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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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第三十一話 光と影と姫

 早朝まで降っていた雨で、泥濘(ぬかる)んだ地面の土を覆うように雑草が広がる。逞しく空に向かって伸びている雑草のところどころが、まだ湿っており水滴が残っているのもちらほら。その上部1メートルほど浮いた場所の空間が裂け、俺たちは穴の中から落下することに。


 着地の際、態勢を崩してしまったが、尻から地面に着いてしまうという不格好な真似はどうにか回避できた。今日の地面のコンディションからして、もし尻餅をつこうものなら、手で払いきれない泥汚れがズボンにこびり付いていたに違いない。


 俺とは違い、紅栗先輩は難なく優雅に着地して見せる。


 見事にハメてくれた紅栗先輩に抗議の目を向ける俺に対して、先輩は舌をペロッと出して、お茶目な仕草をして見せた。


 複雑な気分だが、先輩の可愛らしい一面を見れたのは役得だったかもしれない。ただ、いつまでも和んでいる場合でもなければ、その時でもない。


 なぜなら目の前には、俺が予想していた小柄で猫背な中年男――マジョカル執行部であり聖教第十二師団No(ナンバー).3、グラヴェル・シールがいるからだ。


「これはこれは……まさかそのような移動手段で、私の前に現れるとは思いもしませんでしたぞ。それもダイヤモンドの姫と裏切り者が一緒とは」

「わたくしのこと、ご存知なら話が早いですわね。この度の執行部の行動は、ギフトが統括管理している土地……つまり、この学園への不法行為と見做されます……どう申し開くつもりですか? 返答次第では組織上層部への申告も辞さないつもりです」


 言葉はゆっくりと丁寧な物腰でいつも通りの先輩のように見えるが、内に秘めた怒りが鋭い眼光となってグラヴェルを射抜く。


 こんなふうに険しい表情を他人に見せる先輩を、俺は初めて見る。それだけ彼女も、今回の件を深刻に考えているのだと思う。


「んんん……困りましたねぇ。私は副団長の言いつけを守って、ここを訪れただけなので、詳しいことは副団長にお聞きしてもらいたいのですが。一介の団員では、高度な組織的問題に口出しするべきではないと思われますので」

「……師団長ではなく『副団長に』……ですか?」

「………………」


 敵である俺たち二人が目の前に突然現れた時でさえ、絶えず続けていたニヤけ顔。それが先輩の一言を聞いてから、グラヴェルの顔から笑みが消えた。真っ直ぐに紅栗先輩を睨む。


「正直、ギフトなんて実戦から離れた、ただのボンボン企業の集まりだと思っていたのですが……いやはや、やはりあなたは違う……恐ろしい人だ。……いったいどこまで『我々』のことを知っているのか……興味がありますねぇ…………」


 睨み付ける視線に殺気が生まれた。憎しみや怒りから沸き起こったものではなく、これは獲物を前にした蛇のような眼光……


 この男の表情を一転させてしまう何かを、紅栗先輩は知っているらしい。その事について聞いてみたい気持ちはあるが、その前に……


「よっと」

「瑞原君?」


 先輩に背中を見せる形で、俺は前に進み出た。


「俺がやります。先輩は下がっていてください」

「……その身体で戦えるのですか?」


 俺の今の状態は、差し詰め普段の40%といったところだろう。


 昨夜の戦いで使い過ぎたエネルギー操作による負荷が、今も俺の筋肉を痛みが蝕んでいる。それでも今日一日なるべく身体を休めていたので、これでもマシになった方だ。


「まぁ、なんとか。女の子を戦わせて、自分はその背中に隠れるなんて真似出来ないですし」

「男の子ですのね。今時は女性軽視や女性差別と言われるかもしれませんが……わたくしはそういう考え方嫌いじゃありませんよ」


 なんて答えて良いのかわからず、俺は自分の頬を人差し指の先でポリポリ掻いた。


「まぁ、ぶっちゃけ、あいつが相手限定ですが、今の俺でもやれると思うんで」

「……そうですわね」


 照れ隠しでもなければ強がりで言った訳でもない。俺にはそう言う根拠があった。驚いたことに、あっさり俺の言葉を肯定したところを見ると、先輩は俺の意図に気付いたのかもしれない。


 恐ろしい先輩だ。


 逆に俺と対峙している猫背の中年は気づいていないらしい。その証拠に……


「やれるというのは私のことですか? 私も随分舐められたものだ……新人にここまで言われるなんてねぇ」

「新人なんかじゃないさ。俺はもうマジョカルを抜けたんだ。今の俺は、自分の意志で戦うし、守りたいものを守るだけだ。マジョカルにいたら、それも叶わない」

「若僧が……それを舐めていると言ってるんでしょうがぁぁぁっっ!!!」


 グラヴェルの足下の影が勢い良く、俺に向かって伸びてくる。


 影を操るグラヴェルの能力は、昨日の神社襲撃の際にも見たし、実際に戦った逢花からも聞いている。影を触手状にし相手を縛ったり、棘状にして刺突武器のように影から標的を串刺しにする。どちらも影の中からアクションを起こしている。


 予め知っていた情報から、この影に近寄られるのは不味いし、触れられるのは論外だ。よって、ここは回避するのが定石なのだろうが、こと俺に限ってはそれは正攻法とは限らない。


 右の握り拳を胸の高さにまで上げ、左手を手首に添える。


 全身の体内エネルギーの流動を意識する。


 ――両足のエネルギーは……もしもの時の回避行動が出来るだけのエネルギーは残しておかなければならない……80%残し、残り20%は右拳へ――


 ――腹部周りは……今は不意の攻撃に回避で対応するつもりなので、防御力は無くても良い……100%を右拳へ。


 ――胸部も腹部と同じ扱いで良いだろう。


 ――左腕は? ここも今はまったく必要ない。


 ――右腕の手首より下の部分も丸々必要ない。


 ――肩は?


 ――首は?


 ――頭は?


 必要な部分、不必要な部分とをエネルギーの分配をコントロールすることで、血管を通して、熱く力強いエネルギーが一箇所に移動していく流れを感じ取る。


 迫り来る影に対し、俺が取る行動は……


「【光拳ラ・ヴォルト】!!!!」


 右拳に集まった体内エネルギーが強く発光を始めた。


 本来の破壊力を高めるために力を溜めるのとは違い、光を強く大きく広げることを意識した拳を中心に、光が影を呑み込んでいく。


「なにぃ!?」


 グラヴェルが俺に放った影は、あっけなく光に呑み込まれ消滅した。


「光のあるところに影は生まれない……正確には少なからず影は存在するんだろうけど、それじゃあ、あんたの本来の力は発揮出来ないだろ? 筋肉達磨(だるま)兄弟や他の団員が相手じゃなくて良かった……。相手があんたなら、今の状態の俺でも戦える!!」

「……私があの低脳で馬鹿なゴルドバやギルガに劣ると言うのですか……!? ……言うに事欠いて……こ……この、糞ガキがぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 わざわざ言わなくても良いのに、敢えて挑発するように言った俺に、グラヴェルは期待以上に怒りで自分を見失った様子。


 俺を新人と侮っている節があったし、こうなることは予想できた。


 一瞬でも良い。


 奴の思考力を奪うことが目的だ。


 なぜなら思考が鈍れば、隙も出来る。


 チャンスはすぐにやってきた――――


 一瞬だった、俺の高速移動技【閃瞬ラ・ヴァーナ】の動きに、グラヴェルは反応すら出来ずに立ち尽くす。


「動くなよ……取ったぜ、背後」



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