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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第七話 魔剣と護符

「魔剣召還! 【操技絶剣(アンサラー)】!!」


 銀髪の少女の手に見事な装飾のされた魔剣が具現化。それをゆっくりと顔の前に放るように手を離すと、剣は立ったまま宙に浮かび続けた。


「剣一本デ……我々二人ノ攻撃ヲ受け止メレルものカ!」


 左右に別れて同時に逢花に襲いかかる日本の伝承に残る烏天狗のような姿をした魔女の使い魔――――


「いえ……一本で十分です」


 手にした剣を振る軌道からはとても想像できない、ありえない動きを意思を持つかのように魔剣が独りでに動いたように二人には見えただろう。


 背中から無防備な黒い翼の根本をバッサリ斬りつけ、事が済むと、すぐさま残りの一人に切っ先を向け飛び跳ねる。


 さすがに二人目は攻撃されたのが後だったため錫杖で防ぐのが間に合う――――はずだった。


 普通の剣ならば。



 魔剣【操技絶剣(アンサラー)】……風の力を纏い、どんなに硬い鉄であろうが切り裂き貫く、相手からすれば防御すら困難な剣。そのうえ持ち主の意思一つで自由に飛翔し、まるで意思を持つような。


 反則級な性能ゆえ『防御不可の魔剣』と呼ばれ、逢花が『剣撃』と呼ばれるようになったことに大いに貢献している。


 ただし強力過ぎるがゆえに使う者の魔力消費が並の魔剣の比じゃないという使い手を選ぶ弱点があった。


 逢花ほどの魔力、もとい霊力があればこそ『防御不可の魔剣』を『絶対防御不可の魔剣』にまで昇華させたと言っても過言ではなかった。



 咄嗟に自分の身体の前に錫杖を突き出した烏人間だったが、剣を受け止めるはずだった錫杖もろとも胴体が真っ二つに――――


 相方の凄惨な姿にようやく残りの烏人間は自分が手に負える相手じゃないことを知り後ずさるが、銀髪の少女も前方へ歩を進めるので距離が変わらない。


「化物……メ…………!!」

「女の子に言う言葉じゃありませんね。……それにあなたが言いますか?」


 迫りくる死を与えるであろう少女目掛けて、錫杖を振り下ろす。すると竜巻が発生し、落ちていた黒い羽毛が無数に吹雪いた。


 慌てることなく逢花は魔剣を操り、竜巻を下段から斜め上段へ切り払うと、風の塊が一気に吹き飛んだ。吹きつける風が逢花の【戦舞衣装変換(ドレス・フォーム)】した服のスカートと長い銀色の髪を泳がせる。


 やがて風が収まると、巻き上がった黒い羽が右へ左へとスローモーションのような速度でたくさん落ちてくるのが見えるだけで、人型の背中に傷を負った烏の姿だけが見えなくなっていた。


「逃げてしまいましたか」


 戦意喪失した相手と戦うのは気が引けるのか逃げられたことを別段気にする様子もない逢花は、身体を二つにされ地に寝そべる大きな烏を横目で見た。


 塵となり、木々の隙間から流れた風に乗って原型を失っていく。


「……水葉ちゃんのところへ行かなきゃ」


 ここでの戦闘の終わりを確認後、逢花は水葉の霊力を辿って親友の元へ急ぐのだった。




    ***



 なるべく木に背を隠しながら囲まれないように、木から木へと移動を繰り返す。その度に結っている後髪の黒い一房が揺れた。


「う~……しつこい!!」


 さっきみたいに一箇所に集まってくれたら、また纏めてやっつけられるんだけど……


 一度痛い目に合った烏の群れは学習し一度に攻撃することを止めたらしく、いくつかのグループに分けて順番に攻撃を繰り返してる様子……見ようによっては(なぶ)られてるようにも思えて腹が立つ。


 右手の人差し指と中指でスカートのポケットの中にある護符を挟み、向かってくる黒い群れ目掛けて挟んでいたものを投げつけた。


 符が烏たちに触れた瞬間、符に込められた霊力と烏とのせめぎ合いになり「バチチチッ!!」という短い衝突音が聞こえてすぐ爆発が起こった。


 耐えきれなかった烏が数羽落下するが、これが全てではない。


 このような同じ行動を私は何度も続ける羽目になり、いい加減うんざりしていた。


 護符の残り枚数が心許ない……そろそろなんとかしないと烏の餌になってしまうわ……。


 もう何度目になるのか数えるのも止めた急降下攻撃に横からの攻撃も加わり、いよいよもって危なくなってきた。


 片手で護符を挟み込んでた時と同じ要領で、今度は両手で頭上と横からの動きに対応。


「……ハァ……ハァ……」


 ちょっと霊力使いすぎたかしら……。


 最初の範囲型符術が霊力消費きつかったわね……。それにさっきから動きながら霊力も練らないといけないし……


 あともう少しなのに――――!!


