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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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第三十三話 裏切り者に粛清を

 陽の光が新緑に遮られた土の上に、金属ブーツで付けられた足跡が残る。


 木と木の間を避け進みながら、少女騎士は腰に備えられた鞘から剣を抜き放った。


「あんたは執行部の……」

「エイルフィール・エル・ヴェルナーゼです。瑞原薙斗」


 歩く度に腰まである金髪の先が揺れている。


 鎧さえ身に付けていなければ、さながら森に住む妖精……中世ファンタジーものの定番である、まるでエルフのようだ。ただし、耳は尖ってはいない。


 そう俺が感じたのは、森の中で目にしたというのと、彼女の腰まであろうかという清潔感のある美しい金髪。それに色白な肌に整った容姿のせいだ。陽の光が遮られた森の中でも、木々の隙間から漏れる光にキラキラと髪が輝いている。


 そんな彼女から感じた印象とは打って変わって、俺を見る彼女の視線は、俺を殺意だけで呪い殺そうとするかのように冷たく研ぎ澄まされていた。


 夜中、神社で見かけた時の凛とした雰囲気とはまるで違い、別人のようだ。


 月之杜神社での戦いから、まだ一日も経っていないというのに、いったい彼女の身に何があったのか……。


「あんたも逢花が狙いか!?」

「……強力な魔女がこの島にいるとの報告を受けていたので、私たち執行部の中でも上位の者が討伐しに派遣されることになりましたが……安心なさい。私たち執行部は彼女から手を退きます。無論、あなたへの執行も中断しましょう。……ただし、私の邪魔をするなら、今すぐにでも蹴散らします」


 邪魔? 狙いが俺たちでないなら、いったい誰と戦おうとして……


「わたくしたちと同じでしょう」


 考えが面に出ていたのか、紅栗先輩が俺の知りたかったことに導いてくれた。


 今、俺の前には人の影が立体化し現れた、体長12メートルを超える巨大影人間(シャドウマン)が木々を薙ぎ倒し、そびえ立っている。




 影人間シャドウマンとは、近年に世界各地で目撃情報が上がり始めた、割りかし最近のオカルト話である。影のような靄のような黒い人型が意思を持つかのように動く現象のことで、まだ、その詳細ははっきりとわかっていない。


 ただし、これほどの大きさと規模の影人間の目撃情報なんて、俺は聞いたことがなかった。


 そのような不可思議な現象が今、俺たちの目の前に形を成して存在している。




「どうして同じ執行部が……? いや、それより、あいつには俺も用があるんだ! ちょっと待ってく……!!」


 俺の言葉に返ってきたのは、彼女を見かけた時とは比較にならないほどに冷徹で、背筋が凍る殺気の篭った一瞥された視線。


 俺なりに覚悟を持って戦いに挑んでいたはずだったのに、金髪の少女騎士の俺を見る瞳の前に、俺は思わず気圧されてしまう羽目となった。


「……私は邪魔をするなと言っているのですよ」


 もし、彼女の言う通りにしなければ、おそらく俺に斬りかかってくるに違いない。それほどまでに彼女の瞳は憎悪に満ちていた。そして、その憎悪の対象は紛れもなく姿を変えたグラヴェル……その人に向けられている。


 人が人をここまで憎む姿を見るのは初めてだった俺が、気圧されてしまうのも当然か。


 単純な話だ。


 彼女の方が、俺の覚悟より上回っていたというだけの話。


「瑞原君、彼女は守られる側ではない強い女性だと思います。ここは彼女の意思を汲んでお任せしましょう」

「……ああ」


 だけど、危なくなれば、いつでも助けに行けるようにしようと思う。


 彼女の実力はおそらく……いや、間違いなく俺より上だ。立ち居振る舞い、彼女が発する目に見えない達人ならではの気のようなものが、俺にそう思わせた。


 考えてみれば、可怪しくもない話だ。


 この頃、当たり前のように自分よりも格上の相手とばかり戦っていて、それが当たり前になってしまっていた。しかし、彼女は過酷な執行部を兼任する、第十二師団副団長を務めるほどの手練れなのだ。今まで俺が戦ってきた相手とは、比べるまでもないだろう。


 それでも、女性が傷つくのはやはり良い気がしない。


 これだけは一生慣れることはないなと痛感した。


「……醜いものですね、グラヴェル……そのような姿になってまで、まだ戦おうというのですか」

「エイル様ですか。あなたもしつこい人だ……。あれほど完膚なきまでに敗れ……」

「…………れ……」

「あなたの右腕でもあり、親代わりでもあったゴルドバも殺され……」

「……まれ……」

「あなたの敬愛する兄までも殺されておきながら、まだ向かってくるというのですか? エイル様もまだ万全の状態ではないでしょうに」

「黙れと言っている――!!!!!」


 周囲の大気を声だけで震わせてしまうほどの怒声が、美しく整った顔を持つ少女の口から発せられたことに、この場の誰もが驚いただろう。


 先ほど俺がグラヴェルを挑発したように、グラヴェルもまた彼女を挑発したのだろうが……相手が悪い。


 これは直感でしかないが、おそらく彼女は、怒れば怒るほど力を発揮するタイプだ。


 かつて相貌失認だった俺が、相手を認識するために覚えた……言動や誰もが見逃してしまいそうな些細な仕草などを観察し、判別する術を持って導き出された長年培ってきた経験……自信があった。


