表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は夢だったけど予想以上につらい……だってタコだもん  作者: 第四素数と二の八乗
Ep.兵馬倥偬 Aランク ー ソリスオケイズム・カリュブディス
103/119

Aー1 既決

前回のあらすじ

・一仕事終わったから退職した。


例えるなら、英国の兵士が退職して中国でカンフーの道場に行くようなもの。意味わからん。

 この世界における傭兵ギルドは「各国家の傭兵斡旋業者が協定を結んだ国際組織」だそうだ。よくある冒険者ギルドのようなものだろうか。

 この場合の傭兵とは、魔物を職業として狩る者。そしてその戦闘で生計を立てる者。要請があれば国からも雇えるため、昨今では国軍と同等かそれ以上の待遇だという。

 しかし、傭兵ギルドと呼ばれても一枚岩ではない。元は傭兵斡旋業者の徒党だったのだから、派閥と言うべきものがある。


 その中でも「最強」と名高い派閥が、今向かっているイドに本拠地を構える『十二色』である。



 五大国に数えられる公国は特出しているらしいが、この世界の生活水準は中世ヨーロッパなど足元にも及ばないほど高い。

 インフラ整備、治安維持、産業改革、初等教育も始まっている。

 魔物の被害という制約が無ければ、この世界は地球の文明よりも発達していたのかもしれない。


 そして、文明が発達しているということは、人が多いということの裏返しでもある。

 つまりは、「協力者」が見つけられないかもしれない。『輝神』から出会えと言われたときは気にならなかったのだが、大雑把な出会う場所や方法を聞いていない。もしも過去に戻れるのならば自分を説教してやりたい。

 相手側でそういったものが用意されていたとしても、『影が薄い』のが俺だ。

 今までの経験から言えば、役立って欲しいときに役立った試しは無いが、見つけて欲しいときに限って見つけてもらえない。さらに言えば使えているのかさえ分からない。

 貰ったヒントは「十二色の本部の玄関、そこにいる不審な人物」とのことだった。

 情報量が少なすぎる。傭兵ギルドだろ?不審な人物なんて山ほどいるよ。


 夜道を歩く。公国の技術革新によって光の灯される街並み。陽の沈んだ後は経験のないほど暗くなる。ポツンポツンと街頭が照らす道を、数え切れないほどの人が通る。

 全身を鎧に身を包んだ人物や、山賊紛いの格好で仲間を引き連れる男。小柄な少年が視線を落として建物に入っていく。その、最も人の出入りが激しい建物が『十二色』の本部だ。

 このイド王国は事実上レグヌム王国の支配下にある自治区の一つ。魔物の群生地であるシンサー大森林をグラルテム・イド侯爵三世が開拓したことが起源となる。現在では魔物を希少部位を数多く輸出し、同時に腕に自信のあるものが数多く集まる場となっている。


 その中で『十二色』は、イド侯爵に雇われた六人の武官と六人の文官から始まった。今日ではシンサー大森林の魔物の狩りを管理し鍛えられた傭兵を派遣する、傭兵ギルドの最大手派閥。その統制された兵力や魔物の管理能力から『武力の管理庫』などと呼ばれている。……らしい。


 その『武力の管理庫』にて待っている不審な人物を……到着してすぐに見つけることが出来た。

 石レンガの壁にもたれかかっている人物。巨大な正面玄関から溢れている光が、ぎりぎり届かない位置。そこに鳥のような形状のマスク――――ペストマスクと紳士服に身を包んだ超不審人物。

 絶対、コイツだ。よく通報されなかったね。すっごい話しかけにくい。


 恐る恐る近づいていく。取って食われそうで怖いのだが、こいつと協力しなければいけないそうだ。

 目の前まで来た。眼を逸らしてしまうのは仕方がないだろう。ペストマスクを正面から見つめ返すのはかなり怖い。これに話しかけるのは、本当にキツイ。


「……えっと、『協力者』です……か?」


 やめろ、そんな眼で見るな。こんなことなら海に戻らせてくれ。化けの皮が剥がれかねないだろ。心を抉りに来やがって。


「では、君が噂のアキラ・ティシュトリヤか。人目を避けたい。宿は?まだ取っていないだろう?」


 そう言って不審人物Aは歩き出した。その早歩きに指示どおり付いていく。


「私達が取っているのは神風亭の四人部屋だ。私と君の他に二人いる。」


 杖で宿を示して、男は止まらず歩く。宿を堂々と横切り、部屋へと俺を導いていく。

 俺が来たことによって、この部屋は満員となったはずだ。きっとこれから四人で協力して戦っていくに違いない。そうとも。そうであれ。

 ただまぁ、一人の方が自由とも感じる年頃なんだよなぁ。


 部屋へと足を踏み入れた。


「あら、アキラちゃん。久しぶりね。」


「オートノミー、知り合いか?なら調度良い。仲介してくれないか。」


 一人は見知った顔だった。一人は見知らぬ顔だった。知っている方の人物は丸刈りに女性物の化粧を施した長身痩躯の男。知らない方の人物は白髪赤眼の大柄な男だ。


 知っている方の人物は、元公国軍、第〇〇一師団、第7精鋭大隊第三隊長、オートノミー・マーティンだ。

 知らない方の人物も予想がつく。白髪に、赤眼。その特徴はとある一族しか持っていないとされている。これはその中でも特殊な立ち位置の一人、『黒』ミリタロード・ヘラルドゥリー。


