王子
転移符を使い近くまで飛び、この前の門兵に話しをする。
「どうしたんです? 急いで出て行ったと思えばまた急ですね」
「今回は急を要する。貴国の姫巫女の事で謁見をお願いしたい」
周囲の兵の表情がそして空気が一気に変わる。当然だろう。それでもまくし立てたりしないだけここの兵はきっちりしている。
「分かりました。元々貴方の来訪時は王子までは問題なく通して良いとの事。すぐに行きましょう」
「よろしく頼む」
「この場にいる者は一時この事について箝口令を敷く。理由は分かるな? 私の権限では足らぬだろうが。後で罰を受けよう」
各自から小気味良い返事が聞こえる。人の・・・いや、できる所もあるか。
王子の部屋の前へと向い。兵が事情を説明するため先に入る。出てくるのも速く、すぐさま部屋へ通された。案内した門兵は部屋の外で待機するようだ。
「色々思う所は多々ある。しかし、そんな事は最早どうでも良い。我妹の情報を入手したのであろう。礼もしよう、だからすぐに教えてくれ」
いつもなら色々と隠しながら話す。これは俺自身の保身の為である。しかし、今回はそれはしない。何故か?最早遅いからである。保身の為に被害者の口を塞ぐ程外道には流石になれない。
なら隠す必要もない。簡潔にだ。
「あのお粗末な砦と城の線持ちを全て殺してきた。攫われた者全てを守りながらここまで来るのは不可能だ。だから救出隊を派遣してくれ」
「それを信じろと言うのか? 確かに貴様は強かろう。だがな、あの領域内の結界は余所者に強力な弱体作用を強いるそれだ。強者であろうとあそこでは一割も力が出ぬ。」
「その情報は聞いてないが、何故伏せた?」
「こちらにも言えぬ事はある。理解してくれとしか言えん」
一気に胡散臭くなってきたな。結界情報その物がまずいと考えるのが普通か。ここで漏らしては意味がな。
「賽の神。恩寵、スキル好きな呼び方で構わない。俺はその中の一つに呪いや毒への耐性を所有している。当然その弱体化もその範疇だ」
「魅了への耐性も含まれる訳だな?」
「当然だ」
王子は少し考え込み納得したように頷き、こう言った。
「小僧を討ったのは貴様だな?それなら得心が行く。線持ちは決して弱くない。小僧の軍ですら攻めあぐねたのだ。それをこうも短時間で滅ぼしたと言う。最早貴様が魔王の様ではないか?」
「俺は商人だ。少し無理が出てきたな。まぁ何でも屋だ。そんな無駄に面倒な肩書きはいらん」
「こちらも完全に貴様を信じる訳には行かない。ただし、確認はする。先ほどの兵を連れて先に妹の元へ向かえ。当然報酬を出す。真実だったのなら正直どのような報酬を出せば良いか見当もつかんが、必ず報いよう」
「了解した」
王子は門兵を呼び出すと指示を出し。すぐに王の元へ向かった。
今まで人間社会での積み上げてきた事は今回の事で無に帰すだろう。だが、それは仕方ない。自分の愚かさが招いた失態だ。策と行動方針は固まりつつあるのだ。
あとは実行に移す覚悟だけだ。




