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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第十六話 Sランク魔女

「ねえ、お兄ちゃん、遊ぼ!」


 爪を立てて片手で横に一払いすると、信じられないことにその動きに合わして、変わり果てた珠々香の手によって部屋が一閃された。斬られた部屋の上部から屋根が激しい音と共にずり落ちていくというとんでもないことが俺たちの前で繰り広げられていた。


 斬り落ちた屋根が重力に従い地にぶつかると、これまた大きな音と衝撃を伴って一時的だが地面を揺らす。


 部屋にいた俺と水葉、魔女であることを明かしたミューですら、落ちて地面に叩きつけられた建物の残骸が衝撃で飛んでくるのから身を守ることに専念した。


「デタラメすぎるだろ……!」


 言葉は無邪気なものだが、浮かべている表情はとても冷徹でヤバい。何がヤバいって、この異常な魔力の高さが常軌を逸しているとしか思えないのだ。生まれたての魔女がここまでの魔力を本来有するものなのだろうか?


 隣にいる水葉もこの状況で緊張のためか、ここまで聞こえてきそうな喉鼓を鳴らす。実際にはまったく聞こえてはいないが、それだけ周りが新たな魔女の誕生に飲み込まれてしまったのだ。


「魔力の才能はあるとは思っていましたけど、ここまでとは……想像以上ですね。今の彼女はSランク魔女に匹敵するかもしれませんよ」

「そんなこと言ってていいのかよ? あの子からしたら、あんたが一番恨まれてるんじゃないのか?」

「……そうでしょうね。ですから、ここはお暇させてもらいましょう」


 そう言って事の当事者は、天井を失い空が見えるようになった空中へと飛び立とうと翼を広げた。このままでは逃げられてしまう……空に行かれたら終わりだ。


「ラ・ヴァ……!!」


 爆風に紛れて木板が飛んできた。避けるのは容易かったが【閃瞬(ラ・ヴァーナ)】を使うタイミングが遅れてしまったのが痛い。


 魔女が色の映えない空へと向けて床から足を離す。こいつだけは絶対に逃がすわけにはいかないっていうのに、このままじゃ……


「あんた、さっき魔女を増やすような真似をするのは復讐のためだって言ってたよな? ……良いのかよ?」

「……何がですか?」


 見下すように空中から俺の言葉に魔女が耳を傾けてくれた。おそらくこれが最後のチャンス――


「まだ気付かないのか? 俺はあんたがさっき話してたマジョカルだ。……見逃してもらえるってことで良いんだよな?」

「マジョカル……だと……? マジョカル…………そういえば……マジョカル……」


 こちらとしては助かることに、ミューには思い当たるところがあったようで空中で立ち止まった。何やらブツブツと独り言を漏らしているようだが、さすがにここまでは聞こえてこない。ただし、俺を見るミューの目が変わったことだけは俺にも認識できた。それは明らかな敵意――――


「この『凶鴉の魔女』と呼ばれている私がたかが人間を…………」


 彼女の両翼が自身の首より下を覆い隠す。すぐに翼の隙間を掻い潜って黒い光がところどころから漏れ出した。次に翼を開いて俺たちの前に全身の姿を現した時には、彼女までもが【戦舞衣装変換(ドレス・フォーム)】……いわゆる魔女モードへの変化を終えていた。


「マジョカルを見逃すわけがないでしょぉぉぉぉぉ――――っっ!!!!」


 淑女の体裁を保ち続けていたミューが、そんなことまるで気にしてないとでも言うように殺意剥き出しで俺に向かって急降下を始める。


 ここで魔女の翼を断っておかないと面倒だ。


「やるか――」


 自身を『凶鴉の魔女』と呼ぶミューを正面に見据え、今度こそ【閃瞬(ラ・ヴァーナ)】で一気に間合いを詰め…………肉を引き裂く嫌な感触が手に伝わる。普段の俺ならきっとここで手を緩めていたに違いない……


「いぎゃああああああぁぁぁぁっっ!!!!!!」


 迷いなく一気に烏の片翼を振り千切った。凶鴉の魔女の悲鳴が響く。


「あの子の……珠々香ちゃんの痛みはそんなものじゃない」


 横目に魔女化した……つい先程まで幼かった少女の姿を確認する。退屈そうにこちらを眺めていた大きくなった少女と目が合うと、彼女が妖艶な笑みを浮かべた。俺の知ってる珠々香ちゃんとは外見もそうだが、何より中身がまるで違う。そう思うと、すぐ側でもがき苦しんでいる魔女により一層の黒い感情が俺の中に沸き起こった。


 魔女化したということは、今後マジョカルの討伐対象となることを意味する。害がないと認められれば見逃してもらえると思うが、今、珠々香から感じるこの魔力はあまりにも…………邪悪なものだった。


