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EX-10 AF「私のいないパラレルワールドに転移してしまった」(後編)

「にわかには信じられないが、ここまでデータが揃っていると信じざるを得ないな…」

「突然のことで御迷惑をおかけしますが、御協力いただけないでしょうか?もちろん、報酬は他にも可能な限り御用意いたします」

「何を言う、『反重力』だけでなく『転移門』の技術も得られるんだ!これだけで我がグループは…いや、この世界の人類は、銀河系全体に進出できるんだぞ!」


 うお、元の世界よりも積極的な御発言!目が輝いてるよ!


 いやあ、なんとかギリギリ間に合ったよ!あと1日返信が遅かったら、無一文の不審者として交番に駆け込んでいたところだ。気が狂ったかわいそうなちびっ子として保護されるという最終手段を発動せずに済んだよ!


 で、実際は何をしたかというと。


・ネットカフェにこもり、反重力技術の詳細を重力理論から『現界』し続ける。

・ネット上の無料ストレージ領域に技術データを格納し、パスワードをかける。

・関心を引きそうなメッセージを書き、パスワードと共に鈴木のお爺様に送る。

・返信を待つ。


 正直、賭けだった。鈴木のお爺様なら食いついてくるだろうと思っていたし、技術データを無下に扱わず精査してくれると考えた。広く公開されていない、個人用送信先情報を使ったこともあるだろう。しかし、保証はなかった。

 ‎だから、面会を求めるメッセージが届いた時、ネットカフェで高橋さん直伝の踊りをつい踊っちゃったよ!もちろん、こんなちんちくりんの小娘が現れたら追い返される可能性もあったけど、さすが鈴木のお爺様、自宅で丁重にお迎えしてくれた。感謝感謝!


「しかし、春香さん…だったか、相当苦労したのだな。『転移門』のプロトタイプができるまで、家でゆっくり過ごすといい」

「ありがとうございます。本当に助かります」

「美里と健人に頼るといい。君の話が確かなら、慣れているのだろう?」

「向こうは初対面、ですが。奇妙なものです」


 さーて、こっちのふたりはどんな感じかな?



「春香ちゃん、かわいい、かわいい」

「あ、姉貴ズルい!俺にも頭なでさせてくれ!」


 最初からこれかよ!なんなんだよ!?ていうか美里、なぜにちゃん付け!?


「え、同い年!?信じられない…でも、やっぱりかわいい」

「まあ、あんま関係ないか。なでなで」

「なぜ」


 そういう流れですかいな。つまりあれですか、元の世界のふたりは、私の実年齢がネックでこういうことをしてこなかったと。そういえば、何百年もかけて『コアワールド』を創造したことも今では知ってるんだっけ。


「かわいい、かわいい」

「はー、マジで妹に欲しい…」

「私、健人くんよりも年上…」


 私はミステリアスとやらじゃなかったんかい。ああ、うん、高校時代がないからそうなるのはわかるけどさ。いやあ、元の世界への土産話が加速度的に増えるなあ、あははは。


「じゃあ春香ちゃん、一緒にお風呂に入りましょ!ベッドも広いからふたりで寝れるし!」

「え、俺はどこに寝れば…」

「元の部屋があるじゃない」


 え、なに、こっちでは御家庭でも公認なんですか。あっちではお爺様に『半人前』と言われてまだまだなのに。


「健人くん、受験勉強の方は?」

「うぐっ」

「美里、レポート課題の締切が近いはず」

「な、なんで知ってるの!?」


 ダメかあ。

 ‎VRがないから加速時間で学習システムってわけにはいかないよね。現実時間で勉強ぶりや素行を見てあげよう。この家にしばらく御厄介になるんだし!