「ミリ、この子は私の元同僚でこれからの仲間、アキラ・ティシュトリヤちゃん。仲良くなりたかったらアキラって呼んであげて。

 アキラちゃん、この子はミリタロード・ヘラルドゥリー。親愛を込めてミリちゃんって呼んであげて。」


「ちょっと待ってください。ちょっと待ってください。頭が追いつきません。」


 ……まぁ、色々あるよね。言いたいことが。

 何でオーちゃん生きてるの、とか。あの人『黒』だよね、とか。


 うむ。割り切ろう。この世界では何でもありだ。主観だけではご都合主義も存在する。

 いいや、無理だね。聞こう。


「……てっきり、死んだものかと思っていましたよ、オーちゃん。それに、ミリタロードさんはお元気なようで。妹さんから言伝を頼まれています。」


 何を考えているのか、オーちゃんはニッコリと微笑む。ミリタロード氏は、今になってようやくこちらに注意を向けた。互いに譲るような空気の後、少し間を開けてオーちゃんが話し出す。


「私としては、なんであなたがここに居るのか気になるのよ。先にそっちから 話してくれない?」


 そうきましたか。意外と面倒な性格してますね。


「……では、正直に。

 魔物です。転生者です。人に化けてます。数え切れない程度には人を殺しました。」


 うーむ。改めて聞くと屑だな。

 どっちにもついていないコウモリのなり損ないじゃないか。


 一方で、聞いた本人は納得したような表情をしていた。


「なるほど。道理であまり人と話さなかったのね。いいでしょう。私のことも話してあげる。

 私ね、ドルーワ世界連邦人造人間(ホムンクルス)だったの。向こうでは『君主狙撃』だなんて呼ばれてた。『時代錯誤の剣』は気づいてたかしらね。元々はこっちのお偉いさんを狙撃しに来たのよ。それが隊長に見つかっちゃってね。奇跡的に魔力を持ってたから、それからはこっちの軍で働いてたわ。」


 まじで!?まじっぽい。それではまるで――――


「え、じゃぁ寝返ったってことですか?」


「……その言い方は語弊があるわ。そもそも、あんな奴らに忠誠なんて誓ってない。……ごめんなさい、話が逸れたわね。あなたが入ってくるより前かしらね?いわゆるお告げよ。夢の中で自称神が話しかけてきたの。「戦争をなくさないか」って。」


 ……後のことはあるていど予想できる。恐らくはあいつ(輝神)に身を隠せとでも言われたのだろう。

 なるほど、似た者同士だ。全く違う生き方ではあるが。


「それでは、ミリタロードさん。妹さんからの手紙をどうぞ。お礼は結構です。代わりに、どうしてここに居るのか教えて下さい。」


 胸ポケットに入れていた手紙を取り出す。怪しみながらもミリタロード氏は受け取り、それを凝視した。

 しばらく続けて、その手紙をテーブルの上にそっと置く。


「……何だ、君は人について首を突っ込むのが好きだな。その気質はいずれ災難を呼ぶぞ。」


 確かに、そんな気がしないでもない。

 だが、納得できなければ何も出来ない質なのだ。


「知らないことが理由で後悔するぐらいなら、知って後悔するほうが責任がはっきりしますので。社交的にいこうと頑張っているところです。」


「……そうか。では、話すとしよう。

 君はもうヘラルドゥリー――――紋章の一族についてよく知っているだろう。お察しの通り、私はそこの一族だ。妹は公国軍に売られたと聞く。魔人と人の宥和政策の一環だったかな。尤も、私は出奔した身だがね。」


 あぁ、先輩の言ってた「売られた」って言葉通りの意味じゃなかったんだ。

 そうだよね。あんなに嫌われてたら買われることもないもんな。


「勿論、私にも紋章はついてきているよ。銘は『紋章の剣』。剣での攻撃に限り、敵の防御を無視できる。

 お陰様で何度も戦場に駆り出されたよ。そして、そんな生活に嫌気の指した私はこのイドで傭兵として登録した。手に入れた位階は『黒』。二つ名は『返り血の黒騎士』だ。」


 ミリタロード氏が両方の袖をまくれば、そこには先輩のものと似た紋章が。

 俺に教えるためだろう、傍に置かれた鎧兜を見て思い出した。


「お会いしました……か?公国の軍港、高台ですれ違いました。」


 この兜の形は記憶に残っている。あの時は気にもとめなかったが、まさか『黒』に出会っていたとは。


「……?すまない、記憶にないな。確かに、高台には行ったが……なにせ半年も前だ。」


 だが、覚えられていなかったようだ。

 よもや、こんなところでだけ『影が薄い』のではあるまい。そんなもの認めない。


 さぁ、最後の疑問解決といこう。これが終われば、後は仕事に励むだけだ。


「……では最後に、そちらの、僕を案内してくれた方は一体誰ですか?」


 指で指すのがこの世界でも失礼なのか分からないが、そういった無礼を避けるために手でペストマスクの男を示す。

 その質問には、オーちゃんが答えてくれた。


「あぁ、アッくんのことまだ紹介していなかったわね。紹介するわ。

 アッくんはスライムよ。こう見えても元『王の水(アクア・レギア)』。今はわけあって平スライムだけれどもね。仲良くしてあげてね。」


 男の手袋を外した手は、透明味のある蒼色の物体だった。もう何でもありだな。今度はスライムか。

 声どうやって出してんだよ。それに王の水(アクア・レギア)って何?これも後で聞こう。


「……歓談は済んだな?ではこれから作戦会議だ。おい、新入り。これから第四次人魔大戦が始まるということは聞いているか。」


 オーちゃんからシフトした主導権を握って、スライムが話し始める。まずは状況確認から始めるらしい。


「あ、はい。ですが後はそこにおられるミリタロードさんの協力を得ろ、としか。」


「そうか。では、我々のすべきことを伝えてやる。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