女神
面倒が増えた。いや、増やしたのが正解だな。力を多少付けて驕ったか? いいや、そんな事はしない。じゃあ何故だ? 寝床に入り自問自答を続ける。
確かに渡りを付ける事自体は簡単な話だ。だが、簡単であれリスクはリスクだ。らしくない。この件が終わったら本当に引き篭もってしまうのが良いのかもしれない。そうだ、それが良い。
(それでは困るのです)
耳さわりの良い穏やかな声が・・・いや、念話に近い何かが聞こえる。しかし、遠距離の念話なのであろう。相手の座標がわからない。
(私は目の前にいますよ)
目の前に美しい女性が現れた。即座に鑑定を試みるが、結果は全て見えない。恐らく、格が違いすぎるのであろう。
目の前の女性は美しいが、その姿は声と同じで穏やかで安心感のような、日向のような暖かさを感じる。聖母なんてもんがいればきっとこう言うのを指すのだろうな。だが俺は自身に対してあえて警鐘を鳴らす。いつもよりも激しくだ。
状況はあからさまに格上の登場。なのに警戒心をまるで削ぐかのような空気、全く真逆だ。流されそうになる自分を理性が何とか支える。隣の部屋にはリゼもいる、巻き添えになるような術式や武器は使えない。
こうなると俺に切れる手札は一枚。結局はいつものだ。即座に起動しようとするが。
行使できない? それ以前に動けない・・・いや、この感覚は。
(貴方は本当に悲しい人ですね)
神か。時その物が動いていないのであろう。俺の意識のみを例外として。
(さて?何が悲しいのでしょうか。女神様)
(疑う事からしか始める事の出来ないそのあり方がです)
(こいつは性分だ。でなければ俺はとっくに死んでるさ、俺は必須だと思うがね)
女神は少し寂しそうな顔をしている。
(愛と豊穣を司る柱としては複雑なのですよ貴方のあり方は。本題に入りましょう。少し前にあった吸血鬼の王子、彼の妹を助けて欲しいのです)
(例の依頼か。仕方ない、でその妹は何者だ?)
(貴方の言葉で言うなら巫女でしょうか? 私から神託を受け取れる存在です)
(現世への介入手段か、そりゃ大切だわな。何処にいる?)
話を聞けば結局は人間様の仕業だ。見目麗しい人型ならなんでも良いらしい。魔族域の反対側の人間の王国だそうだが。色々ときな臭い、先に調べるのが先決だろう。
言いたいことを言い終えた女神は消え、時が動く。さてどこから手を付けたものか。




