綱渡り
戦闘は恐ろしいほどあっけなかった。かの地に攻め行っていたはずの侵略軍を挟撃する算段だったはずだが、既に殲滅されたそうな。そして昨日の大魔術を行使したのがこの少年だか少女だか良く分からない幼子だという。
名前から同郷の人間である可能性は高い。ルイ、顔も日本人のそれだ。ダイスと言う使者はこの得体の知れない幼子の部下という立場のようだ。
少なくてもハイドにだけはこの案件を伝えるべきだろう。幸い今は二人だ、条約を詰める為各陣営で話す算段になっている。俺は少し二人で話したいと他の者に席を外して貰った形だ。
「時間もない。重要な案件なんだろう?」
「ハイドも見てるだろうが、今回の条約を結ぶ相手の戦力と俺が予想する物についてだ。火力と広範囲の呪術は言うまでもない。ここからは確定ではないが恐らく、奴等は長距離連絡手段を持っている」
「よくわからんな。高速の伝令なら、ここにもいるではないか?」
概念自体がないか。
「そうだな、例えるなら対になるアミュレットを持つとする。俺は教国聖都、ハイドはここにいたとする。俺がアミュレットに話しかけるともう片方のアミュレットを持つハイドの方から同じ内容の声が出る。そういう状況だ」
「そんな事が可能であれば全てがひっくり返る。戦略から流通、言い出したらキリがない。本当にそんな物があるのか?」
「向こうがこちらに教える気は多分無いだろうが、ほぼ間違いない。力関係はこちらがただでさえ不利なのに情報伝達速度も次元が違う。これを踏まえて条約の事を考えたい。向こうと争うなんてまっぴらだが、無茶な条約を結ばれる訳にもいかん」
「我々の匙加減次第か・・・そして無闇にこの情報の事を知らせる訳にもいかんか。ままならん物だな友よ」
「全くだ」
せめて向こうの欲する物が分かれば良いのだが。




