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異世界は夢だったけど予想以上につらい……だってタコだもん  作者: 第四素数と二の八乗
Ep.兵馬倥偬 Aランク ー ソリスオケイズム・カリュブディス
105/119

Aー3 誇張

前回のあらすじ

・おはなし。

 海水は無いそうだ。個人的にはどうにかして供給を抑えておきたい所存である。

 兵士という境遇とは違って、今は少しは余裕がある。その余裕は、今度は快楽で埋めようとするのが性というものだろう。


 と、いう訳で。

 ベッドの中、服の内ではなく。

 つい先程まで、雑嚢の中に入れてあった皮袋の中に居た。


 ……水の漏れないケースなどは売ってるのだろうか?あるのならばぜひ購入したい。



 【ソリスオケイズム・カリュブディス】なるものが俺の種族。全体像は確認できないので、触手を見たところ黒みがかかっていた、ということしかリポートできない。


 タコが陸上でも少しは生存できることに感謝して、『無貌王』を再び発動させる。

 なお、初期状態では素っ裸だ。とは言えども面子が面子。魔人族の名家の出、元敵国の脱走兵、そしてスライムに擬態状態の裸を見られた所で何とも思わない。そもそも裸がデフォルトだ。

 しかしそれでは人間のコミュニティの一員にまでは擬態できないので、スカインで購入したうちの一着を身に纏う。


 見下ろしてみれば、やっぱりファッションは分からない。思い返してみると公国とイドでは流行が違うはずだ。公国の服はモノクロの写真で見たような近代ものなのに、イド……というよりは王国の文化圏では中世でございといった服が多い。具体的には繊維とか布の質が違う。


「新入り。遅かったな。ミリタロードとオートノミーは下で食事中だ。恐らくそろそろ戻ってくる。傭兵ギルドに行く準備をして待機しておけ。」


 スライムが何かを書き込みながら、こちらを見もせずに話してきた。

 手元を見れば、何か街の地図のようだ。


 ……というか、よく気づいたな。こちとら『影が薄い』のに。

 防具代わりに耐刃性、耐衝撃性が高いと評判だった外套を羽織り、腰に雑嚢の中から戦闘に使えそうなものを選択して袋に入れておく。

 特に問題なく持ってこられた我が愛銃を肩に担ぎ、公国の闇市で大枚叩いて買ったガスマスクを首にかければ準備はおおよそ完了だ。


 外出の準備をしている親を待つ子供のように、うろうろしながらお二方を待機する。

                     ・

                     ・

                     ・

「そういえばアキラちゃん、精神年齢どうなってるの?転生者なんでしょう?」


 歩きながら話しかけてきたのはオーちゃんだ。

 その疑問に対して答えを探してみようにも、考えれば考えるほどかなり複雑な気がする。


「転生前を含めれば15か16……のはずです。というかそもそも精神年齢って記憶の年齢とは違いません?そういうオーちゃんは何歳なんですか?」


「43歳ねぇ。40年間ドルーワで兵としてやっていたわ。」


 ……なんか、悪いことを聞いてしまったかもしれない。


「ミリはどうなの?結構年とってるわよね?」


「……74だ。」


 え?


「じゃぁセンドゥレスちゃんは60歳ぐらい差のある妹ってこと?」


「そうだな。……尤も、私の兄妹は二人とも腹違いだがな。」


「あらそうなの?」


 会話文だけ見てるとこの人らかなり仲良いよね。熟年夫婦というか。


「……と、そろそろ着くぞ。

 アキラくん、舐められたくなければ下手には絶対出るな。傭兵というのは皆、自身よりも弱い人間には一切躊躇しない。具体的に言えばいじめる。そんなビクビクとした表情では駄目だ。ファーストコンタクトでほとんどが決まるぞ。もっと自信を持て。」


 彼の言うとおり、昨夜も来た『十二色』の本部の前に来ていた。名高い『返り血の黒騎士』の隣だからだろう、非常にたくさんの視線が集まってくる。しかもそう言いながら背中をオーちゃんと二人で叩いてくるのだから困ったものだ。


 舐められるな、というのなら。

 ここではビクビクしないのが正解だろう。例えば『黒』と対等に話していれば舐められることはないはずだ。

 どうなのだろう。全くと言っていいほど『ラプラス干渉権限』など使ってないのだが、無しでも意外と未来が予想できる。


<特典系スキルは所持者の魂と密接に結びついております。そのため、無意識下で使用を続ける、といった事態が特典系スキルを所持している者に発現する可能性が多々あります。>


 ……あー、『影が薄い』のは見境ない、みたいなものか。だとすると気づかないうちに『ラプラス干渉権限』なんかも使ってる可能性があるってこと?


