C-6 後/初戦
前回のあらすじ
・初めての一戦。
血が流れていく。地面のどこか。広大な場所へと。
魂が抜けていく。ここじゃないどこか。空白の隙間へと。
押し倒された建物の陰で、他人の死の歩みを感じている。
戦闘形態時は視覚の代わりに、空気の動きに過敏になる。
だから、分隊長の放つ銃声も、ミシェルの弱くなっていく鼓動も。苦しげにあえぐその呼吸も。ゆっくりと流れ出るその命も。
例えばその寿命さえも。
全て、自分のこと以上に分かりやすい。
だから、振り向いた時に、こいつが敵に向かって指をさした意味も。
自分の事よりも分かる。
友人の死を前に、俺は。
敵に銃を向けた。
……ミシェル、少しでいいから耐えてくれ。
敵の銃は30連射が可能。こちらの銃は連射不可能。
圧倒的な武器の性能差を、ならば肉体の性能差で上回るための魔導軍服。
壁のように迫りくる弾幕。それに対抗するは、マニュアル通りに分隊長の放った手榴弾。片手で放り出される指向性爆発が、周囲の弾丸を吹き飛ばす。
重要となるのは、そこから。
立ち込める煙の中を駆け抜ける。
分隊長の位置は把握している。周囲一帯に俺たち以外の兵がいないことも確認している。
ならば、煙の中にいるその集団が敵だ。
敵兵の前に躍り出る。
視覚ではなく感覚を以て、照準を合わせて発射。
銃声だけでは足りない数。しかし敵に勝つには充分な数だけ、死体を量産する。
敵の銃では、俺に届かない。
しかし気を付けなければいけないのが爆発、砲弾。
だが、ここまでの近接戦ならまず使われない。
銃剣での刺突。銃床での殴打。銃口からの発射。分隊長からの支援射は、敵兵の体で防いでいく。
煙が晴れる頃には、敵兵が消えていた。
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戦闘終了。同時に戦闘形態を解除。「人間」と言う頸木に体が捕らわれる。かかる重力に血を踏みしめながら、緩慢にガスマスクを外していく。
ゆっくりと、のんびりと息を吐く。
吸い込む空気には鈍く煙が混ざっていた。
一歩、また一歩と自身の為に歩みを進める。
佇むは友の傍に。血だまりの中に膝を降り、沈む命へ語り掛ける。
「なぁ、ミシェル。……お前は、どうしたい?」
口に出せるのはせいぜいがありふれた話題。その程度には現実の容認が出来ていない。
見ると傷口は脚を複数を貫通。5㎜前後の傷口が、少年の命を奪っていく。
痛みに麻痺したか、あるいは感覚が狂ったか。苦痛を感じさせない表情で、ミシェルは思案と共に答えた。
「僕は……また、帰りたい。」
今までは出ていなかった涙が、ミシェルの頬を濡らす。
感情の自覚をきっかけに、訓練されたはずの感情制御が崩れ去る。
「なぁ、聞いてくれよアキラ。怖いんだよ。このまま終わるのが怖いんだ。……何も出来ないまま、終わってしまうのが怖いんだよ!」
狂乱したかのようにミシェルが叫ぶ。その叫びは凄惨に。その想いは悲痛に。
涙を垂らしながら、最後の叫びが木霊する。
「嫌だよ。だって……だってあんまりじゃないか!まだ、何にもやってない!何にも……出来てない!
