千羽鶴
いつの時代にも変わり者っているものなんだね。
僕は鶴を折る。
今日も鶴を折る。
色とりどりの折り紙で。
僕は魂の案内人だ。
死んでいった者の魂を在るべき場所へ案内する。
いわば交通整理の様なものでまあまあ面白いものだ。
この白い部屋にいるのは僕だけで、この部屋にあるのは鶴だけ。
ただそれだけの空間。
上を見上げても下を見ても周り三百六十度見渡しても
白。
僕はここが好きだ。
大好きだ。
好きで好きでしょうがない。
静かで穢れなき世界。
僕だけの領域。
……ってわけでもないけどね。
「うわーーー!!! って、………あ、あれえ?」
誰か来た。今日はこの人か。
「やあ、君も死んじゃったんだね」
「え、って、やっぱ俺、死んだん……ですか?」
「うん。ここに来る人はみんな」
彼はとても落ち込んでいる様子だった。まあ、珍しくもない。
発狂する人や僕に掴みかかる人、喜ぶ人なんかもいたなぁ。
「うわーうわー……お、俺、どうなっちゃうんですかね……?」
これもよくある質問。
「まあまあ、落ち着いてよ。時間はそれこそ掃いて捨てる程あるんだ。ゆっくり語り合おうじゃないか。僕の質問に答えてくれたら君の質問にも答えよう」
「は、はぁ……」
よかった。どうやらこの人は良識があり聞き分けもいい人らしい。
「君は何処の出身?」
「し、静岡です。静岡県。日本って国……あ、ジャパンにあるんですけど……」
「うん、知ってる。ここに来る人は日本で死んだ人だからね」
あ、そうなんですかと少し照れ臭そうに言う彼。
「じゃあ、君の名前は?」
「白泉 御崎です」
御崎君か。いい名前だ。
「じゃあ、今度は……」
「はい」
御崎君はとても落ち着いている様子だった。
だったけど。
「君はどうやって死んだのかな?」
御崎君の鼓動が早くなる。離れていても聞こえる程に。
俯いて考えているようだったけど、もう分かっているような……
「た、確か、トラックに轢かれて、痛いと思ったら、ここに……」
「答えてくれて有難う。じゃあ、今度は御崎君が質問する番だ」
まあ、何を聞いても忘れちゃうんだけど。
「ここは何処なんですか?」
「ここは世界の駅みたいなものだ。何処からでも来ることができて何処へでも行くことができる。そんな場所さ」
「じゃ、じゃあ、俺は何処へ行くんですか?」
「何処へでも。君が望む世界へ行けるし、君が決めたくないと言うのなら僕が適当な世界を見繕ってあげるよ」
「うーん、じゃあ……」
次はどんな質問をされるのだろうか。
まあ、大抵同じことを聞くが。
アニメの世界もあるのか、とかハーレムを作れる世界に行きたいだとか……
「貴方はなんて名前なんですか?」
虚を突かれた。
今までそんな質問されたことなかったから。
「そんな質問するのは君が初めてだよ。面白いね、君」
僕の名前、一応あるが教えてもいいのだろうか。
教えても忘れてしまう。
せっかく僕のことをを見てくれた人がまた僕を忘れてしまう。
悲しいなぁ。
でも、僕は答えなくてはならない。
「僕の名前はミグロス。魂を司る__________
「神様だよ」
御崎君はニコリと微笑み
「なんだ、貴方もいい名前じゃないですか」
ああ、この人に忘れられたくない。
「時間だよ」
そんな気持ち、失った筈なのに。
「……そうですか」
いつぶりだろうか。
「行っておいで」
こんな気持ちになったのは。
「はい。有難うございました。ミグロスさん」
行ってしまった。
これで、よかったんだね。
僕はまた鶴を折る。
次でいよいよ千羽目だ。