できる限り真摯に
気分が重い。それもそうだろう。今から自分を慕い、海を越え遠い場所に来た少女を親元に帰るように説得するのだから。
彼女に非がある訳ではない。俺には十二分過ぎるほどに容姿性格共に優れていると思う。しいて欲を言うならもう少し年を取ってからが好ましい。
どう切り出すか考える間に家に着いてしまった。
「おかえりなさい」出迎えるのは当然彼女。
どうしていいかわからない。
「ただいま。少し話があるんだけど良いかい?」
「はい」なにか鬼気迫る覚悟のようなものを秘めたその瞳は真っ直ぐに俺を見る。
この瞳から目をそらしたくなるがそれを堪え言葉を紡ぐ。
「君の父からの手紙だ。多分内容は一度里帰りする事だと思う。リュートが迎えにくるだろう」
「私は邪魔なのでしょうか?」
「そう思えば最初から追い返しているよ」
「では何故?」
「君の事は好きだよ。まぁ伴侶という感覚より娘や妹なんかの家族の情なんだと思う。それにさ」
「それに?」
「君の好意は愛するとはまた別な気がするんだ。仮にそうだとしてもまだ固まってないフワフワした物だ」
「そんな事は…」
「別に君の好意を受け入れないとは言っていないよ?ただね、俺の伴侶になるという事は相応の覚悟が必要になる。それにさ、君はまだ好きな人がいるだろう?その気持ちに気づいているかは別にしてさ。時間はあるんだ、もう一度見つめなおしてくれ」
自分で言っていて恥ずかしい。柄でなさすぎる、精神がゴリゴリ削られていく。だが、この少女に真摯に向き合うにはこのくらいしないといけない。
「もし、仮に君がちゃんと見つめなおして、それでも尚俺と共にありたいと願うのであれば、俺は君を伴侶として全力で愛する事を誓おう。だが、その場合は両親にも村のみんなにも」
少し間を空けて俺は言う。
「そしてリュートにも二度と合えなくなる」
「はい、一度村に戻って一度考えて見ます」
彼女は何かに気付いたのであろう。これで多分だがリュートへの気持ちに気付く。そして俺はめでたく道化である。
恋人か女房か欲しいもんだ。まあ無理難題なんですがね。




