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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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エピローグ 

 日本本土から遠く海を隔てた、自然豊かな三つの孤島を連ねて一つの島と見做す神名島という島がある。そこに於けるマジョカルとの激しい戦いから、早一週間が過ぎていた。


 一ヶ月半前の、水葉を魔女の手から救う為の戦いで付いた傷がまだ癒えぬうちに、八重山には新たな傷が増えている。本来、緑豊かだった山の美しい風景に、山肌剥き出しの一帯が一夜にして二箇所目が加わったのだ。


 土地神信仰の残る八重山周辺の住民は、これを山神様の怒りだの祟りだのと最初の頃は噂していたが、人の噂も七十五日とはよく言ったもので、時期に収束していった。今ではただの土砂崩れということで片付けられている。


 もっとも、まだ七十五日も経ってはいないが。


 そんな強引な理由で周りに納得させることができたのは、(ひとえ)にギフトの……もとい紅栗コーポレーションの情報操作による賜物だろう。


 今回の件では、紅栗先輩に随分助けてもらったが、彼女への貸しはこれだけでは終わらない。


 同じ学園に通う一つ歳下の後輩、倉敷雅は今も紅栗コーポレーション直轄の病院で世話になっている。治癒能力を持つ珠々香の協力もあって、まだ退院とまではいかないものの、起き上がれるまでに回復したようだ。


 そして珠々香だが、今でも先輩が預かってくれている。


 夕食時になると、移動を苦にしない先輩の能力【(ゲート)】で珠々香を連れて来てくれる。皆一緒に夕食を食べるのがここ最近の近状だ。


 ここまで言いはしたが、なにも紅栗先輩の世話になっているのは雅と珠々香だけじゃない。


 俺は今日、ある決意を持って紅栗先輩と会うことになっている。


「ん~……ふああぁぁ~……」


 両手を気怠そうに頭上に上げて、何度目かの欠伸。


「ちょっとナギ! わざわざ紅栗先輩がこんな山奥くんだりまで来てくれるっていうのに、いつまで眠そうな顔してるのよ! 先輩に申し訳ないでしょ!?」

 

 巫女服を着た黒髪ポニーテールの少女が興奮のあまり、これでもかと顔を近付けて俺に説教を始める。


「いや、水葉。先輩の能力なら山を歩くことなく、簡単にここまで来れると思うぞ」

「私はそういうことを言ってるんじゃなくて……!!」

「ふふ。バレちゃいましたわ」


 呆れ顔でボヤく水葉の後ろから、知らないところで自分のことを話題にされていた紅栗瀬里菜、本人が姿を見せた。


 いつものような学生服ではなく、お嬢様然とした白を基調としたワンピースを着、麦わら帽子を薄く淡い青紫色の髪の上に被せてある。


「お待たせしましたか?」


 俺は頭を軽く左右に振った。


「では早速ですが、事前に話した通り……で、お二人ともよろしいのです? 今ならまだ止めれますよ?」

「そんな訳にはいかないわよ、先輩。私もナギも一日でも早く強くなりたいの! その為ならなんだってやってやるわ!」

「だな。むしろ先輩の方こそ、本当に大丈夫なんですか? ギフト所属の先輩が、マジョカルの執行対象から外れたとはいえ、俺たちに協力しようなんて」

「お二人が執行対象のままでしたら、さすがに不味かったでしょうが……。不幸中の幸いと申しますか、逢花さんが十三師団に加入する条件として、お二人の執行除外と、この島にこれ以上マジョカルが関わらないことを約束させたようなので。おかげでわたくしも好きにできますのよ」


