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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×マジョカル ~第三章 情勢変異~
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第二十四話 魔女再誕

 深い深い海の底に沈んでいく感覚――


 感覚と言うのは、言葉通りの海の中にいるのではなく、そのことに音羽水葉は気付いていたからだ。気付いた理由は簡単……海の中ででも息が出来たから。


「これは……夢? ……そう。これはきっと夢ね」


 口にしてみてわかったが、水が喉を通る感じもなければ、その存在が身体に触れている感覚すら無い。けれど目に映るのは辺り一面の水に、自分が沈んでいく時に生まれた水泡だけ。


「きゃっ!! どうして裸なのよ、私!?」


 自身の身体を見て初めて自分が裸でいたことを知る。大慌てで両手で白く豊満な胸を覆い隠し、大事な部分を両足を閉じて折り曲げることで隠す。誰かが周りにいるわけでもないのに、顔を赤面させて。


「久々に視覚したけど、相変わらず私の宿り主様は、初々しい態度に似合わずナイスバディね」

「誰!?」


 不意に聞こえてきた言葉に、増々頬の赤みを深めながらも、水葉は反射的に声のした方に顔を向けた。


 自分と同じように一糸纏わぬ姿なのだが、水葉と違い、惜しげもなく肌を隠そうとせずに堂々としている少女が、いつの間にか自分を見ていた。


 その姿を見て、すぐに水葉はぎょっとする。


「え!? ……どういうこと? ……私が……いる?」


 足も、腰も、胸も、腕も、そのどれもが見覚えのあるパーツ……決定的なのが顔までもがまったく同じ。よく似ているとかそういった問題ではない。


 まるで双子のようだが、それも違う。水葉には姉が一人いるが双子でもなく、実の姉と自分を比べても、血の繋がった姉妹なので当然似てはいるのだが、ここまで似ているとは思えない。


 目の前の存在は、似ているというよりも外見上は同一にしか見えないのだ。


 それゆえ、女同士とはいえ恥ずかしげもなく肌を隠そうとしない態度に、まるで自分がそうしてるように思えて、水葉の方が逆に恥ずかしく思えた。自分の胸を隠す腕に力が入る。


「くす。驚いた? よく似ているでしょう?」

「あなた……いったい誰なの!? ううん、それよりも……早く胸を隠しなさい!!! 私の姿で慎みのない真似は止めなさい!!!」

「……ぷ。くく……あはははっ!! この状況で()ず裸を気にするのかい? 処女だとは思ってたけど、清純潔癖もここまでくると彼氏もできないよ?」

「~~~~~~!! うるさい!!!」


 気にしてることを言われて、思わず声を荒げてしまう水葉を愉しげに眺めている、もう一人の水葉。その姿は見た目は同じでも、やはり性格は自分と別人なんだと水葉は思わざるを得なかった。


「で……あなたはいったい何者なのよ?」

「何者って……う~ん……そうねぇ……これでもわからない?」

「…………きゃっ!!」


 どこから現れたのか、蔦が素足の下から上へと向かって白い肌を走る。近付いてくる蔦の動きを確認しようと下を向いた時に気付いたが、見えない底から蔦が幾つも水葉に向かって伸びてきていた。

 

「ちょっ!! ちょっとちょっと!! どこ触って……ん!!」

「あら。恥ずかしそうにしてたから、せっかく大事なところを隠してあげようと思ったのに」

「もう少しマシなものはないの!? 蔦でグルグルに巻いただけじゃないの!!」


 一見するとビキニのような姿なのだが、水葉の言う通り胸周りと腰下を蔦で幾重にも巻いただけで、これはこれで淫靡さが増したように思え、恥ずかしさに拍車が掛かる。


「でも、これで私が誰なのか想像できたんじゃない?」

「……ええ。そうね……。……あなたが逢花が話していた人なのね……」

「そうよ。あなたに名乗るのは初めてだったわね。今まではあなたの意識が無い時にしか、私は表に出てこれなかったから当然といえば当然だけど……。魔女名は『新緑』……覚えておいてね」


 つい一ヶ月ほど前、水葉の肉体の所有権を巡って、逢花が戦った魔女が『新緑の魔女』だと後に水葉は逢花と薙斗に聞いた。戦いの末、水葉の肉体から精神が切り離され、消滅したはずの相手……それがどういうわけか、今ここに存在している。


「さっきまで私は学校にいたはずなんだけど……これは夢なのかしら?」


 質問者と同じ身体を持った魔女が頭を振る。


「夢じゃないわよ。もちろん、私は幽霊でもないしね。……あなたのお友達との戦いで確かに私も消されたと思ったわ……。でもね……何年もあなたと同じ身体を私も共有してきたのよ……。精神が霊的に肉体と癒着していたらしいわ……。だから、完全に消されなかったというわけ。私も誤算だったんだけどね……。肉体から精神を切り離すというのは、予想以上に難しかったということよ」

