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77 真犯人

前回までの粗筋

正体不明の霧の中、ティア達魔獣討伐部隊は謎の魔獣襲撃を受けていたが、ティアが逆に罠を仕掛け、モグワイ・ギズモ姉妹を倒す。

事の起こりは3ヶ月前の砂糖技術流出で、ティア周辺にスパイが居ることから始まっており、ホリー先生への嫌疑がかかっていたが、少し考え方を変えなければいけないようだ。

★2503年 3月11日昼 旧ホラ領付近、人界外魔境 ベック



「は、はあああ、ひひ姫様、ダメ絶対にダメー」


 僕はまた姫様のとんでも暴走に巻き込まれようとしている。


 さっきゲネスさんに呼ばれて、姫様の影武者を怖くて半分泣きながら引き受けたのに、出発の直前になって姫様が『作戦変更ね』って言い出した。


 僕はずっと以前からヒューパのお城で、ヒューパ男爵アルベルト様から直々に『ティアの暴走をしっかり見張って何かあればすぐに報告しろ』、お妃様のマリア様から『ティアを守ってね』って、両親から揃って言われている。

 以前露店組合の組合長の倉庫に殴り込みに行った時も、男爵様への連絡が間に合って危機一髪だったのに、この姫様は全くこりてない。どうなってるのこの姫様は?


 僕だけでなく、作戦参加の他のゲネス隊で選抜された腕利きの大人達もざわついてるのに、姫様はケロッとした顔で、皆に言い放った。


「うるさい、ベック、お前が影武者役なのは変わらんが、私の言うとおりにしろ。私が良いと言うまで馬を進める。合図とともにベック、お前が馬の上で立ち上がってナイフを高く上にあげろ。私が後ろで大声で敵に話しかけるのが終わったら、ナイフを捨てろ。それとお前たちも、ナイフを捨てるタイミングで荷物を下に捨てろよ。私はその荷物に紛れて、下で敵が来るのを待ち伏せる」


……・ ・ ・ ・

「「だだ、ダメですー」」

 全員大反対してる。姫様、無茶苦茶過ぎるよ、僕達みな命がけで姫様を逃がすために必死でやってるのに、この人突然何を言い出すんだろう??


「このままの作戦では、外に飛び出してすぐ全員が幻術の餌食になるわよ、同じ場所をグルグルやられるのがオチでしょ。そんなの皆だって薄々は分かってるはず……でもね、皆が生き残る可能性が一番高い方法があるの……・敵の狙いはね、私とこの魔剣。だからその両方を使って敵をおびき寄せて、倒す事に賭けるわ。言っちゃなんだけど、失敗しても、皆が生き残る可能性はそっちの方が高いわよ」