<はい。>


 良いじゃないか。最初は師匠のフェイクステータスにすら勝てる気がしなかったんだ。それが今では越えている。

 この調子なら、『英雄』を越えるのだって夢じゃない。……かもしれない。


「大丈夫です。舐めた態度を取ってくるやつがいたら返り討ちにしてやりますよ。」


 思い返せば根拠は一切無かったが、気分は爽快だった。

 道場破りともまた違うが、本部には胸を張って入ってやった。


 ……が、舐められるも何も気づかれなかった。そう思えば俺は『影が薄い』のだった。


 一方で、『黒』とオーちゃんが入ってくれば、入り口には自然と視線が集まった。

 畏敬にも似た視線は、彼らの高名さ故か。少なくとも好きの反対だとかいう無関心ではない。


 オーちゃんは傍の席に腰を下ろし、そのまま『黒』は俺の背中を押して、受付嬢と思しき女性の前へと俺を連れて行く。


 ……思い返してみれば、俺がまともに話したことのある女性は、先輩ぐらいではないだろうか?

 なお、当然のように受付嬢は美人さん。とはいっても絶世の美女ではないが。

 何で上から目線で査定してるんだろ、俺。


「サラ、この子の傭兵登録を行いたい。手続きを。」


「は、はいっ」


 親子みたく俺の両肩を後ろから持って、『黒』は受付嬢に語りかける。それに頬を紅潮させて、受付嬢は裏へ向かう。

 しばらくして、紙とナイフを持って戻ってきた。


「登録料としてお支払いいただく銀貨五枚と、こちらの紙に署名と血印をお願いします。それから、任意ではありますが自身の力がどれほどのものか知りたいのでしたら、こちらの鑑定晶にも血を垂らしてください。そうすれば自身のステータスが映し出されます。」


 あぁ、そういうこと。

 いや、自傷って結構難しいよ?このナイフ切れ味良いよね?

 悩みながらナイフを手に取り、四苦八苦しながら刃を指に沿わせる。

 おかげさまで突き立てるよりも滑らせるほうが切りやすいと気づけた。


 流れ落ちるほどの出血はしていないので、半ば押し付けるようにして血を付ける。


「これで登録は完了です。鑑定晶はご使用なされなくても良いですか?」


 バレる危険は侵さないほうが良いよね。


「はい。」


 それに『鑑定』スキル一応持ってるし。


「……本当に、よろしいですか?」


 し、しつこいな。


 ……いや、ステータスを見せるのは暗黙の了解ってことか?鑑定しなきゃ舐められるとか?

 郷に入っては郷に従えだったか。よし、公国兵の平均レベルを思い出せ。それに合わせて『隠蔽』しよう。パトリックさんは確か……。


 頷いてから、指を再び押し付ける。結構な緊張のせいで、結構震えている。


_____________________________________

  〖種族:人族〗 年齢:16 Dランク

 Lv:56 スキルポイント:21900


 ステータス


 HP:1896/1896

 MP:1925/1925

 SP:1981/2015


 速度:1941

 攻撃:1965

 防御:1921

 魔攻:1876

 魔防:1823


 職業:歩兵


 スキル


 攻撃系:『狙撃術Lv10』『銃撃術Lv10』『銃剣術Lv10』『衝撃強化Lv6』『斬撃強化Lv5』

 防御系:『布鎧術Lv10』『軽装術Lv10』『対疲労耐性Lv10』『対精神異常耐性Lv10』『対恐怖耐性Lv8』『対物理耐性Lv7』『対衝撃耐性Lv5』

 魔法系:『強化魔法Lv5』『火魔法Lv1』『風魔法Lv1』『水魔法Lv1』『土魔法Lv1』

 技能系:『イズベ言語Lv10』『勤労Lv8』『激怒Lv7』『勇猛Lv6』『生体探知Lv5』

 固有系:無し

 特典系:無し

 称号:『勤労なるもの』『一兵卒』

_____________________________________


 ……こんなところか。

 『隠蔽』では誇張して見せることは不可能らしい。それもそうか。


 『鑑定晶』とやらに表示された結果を見て安心する。

 無事に隠し通せたことへの安心と、郷になんぞ従わないほうが良かったかもしれないという後悔をほんの少し思う。


 まぁいいさ、俺は知っている。テンプレってものをな。だから回避した。

 あくまでも一般的な公国兵あがり。傭兵界隈での地位は低いそうだが、魔法系統のスキルのおかげでそれもカバー。話題性がありつつも、異常性は持っていない。我ながら完璧では無いだろうか。


 ……優秀だなぁ、『隠蔽』。スキルLvが上がって、少しなら内容の書き換えも可能に。さらに『影が薄い』から多少の粗も目につかない。


 すぐに手を離し、種族が見られない内に終わらせる。

 受付嬢も特に何を言うでもなく、俺の血印付き書類を大きな水晶に溶かした。


 すっごいファンタジー。どういう仕組みなんだろ。


「以上で登録は完了です。階級は二等傭兵から、監督役は……『黒』とパーティーを組まれるのでしょうか?もしそうでしたら不必要となりますが。」


「そうだ。一等傭兵になるまでは私が監督を努めよう。」


「でしたら、必要な手続きはこれで終了です。受けられる依頼は中段まで。一等傭兵相当の依頼を受理することや、規定数以上の狩猟があった場合には罰則が課せられます。節度を持って行動してください。」


 調子に乗るな、ってことか。

 大丈夫大丈夫。ノープロブレム。こちとら国家公務員あがりですよ?


「ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。」


 『黒』が下がるのが視界に入ったので、頭を下げて颯爽と立ち去る。



 ……驚くほどに普通であった。トラブルも称賛も一切なし。良くも悪くも目立たなかった。


 ある種の寂しさを覚えつつも、『黒』と共にオーちゃんの座っているテーブルへと向かう。

 その途中、足を引っ掛けられてバランスを崩してしまった。


「お?スマンスマン。オーラってやつ?それが全く無いもんだから気づかなかったよ。ほら、アリ一匹一匹に注意なんてしてられねえだろ?それと同じさ。」


 なんとか転ばずにいられた俺に、筋肉質で禿頭の男が話しかけてきた。何やら挑発的だが、それって要するに自分の察知能力が低いってことではないだろうか。


「あぁ、分かります。僕だってアリには気づきませんからね。さっきだって大きいアリの足に気づけなくって。すいませんね。」


 舐められるな、と言われたので煽り返した。

 さぁどうだ。どうしてくるよハゲ。


「……小僧、今なら忠告で済ませてやる。楯突く相手はしっかり選べ。『赤』の位をもつこのレーリア・アルマスル様には手を出さないことをおすすめしてやる。」


 立ち上がって、太い指を額に突きつけてくるおっさん。さぁ、一体どうやって料理して――――

 待て、『赤』って言ったか?『黒』と同格の?


「落ち着け、二人とも。」


「落ち着いてられるか!こんなガキに舐められて。お前さんだって舐められてるかもしれねえぞ?だからただ、現実を見せてやるだけだ」


 静止したのは『黒』。しかし『赤』は反抗する。

 空気の険悪さに反比例して、周りの傭兵たちも声を潜めていく。


「……この少年は元公国の精鋭部隊。『大陸戦役』アレキ決戦の生き残りだ。

 人を殺すことなら特等兵相当の実力を持っている。戦うのは辞めておけ。互いに無事では済まない。」


「はっ。所詮『法無し』ごときに俺が負けるかよ。おい『白』を呼んでこい。ちょっと死人が出るかもな。」


「やめろ。監督責任は俺が負うことになるんだぞ。」


 しばらくの間睨み合う両者。

 何で俺自身が話していないのかと疑問に思いつつ、その対面を眺め続ける。


 先に折れたのは『赤』。呆れたように肩を落とし、溜め息を吐いて俺を睨みつける。


「おい小僧、コイツの手前お前の不敬は今回だけ許してやる。が、次こんなことがあったら承知しねぇ。覚えてろよ。

 仕事しに行くぞお前ら。準備しろ。」


 捨て台詞とともに仲間を引き連れていく。

 笑顔で手を振って彼が依頼を受理するのを見送る。


「……アキラくん、歯を食い縛れ。」


 その言葉で察しない奴はいないだろう。

 側頭部目掛けて振るわれた鎧を纏ったままの拳。いつの間に立ったのかも分からなかったが、それ以上に攻撃の速度が凄まじい。上体を逸らして避けることのできた自分を褒め称え、背中に背負ったままの銃剣を構える。


 殺意……までは感じなかったが、直撃しては洒落にならない攻撃だ。


「何で避ける?今のは当たらないと意味がないだろう。」


 一方でそんな攻撃を繰り出した当の本人は困惑している。

 むしろ、避けようとしない人がいるのかと問返したい。


 だが、答えることを優先する。というよりそれ以外の選択肢はないだろう。


「舐められるなって言ったのはそちらじゃないですか。」


「下手に出るなと言っただけだ。調子に乗れということではない。

 ……レーリア、本当に済まない!今度一杯奢らせるから!」


 何やら依頼を受理したらしい『赤』に『黒』が呼びかける。

 それに対し、背中を向けたままヒラヒラと手を振って彼は叫び返してきた。


「別にいらねえよ!そんなガキにたかるほど落ちぶれちゃいねえ!つけ払いにしといてやる!」


 最後の最後で大物感を出してきた『赤』。そんな彼に敬意を示し、最後の悪口を吐き捨てた。


「お疲れ様でしたー!同格のアリになれたらいくらでも奢りますよ!」


「るっせーガキ!ぶっ殺すぞ!!」



 親愛を込めたつもりだったのだが、なぜか怒鳴り返された。

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