賽
「あら? 貴方からこちらに来るのは珍しいわ」
「用件は二つだ。まずこれは知っているかも知れないが、爺さんがここに移住してくる」
「知ってるわ。楽しみにしてるもの。それで?もう一つは?」
「こいつを投げて欲しい」
俺は2つサイコロをヘスに手渡す。
「これは?」
ヘスは首をかしげながら俺に問う。
「神曰く、生ける全ての者が生まれる時にそれを投げるそうだ。運が良い者は二度目がある」
「それって、ギフト・・・人間はスキルと呼ぶのかしら。でも、それは神様が与えてくれるものよ? 人間の貴方がなんでそんな奇跡を持ち歩いてるの?」
「俺は商人だ、神とだって商売くらいする」
「だからあの神様はうちの子達と戯れてるのかしら?」
「さぁ、神の考えなんざ人には理解できん」
「何故私にその奇跡を分け与えようとするの?その奇跡は巨万の富を対価に差し出しても手に入らない物。商人である貴方が対価もなく渡して良い物ではないわ」
「俺はいつ死ぬ?長くて100年は生きない。それに対してここの住人は長命だろう?爺さんはいるだろう、風の精霊もいるだろう。それでも防衛に足らない可能性はある。だからお前も力を持って守れる様になって欲しい。これは自分の守るべき土地を守る為の投資だ」
「この天空にある地がいつかは脅威に晒されると?」
「ここに地上から来た者がいる。当然いつかは同じような者が来る。その時に力が無ければ食い物にされる。これは間違いない、少なくても相手が人間ならそうなる。俺は例外だ。本質は変わらないがな」
「受け取るわ。今すぐ使う必要も無いのでしょう?」
「そうだな、お前が必要と思う奴に与えても良い。だが、考えて欲しい俺がお前にコレを渡す意味を」
「ええ、分かっているわ」
「それなら好きに使ってくれ」
その場を後にしようとヘスに背を向けると。
「もう少しここに寄っていきなさい。皆喜ぶわ」
「そうさせて貰おう」
俺なんか来て喜ぶってのはどうかと思うんだがな。それより、芸術の神の所に行くとしますか。




