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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第十二話 絶望の魔女

 月之杜神社から山を降り、神名駅からここ浅間駅に到着して街外れまで急いで一時間。林の中をけっこうな速度で走る俺の目に夕方頃には見かけなかった、木片が散らばっているのが視界に入った。


 わずかにだが魔力を感じる。正確には霊力っぽい感じ……。


「水葉は今頃まだバイトのはずだよな……なんだって、こんなところに……」


 念のために、まだバイト中と知りつつも水葉に電話してみようとした時――


「わっ!!」

「うおっ!?」


 びっくりして後ろを振り向くとそこにはなぜか逢花が。


「な、なんでここに……?」


「水葉ちゃんの様子がおかしかったから、弥夕が気を利かせてくれて、今日も早めに上がらせてくれたんです」

「水葉がどうしたんだ?」


 悪い予感がした。やっぱりこの落ちているやつは…………


「膝を怪我してたから念のため早めに水葉ちゃんを上がらせたって弥夕から聞いてたんですけど、なんだか気になっちゃって……。そしたら、ここにナギトさんが。……何かあったんですか?」


 俺は逢花に落ちている木片を見せた。


「……僅かにですが、木片それぞれから水葉ちゃんの霊気を感じます。……元々は一つの物体……例えば、この辺りにある木の枝を使って霊力を込めた物が粉々になってしまったんでしょう。……ここで戦闘があったのかもしれません……」

「それってあの烏の化物のこと?」

「烏の羽もところどころ落ちていますから無関係ではないでしょうね」


 林の中は暗くて明かりが届かない場所もあったため気付かなかったが、よく見れば確かに烏らしき羽がいくつか落ちている。


「なぁ、これなんだかわかる?」


 実は散らばった木片を見つけた時に、俺は木片に引っかかった薄い魔力の糸を発見していた。もしかしたら魔力じゃなくて『霊子の糸』かもしれないが。糸は闇の中へと続いているようだ。


「霊子の糸……今も水葉ちゃんの霊力を感じます」

「もしかして水葉のやつ、手がかりを残していったってことか……」

「そうだと思います」


 またメールで言われた通りに行動したら事態が動いた……



『孤児院にて、里親現る』



 水葉はこのメールが言う里親と出会った……そこで何かに巻き込まれたのか?


 このまま孤児院に向かうより、水葉が残したと思われる、この糸を辿った方が良いかもしれない。


「この糸がどこまで続いているのか調べてみよう。もしかしたら水葉に会えるかもしれない」

「はい!」




    ***



 ポタ……ポタ…………


「ハァ……ハァ…………」


 肌から滴る水滴が真っ白な木張りの床に落ちる。床が真っ白なだけじゃなく、部屋一面……いや、この建物全てが白と黒の二色しか存在していない空間。



 ここは魔女が自分の領域(テリトリー)としている世界―――灰色の世界(グリモア・シェール)――――



 四肢をリボンのような細長い布切れで縛られ、両膝を床に付けた状態で、上半身を前に傾けた姿で黒髪の少女は吊るされていた。


 着ていた学生服は少女の白い肌を隠すべく包んでいたはずの部分があちこち役目を失い、苦しそうに息切れをしていた。異性からすれば半裸姿のこの光景はすごく魅惑的だろう。


(今日一日で霊力使い過ぎた……反響かしら……こんな……姿……ナギには見せれない……わ)


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 水葉と同じ部屋に閉じ込められていた幼いシスターが心配そうに顔を覗き込む。少女も後手に両手を縛られている。