 そうだ。


 逢花が俺たちの前から去らなければいけなくなったのは、俺たちを守るため。


 俺たちがもっと強ければ……逢花を守れるぐらいの力があったならば、逢花に苦渋の選択なんてさせなくて済んだはずなんだ。


 だから俺も水葉も強くなろうと誓った。


 月之杜神社に逢花を連れ戻すために。


 もう一度、一緒に暮らすために。


 その時は気恥ずかしいけど、告白の返事も聞かないと。


「これで話は纏まったってことで。行こう、先輩、水葉!」

「いえいえ、それがもう一人ここへ来る人がいまして。今回の修行の為の臨時講師ですのよ」


 今、初めて聞いた臨時講師の話に、俺と水葉は互いを見ながら、頭の上に疑問符を浮かべる。


 ちょうどその時、木の陰から長い金髪の女性が姿を現した。


「私なら、さっきからここにいましたよ、ククリ」

「!? エイルフィール!? エイルフィール・エル・ヴェルナーゼ……どうしてここに!?」


 俺と水葉が驚くのも当然で、彼女……エイルフィール・エル・ヴェルナーゼはマジョカルで唯一、執行活動を許された聖教第十二師団で副団長を努めていたほどの実力者。


 彼女の強さを確固たるものとする能力【反魔法(アンチマジック)】を宿した鎧を身に着けていないし、剣も携えていないところを見ると、なにも戦いに来たというわけではなさそうだが……。


「ぶー! 残念、不正解ですわ。遠からず近からずですが」

「……何が?」


 先輩のいきなり脈絡もない会話に、率直に俺は疑問を投げた。


「エイルさんが戦いに来たわけじゃなさそうだと考えられたのでは? そういう顔をしてましたよ。彼女が今回、瑞原君と音羽さんの修行を見てくれることになりました。もちろん、わたくしも時間のある限り、お手伝いしますわ」

「……そんなに俺って顔に出やすかったのか……?」


 ちょっとショックだ。


 水葉の意見も聞きたくて顔を向けると、


「そんなの私にわかる訳ないじゃない……。あ、でも……」

「でも?」

「スケベなこと考えてる時なら私でもわかるわよ。ナギ、すぐ顔に出るもの」


 (やぶ)蛇だった。


「ククリ、本当にこの者たちで大丈夫なのですか? あのようなことがあった後だというのに、緊張感が欠けるというか……このような者たちを鍛えても使い物にならないのでは?」

「あらあら、そうでしょうか? まだまだ本気ではなかったとはいえ、瑞原君はあの『剣撃の巫女』を追い詰めたのですよ。……それは失礼ながらエイルさん、あなたにも出来なかったことでは? もっとも、瑞原君とエイルさんとでは、逢花さんの力の入れ具合は違いましたけども」


 と、エイルフィールへのフォローを入れることを忘れない紅栗先輩。


「それと音羽さんですが……彼女の潜在能力、なかなか面白そうですよ? 目を凝らして彼女の力の底を感知してみてくださいな」


 怪訝そうな表情を見せるエイルフィールだったが、黙って先輩の言う通りにするらしい。


「……霊力を感じますが、ごくごく平凡と言わざるを得ませんね。これが何か…………いえ、これは!? ……魔力……。霊力と魔力の両方を宿しているというのですか!? ……なるほど。確かに面白いですね」

「でしょう」


 満足げに紅栗先輩が微笑んだ。


「ですが、私はつい先日まであなたたちの敵だった者です……。そのような者にあなたたちは本当に命を預ける覚悟がおありですか? 私の修行は厳しいです。下手すると命を落とすこともあり得るでしょう。私も馴れ合いは好みませんし」


 そこまで言って、金髪の、まだ俺たちとそう歳の変わらなさそうな少女の鋭い瞳が、俺と水葉を刺した。


 総身から目に見えない闘気を、総毛立つほどに肌で感じる。


 だが、それで折れるような今の俺や水葉ではないことを彼女は知らない。


「構わない!」「構わないわ!」


 申し合わせていたかのように、俺と水葉の言葉が重なったが、決してそうではない。


 俺も水葉も思いは同じ――


 ただ、それだけのこと。


 だったら俺たちの言うことは決まっている。


「俺に逢花を助けれるだけの力をくれ!」

「私に逢花を守れる力を下さい!」


 思いの外の、俺たちの決意に気圧されるような感じで驚いた様子をエイルフィールが見せたが、それも一瞬のこと。そこは、すぐに表情を元のクールなものに戻した。さすがその若さで十二師団で多くの者を束ねる副団長の任を担ってきただけのことはある。


