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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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エピローグ 過去と現在の会合

 灰色の世界での魔女との激闘から四日後の月曜日。


 魔女との戦いがあったのは木曜。次の日は皆で学校を休んだので、うちの高校は土曜休みということから、学校へ来るのは久々だ。とは言ったものの、俺……瑞原薙斗にとっては学園生活が始まって、まだ一日しか行っていなかったので久々と言うのもちょっと違うかもしれないが。まだまだ俺にとっては学園生活は憧れのままの新鮮そのものだった。


 そして今は学校で最も長い休憩時間である昼休みに入って、まだ五分も経っていない。学園の屋上に俺はある人物と待ち合わせをしているので、階段を上って向かっている最中である。


 待ち合わせの人物というのは、学園生活でよく耳にする、屋上に異性を呼び出し、その人に自分の思いの丈をぶつけるという定番であり憧れのシチュエーションとは残念ながらかけ離れた人物とだ。つまるところ『男』である。



「……先輩、まだ来ないのかなぁ……」


 屋上端の金網越しに地上のグラウンドに視線を向けている待ち人の後ろ姿を発見。まだこちらに気付いていないようだ。それもそのはず……なにせ今、俺は気配を極力消しているのだから。


 気付かれるギリギリのところまで距離を縮めるべく静かに歩く。


 そして目的の位置まで辿り着いた俺は心の中で――――――


(【閃瞬(ラ・ヴァーナ)】!!)


 名前の如く閃光のような速さで俺は背後から待ち人の首に狙いを定めて掴みにかかった。


「!!」


 完全な不意打ち。


 今頃、俺の利き手の中には待ち人である『倉敷雅』の喉元が収まっている…………そのはずだった。


 俺が今、掴んでいるのは倉敷が咄嗟に身を守る時に差し出した左腕。


「……先輩……どういうことさ?」


 以前見た倉敷が俺を見る目と今とでは眼光がまるで違う。この目は戦う術を知っている者の眼差しに他ならない。


「…………やっぱりな」


 人生初めての通学時に倉敷と会った時、本人は気付かれないようにしてたかもしれないが去り際時にほんの僅かに見せた、何かを企てている者が相手を利用しようする時によく浮かべる口元の動きにその視線…………忘れるはずがない……かつてレンが見せたものとよく似ていたのだ。


 倉敷からすれば、油断とも言えないような些細な隙だったかもしれない。けれど相貌失認であることを隠し続けるために俺が身に付けた対人観察能力はそれを見逃さなかった。


 思えば、この時から俺たちは彼の掌で動かされていたのかもしれない。


「今の動き、ただの一般人は防ぐどころか、気付くことすらなく喉元をやられてたぜ?」


 一応、本当に一般人だった時のことも考えて加減はしてたので、途中で止めることもできたのだが。


「……ふ~ん。意外と先輩鋭いんだね。ちょっと油断してたかな」


「お前と初めて会った時からなんか怪しいとは思ってたさ。そしたら俺たちの周りで非日常とは異なることが相次いで起こった。思えば烏の話をした時、俺たちをあの孤児院のある林に向かうように言ったのは倉敷だったよな?」


 掴んでいた倉敷の腕を俺は離した。痛そうに掴まれていた腕を擦りだす倉敷は怒るわけでもなく、どこか安心したような表情を見せたのが俺には気になるが、今は記憶の隅に追いやることにした。


「あ~あ……痣になったらどうするのさ、先輩。バカ力なんだから……」


 倉敷の抗議の声を無視して、俺はズボンのポケットから自分のスマホを敢えて見せつけるために取り出した。


「考えてみたら俺のスマホって、組織からもらったやつだったってこと忘れてたよ。組織がわざわざ支給してくれた時はラッキー程度にしか思ってなかったけどさ。『魔女術探査アプリ』……あれを使えるようにしてくれたのも、お前なんだろ? 俺の予想が正しければ、お前は俺と同じ……いや、元同じと言った方が良いか」


 後ろをクルッと向けて再びグラウンドに視線を戻す倉敷。後ろがガラ空きのこの状況は俺に敵意がないのを感じ取ってのことだろう。……もしくは何かを感じて、俺に攻撃されることを自ら望んでいるのか。


「……そこまで気付いてるなら良いよ、教えてあげる。……先輩の言う通り、僕は『マジョカル』だよ。先輩と違って戦闘は専門外だけどね。『諜報部神名島管轄取締役』……それが僕が組織から与えられた役割だよ」


 諜報部のことは俺も組織にいたので知っている。魔女に関する調査&報告活動に重きを置いている部隊のはずだ。そしてこの部隊は総じて、あまり戦闘能力が高くない。


「だから俺たちが戦うように仕向けたのか?」

「まぁね。僕の力じゃ悔しいけど、あの魔女には敵わなかったからね。先輩たちにはお礼を言わないといけないかな?」

「別に礼なんか求めてないよ。それなら最初から、こんな回りくどいことせずに俺たちに話してた方が良くなかったか?」

「……そうなんだけどね。ま、こっちにも事情がいろいろあると思ってよ、先輩」

「…………本部に応援を頼むこともできない理由……か」


 背中からでも倉敷の身が強張るのがわかった。


 俺は彼がそうなる理由に実は目星を付けている。倉敷がなぜこんな手間のかかる方法を取ったかも、俺たちに知られないように裏で動くに留まっていたのかも。理由は『彼女』しか考えられなかった。


