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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第十五話 変貌

「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ――――――――!!!!!!」



 屋内に侵入し、魔力の感じる二階へと即座に移動するといくつか部屋の扉はあったが、一部屋だけ扉が開きっ放しだったので、迷うことなく俺は誘われるようにその部屋に入った。


 そこで最初に目に飛び込んだのは毛玉のようにいくつもの糸がまとまってできたような魔力の塊となった球体。逢花は【戦舞衣装変換(ドレス・フォーム)】する時に身体を光の帯に包まれるが、まるでその状態で一時停止してるかのようだ。ただし、光の帯は禍々しい邪気と共に黒い。


 部屋中を聞き覚えのある少女の痛々しい悲鳴がこだましていた。幼い子供の悲鳴などとてもじゃないが聞いてなどいられない。すぐにでも駆けつけたい俺の心境を知ってか知らずか、こちらも聞き覚えのある声が俺を制止させた。


「思っていたより随分早く辿り着きましたね」


 夕方会った時の優しさなど微塵も感じさせない嘲笑を浮かべている魔女ミュー。同じなのは着ている黒い修道服ぐらいか。


「ナギ……」

「水葉!」


 部屋の隅で手足をリボン状の布に縛られ身動きを封じられている水葉を見つけ、直ぐ様、俺は側に行き布を引き千切った。近くに来てわかったが学生服の所々から水葉の白い肌が(あらわ)になっている。


「大丈夫か!?」


 なるべく俺は彼女の方を見ないようにしながら、着ている上着を脱いで、それを上から被せた。


「…………ありがと……」


 顔は見えないが多分真っ赤にしてると思う。いい加減、水葉の性格もわかってきたつもりだ。


「……あなたのその能力……一瞬でその子の側まで移動しましたけど、ここまで来れただけにただの人間ではやはりないんですね。だからと言って魔女と言う訳でもなさそうですし、その子のような退魔師とも違う感じが……」


 言いかけて魔女は、言葉を中断させた原因のものへ振り向いた。俺や水葉もその理由を察し同様の動きをする。


 上がり続けていた黒い球体から発していた魔力が一定の量で収まったことに場にいる全員が気付いた。その証拠に魔力の帯が徐々に中のものに吸われるかのように面積を小さくしていく。情緒不安定になってしまい、あらゆる不条理と心の中でせめぎ合って苦しんでいた珠々香がとうとう殻から出ようとしているのだ。


 帯はいつからそうなっていたのか、硬度のある物質が崩れていくかのように帯に亀裂が走った。一つの亀裂から新たな亀裂がまた発生し、それは全体に広がっていく。パラパラと崩れた破片が落ちだし、殻の中身が見え始める。穴が開いたところからは目ではっきり見えるようなドス黒い邪気が漏れ流された。


 大して待つことなく殻は原型を失い、中にいた者が完全に姿を現した――――


 先ほどまで漏れていた邪気が今では彼女の全身から発され、部屋中に満たされていく。


 年端もいかない子供だったはずの姿は、俺や水葉と同年齢ほどのものへと急速な成長をもたらした。背には昨日今日で見慣れてしまったため、そうとしか思えない烏のような漆黒の翼。両手の爪は人のそれではなく鉤爪のように変貌している。頭には長さ五十センチはありそうな角が二本生え、身に纏っていた純白のシスター着は今ではその面影など一切ない。翼同様、全ての色を塗り替えてしまいそうな深い闇の色をした【戦舞衣装変換(ドレス・フォーム)】に包まれていた。


 あの可愛らしかった幼い少女が、今では触れるもの全てを傷つけてしまいそうな冷たい目を宿している。大人の一歩手前に成長した……その少女の姿はまるで天使から堕天使に堕ちてしまった悪魔のようだった。


「くすくす。……ねえ、お兄ちゃん……遊ぼう?」




    ***



 頭がくらくらする……なんか痛い。


 喉が苦しい……吐きそう。


 手足もどうしてかわからないけど痺れてきたみたい。


 …………私、どうしちゃったのかな?



「うあああああああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っっっっ!!!!!!!!」



 痛い…………痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!


 どうしてこんなに痛いの?


 頭が、腕が足が、指先まで……背中も痛い…………身体中の何もかもが痛い……


 ……でも、一番痛いのは…………胸――――


 胸の中がぽっかり空いてしまったみたいで……苦しくて、痛い――――



「あああああ…………ああ……ああ…………」



(あれ……? ……私…………泣いてるの?)


