EX-93 AF「みんなと過ごす行程に、幸多からんことを」
EX-92の続きです。いやマジで。
VR研の会議室。美樹と実くんとで話をしている。
「ということで、彼女についてわかったことをまとめるね!」
会議室のスクリーンに項目を並べて表示する。HS-01経由で、プレゼン機能をリアルタイムで実行している。
・脱出カプセルのようなもので漂流していた女性。
・アルファ・ケンタウリのどこかの惑星から出発。
・出発してから数週間で転移実験グループが発見。
・遺伝子は地球人類と同じ。祖先は地球人の模様。
・女性の名前は不明。むしろ名前がない可能性大。
・言葉は数千年前に地球のどこかの地域から分岐。
・衣食住はあまり恵まれていなかった様子が散見。
・宇宙を漂っていたが、宇宙や惑星の概念が皆無。
「最後が重要ですね。宇宙に脱出する技術があるにも関わらず、宇宙というものを知らないのですから」
「しかも、惑星…つまり、大地が球状であることさえ理解していなかったのでしょう?」
「そう。で、その辺を探るためのヒントを、あのカプセルから発見しました!」
スクリーンに、カプセルの分析結果を表示する。
「これは…エネルギー源がどこにも存在しない?」
「カプセルだから、推進エンジンがなくても不思議ではないけど、でも、制御機器のようなものはあったのよね?」
「少なくとも、電気とかで動くものじゃなかったね。じゃあ何で動くのかと、あれこれ試行錯誤したら…」
ピッ
「『マナ』!?この世界にはなかったのでは!?」
「ああ、うん、サンプル程度の量を、こう、いつものアレで」
「はいはい、今度の週末はショッピングモールに連行ね。あそこの名物パフェを、こう、ぐりぐりと…」
美樹、突然なに言ってるの?
「つまり、いわゆる魔法文明ということですか?」
「たぶんね。もしかすると、今の地球にマナが存在しない理由でもあるかもしれない」
「それは、どういう…」
つまり、こういう仮説を立ててみたのだ。
・地球上にはかつて魔法が発達した文明があった。
・しかしその文明がマナごと別の惑星に転移した。
・マナと魔法で生き長らえているが、環境が劣悪。
・空に飛び立つ技術はあるが、科学的考察はなし。
「実際、あの異世界でも、質量保存則とかのいっさいが無視されてたわー。たぶん、マナが半自動的に調整してくれてるんだと思う」
「でなきゃ、でっかいドラゴンが空飛んだりできないよね…。というか、ドラゴンのような存在そのものが説明できないし」
「リーネが以前分析した結果では、ウイルスのようなものだとか。条件が合えば繁殖もするわけですね。…って、リーネ、あなた先程『現界』させたと」
「私が生み出したのは、マナがもたらす物理効果だけだよ。遺伝子に相当する情報まではさすがに把握していないし」
とはいえ、あの異世界でそれなりの量のマナを仕入れてくれば…ああいや、しないよ?パニックになるしね。
「彼女を取り巻く環境はだいたいわかりましたが、個別の事情がわかりませんね。どうして脱出?したのか、社会情勢はどうなのか、などなど」
「彼女が自分自身のことを話さない…というか、話せないのよね。FWOでの反応から、あの異世界と同じく、中世ヨーロッパ風…いや、どちらかというと、『フェルンベルの村』に近い様子を感じるんだけど」
「それは、なぜ?」
「私のクリームシチューを、ごちそうのように喜んで食べていた」
「ああ…」
喜んでもらえるのは嬉しいんだけど、なかなか複雑な心境ではある。
「彼女は『的』という種族で、ある村に住んでいた。でも、『偉大なる血統』という種族に、なんらかの理由で村を消滅させられた。『槍』と呼ばれる、何かで」
「消滅!?兵器か何かですか?」
「たぶん。文字通り『消滅』したらしいの」
「はあ…」
貧しい村に、荷電粒子砲みたいなものが打ち込まれたのだろうか。なかなかアンバランスである。
「たまたま難を逃れた彼女は、その『槍』を避けるように逃げ、『偉大なる血統』が言う『空高く昇る機械』を見つけて乗り込み…以下略、ということらしいね」
「それは…確かに、状況がさっぱりわかりませんね」
「でも、それが本当なら、彼女を元の場所に戻すのはまずいわね」
当面は、私達…FWOグループやVR研、ソル・インダストリーズなどが保護していくことになりそうだ。
「政府に任せることはできないの?」
「言語モジュールの『現界』が難しくて」
「ああ…元の技術は『マナありき』だったものね」
私のように、現実の体を動かしながら仮想世界にフルダイブできれば話は早いのだけれども。ないものねだりをしてもしかたがないか。
「いずれにしても、彼女の目的は『生き残る』ことだけだったらしいからね。家族も失っているし、このまま太陽系のどこかの惑星に定住することになるかな。まずは名前を決めて、その役割を教えないと…」
「彼女の状況はわかりました。…それで?」
「なにが?」
「リーネは行きたいんでしょ?彼女の故郷に」
む、ふたりの方からあっさり言われてしまった。私の方から切り出して、それから…。
「止めてもどうせ、強引に、もしくは、こっそり行くんでしょ。わかってるわよ」
「彼女の故郷の星も、この世界の一部ですからね」
「だよねー」
…?
なんだろ、ふたりにはこちらの真意や意図が見透かされているような、そんな感じが…。
「というわけで、みんなにも声をかけるね」
「!?ちょっと待って、ふたりも行くつもり?あと、他のみんな?美里や健人くん、誠くんにまで声をかけるつもり!?」
「いやだって、もうすぐ長期休業に入る頃だし」
「そういう問題じゃないわよ!」
「あ、やっぱりみんな行くって。携帯端末に返信メッセージ入ってた」
「鈴木会長やフェルンベル総裁、各国政府も全面協力するそうですよ」
な、なに!?この、スピーディな対応!
「プレスリリースだねー。『佐藤春香、ついに太陽系外に進出!』ってね」
「侵攻…かもしれませんけどね、相手によっては」
…おかしい。何かが、おかしい。
問い詰めたい。関係者を含むみんなに、小一時間問い詰めたい。
しかし、大学を休むわけにはいかないから、長期休業に合わせて対応するしかない。つまり、時間がない。むう。
はあ…。遠征中、もしくは、遠征後に問い詰めよう。
まあ、いろいろと見通しは立てている。何かあってもみんなを守る自信はある。
願わくば、みんなと過ごす行程に、幸多からんことを―――。




