」


 怖くて、うまく声が出ません。ど、どうしましょう!


「ああ、その子は確かに、浅羽瑞乃だ」


 …!?

 ‎鏑木!?なぜ、ここに!?


「ようやく、こういう形で捕らえることができましたよ、瑞乃お嬢様?」

「か、鏑木?な、何を、言っていますの!?」

「こんな状況でもその言葉使いか…。根っからのお嬢様なんだな、あの男の、娘は」


 なに?なにを言ってるんですの、鏑木は?


「世間知らずのお嬢様にも、わかりやすく伝えようか。旦那様…アサバ産業の社長であるお前の父親は、我々にとっては『裏切者』なのだよ」

「え…?」

「その昔、『地球に留まれ』を目標にSOEという組織を作ったのに、今では月から地球を支配している。我々は支配されるために地球に留まれ、とでも言いたげにな!」


 わたくしにそう怒鳴りつける、鏑木正師。この3週間ほどの間、少々お茶目な言動はあったものの、わたくしのことをあれやこれやと世話してくれた、優しく有能な男性。今の彼からは、その雰囲気が感じられない…!


「も、もしかして、わたくしをこうして捕らえるために、何週間も前から…!?」

「ほう?お嬢様のお花畑な頭でも、理解できたか。そうだ、この学園に転入するという情報を得て、潜入して準備を進めていたのさ」


 これまでの、あの鏑木は、偽りの仮面だったというの…。


「わたくしを、どうするつもりですの!?」

「このまま拉致して、我々への損害賠償としての身代金を頂く。ただし、我々はただの身代金目当ての誘拐犯ではない。だからこうして、多勢の『証人』の前で趣意を宣言し、堂々と誘拐する。それが、我々の信条だ」


 そんなこと、そんなこと…!


「っ…!」

「おっと、逃げないでよ、『瑞乃さん』?」


 えっ…!!


 わたくしの後ろにいた、春咲様が、そう、加藤春咲様が、わたくしが逃げられないように、わたくしの両手を強く押さえつける…!?


「はー、やーっと、こんなママゴトをやめられるよ。あー、何か月も疲れたわー」

「そういうな。お前がいたから、こうしてスムーズに事が運んだんじゃねえか」

「他人事だと思って、適当なこと言わないで。なーにが『ロールプレイ戦術班』よ。いくらちっこい背格好だからって、あの(・・)佐藤春香(さとうはるか)のマネして小娘のフリをするのが、どれだけ辛いことか!」


 …なに?なんなの?


「ん?アタシがなぜこんなことするか、わからないって顔ね?逆だよ、お嬢ちゃん。これがアタシの、本来の性格さ」


 この一週間の間に触れ合った、小柄でかわいい、おとなしめで真面目な春咲様が、鏑木と同じく…。


「…ふたりとも、ひとつだけ、教えて下さいの!」

「ん?」

「んだよ?」

「わたくしが知っている、『鏑木正師』と『加藤春咲』は、偽物だったというんですの…?真っ赤な嘘だったと、いうんですの…?」


 少しの間、静寂が流れる。


「…っくっくっくっ、ああ、そうだよ!これまでの『鏑木(かぶらぎ)正師(せいし)』は偽物さ!」

「今更何を…『加藤(かとう)春咲(はるさ)』は、真っ赤な嘘、でっち上げだよ!あっははははは!」


 何をそんなにおかしいのか、わたくしを嘲笑う、ふたり。


「…そう。そう、なんですの。でも、これだけは、これだけは言わせて下さい!」


 わたくしは…()は、思いの丈を、ぶち撒けた。


「ロールプレイを、なめるな」



 私は、佐藤春香(・・・・)

 ‎この世の全ての魔を、攻略する。

 ‎安寧なるスローライフを、この手に。



 体をひねり、加藤春咲を名乗っていた者の手を振りほどき、逆に私がその手をつかむ。そしてそのまま、床に押さえつける。戦争VRで何度かやった体術だ。


「あぐっ!?な、な、なに、なんなの!?」


 案の定、懐に忍ばせていた拳銃を奪い、セーフティを片手ではずし、


 パン!