なぁ、アキラ。僕は一体……なんで終わるんだ?何の為に?一体!何でこんなところなんだよ!?」
何故、ミシェルが死ぬか。
答えは至って簡単だ。
ならば、答えることは俺の義務だ。
「ごめん、ミシェル。……俺のせいだ。
俺が、俺がへまをしたからだっ……俺が、俺がちゃんとしてれば、お前は死ななかった。
俺のせい……俺のせいだ!ミシェル、お前を殺したのは俺だ!頼む、俺を責めてくれ……なぁ頼むよ!!ここで必ず生き延びて!いつまでも待つからさぁ……!」
気付けば、泣いていた。
「そ……んな…………こと」
庇うように漏らした一言も、意識が失われて途切れる。
俺とミシェルの付き合いは、たったの半年だ。
それでも、その半年の間、共に苦しみ合い、共に研鑽し合い、互いに励まし合ってきた。
趣味が違う。生まれも違う。ただ、一つだけ言えるのは、俺たちが二人でここまでたどり着いたという事実のみ。
こいつは、こんなところで死んで良い奴じゃない。
何か、何か手があるはずだ。何か一つぐらい出来るはずだ。
……そうだ。
ミシェルの傷口に手を当て、言霊を以て在り方を書き換える。
「『タルゲット』『ミシェル』『べハンダルング・ムラシエット』」
掌から溢れる燐光は、その成功を証明する。
血は止まった。生命は留まった。
しかし、傷口が塞がらない。それまでの死を取り戻せない。
「待ってくれ、待ってくれミシェル!今――――」
言葉は遮られる。肩に置かれた手によって。
「おい新兵、作戦は成功したらしい。退却するぞ。」
ぶっきら棒に告げるのは分隊長。
疲労をその顔に滲ませながら、煙草を箱から出している。
「……どうした、退却しないのか?さっさとしないと配給はもらえないぞ。」
「――――了解しました。これより退却を開始します。」
……これだから軍は嫌なんだ。
綺麗ごとではなくして、規律。
一つの死でなくして、軍の勝利。
それを散々教えながら、上は大概が私利私欲の塊だ。
……いいや。なんかどうでもよくなってきた。
ミシェルは軍医に診てもらおう。結局の所、俺には無理だ。
投げ出された肩と足に手を回す。いわゆるお姫様抱っこに近い姿勢。
…………『鑑定』お願いします。
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〖種族:カーネイジング・ポリプス〗 年齢:2 Cランク
Lv:7
スキルポイント:850
ステータス
HP:1875/1875
SP:1547/428
MP:2107/1677
速度:1567
攻撃:1539
防御:1399
魔攻:1658
魔防:1645
職業:歩兵
スキル
攻撃系:『直剣術Lv10』『狙撃術Lv10』『銃剣術Lv10』『銃撃術Lv10』『打撃術Lv10』『長槍術Lv9』『衝撃強化Lv5』『鉄槌術Lv4』『毒攻撃Lv2』『剛腕術Lv2』『触腕術Lv1』『斬腕術Lv1』『曲嘴術Lv1』『奪腕術Lv1』『威圧Lv1』
防御系:『対精神異常耐性Lv8』『小盾術Lv8』『鉄鎧術Lv7』『対魔法耐性Lv4』『対恐怖耐性Lv2』『対毒耐性Lv2』『対疲労耐性Lv2』『対衝撃耐性Lv1』『守腕術Lv1』
魔法系:『マギラーチェ語Lv7』『風魔法Lv5』『水魔法Lv5』『土魔法Lv5』『火魔法Lv5』『強化魔法Lv5』『氷魔法Lv3』『魔力感知Lv2』『水精魔法Lv2』』『魔力調整Lv1』『闇魔法Lv1』『光魔法Lv1』
技能系:『鑑定』『付与』『スキル作成』『イズべ言語Lv10』『反撃術Lv10』『貪欲Lv7』『激怒Lv7』『記憶保持Lv6』『智識Lv5』『過食Lv5』『生体探知Lv4』『勤労Lv3』『気配感知Lv3』『謙遜Lv2』『怠慢Lv1』『読心術Lv1』『隠蔽Lv1』『看破Lv1』『脅迫Lv1』
固有系:『遊泳』『墨』『天恵的武才』『強固』『理解』
特典系:『影が薄い』『繋げる一歩』『魔術』『ラプラス予測権限』『無貌王』『簒奪スル者』『無償機関』『超見眼』『星天力の権力者』
称号:『オリジナル』『作り手』『過食せしもの』『貪欲なるもの』『智識もつもの』『激怒せしもの』『突然変異』『魔の道』『一兵卒』
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……8人でこれか。
戦友と共に、俺は初戦を終えた。
その後、ミシェルは一命を取り留めた。
が、その足は切断され、両脚ともが義足に。車椅子に頼り切る生活となり、故郷へ帰った。
初陣を生き残った半数は、さらなる地獄へと足を踏み入れていく。
その戦に、終わりの芽は未だ芽吹かず。
七月七日ですね、良い日です。




