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まじょカル  作者: リトナ
まじょカル×魔女×シスター ~第二章 相交わる惨禍~
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第六話 最高の笑顔

「逃ゲラれたカ……追うゾ……」


 漆黒の翼を広げ羽ばたこうとしたところで――――


「待テ!」


 もう一体の人型の烏が仲間を呼び止めた。


「残念。それ以上、追ってたら、あなた逢花にザックリやられてたわよ?」

「そんなに簡単に私たちが行かせると思いましたか?」


 薙斗を追おうとしていた烏の化物は、先ほどまでは歯牙にもかけていなかった気配の変化に動物ならではの危機的直感が働いた。背後から感じる膨れ上がる殺気に追うことを一瞬忘れ、殺気の主を確認せずにはいられなかったのだ。


 人型の烏が目にしたのは年端もいかない銀色の少女だった。




「水葉ちゃん、武器は持って来てないよね?」

「そうね。……この札ぐらいかしら」


 と言って、親友に私は符をビラビラと見せる。


 なぜ逢花がそんなことを聞いたのか私はもちろんわかっていた。


 目の前の直立歩行の烏は二人とも自身の身長を超える錫杖を手にしている。どう考えても、この紙切れだけでは心許なすぎる。逢花はそれを言っているに違いない。


 ……どうしようかしら…………


 ガシャンッ!!


 目の前の一人が錫杖を勢い良く地面に突き刺さんとするかのように叩く。途端、倒れていたはずの烏が一斉に陽が沈み始めた空へと舞い昇った。


 これはマズいわね…………


 正直、目の前のやつだけで私は十分なんだけど……。


「逢花、ゴメンね……加減しちゃった」


 一時、戦闘不能にするだけで良いと思っていた私は、無闇な殺生を好まないので烏を気絶させる程度に加減して霊気を送った。結果その甘さが今のこの危機的状況を作ってしまった。


 あの時、手心を加えず命を奪っておけばこんなことにはなっていなかったはず……逆に私たちが殺されたら、それこそ馬鹿馬鹿しい。いや、親友の命まで危険に晒す分、質が悪い……


 でも、烏の群れに符術が通用した時、次々と黒い命が落ちてくる光景を目にした時……私は怖いと思った。もし、本気で符に霊力を流し込んでいたらと思ったら……足元いっぱいに広がっていた落ち葉のような黒い命は、命ではなく、ただの肉の塊だったのだから…………


 動けなくするだけで良いなんて言えば聞こえは良いけど……結局私はたくさんの命を私の手で奪うことがただ怖かっただけなのだから――――


 罪悪感で視線を伏せてしまった私を余所に、復活した烏の群れは再度の急降下をするタイミングを図っているのか、羽ばたいたまま空からこちらを見上げている。


「それで良いんですよ、水葉ちゃん」


 子供の頃から聞き慣れた優しい声がする方へ私は反射的に頭が動いた。


「逢花……」

「水葉ちゃんのそういう優しいところ、私好きですよ」


 最高の笑顔――――


 ヤダ……そんな顔されたら、ちょっと泣きそう……


 ――でも、あなたが私の親友で良かった――――


 これは……敵だったはずのナギが逢花に味方したくなった気持ちがわかるわね。


「逢花! 私がまた烏をなんとかするから、逢花は目の前のやつ一人相手にしてくれる? もう一人は適当にこっちに流してくれていいから!」

「……いえ、水葉ちゃんは烏に集中して。二人は私が相手します」

「ちょっと、逢花! さすがに一人で二人は……烏天狗みたいな姿してるけど、多分相手は魔女の使い魔よ! それも知能を持つほど強力な!」

「? 烏天狗って、あの武術に長けてて神通力にも通じているっていう……見た目はアレですよね?」

「そ、そうね……」


 アレって…………まぁ、目の前に見本がいるんだから、別に良いけど……。


「使い魔ですか……そういえば『新緑の魔女』にも使い魔がいましたね。……確かに水葉ちゃんの言う通り知能を有してそうです」

「使い魔には、主人に命令されたことのみをただ忠実に実行するものと、自分で考え行動を起こす思考力のあるタイプとが存在するけど、目の前のやつは紛れもなく後者よ……後者の中でもさらに人の言葉を話せるものとそうでないものがいる……。人と会話のできるタイプほど使い魔としては上級であり、その主人の各を現しているわ」


 つまり、この使い魔の主人はかなりの使い手ということである。それを逢花もわかっているはずなのに、まったく慌てる様子もなく……


「まぁまぁ。それより水葉ちゃん、上……」


 水葉と話し込んでる間にすっかり注意が烏人間にいってしまっていて、上空から今にも下降しようとしてる烏の群れへの注意がいつの間にか逸れてしまっていた。


「もう! ……気をつけなさいよ、逢花!」


 こうなってしまっては、もう逢花を信じるしかない。


 少しでも早く烏たちの動きを止めて、逢花を助けに行かないと――――


 符を向かってくる烏に向かって突き出す。


 私を中心に青白い円球が逢花も共に包み込み、黒い無数の急降下攻撃を全て弾いた。飛んできたかなりの数の烏が勢い良く結界にぶつかったため、その衝撃だけで再び地に墜ちていく。衝撃に見事に耐えた強者はまた空へと向かい、そして自殺とも思える特攻を続ける気だ。


