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黒鋼の竜と裁きの天使 裁きを受けるのは人類か、それとも……  作者: やねいあんじ
レンスター編 第1章 遠い未来の音色
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テルースの彼方から(上)

 ボクたちのこれまでの経緯をナターシャさんとミハエルさんに伝え終えた時、窓の外はすっかり陽が落ちて暗くなっていた。リビング内はシャンデリアの照明で明るく照らされている。シャンデリアの光源は、蝋燭の火を用いて灯すものかと思っていたけれど、それはボクの予想と異なる仕組みだった。


 シャンデリアに取り付けられた複数のガラスの容器の中は、その一つひとつにフワフワと揺れる発光し続けている小さな玉が浮いており、それが室内を明るく照らしている。これはアスリンから聞いていた、オーブを使った錬金術の魔法技術だ。明かりを灯す際に、ミハエルさんは小指の爪くらいの小さなガラス玉を潰してガラスの容器の中に粉のようなものを入れていた。照明の明るさは裸電球以上、蛍光灯以下といったところだろうか。


 アルザルに出回っているオーブの構造は、小型の薄いガラス膜に各属性の効力を持つ粉末状の魔術媒体が錬金術師たちによって詰め込まれている。使い方はいたって簡単で、オーブのガラス膜を潰して中の媒体を使用目的の対象に触れさせるだけで誰でもそれを使えるのだという。


 百年ほど前に開発されたこの革命的な技術は、当初は量産ができず高価なものだったそうだ。しかし、現在は職人が増えて生産技術も進み、大量に生産されることで安価になったそうだ。竈に火をつけたり、タンク代わりに飲料水を貯蔵したり、また、洗剤や香水、化粧品など日用品としても多種にわたって生産されている。もはや暮らしに便利なオーブは生活の必需品になっており、その影響からオーブを製造する過程で仕事をしているガラス職人や錬金術師に富裕層が多いという。この錬金術という優秀な魔法技術のおかげで、ボクが思っている以上にアルザルの生活水準は高いように感じる。もしかしたらこの技術は、地球で言うところの産業革命に匹敵する内容なのかもしれない。


「そうなると、みんなは古い伝承に登場する星、テルースの彼方から来たってことになるのか……。驚きが度を超えていてまだ信じがたいけど、この話はジュダ教の司祭や関係者にはしない方が無難だ。ジュダ教は、万能神ヤハウェを崇めていて、その使途である天使以外の宇宙の民の存在を完全に否定している。ジュダ教は憲兵とも交流が深いから因縁をつけられて拘束されてしまう可能性もあるから気をつけてくれよ」


 ボクたちの話を聞き終えたミハエルさんがそう忠告してくれた。どうやらアスリンが言っていた通り、アルザルの宗教で最大勢力を誇るジュダ教は、地球をはじめとする外界の存在を本気で否定しているようだ。アスリンはあまりジュダ教に詳しく無いと言っていたけれど、ミハエルさんはある程度詳しそうに感じる。ジュダ教の神様の名前は初めて聞いたけれど、ヤハウェ神はオカルト雑誌にもよく登場するユダヤ教の神だったはずだ。


「はい、アスリンにもそう言われました。気をつけます」


 ハルがミハエルさんに答える。


「でも本当に驚きで一杯よ。使い方がわからないけれど、これがあなたたちが地球と呼ぶテルースで作られたものなの?」


 ナターシャさんは証拠として用意したボクの腕時計やスマートフォン、それに折り畳み傘に彩葉のオーディオプレイヤーを手にとって驚きを隠せない。折り畳み傘のナイロンの素材や電子機器の液晶パネルなど一つひとつにとても興味を示している。


「これらはオーブのように錬金術の力ではなく、電気というエネルギーを元に動く生活の補助的な役割をするものなんです。今は生憎、スマートフォンや彩葉のオーディオプレイヤーは溜めてあった電気が無くなってしまったので動きませんが……」


 さすがにアルザルに来て六日経ち、どの機器も充電が切れてしまっているので説明しても実践ができない。機器類が動く仕組みをハルが簡潔にナターシャさんとミハエルさんに説明する。


