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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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第二十九話 困難な魔力感知

 神名学園の本校舎は三年前に建てられたものなので、まだまだ新しい。


 以前、水葉が言っていたが、ある生徒が入学するのに合わせて、現在の本校舎を新築したとか。それが本当なら、とんでもない金持ちが入学してきたのではなかろうか。


 ――と、当時は思ったが、今の俺には一人思い当たる人物がいる。


 この学園の生徒会長で、俺より一つ上の先輩……紅栗瀬里菜である。


 彼女の祖父はククリ・コーポレーションを経営する社長であり、彼女自身も社内では有力な役職を持つらしい。


 表の経歴も立派なのだが、裏ではマジョカルと独占取引をしている複業企業連盟ギフトで若くして幹部を務めるほどの才覚までも発揮してると言うのだから大したものだ。


 これで俺と一つしか歳が変わらないというのが驚きである。


 そのため俺は、新校舎建設の切っ掛けを作ったのは、紅栗先輩に違いないと確信していた。


 前からあった木製造りの本校舎だった所は、今は分校舎となった。たまに授業で使われることもあるが、概ね物置のような役割へと変わったらしい。


 未だに目立った汚れの見えない、まだまだ新築の本校舎屋上――


 そんな最隅にある落下防止避けの柵越しに見える昼間の運動場を、俺は最上階から今眺めている。


 急いでるはずなのに、何故か運動場で立ち止まったままの逢花を本当は見ているわけだが。


「何やってるんだ、逢花の奴? 水葉を助けに行ったはずなのに、あんなところでいつまでも立ち止まって……」


 見る人が見れば、俺にも俺自身が今さっき言った言葉を投げられるかもしれない。


 なんせ、いつもなら水葉が危機に陥れば目の色が変わる逢花が、動かなくなったのだ。気にもなるというもの。


「何かあったのか……?」


 疑問はだんだん不安へと変わっていく。


 けれど今は、逢花の心配よりも、まずは水葉の身の安全をどうにかするのが先決で。


「さて……どうしたものか……。逢花の動きも予想外だったけど、俺の方の当ても外れてるかもしれないんだよなぁ……」


(昨日の今日だから、執行部がまた来たと思って、学校全体を見渡せる屋上まで来たは良いけど……執行部なら、たった一人で乗り込んでくる訳がない……。こっちには逢花がいるんだ。逢花の実力はあいつらも十分に分かったはずだ。なんせ、一人でどうにか出来るような相手じゃないからな、逢花は――)


「いや……分かったのは俺も一緒か」


 昨夜、逢花が執行部の副団長との戦いに勝利したという話を聞いた時にはびっくりした。


 副団長クラスといえば、能力により強さに多少の差異はあるが、Aランク以上あるとされている。軍隊とも一人で渡り合えると言われているランクだ。


 マジョカルの治安維持統制部隊として戦闘事に欠かない執行部の副団長ともなれば、他の副団長よりさらにランクは高いかもしれない。


 逢花はそんな相手を前にしても、見事に勝利してのけた。


 何度か側で逢花が戦っている姿を見たし、稽古に付き合ってもらい、規格外の強さを直接肌で感じたこともある。彼女の強さを今更疑う訳ではなかったのだが……


 それでも執行部副団長すら退けるほどとは、俺は思っていなかったのだ。彼女の力を俺は見誤っていたことになる。


 それゆえ水葉を助けに行くのは、逢花一人で事足りると判断したのだった。


 今の逢花を止めようと思ったら、団長クラスでもなければ無理に違いない。そして団長が動く時というのは、災害級の任務や災難に立ち向かう時だと、俺がまだマジョカルに所属していた時に聞いたことだ。


 そんなもの、この辺境の孤島にある訳もなく……


 そういう経緯で、水葉のことは逢花に任せて、俺は学校で一番高い場所である屋上から、残りの敵がいないか探ろうとしたわけだが……


「見える範囲で変わったところは特に無し……か…………。これはあんまり得意じゃないんだけど、いっちょやってみるか……」


 両瞼を閉じて、静寂に身を任せる――




 …………


 ……が、水葉のことが気になり集中を欠いていたことに気付く羽目となった。


(ふ~……思ってたより焦ってるな、俺……急がないといけないっていうのに……!)


 集中できない理由を頭の中で言っておきながら、急く気持ちを抑えきれない自分に苛立たしさが募るばかりだ。そして、それが悪い方へと働いていってるのも分かりながらも止められないでいた。


 魔力感知……本来なら魔力を使う魔女なんかを探す時に使う手なのだが、実はマジョカルの持つ能力持ちの武具からも微量ながら魔力を感じることができたりする。一応、霊力も感じはするが、魔力ほどはっきりとした存在を知り得ることはできない。


 屋上に行くことを選んだのは、何も目視するためだけではなく、むしろ目視で分からなかった時を見据えての行動だ。


 目に映る景色を実際にその目で見た方が、イメージを固めやすい。その分、感知・探査系は成功率を大きく上げる。


(少し落ち着こう……)