「どうですか、エイルさん? この二人なら大いにあなたの目的の助けになるのではないでしょうか?」

「…………良いでしょう。あなたたち二人の目的が剣撃を……いえ、アエカという名でしたね。その子を助けること。私の目的は、十三師団団長に殺された兄様の、仲間たちの仇を取ること。お互いマジョカルと戦うという点において一致しています。仲間になるわけではありませんが……同盟といきましょう」


 と言って、チラリと紅栗先輩に視線だけを向ける。


「出来れば、あなたの目的も今ここで聞かせて頂きたいものですけどね」

「……ふふ。目的だなんて、そんな大層なものは抱いておりませんわよ。わたくしはただ皆さんのお手伝いがしたいだけですわ」


 どうやらエイルフィールは、先輩が気に懸かるようだが、当の先輩があまりにも飄々としているので、これ以上は収穫を得られないと思ったのか、


「……まぁ、良いでしょう」


 渋々引き下がるようだ。


「じゃあ、宜しく頼むよ。……え~と、俺もエイルさんって呼ばせてもらっても良いかな?」

「……好きになさい」

「じゃあ、改めて……宜しく、エイルさん」

「あ! 私も! 宜しくね、エイルさん!」


 交互に握手を求められ、それに応じる金髪少女の白い頬が薄っすら赤みを帯びていたことは、敢えて言わないでおく。


 ふと、水葉が俺の肩に触れるギリギリ寸前まで、自分の肩を寄せてきた。


「ナギ、良い? 二人で強くなって、逢花を絶対に連れ戻すわよ」


 分かりきったことを聞くなと言わんばかりに俺は、


「当たり前だ。そんで俺たちを置いて行ったこと、たっぷり文句言って逢花に後悔させてやろうぜ」


 右拳の裏を水葉の前に向ける。


「ええ。そうしてやりましょう!」


 同じように水葉も自分の拳の裏を俺に向ける。


 そして、お互いがお互いの拳にコツンと軽く当てた。


 思えば、水葉とは会ってばかりの頃から喧嘩ばかりだったが、今ほど心が通じ合ったことはなかっただろうと思う。


(待ってろよ、逢花……。どれだけ掛かっても、絶対に見つけ出してやるからな。それで連れ戻して……返事を聞くまで、何度だって言ってやる……)




(君が好き、だと――――)




      まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~ 完







1年間続きましたが、これにて『まじょカル』は完結となります。

「これから強くなろう」エンドとなりました。

最後までエンディングをどうするか……というより、薙斗や水葉たちから逢花が去る終わり方か……、あるいは残る終わり方か……で、ギリギリまで悩んでいたのですが、第2部を始めるにあたり去る終わり方の方が続けやすいかなと思って、最終的には逢花がいなくなりました。

第1部の部分だけで終わりにするのなら、逢花が残っていた方が綺麗な終わり方となったのでしょうけどね。

第2部の構想はある程度は頭の中にあるのですが、一旦ここで終わりとして、時間が出来れば、次の新しい作品にチャレンジしたいなと思っています。

もし第2部を書くとしたら、その後かと。その時になってみないとまだなんともですが……。

1部を読んでいない方でも1から読めるような内容にしたいですね。

2部では水葉がヒロインとなり、逢花との3角関係的なことも脳内で妄想してました(笑)

とにかく、しばらくは執筆の勉強をして、今より少しはマシな文章が書けるように励みたいです。

ということで、当分は執筆活動は止まりますが、読む方は続けていきますので、何かしら感想等を残していくかもです。

ここまで長くなりましたが、最後までお付き合いして頂き、ありがとうございました。

1年間、なんとか書き続けることが出来たのは、皆さんの感想や評価に励まされてのことだと思っています。

とても感謝です。

また機会があれば、その時はよろしくお願いします。

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