「私もね、出会ったときにこの装置でイロハたちの世界の音楽を聞かせてもらったり、()()()の絵を見たのだけど、本当に凄い技術ばかりなの。ちょっと動かなくなってしまったのは残念だけど……」


 スマホの写真に感動したりオーディオプレイヤーで音楽を聞いたことがあるアスリンが捕捉してくれる。


「電気という仕組みが良くわからないけど、雷撃の呪法や照明用の雷属性のオーブみたいな物なのか?」


 ミハエルさんがハルを見て質問をする。


「ミハエルさんの言うそれが近い表現かもしれません。金属に触るとバチっと痺れる静電気や雷も電気の一種です」


 ハルがミハエルさんの質問に答えるとミハエルさんは頷いている。どうやらミハエルさんに電気の存在を何とか伝えることができたようだ。


「アダプターがあれば俺の呪法で充電できるんだけどなぁ……」


「まじで? でも生憎ボクはアダプターなんて持ってきてないな……」


「私、オーディオプレイヤーの充電器だったら持ってるわよ?」


 そう言うと彩葉はリュックのポケットを開けて中をガサゴソと探し始める。


「あった! オーディオプレイヤー用の端子だけど、ユッキーのスマホもこれで充電できるんじゃない?

よく部活の稽古の間に部室のコンセントで充電させて貰ってたのよ」


「こんなの持ち歩いていたのはそういうことか……。でもおかげで充電には困らなくなったね! 後で頼んだぜ、ハル」


「あぁ、任せとけって。もっと早く言えば良かったな……」


 ボクはスマホが復活できるかと思うと胸が踊った。もうカメラとしての機能しか役に立ちそうにないけれど、折角だから写真をたくさん撮っておこうと思う。特にアスリンの写真は待ち受け画面にしたい。


「ユッキー、何か疾しいこと考えてない?」


 彩葉の軽蔑するような視線を感じてドキッとさせられる。でもボクは彼女のこの視線が割と嫌いじゃない。


「い、いえ……。何もやましいことは考えてませんって、彩葉さん……」


「何だかわからないけれど、また動くようになるの?」


 ボクたちのやり取りを不思議そうに見ていたアスリンが訊ねて来る。


「うん、それがあると充電って言って、機械に電気を溜めることができるの。そうすれば、その溜めた電気でまた機械は動くようになるのよ」


 興味しんしんなアスリンに彩葉が答える。


「でも、こんなもの見せられたら想像もつかない高度な文明を持つと言われるテルースの存在を信じざるを得ないな、母さん」


「まったくね……」


 ミハエルさんとナターシャさんはボクたちが話した経緯を完全に信じてくれているようだ。


「イロハ、また動くようになったら聞かせてね。あ、そうだ。ナターシャにミハエル! 聞かせると言えば、三人は音楽の腕がとっっってもすごいの! アリゼオの王立合奏団よりハッキリ言って凄いわ!」


 アスリンに出会った日のライブコンサートを思い出したのか、彼女は興奮して『とても』をかなり強調してナターシャさんとミハエルさんに伝える。


「まぁ、それは楽しみね。ミハエル、食事を済ませたら、旅の疲れがあるかもしれないけれど、三人に僅かな時間だけでも演奏を頼んでみてもいいかしら?」


「そうだな、母さん。近頃店に来る吟遊詩人は、幸の薄そうな奴ばかりで宣伝効果にすらならなかったし……。アスリンがそこまで褒めるんだ。みんなには俺からもお願いしたいけど、どうだろう?」


 ナターシャさんとミハエルさんもボクたちの演奏に興味を示している。アリゼオの王立合奏団の演奏を聞いたことがないので、どんなものかわからないけれどアスリンの一言は何気にプレッシャーだ。ボクたちのバンドは実績なんてほぼゼロだし趣味で活動していた同好会レベルだ。