 こういう時の定番、大きく深呼吸を繰り返す。


 次いで、静かに両瞼を落とした。


 ――意識をここではない、遠く離れた場所へ飛ぶよう、イメージを頭の中で広げていく。


 ここからそう離れていない……校舎裏に大きく伸びた広葉樹の生え並ぶ一帯がある。視界は木々を潜り抜け、落ち葉が絨毯のように地面に広がった先を進む。奥へ奥へと進んでいくうちに、木に寄り添うように存在する、淡く輝きを放つ赤い光体を見つけることができた。


 赤い輝きは魔力の発生源であり、輝きが強ければ強いほど魔力が高い。ちなみに霊力は青い輝きを放つ。


「よし! 見つけた!!」


 感知を行う前は、予想を外したんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていたので、周りに誰もいないということもあり、俺は自然と言葉に感情を乗せた。


 本当は気配を上手く消した者が側にいたにも関わらず。


「覗きはいけませんよ?」

「ぬおっ!! ……く、紅栗先輩!?」


 不意に後ろから声を掛けられ、初めて気付いたが、いつの間にか俺のすぐ側に紅栗先輩が。その顔は、相手を驚かすのに成功した子供のようにしてやったりといった表情をしている。


 ……意外とこの人、お茶目なところがあったようで。


「覗きなんて、やった覚えないんですけど……?」

「あらあら。わたくしはてっきり、着替え中の女子を求めて、屋上から探されているのかと」


 とんでもないことを言ってる……。


 まぁ、最初から隠す気もないのか、顔がニヤニヤしっ放しで、冗談で言っているのがバレバレな訳だが。


「そんな度胸があれば、今頃、俺にも彼女がいたかもしれませんけどね」


 先輩の冗談に対して、俺も冗談で返した。


 ……はずだったのだが……あれ? 思いの外、先輩が驚いているように見える。


「意外ですわね。お付き合いしている方はいないのですか?」

「うん……まぁ……」


 第一波を冗談で返した余裕はどこへいったのやら……今度は冗談ではなく、真顔で聞いてくる先輩に対して、俺の顔が熱を帯びる。色恋沙汰に疎い俺は呆気なく第二波で沈むこととなった。つい伏し目がちになってしまう。


「てっきり、逢花さんか音羽さんと恋仲なのかと思ってました」


 背中に寒気のようなものが駆けていく――


 別に二人が嫌という訳ではなくて、二人の反応を想像してのことだ。


「え~と……くれぐれも二人の前でその話をしないでいてもらえると助かるんだけど……。俺の命が縮むことになりそうなもんで……」


 逢花はともかく、水葉に聞かれようものなら、平手どころか鉄拳が飛んで来かねない。


「……でしたら、お願いを聞いてくれたら内緒にしてあげますわ」


 さっきまでの何かを企んでいる顔から、今度は何故か嬉しそうな表情を先輩が見せてくれる。


 逢花や水葉もそうだが、こういう時の女子は何を考えているのか、俺にはまったく理解できない。


 それでも俺は先輩に話を先に促してみた。


「お願いというのは、先ほど瑞原さんが行っていた『魔力感知』をもう一度してもらいたいのですわ」


(今、この人サラッと魔力感知って……やっぱり気付いてたんじゃないか!)


 不満タラタラな目で先輩を見る俺に、どうして俺がそうするかに彼女も気付いたようで、先輩は苦笑いして見せた。


「コホン。……瑞原さんも敵は一人ではないとお考えでここに来たのでしょう?」


 咳払い一つして本題に入る薄桃の髪の少女の言葉に、俺は先程までのくだけた感じから気を引き締め直して、そっと頷いた。


「学園内に侵入した敵の数は一人……これはわたくしが能力で確認したので間違いないですわ。ですが、さっきも言った通り、一人だけで攻め込んで来るとは思えません。それほど遠くない場所に潜んでいると思われるのです」

「ああ、俺もその考えに賛成だ」


 俺は校舎裏にそびえる木々の密集地帯を指で指し示した。


「どうやら、あの森の中にいるらしい」

「なるほど。やはりそうですか……」


 驚く様子がまるでないところを見ると、天才少女と噂されているのは伊達ではないらしく、学園外の敵の居場所を既に目星つけていたようだ。


「先輩、悪いんだけど先に俺を……」

「音羽さんなら、もう大丈夫ですわよ。気を失っているので保健室に運んでおきました。怪我も大したことないのでご心配なく」


 水葉のいる分校舎三階に、先輩の能力で先に俺を運んで欲しい……と言うより早く、見事に俺の知りたかった答えが返ってきた。


「となると、後は森にいる奴か。……急いだ方が良いな。水葉のところにいた奴が失敗したことが知れたら、逃げられるかもしれない」


 逃げるだけなら、まだ良いが、開き直られると面倒だ。そういう奴は何をしでかすか分からない。


 そして、そういうことをしそうな奴が、昨夜の神社にいたことを俺は忘れてはいない。


「ええ。そこで先ほどのお願いなのですが……わたくしと一緒に来てもらえませんか? 実はわたくし、魔力感知がひどく苦手でして……わたくし一人では森の中に移動したは良いものの、感知が出来ず、探し回る羽目になりそうなもので」