「ん……大丈夫よ」


 努めて平気そうに珠々香に答えたものの、正直かなりの疲労感があった。


 スッと静かに部屋に入ってくる人影が一つ――――


「随分と辛そうですね」


 顔を上げて相手の顔を見る。言葉だけ聞けば心配してるような物言いだが、顔を見れば決して違うことがわかる黒いシスター服に身を包んだ女性が現れた。嫌な笑みだ。


「しかし不思議ね、あなた。ここに連れてくるまではちゃんと服着てたのに、今はほとんど裸だなんて……そういう性癖なのかしら?」

「……子供の前でそういうのやめてもらえるかしら?」


 こんな状況でも強気な態度を崩さない水葉だが、内心はハラハラしていた。このような(はした)ないカッコをしてるのには理由がある。それを今、知られるわけにはいかなかった。


「……その学生服、そんな成になってもまだ霊力を感じますね」

「!!」


 その通りだ。水葉は逢花かナギ……もしくはその両方が『霊子の糸』を見つけ、ここまで来てくれることを信じ、学生服のほつれた糸を解しながらここまで来たのだ。霊力を微量に今も尚放出し続けている。二人が辿り着くまで魔女に気付かれる訳にはいかない。


「なるほど。退魔巫女ならではの使い手の霊力に影響する学生服だったのかしら? ……まぁ、どうでもいいですけど」


 どうやら魔女が勘違いしてくれたらしいので内心ホッとする水葉。


「ミュー……せ……んせい」


 水葉に興味を無くしたミューが、今度は珠々香に興味を示す。


「ふふ、珠々香。まだ私のことを先生と言ってくれるの?」

「うん! ……だって先生は、珠々香にとってずっと先生だもの!」

「あら、嬉しいことを言ってくれるわね。……それでこそ今日まで我慢してた実験を行えるというものだわ」

「え……? ミュー先生……?」


 修道服同様に心も白い幼きシスターに、より邪悪な笑みを浮かべるミュー。


「ねえ、珠々香……あなたと一緒に暮らした十二人の子たちのこと覚えてる?」

「うん……みんな私の大好きな友達だもん」

「そう……。じゃあ、良いこと教えてあげましょう。その子たち……み~んなもう死んでしまったのよ」

「え……?」


 何を言ったのか珠々香は理解できなかった。そんな親代わりになってくれていた黒いシスターは無情にも再び言葉を紡いだ。


「死んだ順番は孤児院から出ていった順番通りよ……確か一番目の子はミクちゃんでしたっけ? 珠々香と特に仲が良かった子だったわよね?」

「……ミクちゃ……ん……」

「そうよ。思い出してきたかしら? あなたたち、寝る時よく一緒の布団に寝てたものね」

「う……ん………」


 ミューは自分の顔を珠々香の顔のすぐ横にまで近づきこう言った――


「でもね……もう死んだのよ、ミクは」

「――――――――――――――――――――――――!!」


(ミクちゃんが……死んだ……ミクちゃんが……どうして……?)


「……どうしてだと思う?」


 思っていたことをミューに聞かれたので、珠々香は一番の親友だったミクが亡くなったという衝撃と相まって、ひどく身体が震えてしまった。首を横に振り、身体を小刻みに揺らす。

 

「やめなさい!!」


 半裸で吊るされている黒髪の少女がこれ以上の言葉は許さないとばかりに叫ぶが、そんな様子がミューには可笑しくて堪らない。


「魔術の実験に耐えられなかったからよ…………だから死んだ。……私の望んだ結果を得られずにね……残念だったわ」

「……じ……けん……?」

「そうよ……。私が親切であなたたちを孤児院に集めていたと思っていたの? 違うわ。……魔法を使える素質のある子を集めてたのよ。全ては魔術の実験のために……ね。珠々香……気付いていないかもしれないけど、あなたもそうなのよ」

「わ……わ……たし……」


 水葉には心当たりがあった。魔女に灰色の世界に連れてこられる前……はぐれ烏天狗との戦闘後に珠々香を抱きしめてる時に感じた、弱々しくもそれは紛れもない癒しの力だったことを。


