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黒鋼の竜と裁きの天使 裁きを受けるのは人類か、それとも……  作者: やねいあんじ
東フェルダート戦線編 第5章 悲しみが希望に変わる時
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黒鋼の剣士と裁きの雷(上)

 私が新市街東区の銀騎士通りへ駆けつけた時、この大通りを防衛していたレンスター軍は、ヴァイマル帝国兵の銃撃とエスタリア騎士の突撃を受けて、事実上全滅させられていた。武官たちの住居が立ち並ぶ閑静な銀騎士通りは、敵味方を問わず、地獄絵図のように大勢の騎士や兵士たちの屍が転がっていた。


 ドラムダーグ線で第七軍を打ち破ったレンスター軍の主力部隊は、レンスターに戻るまで、まだしばらく時間が掛かるはず。結果的に、敵の進軍が早まったせいで、戦力を分散したことが裏目となってしまっている。


 王都に残留したレンスター側の防衛戦力は、バッセル卿が率いる約三百名の正規兵と、ハールマン少尉が指揮するⅣ号戦車が僅か一輌だけ。市街地の民家などに、重機関銃を配備しているとはいえ、兵員数の差で圧倒されているため、徐々に市街地の戦線が後退している状況だった。


 銀騎士通りの戦闘は、私が到着してからも続いている。むしろ、レンスター軍の生き残りは、私だけになってしまった。あれから何人の敵兵を殺めたか覚えていない。はっきりとわかっていることは、この銀騎士通りの先にある内郭の回廊を突破されたら、旧市街や王城へ敵の侵入を許してしまうということ。


 簡単に言えば、ここが最前線であり、最終防衛ラインでもある。旧市街には、公王陛下をはじめ、軍属と聖職者の家族やカルテノス湾に避難できなかった弱者たちが大勢残っている。残虐非道なナチス記章を掲げる帝国軍は、非戦闘員に対して容赦などしない。


 ただ、いくら私がここで踏み止まっていても、旧市街へ通じる回廊は他にもある。別の内郭の回廊が突破されてしまえば、結果は同じだ。しかし、今は援軍の到着を信じて、自分にできることをするまで。


 目の前のエスタリア騎士と帝国兵たちをどうにか撃退しないと……。





 ゴボッ……。


 裂けた喉から鮮血を吹き出し、また一人のエスタリア騎士が、恨めしそうに私を睨みながら地面に崩れ落ちた。


「おのれ、よくもバーランド卿を! このレンスターの化け物め!」


 私を取り囲むエスタリアの騎士たちのうち、分厚い甲冑を(まと)った鎧騎士が、私に罵声を浴びせながら突っ込んできた。


 鎧騎士の右手に握られた長剣の尖端がキラリと光る。


 遅い!


 私は、勢いよく迫る鎧騎士の足元に滑り込み、突いてきた長剣をかわした。そして、聖剣ティルフィングを右手に持ち替えて、鎧騎士の足元から左手を真上に突き上げ、竜の力を使って左手の先を鋭利な黒鋼の刃に変えた。


 発酵したパン生地に指先を突っ込むような、何ともいえない感覚が私の左手の手先に伝わってくる。


 私の黒鋼の刃は、甲冑の隙間から鎧騎士の下顎を貫いた。たぶん、黒鋼の刃の先端は、鎧騎士の脳に到達したと思う。鎧騎士の血液が、私の左手を伝ってドバドバと地面に流れ落ちてくる。生温かくて気持ち悪く、血液独特の鉄の臭が私の嗅覚を刺激する。


 私が黒鋼の刃を抜くと、鎧騎士は、その場で長剣を落とし、無言のまま地面に両膝をついてうつ伏せに倒れた。


 私は、残りの五人の騎士たちから視線を逸らさずに、聖剣の剣身に付着した血液を振り払い、竜の力を解いて両手で聖剣を構えた。そして、正面に立つ眼光の鋭い若手騎士に、聖剣の剣先を向けた。若手騎士は、私と目が合うと、短槍を私に向けたまま後退りした。