「がっ!?」


 鏑木正師を名乗っていた者に向けて、撃つ。同じく懐から取り出そうとしていた拳銃を落とすために。


「くっ…!撃て!撃て撃て!」


 武装集団が銃を構える。

 ‎遅い。


「【ストレージアウト】神剣フリューゲル」


 私の発動コマンド詠唱に合わせ、カチューシャ型ヘッドセットが反応する。ソル・インダストリーズと共同開発した、固定デバイス間転移機能『ストレージアウト』をヘッドセット経由で発動、自宅に設置しておいた『神剣フリューゲル』を、手元に転移させる。


「がっ!?」

「ごぶっ!」


 神剣、と名はついているが、所詮は模擬剣のひとつである。だが、FWO内の魔物と同じ要領で打ちつけることくらいはできる。

 そして、


 ダダダダダダダッ

 ‎パンパン!パン!


 キン、キンキンカン、キン!


「ば、馬鹿な…がはっ」

「げえっ!」


 剣の傾き加減で、弾を弾き返すことくらいもできる。今回は周囲に『仲間』が数多くいるから、弾く方向に気をつける必要はあるが。


 今回も、あっさり終わった。

 ‎現実世界は、時の流れが遅い。攻略とスローライフには、やはり物足りない―――



 私は、床に転がったままの、鏑木正師と加藤春咲だった(・・・)者達に、向き直る。


「佐藤春香、だと、言うの…!?」

「そんな…それじゃ、本物の、浅羽瑞乃は…!?」


 本物?何を言っているのかな?


「あなた達が知っている浅羽瑞乃は、私。紛うことなき、本物」

「なに…何を、言ってるんだ…?」

「あなたは、本物の佐藤春香、なんでしょ…?」


 ふう…。やってみせないと、わからないか。


「もう!何言ってるんですの!?わたくしは正真正銘、あなた達とこの数週間を過ごした、浅羽瑞乃本人ですのよ!」

「「…」」

「ちなみに、佐藤春香(・・・・)さんの方(・・・・)は今、FWOのアバターを経由して関係当局に連絡してますわ!もっとも、非常ベルが鳴った時点で既に伝えていたみたいですけど!」


 遠くから、パトカーのサイレンが、聞こえてくる。まあ、こんなものか。



 毎度おなじみ、VR研会議室。


「凄いですわ!佐藤春香様のサインが頂けるなんて!」

「普通は、しない。今回は、特別。でも、こんなのでいいの?」

「いいんですのよ!春香様がわたくしの代わりに過ごしていた間、わたくしは月面を満喫できましたから!」


 なるほど。いずれにしても、彼女、浅羽瑞乃嬢が満足しているなら別にいいか。


「しかし、鈴木会長に詐欺を働いた者を調べたら、とんでもないことが発覚しましたね…」

「『ロールプレイ戦術班』って、まさしく春香ちゃんのパクリじゃない!」


 パクリ?うん、確かにパクリかも。


「あんなものは、ロールプレイとは言えない。ただの演技。ただのフリ」

「我々普通の人間には、区別できませんよ…」

「そうよ!しかも、SOE初期メンバーの子息が多く通っているというだけで、中学生のフリをして数か月前から潜伏していたなんて!」


 SOEは、やはり狂信者集団と化していたようだ。放置すれば、私にも被害が及ぶ可能性が高い。渡辺 凛の時とはある意味逆だが、全世界の捜査当局に全面協力していくことにしよう。


「それにしても、【ストレージアウト】を『現界』していたとは、びっくりしました」

「正確には、ストレージとは異なる。収納空間の維持には、膨大なエネルギーがかかる」

「今回の剣の転移にしても、装置への充電がまる一日かかるとなると、何かへの応用は厳しいですね」

「その方が、いい。軍事転用されても、困る」


 バッテリ問題が解消されるとまずいんだよなあ。とはいえ、技術革新を意図的に妨害するのはもっとまずい。SOEがやっていることと同じと言えなくもない。


「ところで、春香ちゃんは、いつあのふたりのロールプレイに気づいていたの?」

「最初から。もう一度言うけど、あんなのは、ロールプレイじゃない」

「なら、なんで最初からあのふたりを捕まえなかったの?」

「証拠が、なかった。それに、」


 それに、あの浅羽瑞乃嬢なら、ふたりのことに気づかず、仲良くしようとしていただろうから。そう、私のロールプレイの通りに。


「ん?なんですの?」

というわけで、お家芸『超展開重ね掛け』をひさしぶりにやらかしました。たまにはいいですよね?ね?


なお、お気づきの方もおられるかと思いますが、『エキストラ』での春香の仮想敵として『SOE』をレギュラー化しました。どのように展開していくかは未定ですが、そもそも後日談/番外編集としてのそれなので、ゆるーくやっていきたいと思います。

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