 今、倉敷が隙だらけで背中を見せているのも、実は俺に裁いて欲しいからなのかもしれない。理由はどうあれ俺たちを利用した罪の意識の現れなのだと思う。


 俺はマジョカルのやり方についてはいけなかった、言わば裏切り者であって、倉敷は現役のマジョカル…………本当なら俺たちはいつ敵対してもなんらおかしくない。そんな立場であっても倉敷は誰に助けを求めるでもなく俺たちを頼った。形式的には利用したと言われるものかもしれない……けれど、それが大切なものを守るためだとしたら、どうして責めれようか。俺にはとてもじゃないけど無理だ……大切なものを失う気持ちを俺は痛いほどよく知っている。


 だから俺は敢えて、これ以上は聞かないことにした。


 その代わりに行動で示すことにする――――


「そろそろ時間かな」


 怪訝そうにこちらを振り向く倉敷に、俺は前を見るようにと指で合図する。


「その先、かなり奥の方だけど……見える?」

「…………あれは音羽先輩と……逢花先輩? ただ、昼食を二人で食べるだけじゃ……」


 そこで倉敷の目には他の女の子が視線に入ったのだろう。もちろん俺も倉敷も知っているはずの女の子。


「どうして、あの子がここに…………」


 いつもクールに少し人を小馬鹿にしたような印象を受ける倉敷が、金網を両手で握りしめ、少しでも遠くを見えるようにと金網ギリギリまで顔を近付ける。その様子はびっくりするほど動揺しているのが窺い知れる。ここまで我を忘れるほどに今、瞳に映る子は倉敷にとって大切な存在なのだと。


「ここの学校って小中高一貫の学校なんだってな。俺たちが学校に行ってる間、預かってる子を一人神社に置いとくわけにもいかないし、年齢的にも小学校に行ってても可笑しくないだろ? だから早速、今日学校で手続きをしてきたところなんだよ」

「……小学校?」

「ああ。これでいつでも会いたい時に……しゃべりたくなったら話すこともできるしな」


 勢い良く後ろにいる俺に振り返り驚いた顔を見せる。そんな後輩に俺は気付かないフリをして今度はこちらが倉敷に背中を見せた。


「そう言えば、今日は逢花と水葉があの子と弁当食べるって言ってたんだけど、俺もお呼ばれしてたんだった。せっかくだし、倉敷も一緒にどうだ?」

「……ナギ……先輩」


 ちょっと演技くさかったかな?


「…………せっかくのナギ先輩のお誘いだし仕方ないか。一旦教室に戻ってから行くから、先に行っててよ」

「ああ、わかった。なるべく急げよ。……あ、そうだ!」

「……なに?」

「その子の名前……『八桜(やざくら)珠々香(すずか)』って言うんだ。仲良くしてやってくれ」


 そう言って返事を聞くこともなく、廊下に通じる扉のドアノブに手をかけた俺は倉敷の姿を一目視線で追った後、この場から立ち去ることにした。



「…………知ってるよ。……お節介すぎでしょ、先輩……」


 屋上に誰も居なくなったのを確認すると、倉敷雅は顔を上げた。ゆっくりと風に流されところどころ空に漂う雲が動いている。


 いつの間にか眼鏡は曇っており、空を眺めたところで見えはしないのだが、感泣極まった顔を少しでも人から遠ざけたいという態度の現れだろうか。



「……あ~あ…………先輩たちとはあんまり関わらない方向でいくつもりだったのになぁ……予定が狂っちゃったよ、まったく…………」


 悪態をつくものの、それが必ずしも本心とは限らない。その証拠に今まで散々苦悩してきた倉敷雅の表情は、今では腫れ物が取れたかのように清々しい。


 眼鏡を元の位置に戻すとグラウンドを横断し、皆がこれから昼食を取るべく集まっている場所へ向かう瑞原薙斗の姿を見つけた。


「僕に関わった以上、借りは絶対に返すからね、先輩。……覚悟しててよ」




「あ! 来た来た! 遅いわよ、倉敷君!」


 校内のグラウンドから少し離れたベンチが多数ある庭の芝生に敷物を敷いて、俺たちはこれから食べる弁当を目の前にして、今か今かと倉敷を待ち続けていた。餌を目の前にお預けをされた犬の気分だと言ったら水葉辺りに怒られそうなので、俺は喉元まで出ていた言葉をグッと飲み込むことに成功する。


 そんなことを考えているところで、倉敷がようやく来たようでそれにいち早く気付いた水葉が声を掛けた。


 これで珠々香、水葉、逢花……そして俺に倉敷と、五人揃ったことになる。


「え……と、お待たせ。……と言うか、先輩たち先に食べてなかったの?」

「それはそうですよ。皆で食べた方が美味しいんですから。ね~」

「ね~」


 二人が初めて出会った時もそうだったが、相変わらず逢花と珠々香は仲が良い。


「それじゃあ、珠々香ちゃん、このお兄ちゃんに挨拶しましょうか」


 は~い! と素直で元気いっぱいに返事をした珠々香は、倉敷の正面に身体ごと向けた。



 そして二人の挨拶が始まる。


 お互い初々しく、言葉が初めて交わった瞬間――――



 逢花と水葉には既に俺から倉敷と珠々香のことは伝えてある。珠々香の方は倉敷のことを知らないふうな感じだったので特に何も伝えていないが、今はそれで良いと思う。それを伝えるのは俺でも逢花でも水葉でもない……倉敷雅の役目だ。


 いつかは倉敷と珠々香の関係を話さないといけない時が必ず来るはず。けれど決めるのは、この二人以外にあってはならない。


 その時まで俺たちは黙って見守ってあげよう。


 だって、二人共こんなに喜色満面な幸せそうな姿を周りに見せているのだから――――――




       まじょカル×魔女×シスター ~相交わる惨禍~  完




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