「さぁ、次は誰? どこからでもどうぞ」


 私は、怯む騎士たちを挑発し、下段の構えに変えて、いつでも返し技ができるように身を落とした。もう以前のような恐怖の代りに生じる竜族特有の高揚感は湧いてこない。自分でも驚くほど冷静で、どのようにして敵を倒せば効率が良いか、敵の目を見ながらイメージするゆとりさえあった。


「小娘が、調子に乗るなよ?! うぉぉぉっ!」


 私の左から、大剣を構えた騎士が、大剣を真上に構えて振り下ろしてきた。仮にも相手は屈強な騎士だ。私の筋力は、人間だった頃と変わっていない。力比べになれば確実に負ける。私は、大剣使いの一撃を受け流さず、それを避けながら、短槍を構えた若手騎士の足元に移動した。


「なっ?!」


 突然、足元に私が接近したことに驚いたのか、若手騎士は、目を見開いて右手に持った短槍を突き刺してきた。


 やっぱりね。


 若手騎士の行動は、予想していた通りだった。私は、その短槍の突きを聖剣で受け流し、その返しで若手騎士の右手首を目掛けて聖剣を振り下ろした。見事に払い小手が決まった。ドスッと鈍い音を立てて、短槍を持ったままの若手騎士の右腕が地面に落下した。


「ぐわぁぁっ……」


 若手騎士は、両膝を地面につけて、失った右腕を左腕で抑えながら大声で(わめ)いた。私が戦意を失った若手騎士を見つめていると、首筋にゾクッと冷たいものが走った。


 恐らく、片手剣を持った二名の鎧騎士のうちのどちらかが、私の背後から攻撃を仕掛けてきたのだと思う。目で見たわけじゃないけど、そんな気がした。


 私は、その場で斜め後方に大きくジャンプをして身を捻った。


 宙返りをした際に地面を見つめると、私の背面に迫っていた鎧騎士が、片手剣を振り上げた状態で、彼の真上で身を捻る私を見上げて驚いていた。


 そんな彼と目が合うと、つい笑みが(こぼ)れてしまう。


 私は、鎧騎士の背後に着地すると、鎧騎士が振り返るよりも早く、左上斜め四十五度から聖剣を振り下ろした。私の一振りは、鎧騎士の左大腿部を切断し、右足の脹脛(ふくらはぎ)の腱を(えぐ)り取った。


「ぐわぁっ! あぁぁぁぁ……」


 足を失った鎧騎士は、悲鳴を上げて地面を転げ回った。


 敵の行動を予測して、それを仕留める。私は、この感覚に快感を覚えていた。


「貴様……。やはり、化け物か!」


 これまで静観していた、大斧を構えたリーダー格の斧騎士が、吐き捨てるように私をバケモノ呼ばわりした。


「そうよ、私はバケモノ……。あなたたちが勝てる相手じゃないの!」


 私は、開き直って騎士たちを更に挑発してやった。


 でも、それは事実。私は、この人たちが束になって襲ってきても勝てる自信がある。彼らが退いてくれるのであれば、無駄な殺生を避けられる。そして、死天使アズラエルをここに連れてきてくれれば……。