 ミハエルさんが言う()と言っていたのは、西風亭の一階で営んでいる飲食店のことだ。西風亭は三階建ての構造で、旅人が宿泊することができる客室は二階部分にある。宿の三階はアスリンを含めたモロトフ親子と使用人たちの住居になっている。西風亭の収益の大部分は旅人からの宿泊費より飲食店で得られているようで、普段はミハエルさんがカウンターに立って夜遅くまで酔っ払いの相手をしているという。今はまだ夕食のピークタイムでは無いので、住み込みで働いている使用人が切り盛りをしている状況だ。


「ハル、彩葉。ボクたちのライブデビューは予想より早くなりそうだね」


「あぁ、ありがたいな」


 ハルもまたボクと同じ気持ちだと思う。ここが地球では無いとしても公式にライブができるのが嬉しそうだ。


「私も歌える機会があるなら挑戦したいと思うのだけれど……。私が表に出ることでお店の宣伝効果がマイナスになって迷惑にならないかな?」


 そう言いながら彩葉は自信無さそうに俯いている。自分がドラゴニュートであることを気にして、ライブを行うことに躊躇しているようだ。ドラゴニュートになった経緯はボクにだって責任があるから、普段から元気で明るい彼女の辛そうな表情を見るのは本当に心苦しい。彼女の言い分はもっともだけど、それを承知でナターシャさんやミハエルさんはボクたちにライブの話を持ちかけているのだと思う。その証拠にナターシャさんたちは笑顔でボクたちの様子を見つめている。


「安心しろよ、彩葉。いつだって俺は彩葉のそばにいるからさ」


「ありがとう、ハル……」


 彩葉はボクの隣に座るハルに寄り添って目を瞑りながらそう言った。いくら二人がお互いの想いを告げて恋人関係になったからと言って、ボクの目の前でイチャイチャされるのは正直腹立たしい。この二人はいつも周りが見えなくなってしまうのが大きな欠点だ。


「おいおい、二人ともボクの存在も忘れないでくれよな。ボクだっていつでも彩葉の味方なんだぜ? あと、ハルの味方もついでにするからな」


 ボクは不貞腐れ気味に窓の外を見つめながら呟いた。もう窓の外はすっかり真っ暗で外の様子はわからない。


「私だっているんだからね」


 向かいに座るアスリンもハルと彩葉を見ながら微笑んで言った。


(初対面のナターシャさんやミハエルさんだっているのに、この二人は本当に我を忘れて恥ずかしくないのか、まったく!)


「ユッキーもアスリンもありがとね! くよくよしてちゃだめだよね、私」


 ボクやアスリンの視線だけでなく、ナターシャさんやミハエルさんの視線にも気づいたのか、彩葉は顔を赤く染めて慌ててハルから離れながらそう言った。


「幸村、いつも本当にありがとな。俺からも礼を言わせてくれ」


 ハルも後頭部に手を当てながら照れ臭そうにボクにそう言う。


「はいはい、今更何言ってんの? まぁ、どうせボクは駄菓子のオマケだけど応援くらいさせてもらいますよ」


 ボクは少し自嘲気味にそう言いながらハルを見つめてニッと笑う。嫌味な笑みに気付いたのか、少し不機嫌そうになるハルの表情がまた面白い。


「あー、若いっていいわよね、ナターシャ」


「そうね、アスリン」


 ナターシャさんとアスリンは顔を見合わせて笑っている。


「ナターシャとバルザの若い頃を思い出しちゃうなぁ。ナターシャたちもあんなだったわよ?」


「ちょっとアスリン! 大人をからかうもんじゃないわよ」


 目がやや本気で怒るナターシャさんがアスリンに顔を寄せて言う。仰け反るようにしてナターシャさんから目を逸らし、両手を上げて誤魔化し笑いをするアスリンを見つめる彩葉もクスクスと笑い始める。長いポニーテールが床についてしまわないようそれを抑えるアスリンの仕草がまた可愛らしい。


(この子、本当に天使だな……)


「いやぁ、ユッキーは男だね。そんな立派な男には俺があとでイイ店を紹介してやるぜ」


 窓側の椅子に座るミハエルさんが、部屋にいる皆に聞こえる声でアスリンに見惚れていたボクに言う。


「マジっすか?! ミハエル兄さん!」


 大人のイイ店って言えばあんなことやこんなことが待ってる店じゃないだろうか?ちょっと緊張するけど、これも社会勉強だ。ボクは期待の眼差しでミハエルさんを見つめる。


「いやぁ、そんなに喜んでもらえると連れて行きがいがあるなぁ。って疾しい店じゃないからな、言っておくけど」


(違うのかよっ! むしろどんな店だよっ!)