「急に、寒気が…」

「かわいいのに…」



 こちらの世界に来て数週間。そろそろ、元の世界に戻るための『転移門』が出来上がる。


「そうか…仮想世界技術は得られないか」

「その代わり、基礎理論とフルダイブ技術の改良データは残していきます。二十年ほどで我々の世界の水準となるでしょう」

「話を聞くと、重力制御や転移装置よりも夢のある技術だな。ぜひ確立したいものだ」


 FWOのようなVRゲームが登場することを期待したいね。まあ、私はプレイできないと思うけど。


「こちらにマーカーを残して、そちらと行き来することはできないのかね?」

「できなくはありませんが、可能性世界の性質上、私しか転移できません。私のためだけに、莫大なエネルギーを使うわけにはいかないでしょうから」

「確かに、計算上、太陽系規模の転移をはるかに超えるエネルギーが必要だな。それに、君しか転移できないのであれば、いわゆる転移型通信路も実現は難しいことになる」


 今回の転移事故で、向こうでかなりのエネルギーが消費されたはずだ。そういう意味でも失敗したなあ。深追いはするべきじゃないということかな。


「それと、今回はこちらに滞在する期間が数週間となってしまいました。向こうの人々に心配をかけたくないので、時間軸も調整して、事故の直後に転移する予定です」

「そうなると時空の歪みが発生して、更に転移しにくくなるということだな。残念だが、しかたあるまい。本来は交わることのない人間と交わることができた。まさに奇跡だ」


 そうだね、奇跡だ。会えて当然とは思わないことにしよう。一期一会である。


「春香様、粗茶にございます」

「春香様、夕食の御希望はございますでしょうか」

「今日は、鶏胸肉のクリームシチューがいい、かな」

「「かしこまりました!!」」


 美里と健人くんもいい感じに仕上がったしね。え?そうだよ、このふたりが美里と健人くんだよ。いい感じでしょ?人を使うだけでなく人に使われる立場も学ぶべきということで、メイドと執事のお仕事をしてもらっている。ふたりの自宅である、この豪邸で。


「それと、今、私とお爺様が話した内容を議事録としてまとめておいて。各自の考察と今後の展望予測を加えたレポートは、ふたりそれぞれ提出。同じ内容はダメ」

「大学のレポート課題の方が、はるかに簡単…」

「俺、予備校で成績が急に上がったって誉められた…」


 うんうん、成果もちゃんと出てるね。よーし、元の世界に戻ったら早速試してみよう!



「それでは、お元気で」

「ああ、春香さんもな」


 皮肉なことに、元の世界に戻るための転移門は、最初に放り出された廊下の建物に設置された。もともと『ソル・インダストリーズ』の社屋のひとつだったものを、研究所に転換したのだ。私は何も言ってなかったのだけれども。

 ‎でもそのおかげで、可能性世界の転移軸と時間軸を調整するだけで、元の場所に戻れる。いやあ、ようやくだ。


「一応、マーカーは残しておく。アテにしないで待っとるよ」

「春香様、御武運を」

「御武運を」


 美里と健人くんに向こうの世界での攻略とスローライフの日々を話してあげたら、メイドと執事に関係なく、畏怖の目で見られるようになった。あ、もちろん、『実技』込みでね。鈴木家、いい日本刀そろえてるねー。居合いと手入れのしがいがあったよ!


 元の世界への門が開く。

 ‎また、いつか会う日まで。



「春香!?良かった、無事だったのね!」

「先輩!怪我ない?頭大丈夫?」

「春香さん、心配したよ。戻ってこれたのだな」


 美里、健人くん、鈴木のお爺様が出迎えてくれる。直後と言っても、数時間は経過していたようだ。技術スタッフが鈴木家に連絡して、3人が駆けつけてくれたようだ。

 ‎ところで健人くん、あとで腹筋30回。


「なんで!?」

「ねえ、それよりも、どこに飛ばされたの?しかも、自力で戻ってくるなんて!」

「田中氏と高橋女史にも伝えたいからな、聞かせてくれるのだろう?」


 うん、たっくさんあるよー、土産話!

 ‎でも、その前に。


「その前に少し、FWOにログインさせて…攻略とスローライフ不足…」

おまけ。


春香「異世界に転移してしまった。えっと…『ステータス』」

ステ「全項目:∞。備考:代わりにこの世界を治めて(by神)」

春香「却下」


春香「この世の全ての魔を、攻略する。依頼を」

受付「ギルドにはもう残っていません…」

春香「安寧なるスローライフを、この手に。素材を売却します」

受付「お支払いできるお金も残っていません…」


悪魔「くっ…私は四天王の中でも最弱の…!」

春香「魔王とその配下は攻略済。辺境にいたあなたが最後」

悪魔「そんな…ぐほっ」

春香「光と、なれ」


春香「王侯貴族を廃せとは言わない。でも、ちゃんと働いて」

国王「し、しかし…え、これ何」

春香「帝王学の基礎を述べた書物。これを明日までに身につけて」

国王「この年で今更…はい、わかりました。わかりましたから、その極大魔法陣を納めて下さい春香様!」


民衆「春香様ー!」

民衆「春香様ー!」

春香「あ、元の世界に戻る魔力が溜まった。それじゃ」

民衆「え」

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