「馬鹿言ってんじゃねぇぞっ!」


 もう一人の片手剣を持った鎧騎士が、私に罵声を浴びせながら突っ込んできた。


 しかし、鎧騎士は、地面に倒れたレンスター兵の死体に躓いて転倒してしまった。一瞬、私以上のドジな彼に同情したくなったけれど、この機を見逃すつもりはなかった。


 私は、うつ伏せに転んだ鎧騎士の背に飛び乗り、首筋に聖剣を突き立てた。鈍い音と共に骨が砕ける感触が伝わってくる。


「うぉぉぉぉ!」


 大剣使いの騎士が、怒りに満ちた表情で叫びながら、鎧騎士に跨る私を目掛けて真一文字に大剣を振るってきた。


 さすがにこの体勢から大剣の一撃を避けられない。私は、咄嗟に竜の力を使って全身を硬化させた。


 ガキンッ……。


 鈍い金属音が辺りに響いた。


 大剣を硬化で受け止めた私は、衝撃で吹き飛ばされ、地面に転がり落ちた。少しヒリヒリするけれど、これくらい大したことない。剣道の稽古で、男子の力強い小手を打たれるより何倍もマシだ。私は、右手に聖剣を握ったまま、すぐに身を起こしてから立ち上がった。


「なっ……」


 大剣使いは、信じられないといった表情で首を横に振り、私を見つめたまま後退りした。彼の表情は、煮えたぎるような怒りの表情から一変し、すっかり怯えきっていた。


 もう、満足に動けるエスタリア騎士は、斧騎士と大剣使いの二名だけだ。私が足を切断した鎧騎士は、失血性のショックからか、白目を剥いて痙攣している。また、右手を失った若手騎士も、地面で膝をついたまま動けずにいた。


「もう一度言うけど、あなたたちに私は倒せない。私は、死天使アズラエルに用があるの。奴の居場所を教えなさい!」


 私は、斧騎士と大剣使いの騎士を交互に見つめてアズラエルの居場所を問い質した。


「マールセン卿、こいつは無理だ! デニス卿、立てるか?! この場は退くぞ!」


 斧騎士が大剣使いの騎士と、膝をついて右手首を押さえる若手騎士に撤退を促した。


「ドリアード卿……、自分は、もう満足に走れそうにありません……。自分に構わず、先に撤退してください……」


 デニスと呼ばれた若手騎士は、鋭い眼差しで私を見つめながら、二人の騎士たちの撤退を促した。


「すまぬ、デニス卿。必ず、出直して貴公の仇を討たせて貰うぞ!」


 斧騎士と大剣使いの騎士がデニス卿に頭を下げ、帝国兵たちが銃を構える後方へ走り去ってゆく。


“Du wertloser Bastard! Ist mir egal, Feuer!”

(役立たずめ! 構わん、撃て!)


 そうドイツ語で叫んだのは、後方で銃器をこちらに向けて構えた帝国兵の指揮官だった。言葉の意味は、言語がわからなくてもドラゴニュートの私の頭の中に伝わってくる。


 ガン、ガン、ガン……。


 ガガガガガガガ……。


 指揮官の号令で、小銃と小型の機関銃が一斉に火を噴いた。数えきれないほどの銃弾が、私を目掛けて飛んでくる。


 もちろん、硬化を継続させている私に銃弾なんて通用しない。しかし、私と帝国兵たちの間にいた、逃走する二人のエスタリア騎士を巻き込んでしまった。味方であるはずの帝国兵の銃弾を浴びた大剣使いの騎士と斧騎士は、短い悲鳴を上げ、身を()じらせてその場に倒れた。


 これがナチのやり方……。本当に信じられない……。


「な……、なぜだ……」


 同僚が味方に殺され、呆然とするデニス卿。


 このままでは、未だ立ち上がれずにいる彼にも銃弾が当たってしまう。敵として対峙したデニス卿に罪はない。彼は、戦えと命じられただけ。そんな彼が、卑劣なナチによって、失意のまま殺められてしまうことが許せなかった。


 私は、聖剣ティルフィングを鞘に納め、デニス卿の元へ駆け寄って彼の盾になった。


“Es funktioniert nicht... Bereiten Sie die Granate!”

(まるで効いてない……。手榴弾用意!)


 カラカラン……。


 指揮官がそう言うや否や、私の足元に金属の塊が投げ込まれてきた。


 柄付きの手榴弾だ!