 姫様がしれっとした顔でその場全員の気を飲み込んでくる。


「さっ、貴方達どっちに賭ける?」



 恐ろしい事に、姫様の大暴走作戦をやる事になってしまいました、僕はこんなの嫌だけど姫様を止められない。

 姫様から『ベック、本物投げると勿体無いから、さっきゲネスからかっぱらってきたこのナイフを投げろ』と言われて、鞘に入った小ぶりなナイフを渡される。

 さっきから足が震えっぱなしです。



「さて、行きますかね……って、そうだ、ホリー先生は、馬から降りてゲネスのヤツの看病してて、この後は危ないからこっちの砦に居たほうが安全だわ」

 姫様がホリー先生を馬から降ろしてた。


 姫様が周りの大人たちを見渡し、ニヤリと笑う。まるでどっかの伝説の勇者様みたいな度胸の良さだ、小さな7歳の女の子なのに絶対に変だ、どうかしてる。


「では、馬出しを開けろ、作戦を開始する。全員生きて帰るんだぞ、忘れるなよ。勝手に死んだら殺すからな」


 全く笑えないギャグが聞こえて、急ごしらえの砦から馬で出て行く。僕は武者震いがしていた。



 暫く進むと、後ろで「止まれっ」って号令で皆が止まる。

(小声)「ニコス前に10歩進んで止まれ、ベックはそこで立ってナイフを構えろ」

 と、声が聞こえた。

 ニコスさんが集団から馬を前に進める。僕は震える足で馬の背に立ち上がったら、後ろで馬を操縦してくれてるニコスさんが僕の背中を持ってくれたので、ちょっと安心。


「我々の負けだ、貴様達にこの魔剣と後ろの財宝を渡そう、代わりの条件に我らだけでも逃がせ。無駄に戦う必要はない」

(小声)「全員投げろ」

 姫様の声が後ろからしてきた。その声に合わせてナイフを投げたら『ドスッ、ドスンっ』後ろにいた他の馬の人達が何かを投げる音がした。

(小声)「アイタタタ、よしお前ら行け、急げ」

 ほら言わんこっちゃない、落ちた時どっかぶつけて痛がってる。


 僕達一行は急いでその場から駆け出した。

 暫く進むと全員がバラバラの方向へと散開して、幻術から目眩ましをかけようとしたのに、すぐにまた他の人達の姿が見えて同じ場所に戻ってきた。

 どうやら姫様の言った通り、幻術で同じ場所をグルグル回らされてるみたい。


 半分ヤケになってもう一度、バラバラの方向へ駆け出そうとした時、視界に変化が起きた。

 すぐ近くに馬車砦がある。

「……みろ、霧がない。霧が晴れたぞ」

 周りはすでに薄暗くなってるけど、突然霧が無くなったのが分かった。

 気がつくと、僕達は馬車砦のすぐ近くにいて、砦の兵士達と眼が合っていた。

「おい、あれを見ろ」

 誰かが叫ぶ。

 後ろを振り返った時、少し小高くなった丘の上に姫様らしき影が最後の夕日の中に照らされて起立し、甲高い叫び声が聞こえてきた。


「とったどー」


 良く分からないけど、姫様の片手にはちょっと大きめの丸い物が握られて、夕日の中で上に高く差しあげて叫んでいる。

 僕は猛烈に嫌な予感しがするので、それ以上見るのをやめた。



 この後、僕達は暗い中で、魔獣の死骸から魔石や素材を回収していた。

 後ろでは、馬車に馬が繋がれ、あの巨大な火炎熊が襲ってきたらすぐに逃げられるよう準備をしている。

 姫様は、敵から手に入れた魔術具を持ってご機嫌の様子だったけど、ゲネスさんの所に行ったら、ホリー先生に支えられて座ったゲネスさんにビンタされていた。

 滅茶苦茶叱られているね。うん、後でアルベルト様からも叱られた方がいいよね。


 僕はと言うと早く眠りたいです。


 あー怖かった。



★2503年 3月12日 ヒューパ城帰途中 ティア



 もうすぐ夕日が沈む街道を8頭の馬が走り抜けていく。もうすぐ城だ。


 私達は今、馬に乗って急いで城に戻っている。途中でムンドーじいじと冒険者が4名の馬が来たので合流をしていた。


 怪我人を乗せた馬車は、まだ途中の村で宿営をしてから後で戻ってくる予定だ。

 私は今、一刻も早く戻って、私達の安否を知らせるのと、敵の正体を暴かなければならない。



 揺れる馬の上で、残りの問題を考えていた。

 誰がスパイなのか?

 私の中で1つの答えは出ている。

 少なくとも今回の襲撃の情報漏えいに関しては、第一容疑者だったホリー先生は無関係だ。

 出発前、隊の誰にも本当の行き先は告げていないし、ホリー先生も予告なしに突然連れ出した。これで彼女からの情報漏えいは無くなった。

 もし移動中、ホリー先生が何らかの情報を道に残していく可能性も考えたが、彼女の事を好きな奴らがずっと注目するなか、逐一行動を監視された状態だったので、何かやろうにもできる余裕は一切なかった。

 この事から、今回の襲撃には彼女は関係していないのが分かる。

 他の情報漏えい元が有るのは間違いない。


 それが誰なのか? 考えうる可能性は、砂糖開発をしていたメンバーの中の誰か、そして城の中をを自由に行動できる人間の誰か……あるいはその両方。


 考えるしかない。




 ★2503年 3月12日夜 ヒューパ城 ティア



 私は城に着くと、皆が待っていた。

「「姫様ご無事で」」

 メイプルさんとメイドの姉妹が最初に出迎えてくれる。ヘラがちょっと泣いてた。

「ありがとうメイプルさん、お風呂の用意お願いしますね、少し長く浸かりたいから温めのお湯にして。そして後でお菓子を作ってね」

「はい、かしこまりました、姫様がお風呂に入っている間に腕によりをかけて作ってますね」

「ウフフ、ありがとう」

 メイプルさんがお風呂の準備に行く。


 中に入るとお父さんとお母さんが待っていてくれた。


 私達はお父さんの指示ですぐ、執務室へと通される。

「ティア、無事であったか、罠を張っていた場所には誰も現れなかった。街に帰って、敵の商店へ乗り込んだところ、すでに店はもぬけの殻で誰も居なかったのだ、急ぎムンドーを走らせたが間に合ったようだな」

「いいえ、お父さん、向こうで私たちは襲撃を受けましたが、これを撃退いたしました」

「なに、被害はどれほど出た?」

「怪我人は出ましたが幸い死人は1人も出ていません。そして今回のスパイの件ですがホリー先生は犯人ではありません、彼女が目印を残す手段も封じていましたのに敵に先回りされていました、犯人は他にいます」