 頬を何か冷たいものが流れている気がする……多分、目からだ。流れる涙すら頬に触れてヒリヒリ痛む。


 ――――――どうして?




「――ちゃん……スズカちゃん!」


「!!」


 気が付くと周りは孤児院のいつも食事をする時のダイニングルーム。さっきまでの白と黒しかない孤児院ではない。


 ダイニングテーブルには昼食と思われるパンとシチュー、牛乳が置いてある。全く同じ物が私の横にも置かれている。私を呼ぶ、私がよく『知っていた』声の主が隣に座っていた。


「ミク……ちゃん……?」

「……スズカちゃん、どうしちゃったの? ボ~っとして」

「う、ううん! なんでもないよ!」

「あ~! わかった! ……やっぱり~」


 な、なに? なにかな? 


「また鶏肉残してる! スズカちゃん、ミュー先生に怒られるよ~?」

「う…………」


 そうです。私は鶏肉がだ~い嫌いなのです。


 恨めしそうに親友のお皿を見てみる私。


「ミクちゃんだって、人参残してるよ!?」

「む……バレちゃった」


 さっきの私のようにミクちゃんも恨めしそうにこちらを見ます。その時、私と目が合って――――


「「あはははははっっ~!」」


 思いっきり二人で笑い合いました。


 その後、私たちはお互いの嫌いな食べ物をトレードして無事解決。もちろん、ミュー先生には内緒です。



 ミクちゃんとの楽しかった私の大切な想い出。


 ――――なのに……



 パリンッ!!



 失いたくなかった想い出の映像が色褪せていき、亀裂が入って崩れていく――――




「……珠々香! 珠々香!」

「ん……んん…………」


 誰かが私を呼ぶ声がするので重い瞼を持ち上げると、すぐ目の前に私を心配そうに見る、私と同じ髪色をした茶髪の男の子がいました。私が起きたことに気付いた男の子がホッとしたような優しい表情に変わります。あっ……男の子と言っても私よりかなり年上に見えます。


「えと……ここは……」


 グルッと辺りを見回すと、どうやらここは小さな公園のようです。私と男の子は滑り台の横になぜかいます。


「ん? 珠々香、頭でも打った? さっき滑り台から落ちたんだけど……覚えてない?」


 全然覚えていません……。というか、滑り台でどんな滑り方をしたら落ちたのかが私のことながら不思議です。


「まぁ、いいや。ほら、そろそろ帰ろ、珠々香。……今日は特別にお兄ちゃんがおぶってってやるから」

「え? お兄ちゃ……ん?」

「そうだよ、お兄ちゃんだよ。……やっぱり頭打ったんじゃない? 大丈夫?」

「だ、大丈夫!」


 私、お兄ちゃんいたんだ……? お兄ちゃん…………


 背を見せて私が乗るのを待つ、お兄ちゃん? 本当は大丈夫なんだけど、せっかくなので私はお兄ちゃんの背中におんぶしてもらう。ちょっと恥ずかしい……。


 けど……私にもいたんだ。…………家族が。そのことがとても嬉しくて、ホッとして、胸が温かくなる……。いつの間にか一筋の涙が流れてしまっていたことに、私を運んで移動する男の子が気付きました。


「珠々香、どこか痛む!? 平気?」

「……うん。大丈夫だよ、お兄ちゃん!」


 声はクールなのに、顔はすごく慌てていて、それなのにあたふたした感じを必死に私に気付かせないように表情を作ろうとしてる、お兄ちゃんがとても面白かった。


 孤児院の友達以外で、こんな風に私を心配してくれる人がいたことがとても嬉しかった。



 ――――なのに……



 パリンッ!!



 また私の中から突如、想い出が音を立てて崩れ去っていく――――




「うああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ――――――――――――!!!!!!!!」


 身体全体に激しい痛みが走る。


 黒い帯のような不気味に(うごめ)く無数のそれが私に絡みついてきた。私の全てを覆い尽くすために意思を持ったかのような。


 何でこんなことになってしまっているのかも知らないのに、私は無意識に自分が自分で無くなることに気付いてしまった。でも、それでも良いとさえ思えてきた……だって私にはもう何もないのだから――――



 ……この苦しみから解放されるなら、何にでもなってやろうと思った――――――――



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