「執行部を裏切り、兄様とゴルドバを死に追いやった罪……報いを受けるが良い!!」


 最初に動いたのは金髪の少女騎士――


 鎧を着ているにも関わらず、そう感じさせない物凄い速さで影人間に向かっていく。


 巨大な影人間……巨人が迎撃しようと丸太のような腕を風を切りながら薙下ろすが、少女は俊敏な動きを見せる。地を叩きつけた拳が地面を陥没させるほどの図体に見合った威力を見せた。それを難なく躱しきると、自分より遥かに大きいのを相手にまるで怯むこと無く、足を止める様子も見せない。


 その姿はさながら、恐れを知らない狂戦士(バーサーカー)のようだ。


 影巨人が第二波を放とうと拳を始動する間に、少女騎士は既に巨大な人影の足元に辿り着いていた。


 ここまで恐るべき敏捷力を見せていた彼女だが、次の攻撃は予想外だったのか、完全に捕らえられてしまう。


 巨大な影人間の身体のあちこちから、ハリネズミが針を立たせたように、鋭い氷柱(つらら)状のものを複数伸ばしてきたのだ。伸びてきた針は俺や紅栗先輩にまで届くほど。


 俺たちは距離があったので、目視から避けることが可能だったが、目の前で……しかも頭上から針が降り注いできたとなれば、少女は堪ったものではなかっただろう。


 全部避けるなんて不可能な距離と数……串刺しにされてしまえば、考えるまでもなく只では済まない――


 けれど、それだけの状況下であっても少女騎士は、敵に背を見せるどころか、驚くべきことに前へ進み出た。


 巨人の胸部へと向かって、地を蹴った。


 彼女をここまで駆り立てるものはいったい何なんだろう?


 ――いや、そんなの決まっている。


 彼女自身がさっき言ってたじゃないか。


『執行部を裏切り、兄様とゴルドバを死に追いやった罪……報いを受けるが良い』


 ――復讐が今の彼女の原動力なんだ。


 串刺しにしようと迫っていたはずの針が、宙に飛び上がった少女騎士の手前で全て弾き止められる……


 ――違う!


 針の先端が徐々に溶けていっているのか……その証拠に針は時間の経過と共に短くなっていっていく。


「そうか、これが逢花が言ってた彼女の能力【反魔法(アンチマジック)】か……」


 魔法・魔術の類を一切持って打ち消す力……魔女や能力持ち相手だと無敵と思われるほどに反則級な力。


 一方でグラヴェルの戦い方は、本来形なき影をさも実在するかのように形を与え、武器にする。影の中を行き来したりと汎用性も高そうだが、それらは全て能力ありきのものだ。


 つまり、彼女……エイルフィールにとってグラヴェルの能力はもちろん、戦い方までも完封出来てしまうほどに相性が良い。


 その考えに至ると、もうこの戦闘の結果は見えてくる。


 針が消滅を迎えると、勢いそのままに影巨人の胸元に到着した彼女を中心に、今度は巨人の身体が胸部から穴を空け始めた。


「まさか!? まさかまさかまさかまさかまさか!!!」


 最初は小さかった穴が大きく拡がっていく。


「我が身可愛さに自分だけ安全な場所に隠れて戦う……実に貴様らしい能力だわ……。おかげで元同団員だというのに、貴様を討つのに心がまるで痛まなくて済みます」


 金髪の騎士は穴に向かって剣を突き立てた。


 肉を突き刺す感触が掌に深まるにつれ、苦しげな声が漏れるが、構うことなく剣を奥へと突き進めていく。


 やがて穴は肩にまで伸び、腰にまで伸び……そして影を全て吹き飛ばしたのだった。


 纏っていた影を跡形もなく、巨人の存在と一緒に四散させた少女騎士の剣が、グラヴェルの胸を貫いていた。


「ぐへぇっ……!!」


 姿を問答無用に晒されたグラヴェルが、苦痛に顔を歪め吐血する。


「これで終わりです!!」


 剣を持つ手の上に残りの手を添え、刃を立たせる。そして一気に首に向かって斬り上げた。


 自由落下する身体と共にグラヴェルの断末魔が遠ざかっていく。


 先に地面に背中から落ちたグラヴェルから鈍い……何かが折れたような音が。


 一方で対象的に、その後を少女は綺麗に両足で着地してみせた。


 胸元から首の頸動脈までをバッサリ斬られ、背中の骨も折れたのか、体がくの字に曲がっている……確かめるまでもなく猫背だった男の息の音は止まっていた。


 それを見て、静かに愛剣を柄に戻す金髪の騎士。


 かつての部下をその手に掛けた少女の瞳には、もう怒りは窺い知れない。かと言って、仇を討てて喜んでいるのかと言えば、そうでもなく、どことなく俺には彼女が泣いているように見えた。



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