「……くそ!!」


 変わり果てた彼女への心苦しい気持ちと、彼女をそうさせた魔女への憎しみで頭がどうにかなりそうだ。


「おのれぇぇぇっ!!」


 残りの翼からいくつもの羽根を直線状に放射する。その羽根先はとても鋭い。……だが高速移動できる俺なら避けられないほどではなかった。


 一度避ける時に後ろに飛び退いたので今はミューと距離が空いてしまっている。再び、その距離を詰めようとする俺に、懲りずに鋭利な羽根を飛ばしてくるがそんなのは俺には通用しない……と思ってたのだが直線に放っていただけの動きに変化が起きた。俺を逃すまいと羽根が俺を中心に渦巻き始めてしまったのだ。


 竜巻の中に取り残されたような状態の俺に、あらゆる角度から羽根が向かってき、身体中に突き刺さっていく。


「ナギ!!」


 一つ一つはそれほど深い傷ではないがなにぶん数が多い。確実に俺にダメージを与え続けていた。


「だったら……!!」


 横の動きが封じられたなら縦に動けば良い。脚力強化から跳躍力強化へと体内でエネルギーの分配移動を感じつつ、脚部に集まるエネルギーを発散させた。


 台風の目から上空へ飛び抜けた俺に驚く凶鴉の魔女の姿を確認した俺は、重力に逆らうことなく彼女に向かって落下を始める。その際、跳躍力強化のため脚部に集めていたエネルギーを右腕一本に移動させることも忘れずに。


 咄嗟に無数の羽根を放つミューの攻撃に、空中で思うような動きの取れない俺は一点に集められ発光現象まで現した右腕を盾にした。強化されているとはいえ痛みはある。それでも強化されてない部分で受けるよりは遥かにマシだ。それ以上に魔女への怒りで痛覚が麻痺しているのか苦痛を感じる暇もなく、俺の攻撃射程内に魔女を捉えた。


「くらえぇぇぇっっっ!!!!」


 ミシィッ!


 魔女の顔面を光に包まれた拳がめり込む。そのまま白黒の床に叩きつけると、衝撃で床に亀裂が走り足場が崩れてしまった。


「あ……が………」


 瓦礫と化した床と共に落下していく魔女。俺もそれに習うように階下に落ちる。



「はぁはぁ……ちとエネルギー使いすぎたかな……」


 生死はわからないが今や魔女は崩れ落ちた床の下敷きだ。


「ナギ、大丈夫?」


 疲労で床に膝を付く俺を、穴の開いた床から心配そうに覗き込む水葉。ひょいっと穴から飛び降り駆け寄ってくれた。


「大丈夫……と言いたいところだけど、ちょっときついかな……。一箇所にエネルギーを集める分にはそれほどでもないんだけど、それを連続して別の箇所に移動させるのは消費が単純に二倍三倍じゃ済まないんだ」


 なので、連続使用の後は肉体に急激な負荷をかける。


 ……明日、俺、学校行けるかな…………。


「ふ~ん……でも、そんなこと言ってる場合じゃないわよ、ナギ」

「だよなぁ……」


 まだ上には魔女となってしまった珠々香ちゃんがいる。ミューを相手にするより遥かにキツいはず……そう思わせるのは珠々香が発する魔力量だけじゃない……精神的に辛いものになることを俺も水葉もわかっているのだ。


 先ほどの水葉のように空いた穴から屈んで下を覗き込もうとしてか、珠々香は俺たちから見て頭を逆さにした状態で顔を現す。


「お兄ちゃん、今度はスズカと遊ぼ~?」


 なかなかホラーっぽい。


「……ほら、ナギ良かったわね。ご指名よ」

「やっぱり俺なのか……」


 この期に及んでまだ軽口を言う俺だが、もしも、水葉がご指名だったとしても俺が受け持つつもりだったので、これはこれで別に構わないのだが。


 ドガガガガッッッ!!


 突然、黒い羽根が渦巻く突風によって瓦礫が吹き飛んだ。嵐の中に人影が見えるが当然彼女しかありえない――


「ハァハァ……これぐらいで……終わったと思わないことね……!!」


 ――――いつの間にそこにいたんだろうか? 凶鴉の魔女のことではない……。もう一人の魔女が先輩魔女のすぐ顔の前にまで自身の顔を寄せていた。俺もミューもまったく反応できず、瞬きをしてる間に幼さの残る顔の彼女がそこにいた…………


「ううん。もう終わりだよ。次はスズカがお兄ちゃんたちと遊ぶんだから」


 今までのような余裕のあるものでもなければ、怒りに我を忘れたものとも違う……初めて俺たちに見せるミューが畏怖の感情に呑み込まれた表情。それを抱かせたのは今、魔女の瞳に映る、新しき魔女が与えたものだ。


 珠々香が人差し指をミューに向けた途端、魔力でできた黒い粒子が長い爪先に集まっていく。


「や、やめ……!!」


 無情にも闇色の粒子が光線となって放たれた。


 かつての親代わりだった人の恐怖で歪む表情を見て、さぞ嬉しそうな無垢な笑顔を彼女に向ける珠々香。目の前の人から教わった、親しい人との別れの挨拶を口にする――――


「バイバイ♪」



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