「……なら、また私の身体を乗っ取ろうとする気!?」


 水葉の心の中に緊張が走る。


「まぁ、確かに身体を再び得たいとは思うけど、あなたのお友達に精神のほとんどを消滅させられたからね。回復まで時間がかかるのよ。今の精神力じゃ、とてもじゃないけど10分ぐらいしか動けそうにないわ。……だけど10分あれば、外のやつを倒せると思わない?」

「外のやつ?」

「この空間の外のやつよ。さっきまで、あなた、そいつに襲われていたじゃない?」

「…………私と入れ替わって、あのマジョカルの男と戦うっていうの!?」


 得心したと思った魔女が満面の笑みを浮かべる。


「ええ、そうよ。正直、今、あなたに死なれてもらっては困るもの。だから特別に手伝ってあげる。もちろん、終わった後は肉体をあなたに返すわ」

「……それを信用しろというの!?」

「信じられないのも無理はないけど…………私たち魔女のほとんどは、マジョカルに多大な恨みがあるの……。故郷を追われ、家族を奪われ、親友を殺され……マジョカルを殺せるのならなんだってするわ!!」


 余裕のあった魔女の表情に、初めてはっきりとした強い意思のようなものが表に出たのを水葉は見逃さなかった。


 そっと自分の首筋に水葉は掌を充てがう。


 そして思い出す……首筋から頭への痛みを感じた時、いつもどういう状況だったかを――


(そうか……そういうことだったのね……。時折感じていた首筋から頭への痛み……それは彼女がマジョカルに反応していたからだったんだわ……。)


 最初に痛みを感じたのは、逢花が執行部の少女騎士エイルフィールと戦っているのを離れて見ていた時。次は、ラブレターを装った、さっきまで水葉を襲っていたレン・オルティブの誘いで分校舎に来た時。そして、まんまと騙された水葉は襲われている最中にも頭に痛みを感じた。それらを水葉は頭の中に思い浮かべる。


(多分、彼女の言ってることに嘘はない……と思う)


「…………知っているでしょうけど、私には親友がいるわ……逢花っていうの」

「…………ええ、知っているわ」

「あなたにも…………そういう人はいた?」

「………………かつてはね…………」


(……私と同じ顔で、なんて顔してるのよ…………)


 実年齢はそうではないのだろうが、今にも泣き出しそうなのを必死に堪えている姿が、まるで容姿通りの年齢に水葉は思えてしまう。胸が痛くなるほどヒシヒシと彼女の孤独を感じてしまう。


「あなたの名前は?」

「新緑の魔女……」

「違う……あなたの本当の名前」

「…………イスカ……イスカよ」


 そう……と一言だけ漏らし、水葉は両目を瞑って大きく息を吸い込む。そして、次の言葉と共に肺に溜め込んだ息を吐き出した。


「イスカ!! 10分だけ時間をあげる! 良い!? 10分だけよ!? だから、マジョカルをやっつけてきなさい!!」

「呆れた子ね……助けるのは私の方だというのに」

「暴れてきなさい、イスカ!! ……あっ! でも人殺しはダメよ? 私、十代のうちから警察のお世話になんてなりたくないもの」


 きょとんとした、呆れと驚きが混じった顔をするイスカ。


 すぐに笑みを見せ、先程までの余裕のあった表情を取り戻す。それを見た水葉の顔にも同じような笑みが。両者真っ直ぐに見つめ合う。


「…………契約成立ね」


 水葉の確認の言葉に、静かにイスカは首の動きで肯定の意を示した。






 二人の持つ色を除けば、白黒しか色の存在しない空間――灰色の世界(グリモア・シェール)の侵食が進んだ教室内で、レン・オルティブは信じられないものを目の当たりにしていた。


「どういうことです!? ただの小娘だったはず……!?」


 さっきまで、ろくな抵抗もできずに逃げ回るだけだった少女から、迸る魔力の奔流が生まれる。高まる魔力から吹きつける風がレンの顔を叩きつけた。


 少女の黒い髪の付け根から先までが、瞬く間に淡い紅色へと変貌していく。


 髪の色が完全に桜色に染め終わった時、魔力の奔流は収まった。


「…………どうして、あなたがここに……!?」


 黒髪から桜色の髪へと変わった少女は答えず、ポニーテールにするために結んでいた髪紐を解いた。代わりに不敵な笑みを見せる。


 今、ここに『新緑の魔女』イスカが現世に復活したのだった――



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