「ん? でも、さっき学園内に侵入した敵の数は一人って……? 魔力感知が苦手でアテにならないのに、どうやって分かったんです?」

「アテにならないって、わたくし、そこまでは言っておりませんわよ。頑張れば、ほんの周囲2メートルほどなら感知できます!」


(たったの2メートル……それって感知系としてはダメダメって言ってるようなものなんじゃ……)


 無い胸を前に突き出し、両手を腰の横に充てがう。その姿に「えっへん」という言葉が、いかにも先輩の頭上に現れそうなポーズだと俺は脳内で勝手にイメージした。


 あくまで想像するだけ。


 間違ってもダメダメなことと、無い胸のことは口にはしない。


 まぁ、後者は俺の周りによくいる女子……主に逢花と水葉なんだが、その二人があまりにも豊満なものをお持ちなおかげで、俺の女子に対するバストの水準が高くなっている恐れがあるが。


 とりあえず、彼女が言う通り、魔力感知が苦手なのはよくわかった。


「……俺も今の体調であそこまで行くのは正直キツかったので、連れて行ってもらえると助かります」


 お互いの利害が一致したところで、早速行動した方が良い。先輩もそれは理解しているらしく、俺が何も言わなくとも、彼女はどこからともなく、両手で銀色の錫杖を出現させた。


 コンクリートで出来た地面を一度叩くと乾いた音と共に、空間に縦向きにヒビが入り始める。やがて、すぐに細かく伸びたヒビが、ペンキの色が剥がれ落ちるかのようにパラパラと崩れ落ちた。


 剥がれ落ちた空間の先に見えるのは、次元と次元を繋ぎ行き来できると言われる道……なんてものは無く、ただひたすらに真っ暗な闇が広がっているだけ。闇の中で何かが蠢いているような気配すらある。まるで闇そのものに命が宿っているかのような……けれど、視認することは出来ない。不気味な印象を俺に植え付けさせた。


「……え~と……これに入るんですよね?」


 先の見えない未知の穴に飛び込むことを躊躇う俺は、分かりきったことなのに聞かずにはいられなかった。そんな俺の思いを知ってか知らずか、紅栗先輩が制止を呼び掛ける。


「お待ちを。先ずは入る前に、わたくしに捕まってくださいな。わたくしが作り出した空間なので、わたくしと一緒でなければ大変な目に遭いますわよ?」


 異次元に入るのは初体験となる俺は、先輩の言葉に自分でもわかるほどに顔を引きつらせた。


「大変って、例えばどんな……?」

「闇に身体を持って行かれます。わかりやすく言うと……食べられるような感じでしょうか? まぁ……わたくしも経験はありませんので、想像の域を出ませんが。ですが、わたくしとどこかしらでも触れてさえいれば、それはわたくしの身体の一部と見做されますので襲われたりません。安心してくださいな」


 先輩に触れていない場合の結果は、想像ということで、まだ先輩自身も試したことがないらしい。だからといって、自分の身を犠牲にしてまで、彼女の想像を『彼女が体験した』ことに昇華し初体験をプレゼントしようとは思わないが。


「わかった。じゃあ、失礼して……えと、手を握らせてもらえたら良いのかな?」


 何気なく言ったつもりだったのに、こんな場合でも、女の子と手を握るという、普段ではありえないシチュエーションに胸の動悸が大きくなるのがわかった。


 逢花や水葉たちと共に生活するようになって、少しはこういうところ改善されたと思っていただけに、自分の情けなさに肩を落としたい気分だ。


「移動するだけなら、それで構わないのですが……」


 今まで俺の目を真っ直ぐ見て話していた先輩が、気まずそうに顔を反らす。何故か恥ずかしそうに耳まで赤く染めている。


「瑞原さんには魔力感知をして頂くのですが、ゲートの中では距離感が掴めないと思います。そこで、その役はわたくしが行いますわ。瑞原さんと感覚を共有することで可能となるのですが、そのためには、その……」


 何を気にしているのか歯切れが悪い。


「もし、俺の身を案じてくれてるなら気にしなくて良い。別に命を取られるって訳じゃないんだし?」

「ええ、まぁ…………」


 今度は恨めしそうに、こちらの顔を覗いてきた。


「……魔力や霊力、能力の類は術者と他者との距離が近ければ近いほど共感しやすいのですわ。……つまり、お互い触れ合えるほどの距離ならば、効果は最大限に発揮されます。そして今回求められるのがまさに……」


 そこまで言ってもらえれば、さすがに俺でもわかる。


「そういうことですので、ゲートの中では後ろからしっかり掴まっていてくださいな」


(なにぃぃぃ~~~~~っっっ!!!!?)


 手を握ろうとした時とは、比較にならないほどの激しい動悸が俺を襲った。



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