「あなたも人間に復讐するために力を求めてるの!?」


 かつて水葉と肉体を共にした新緑の魔女のように。


「くすっ。半分正解、半分間違いと言ったところでしょうか。確かに復讐したい気持ちはありますが、私自身が力を手に入れるための実験ではないのよ」


 魔女は珠々香の顎に手を添え、真っ直ぐに自分の瞳から逃さないようにして、言葉を続ける。


「子供たちを『魔女』にするための実験だったのよ、珠々香」

「……まじょ……?」

「……いろいろ試してダメになった子はもう不要だから、あの烏人間たちの餌にしてたのよ。……そう言えば、あなた……この世界に来る前に私とこの子がなんで使い魔なんかに襲われたのかって聞いたわよね? この子が……珠々香に危険が及んだ時、この子の中で眠る魔力にどういった変化が起きるか実験してたのよ」

「そんなことのために……人の命を何だと思っているの!?」

「あ……あっ…………」


 悲しみと恐怖と怒りと後悔と……いろいろな感情を織り交ぜられ何も考えられなくなっていく珠々香の目に止めどなく涙が溢れた。


「心配しないで。珠々香だけは特別よ……珠々香だけは他の子とは素質が違ってた。……だから一番最後にしたのよ。……他の子たちの失敗は予め予定内だったの。全ては今日という日のための犠牲だったのよ。あなたを魔女にするためにあの子たちは死んだ……」


 少女の涙で濡れた白い頬を指でなぞらえる魔女。


「私の……せいで…………ミクちゃんや……みんなが…………」

「違う!! 絶対に珠々香ちゃんのせいなんかじゃない!!」


 こんな小さな身体で受け止めるにはあまりにも大きな酷い現実を突きつけられ、珠々香がどれほどの苦しみを今感じているのか……そう思うと水葉の胸をも締め付けてきて瞳に涙が溢れてきた。


「憎しみや怒りは魔女を生む…………怒りなさい、珠々香! 憎みなさい! あなたが魔女になれば十二人の子供たちの命は無駄にはならないわ!」

「……むだ……に…………」

「聞いちゃダメよ、珠々香ちゃん!!」

「そうよ。あの子たちの命、無駄にしたくないでしょ? 無駄死ににするか、役立たせる命にするかはあなたが魔女になれるか次第よ、珠々香!!」

「お願い!! もう、やめて!!」

「…………無駄にさせ……ない………………」


 悲痛の念で叫ぶ水葉だがその想いは叶わなかったことを少女の顔を見て悟ってしまった――――


 珠々香の両目から血の涙が流れ出す。その量は次第に異常な流れとなって幼い少女の身体を渦巻きながら包み込んでいく。



(お願い……お願い…………誰か助けて…………)



 ――――逢花…………ナギ、助けて――――――――――――!!




『ああ、任せとけ!!』


「え……? ナ、ナギ!?」


 不意に頭の中に直接、薙斗の声が響いてきた。そう思った次の瞬間――――


 

 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッッッッ――――――――――――――――!!!!!!!!



「な、何なの!?」



 突然の耳を塞ぎたくなるような爆発音がこの『灰色の世界』ではない、違う場所からここにいる全員の耳に届く。現世と隔離されたこの世界に外から干渉するという、ありえない状況に、今までずっと笑みを浮かべていた魔女の顔が初めて歪んだ。




「ナギトさん、少しやり過ぎてはいません?」


 既に【戦舞衣装変換(ドレス・フォーム)】を終えている逢花は苦笑して薙斗に尋ねるが、逢花には珍しく正直良くやってくれたという心境だった。


 それもそのはず。『灰色の世界(グリモア・シェール)』への道を見つけることに成功した二人は、何もないところにいきなり現れた扉を開けようとしたがビクともしなかったのだ。


 そこで取った方法は薙斗のエネルギー操作で拳に集められたエネルギーを打ち放つ……簡単に言うと力尽くでぶち壊すというものだった。


「これぐらいでちょうど良いんだよ! さ、先へ行こう!!」


「はい!!」



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