屋敷へ
焦り。今俺を支配してる感情はそれだ。どうにもならない事は分かっている。やるべき事はまず、ルイへの報告だ。
(聞こえるか?)
(聞こえるよ? 声に元気が無いね、どうしたんだい?)
(こっぴどくやられてね。幸いにも五体は残ってるが、最早打てる手が無い)
(へぇ、ダイスがねぇ。詳しく聞かせてよ、今のダイスが匙を投げる相手ってのに興味があるな)
あの女について説明した。色々聞き返して来た分も懇切丁寧に伝えた。その結果返ってきた答えは。
(それは無理とかそんな次元じゃないよ。真理の探究者たる魔術師の目指してる更にその奥にいるような存在じゃ無いか、神なんかより上だよそれ。でも、良かったじゃないか、敵対的でも無いというか敵として認識すらされてないんだよね?)
(ああ、そうだ)
(そう落ち込まないでいいよ。今まで通りやれば良いよ。ただしその女性は考慮に入れないでね。さて、話は変わるけど、話は纏まったよ。ダイスは人々と物を白亜の町まで運べば良い)
(そうだな、まずは移民を終わらせるのが先だよな。陣は既に準備しているから、置換転移をすればいいな。助かった、どうにも冷静さを欠いていたようだ)
(ダイスの対人の運は良いのか悪いのか判断に迷うけど。その女性は味方に付ければ最高の仲間だよ? だからこそこの縁は良い物としないといけない。これだけは心に留めて置いて欲しい。いいね?)
(できる限り努力しよう)
(王への手はずとかその他はやるから本当に頼むよ、それじゃそのうち島に行くからよろしくね)
それだけ言って切りやがった。そうか、あれでも魔術師だもんな。目指すべき手掛りその物のような存在に会いたいのは当然か。
アレと縁を結び友好的にか……ああ、わかっちゃいるさ。アレに心を許せば飲み込まれる、そうなる事を許容できるか? 否だ、断じて否だ。
「はぁ」
本当に距離感が難しい。縁は結べ、されど近すぎれば飲まれる。こんな思考にいたる時点で相当まずいんだがな。切り替えろ、まずは移民を遂行しろ、俺。
転移符を起動して屋敷へと飛ぶ。
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屋敷へ着くと外から喧騒が聞こえる。戦の音だ。