 手榴弾が炸裂する際に生じる炎の熱は、火と雷に耐性がない私の黒鋼の鱗で防ぐことができない。先日、クロンズカークの夜襲戦で痛い思いをしたばかりだ。


 私は、すぐに手榴弾を思い切り帝国兵たちがいる方向へ蹴り飛ばした。私が蹴り飛ばした手榴弾は、六名の帝国兵たちがバリケードにしていた瓦礫の裏に転がりこんだ。


“Scheiße egal”

(チクショウ!)


 帝国兵の叫び声が聞こえると同時に、手榴弾が破裂する炸裂音が響いた。


 数秒経っても、帝国兵たちが動く気配がしてこない。


「忌まわしき半竜の化身でありながら、なぜ自分を庇った……?!」


 バリケードの裏の帝国兵の動きを見つめていた私に、デニス卿が声を震わせて尋ねてきた。


「たしかに、私の体は、半竜のバケモノ。だけど、あなたたちが仲間だと思っている帝国兵と違って、人の道から外れたつもりはありません! 私の本心は、誰にも死んで欲しくないし、誰かを殺める度に後悔している。あなたやあなたの仲間に危害を加えておいて、説得力などないと思うけれど……。私が後悔してまで敵を殺める理由は、大切なものを失う後悔をするよりマシだと思っているから……」


 私がデニス卿に伝えたことは、嘘偽りではない。しかし、潜在意識のどこかで、命のやりとりを愉しんでいた自分がいたことも事実。私の言葉と行動に矛盾が生じていることは、自分でもわかっている。あの戦いの中で快楽を得る感覚は、好戦種族である竜族の本質なのだと思う。


 夢の中で邂逅したヴリトラは、ドラゴニュートが完全に竜化することはないと言っていた。言い換えれば、逆にある一定のラインまで、精神的な部分も竜化してしまう可能性があるということ。


 いずれにしても、もう地球で生活していた頃の日常に戻ることはできない。そう感じたら、あの頃の何気ない日常の光景が、突然脳裏に蘇ってきた。


 雑談を交わしながら、ハルとユッキーと私の三人で通った朝の通学路。


 佐藤さんと戦った、中信地区予選の決勝戦。


 さやちゃんとお弁当を食べた昼休み。


 大糸線の電車の車窓から臨む、夕焼けに染まる北アルプス。


 そして、毎晩のようにハルの家で食事を摂り、リビングで団欒していた日常の光景。


 まだ、あの事件から三ヶ月弱だというのに、とても懐かしく感じる……。


「黒鋼のカトリ、なぜ泣いている……?」


 デニス卿に指摘され、私は自分が泣いていたことに気がついた。


「あれ……。おかしいな……。変な意味はないんです、デニス卿。ごめんなさい、気にしないでください……。デニス卿、残念ながら、まだ戦は終わりません。この鞄に応急処置の道具が入っています。そこの路地裏へ一旦避難して、ご自身で傷口を押さえられますか?」


 私は、それほど返り血を浴びていない右手の袖で涙を拭ってから、止血帯と当て布が入れられたショルダーバッグをデニス卿に手渡した。


「黒鋼のカトリ。気持ちは嬉しいが、自分は、レンスターの敵だ……。あなたがそこまでする義理はないだろう?」


「デニス卿の仰る通りかもしれません! ですが、今のあなたには、戦意がありません! つまり、私が戦うべき敵ではないということ。あなたの右手を確実に治せる保証はできませんが……。戦が終わり、豊穣の天使アナーヒターが戻れば、きっと彼女の呪法で処置してくれるはずです」