 烏の特攻攻撃が少ないタイミングを見計らって、逢花が結界から抜け、二人の烏人間の前へ。


「一人デ我々ヲ相手に……愚かナ」

「確かに愚かかもしれませんね」


 逢花の戦いの邪魔にならないように、私は今だに夜空に滞空している烏の残りの注意を引きながら、この場から離れた場所へ移動を試みる。その際に私はチラッと親友の顔を見た。


「……逢花、怒っているわね」


 表情にそれほどの変化はないが、付き合いの長さからわかる。


 ……それもそうか。


 あの子と少しの時間だったけど、一緒に遊んだものね。


 なら大丈夫。


 相手を敵として認識した時の逢花は最強よ――――――



「あなたたち二人だけで十分だと……本気で思っているのですか?」



 銀髪の少女の霊気が一気に膨らんだと思ったのと同時に、離れた場所にいる私にまで大気が震えるような感覚を十年来の親友は与えてくれた。


「……私も良いところ見せなきゃ」




    ***



 能力全開してひたすら走ることのみにエネルギーを消費し続ける俺は、後方で今も戦っているだろう逢花と水葉のことが気になりつつも、孤児院に住む二人の無事が気になり逸る気持ちを抑えることも忘れて本能のままに駆け続けた。


 俺を尚更こんな気持ちにさせるのは、道中、三羽の烏が犬を(ついば)んでいる姿を見たからだ。遠目からだが、犬はまったく動く様子が見えず、おそらくすでに命を失っていたんだと思う。


 いったい、この林はどうなってるんだ……


 今まで能力を使う時は必要な瞬間……一時的に身体能力を増幅させるに留めていたので、こんな風に継続して使うなんて久しぶりだった。下半身の筋肉が軋むような感じがあるが今は加減してる時間も、俺に心の余裕もない。




 間もなくして、行きの道中よりも遥かに早くに俺は目的地に着いた。


 乱れた息を整えることもせずに孤児院に入ろうとする俺を、別れてまだ一時間も経っていないので俺の記憶に新しい聞き覚えのある女性の声が呼び止めた。


「あら。そんなに慌てて、どうかされたんですか?」


 黒い修道服を着たシスターだ。


「い、いえ……え……と……」


 どうやら間に合ったらしい。


 安堵する俺だが、正直に言うわけにもいかず、どう応えて良いか困るはめになる。だって、化物があなたたちを狙っています……なんて言えるわけないよなぁ……。いや、シスターだから案外話してみたら信用してくれるかも?


「……珠々香ちゃんを引き取りに来るのって何時頃なのかなぁって思いまして。お見送りしたいなぁ……なんて」


 ナイス、俺! 咄嗟に思いついた言い訳だが、ちょうど知りたかったことなので結果オーライだ。


「ふふ。そんなに珠々香のことを気にかけて頂けるなんて、あの子も喜ぶと思います。仕事のご都合で遅くなるとのことで、午後6時頃だと伺っています」

「そうですか。……ところで今、珠々香ちゃんは?」


 見たところ、外にはいない。


「皆さんに相手をしてもらえて(はしゃ)ぎ疲れたみたいでして……今は遅いお昼寝中ですよ」


 一目見てから帰りたかったけど、まぁ無事なら良いか。


 明日、学校帰りに行っても大丈夫な時間だし、さっきミューさんに言った通り明日お見送りに来よう。


「遅くに度々すいません。俺、そろそろ行きます。明日、珠々香ちゃんの見送りに来ますんでよろしくです」


 そう言って、俺は去ることにした。


 一応、念のために離れた木の裏に隠れて様子をしばらく見たがこれといって何も起きなかった。


 逢花と水葉が今相手をしている奴らが言ってた三羽烏の残り一体って、結局どこにいるんだ?




    ***



 壁も床も建物以外の風景……空でさえも白と黒しか色が存在しない世界――――


 特異なモノクロの世界にたった二人のみが二色しか存在しない世界で多様な色を身に付けていた。


 白と黒しか許されていなかった木が、今では赤い色を一部に染め上げている。赤いそれは上から垂れ流れていた。


 木の付け根辺りには黒い羽毛がいくつも散らばっている。


「…………何故こん……ナこと……ヲ……」


 息も絶え絶えな何かは、杭で木に串刺しにされたまま、目の前を見上げて冷酷な笑みを作る黒いドレスのような服を着た女にありったけの憎しみを視線に乗せた。


「家畜の分際で生意気な目をしてるわね。誰が主なのか、まだわかってないのかしら?」


 女が長い髪を掻き分ける仕草を見せ、髪をフワッと宙に浮くと、今までどこに潜んでいたのか三十匹近い烏の集団が髪の中から羽ばたいた。


「人を襲うことを責めたりしないわ……あまり目立たなければね。…………けど、どうしてあんなまだ人通りのある時間にあなたたちは狩りをしていたのかしら? 一週間ほど前に同じようなことがあったけど、あの時は他の子たちの実験があったから許しただけよ……おかげで余計な者に目を付けられちゃったじゃない。」

「それ……ハ……」

「ダメよ。私、使えないやつは嫌いなの……だからせめて、この子たちの役にぐらい立ってもらえるかしら?」


 女が目の前の者に関心を失い背を見せたのを合図に、三十匹もの烏の群れが一斉にモノクロの木に串刺しにされ続ける人型の烏に群れかかった。


「ヤ、ヤメ……ギ……ギャアアアアァァァァァ――――――――ッ!!」


 同族に襲われ苦しむ断末魔の声が淡白な世界に響き渡る。


 やがて時間の経過と共に再び静寂が辺りを支配した。




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