 ミハエルさんは、女性陣の冷やかな視線を感じ取ったのか弁解している。あの言い方じゃ誰だってそういう店だと思うだろう。それにしても、アスリンが信頼しているモロトフ一家は本当にいい人たちだ。ボクたちはこの出会いにも感謝をしなくてはいけない。


「なぁ、彩葉。最初は大変だと思うけどさ。前にも言った竜の歌姫なんていうポテンシャルが評価されれば、悪評を逆手にとって宣伝効果に繋がったりしないかな?」


「うん、たしかにそうね。私たちの音楽が評価されることがまず前提だけど、やりがいあるわね!」


 本当に彩葉は強い。こんな状況でも笑顔で答えられるなんてボクには真似できそうにない。


「風評被害や悲劇を逆手に取るビジネスは実際いくらだってあるし、ボクもきっとうまく行くと思うよ。それに、荒野でアスリンだって喜んでくれたしボクたちの音楽はきっと通用するさ」


 ボクと彩葉はハルの意見に賛成する。ビジネスとしてライブを成功させるいい機会だ。最悪、ボクのバイオリンでアルザルの人たちを地球の音楽の虜にしてやる。


 その時、リビングのドアがトントンと軽くノックされた。


「失礼します、旦那様。食事の準備が整いましたが、こちらへお運びすればよろしいですか?」


「そうしてくれ、アーリャ。粗相のないように頼むぞ。みんな、まずは西風亭の料理を堪能してくれ。演奏はその後だ」


 ミハエルさんはドアの向こうに立つ女性の声に返事をしながらボクたちに食事を勧める。缶詰とジャガイモ以外の食事は一週間ぶりなので本気で嬉しい。


 入口のドアが開くと、アーリャと呼ばれた女性が一礼してリビングへと足を踏み入れる。ミハエルさんはそっと席を立ちアーリャさんの脇に移動して彼女に耳打ちをする。ボクたちより少し年下くらいだろうか。彩葉と同じくらいの身長で髪は後ろで一つに束ねている。顔つきはまだまだ幼いところもあるが、大人になったらきっと奇麗な人になるだろうと想像できる風貌だ。使い古した賄いのエプロンから熟練の料理人の雰囲気が感じられる。


 アーリャさんは彩葉を見ると少し強張った表情でミハエルさんに頷いた。ミハエルさんの耳打ちはアーリャさんに彩葉のことを伝えたのだと思う。キャスター付きのトレイからアーリャさんによって料理が取り出され、丁寧にテーブルに配膳される。彫の深い木皿には、よく煮込まれた肉が入ったシチューのようなスープが装われており、また、彫の浅い木皿の方には、ベーコンの燻製と卵焼き、それに野菜のソテーが盛り付けられている。そしてテーブルの中央にバスケットに入れられたパンが用意された。


「わぁー。美味しそうー!」


 彩葉は両手を合わせて目を輝かせて喜んでいる。アーリャさんは最初、彩葉の前を通る度にビクビクしながら食事をテーブルに配膳していたが、今は食事を見て感動しているドラゴニュートを横目で見ながら笑みを浮かべている。アーリャさんも彩葉が普通の女の子であると理解してくれたようだ。


「本当に久々の食事だよな……」


「不味くはなかったけれど、缶詰地獄だったもんな。それにしてもすげー旨そうだな、ハル!」


 見た目も香りも凄く美味しそうで、口の中に溜まった唾液が溢れそうになったので生唾をゴクンと飲み込む。


「やだ、ユッキー。子供みたい」


「し、仕方ないだろ……。旨そうなんだしさ」


 彩葉に茶化されてボクは咄嗟に言い返す。


「今日は私の炊事ですのでお口に合うかわかりませんけど……。メニューは西風亭特製シチューとアルスター産のイノシシのベーコンの燻製、地鶏の産みたて卵の玉子焼き。それに夏野菜のソテーです。私はアーリャ、よろしくお願いします。フロルも入って挨拶なさい」