 次の攻撃部隊が私に狙いを定めたらしい。頭上から今か今かと旋回しながら降下タイミングを図っている。


 ――――そしてその時が来た!


「何度来たって防ぎきってみせるんだから!! ……あっ…………」


 ポケットの中に手を入れるがお目当ての物を使い切ってしまったみたい。


 当てにしていた物が使えず、咄嗟の行動が遅れたが、なんとか横に飛び退いて難を逃れることに成功した。制服に土が着いてしまい払いたい気持ちが沸き起こるが、そんなことしてる場合じゃないとグッと我慢する。


 このまま座り続けるわけにはいかない。


 すぐに行かなきゃ……。


「ハァ……ハァ……」


 次の目標にしていた木に辿り着き、木にもたれ掛かる。


「さすがに……もう休みたいわね……」


 二組の群れが左右から平静を失ったいくつもの狂気の眼が向かってくる。


 捕食される側って、こういう感じなのかしらね……。


 学生服の中に指を入れて胸元付近に別に取っておいた護符を取り出す。


 正真正銘のラスト一枚。


破邪顕正(はじゃけんせい)――――――――っ!!!!」


 私が背にしている木を中心に、ここまで通ってきた木々に霊力の(ライン)が次々繋がっていく。最初に烏の気を奪った結界術と要領は同じだが、その形は四角形(スクエア)状ではなく(いびつ)な形に線と線とを結んだ。見た目は最初よりかなり悪いがグループ分けしていた烏の群れを広範囲に全て収めきることに見事に成功。


 これの準備をするために木から木へと符を貼りながら移動していたのだ。


 符の枚数が最初から心許ないことはわかっていた。だから必要な時に足りなくならないように結界術に必要な枚数だけ胸元に前もって分けていた。


 恐れを知らず向かってくる邪気に構わず私は精神集中した次の言葉を発した。


「――――――滅っっっっ!!!!」


 結界内の邪気を持つ全ての黒い凶鳥が衝撃に襲われ短い悲鳴を上げた後、一度目の時のようにバタバタと空から降ってくる。


 今回も命を奪うまではしていない。この烏たちは道から外れた者たちによって操られただけなのだから。


 すぐに辺り一面、黒い絨毯に埋め尽くされた。


 陽が沈みだした林の中にこれはなかなかにホラーな光景だわ。


「……逢花の方は無事かしら。……ついでにナギも…………」



 気絶している烏を踏んでしまわないように、土が見えるところを探しながら一歩ずつ慎重に進むと、ようやく黒い羽毛地帯に終わりが見えてきた。


「ふぅ……これだけでも疲れたわね……」

「水葉ちゃ~ん!」


 ん……どうやら逢花も無事だったみたいね。


 私の姿を見つけ走り寄ってくる逢花に応えようと私は手を振って合図した。私も親友に駆け寄りたいところだが、正直もうヘトヘト。


「水葉ちゃん、大丈夫?」


 心配ないか私の顔を覗き込む逢花に、私は笑顔で答える。


「霊力使いすぎて疲れただけだから平気よ。それより逢花の方こそ二人相手に大丈夫だったの?」

「うん。でも、ごめんなさい……一人逃げられたわ」


 戦闘前となんら変わらないキレイなままの逢花を見て、言う通り大丈夫なんだろうと安心すると、自分の今の学生服の状態を思い出した。土に汚れてしまった部分をパンパン軽く(はた)く。


「……まぁ、あとはナギがしっかりやってたら、それで良いんだけど」


私と逢花が一息ついているところにアニメの主題歌が突然流れてきた。


「あ、私…………んと……ナギトさんからだわ」


 ナギから電話がかかってきたみたい。


 なぜ逢花の電話の着信音がアニメの主題歌なのかと言うと、今、放送してる魔法少女モノにどうやらご執心らしい。


 今のアニメはいかにもアニソン! ……といったようなものは少なく、カッコいい曲も多い。逢花がハマってる魔法少女の主題歌も歌の上手い人気声優が歌ってるということもあって話題性があるらしかった。


 ……全部、逢花の受け売りではあるけど。


 さっきのアニソンが頭から離れない私を余所に、何かしら喋っていた逢花だが今終わったらしい。内容が気になる。


「……ナギ、なんだって?」


「珠々香ちゃんもミューさんも無事なんだって。なぜかわからないけど、向こうには誰も来なかったみたいなの」

「そう。気になることはあるけど、とりあえず二人が無事で良かったわ」


 二人というのはもちろんナギ以外。


「それでナギトさんが念のために孤児院周辺に妖気がないか調べて欲しいって」

「ナギ、妖気は感知できないんだっけ。……仕方ないわね」


 ナギが気付いていないだけで、もしかしたら烏人間の仲間が潜んでいるとも限らない。念には念を入れた方が良いわね。


「それじゃあ……?」

「ええ。行きましょう、逢花」

「うん!」




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