「大地に恵みを(もたら)す豊穣の天使がレンスターに?! 帝国め……。我々エスタリアを騙していたというのか……。なんということだ……」


 デニス卿は、目に涙を浮かべ怒りを(あらわ)わにして呟いた。彼のように、騙されたまま戦っているエスタリア軍の騎士や兵士は大勢いるに違いない。


「お気をたしかに、デニス卿。もしも、レンスターの兵に遭遇したら、決して恥と思わずに投降してください!」


「承知した、黒鋼のカトリ。今は、あなたを信じよう……」


 デニス卿は、私に頷くと、地面に落ちた自分の右手を拾い上げて、裏路地に向かってゆっくりと歩き始めた。


 デニス卿の背を見送っていた私は、ある異音に気がついた。この地響きに混ざった金属が擦れ合う音は、戦車の駆動音で間違いない。しかも、その数は、一輌ではなさそうだ。


 王都を守備するレンスター側の戦車は、新市街東区の大門を防衛するハールマン少尉のⅣ号戦車が一輌のみ。つまり、敵の戦車がレンスター新市街へ侵入し、この銀騎士通りに近づいていることになる。


 聖剣しか持たない私に、戦車を破壊する術はない。しかし、手榴弾があれば、クロンズカークの夜戦の時のように、戦車に近づいて中の戦車兵たちを倒せるはず。


 私は、鞘に納めた聖剣を再び抜刀し、硬化を念じて六名の帝国兵たちが身を潜めていたバリケードの裏へと向かった。まだ、彼らが未使用の手榴弾を所持しているかもしれない。


 バリケードの裏では、六名いた帝国兵のうち、五名が重なるように倒れ絶命していた。炸裂した手榴弾の衝撃で、剥き出しになった兵士たちの臓器から、生臭い血の臭いと肉が焼けるような異臭が漂っている。私は、鼻で呼吸をするのを止め、しばらく口呼吸に頼ることにした。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 一人だけ生き残っていた足を失った帝国兵が、怯えた表情で私に向けて拳銃を構えて発砲してきた。拳銃とはいえ、この至近距離から撃たれれば、黒鋼の鱗も針で刺されるくらいの痛みを伴う。


「あ……、ああ……」


 怯えきった帝国兵は、私を見つめて声を出すのがやっとらしい。攻撃しておきながら勝手に怯えるだなんて、身勝手にも程がある。私は、躊躇わずに帝国兵の元へ近づき、切れ味の鋭い聖剣ティルフィングで彼の首を斬り落とした。上半身だけ起こした帝国兵の体は、首から血を噴き上げながら地面に転がった。


 そうしている間にも、どんどん戦車の音が近づいてくるのがわかった。


 私は、帝国兵たちの亡骸を見まわすと、足元の帝国兵のベルトに、五本の柄付き手榴弾が下げられていた。


 よし、これなら……!


 もしも、戦車が銀騎士通りに現れたら撃破するまで。


 私は、再び聖剣を鞘に納め、左右の手に二本ずつ手榴弾を持ち、曲がり角にある鍛冶屋の(ひさし)の上に飛び乗った。そして、ここで姿勢を低くして戦車が現れるのを待つことにした。


 その戦車たちは、キュルキュルと金属音を響かせ、もうすぐ目の前まで迫ってきていた。


 やがて、戦車の姿が見えてくると、私が予想していた通り二輌いた。そして、その戦車たちは、側面に忌々しいハーケンクロイツを掲げていた。


 絶対に、ナチの戦車たちを旧市街に侵入させてはいけない。


 ハルの呪法があれば、戦車を一撃で破壊できるのだけど……。


 ハルは、今頃シェムハザと合流して、この銀騎士通りを目指して走っている頃だと思う。ハルが到着するまで、私がここで足止めするしかない。


 二輌のⅣ号戦車が、我が物顔で銀騎士通りへ侵入してきた。戦車のエンジン音が変わった。どうやら出力を上げて加速したのだと思う。ただし、彼らは、まだ私の存在に気がついていない。


 私が身を潜めている鍛冶屋の庇の下を、間もなく先頭の戦車が通過する。タイミングを計るために、私は頭の中でカウントダウンを唱えた。


 四……。


 三……。


 二……。


 一……。


 そして、私は通過した先頭のⅣ号戦車の砲塔部へ飛び移った。

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