 食事を配膳し終えたアーリャさんは料理の説明をしながら自己紹介をする。また、アーリャさんに呼ばれてドアの奥から十歳に満たないくらいの、いかにもやんちゃそうな少年が入って来る。ミハエルさんが挨拶するように促すと、フロルと呼ばれた少年は自己紹介を始める。


「オレは西風亭でお世話になっているフロルといいます。どうかよろしくお願いします。スッゲー! 本当にお姉ちゃんドラゴニュートなんだ?」


 フロル少年はミハエルさんたちと違ってどちらかと言うとアジア系の顔付きだ。フロル少年は、近くでドラゴニュートを見ることができたことに感動しているように見える。


「こら、フロル! イロハさんに失礼だろう! ごめんな、イロハさん。後でキツく叱っておくので」


「あ、ううん。気にしないでください。むしろ普通に話しかけてくれたことが凄く嬉しかったです。よろしくね、フロル君。アーリャさんもよろしくお願いします。私の名前は彩葉よ」


 たしかにフロルは好奇心からなのか、彩葉のことを怖がらずに話しかけていた。


「俺はハル。で、こいつはユッキーだ。よろしくな、アーリャさんとフロル君」


 ハルがボクのこともまとめて自己紹介をする。


「あぁ、ボクの本当の名前はもうハルしか呼んでくれそうにないな……。二人ともよろしくね」


 これまで彩葉以外がボクのことを『ユッキー』と呼ぶのは癪に障っていたけれど、何だかもう別に悪い気がしなくなっていた。


「丁寧にありがとうございます。私やフロルに対しては敬称は省くようお願いします。そのまま名前だけでお呼びください」


「わかったよ、アーリャ。その代わり俺たちのことも敬称は無しで頼むぜ」


「そういう訳には参りません。アスリンさんのお客様は旦那様たちのお客様と同然。呼び捨てになんてできません」


 ボクもあまり上下関係の壁みたいなのは作りたくないのだけれど、アーリャさんはハルの言葉を拒んだ。アルザルでは主従関係は結構大切なものなのかもしれない。ナターシャさんも首を横に振っているので、ボクたちはこれ以上アーリャたちに無理を押しつけないようにした。アルザルではフロルのような小さな子供まで普通に働いているのだと感心させられる。もしかしたら、生きるために働かなければならない状況が現実で、実働が優先されて勉学や教育はあまり盛んではないのかもしれない。


「食事の用意が整いました。ごゆっくりと召し上がりください」


 アーリャとフロルは丁寧にお辞儀をしてリビングから出て仕事場に戻って行った。リビングのドアが開いた時、店の方からガヤガヤと先ほどより賑わっている声が聞こえてくる。西風亭へ食事に来た客もだいぶ増えてきた証拠だ。


「母さん、俺もそろそろ店が混み始めるからカウンターに行くよ。あ、食事が食べ終わったらみんなの演奏聞かせてくれよ。特上のワインは演奏の後に俺からサービスさせてもらうぜ」


 そう言ってミハエルさんもアーリャとフロルに続いて店の方へと向かう。


「さぁ、冷めないうちに頂きましょう。あー! 本当に久しぶりの食事だなぁ。早くワインも飲みたいなぁ」


「そうね。頂きましょう。皆さんもどうぞ」


 アスリンとナターシャさんがそう言うと、ボクたちは顔を見合わせて揃って食前の挨拶をする。


「いただきます!」


 久々の食事と言うこともあったのかもしれないけれど、どの料理も味付けは最高に美味しかった。アーリャの料理の腕は完璧だ。


 こうしてボクたちの六日間に及ぶサバイバル生活は一旦幕を閉じた。


 これからは生きていくために必要な生活費を稼いだり、この辺りの共通語であるシュメル語の文字や世界の仕組みを学んでいかなければならないと思う。それと同時にヴリトラが言っていたヴァルハラについての情報も探す必要があるし本当にやることはたくさんだ。

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