「そうかティア……ムンドーいいな」

 お父さんがムンドーじいじに目配せをして、じいじはすぐに外へ出ていった。

「ティア、疲れたであろう、少し休みなさい。誰か居るか」


 お父さんが部屋から出ていき、代わりにメイドの2人が入ってくる。

「姫様ご無事で」「姫様お怪我はございませんか」


「2人共、心配かけてごめんね」

「いえ、とんでもございません、ご無事に帰ってきてくれてとても安心いたしました」

「ウフフ、ありがとう。あ、そうだ、ちょっとお願いがあるのよ、そこのお菓子作りの実験用の調味料入れを取ってくれる? えーっと、そこの壺と、その空の壺がいいわ」

 壺には一つ一つ、中身の文字を黒のナイフで彫り込んでいる、中身を入れ替えたので空の壺に中身の文字を描いて戻す。

 壺を置いた後少し考え、元あった位置からずらして戻した。



 お風呂の準備が整ったメイプルさんが呼びに来てくれるまでの間、妹のベルマが入れてくれたお茶を飲みながら、最近のお仕事の様子を聞き出していた。

「どうヘラ? お仕事は慣れましたか?」

「はい、姫様、この仕事を与えてくださって大変感謝をいたしております。私と妹のベルマのために部屋まで用意してくださってありがとうございます」

 うん、どうやら言葉遣いも良くなってきているし、メイド仕事にも慣れてきたようだね。

 初めはオドオドと怯えた素振りで仕事をしていたのに、成長してるなあ。

 姉妹の包帯越しの笑顔を見てホッとしていたら、お風呂の準備ができたとメイプルさんが呼びに来てくれた。

「姫様、準備が整いましたよ、姫様がお風呂に行ってる間にお菓子の方も準備をしますね」

 メイプルさんが部屋に備え付けた暖炉を開ける。暖炉は改造してありオーブンの役目を果たす。

 オーブンの火を火かき棒で温度を調節しながらお菓子作りの準備をしていた。


 私が2人にお風呂の準備をさせていると、外が騒がしい。

 と思うと、突然部屋のドアが開いて、お父さん達が入ってきた、後ろには騎士のカインさんとトートさん、そしてじいじもいる。



「ティア、その2人から離れなさい」

 目を戻すと、ムンドーじいじが私と2人の間に立っていた……全く見えなかったよ、じいじ凄い技を使うね。

 私があっけにとられていたら、同じくあっけにとられたヘラとベルマの2人が壁際に連れられていく。

「な、何ですか、突然?」

「うむ、ホリー先生が今回の襲撃犯への情報漏えいの第一容疑者から外れた今、残るのはこの城の中を自由に行動しているメイド達だ。その内文字も読めるこの2人の部屋を調べていたら、この書状が出てきた」

 お父さんがロール状に巻いた小さな紙を見せた。

「この内容には、敵方と内通をしていた指示書が書かれている……この城の中で働いている内、自由に移動できるのはメイドのメイプルと、この2人だ、そして文字も読める」


 ……


「で、どうなさるおつもりですか?」

 私がお父さんに尋ねる。

「尋問を行う、これは領主の命令だ」

 ……お父さんは本気だ。

「解りました、ですが、この2人の主人は私です。私が尋問を行います」


「「姫様」」

 周りにいたじいじや、カインさんが止めようとする。尋問と言えば聞こえは良いが、実質拷問だ、私に拷問をやらせたくは無いみたいだね。


「待て」

 お父さんが、じいじ達を止める。

「ティアにやらせよう、この者達の(あるじ)である事を見せよ」


 私がお父さんに頷く。

「ありがとうございます」

 そして壁際で震えながら、怯えた目を包帯の下から覗かせる姉妹を見た。


 唾を飲み込む、私の一挙手一投足をお父さんが見ている……


「お願い、痛い事はしたくないの、本当の事を教えて」

 壁際の姉妹に尋ねると、2人は消え入るような声で返事をしてきた。

「ち、違います」「私達は知りません、姫様お願いです」

 痛々しい。怯える姉妹の顔を見ていられないが、今の私は目を逸らす事を許されていない。

「そう、言いたくないのね、しょうがないわ」

 ゆっくりと、自分の胸に吊り下げた黒のナイフを引き抜く。

「苦しませたくないの、お願い、本当の事を言って」

 私の問いかけに、2人は小さくなりながら抱き合って首を振るだけだ。もう声は出ないようだ。

「今から、貴女達を切り刻みます、そして傷口に塩を刷り込みます、それでも言いたくないのですね」

 2人は絶望の中で全てを諦めた表情をしている……ごめん。

「分かりました、メイプルさん、そこの塩の入った壺を取ってください。急いでっ」

 少し興奮しているのかな、私の声が上ずってキイキイ言っている。

 見るとメイプルさんは、急いで塩と書かれた壺を取って私に渡してきた。

「塩ね」

 私は、壺の中に指を入れて中身の味を確かめる。


「ウフフフフフフフ、塩ね、確かに塩だわ」

 周りの皆が少し怪訝な顔をしていた。


「あら、皆、おかしいかしら? だってこの壺の中身は塩だわ……どーしてかしらね、ウフフフフ」

 メイプルさんの顔を見ながら私は笑っている。

 メイプルさんは明らかに、困った顔になっている。


「ティア、何をしている、尋問はどうした、なぜ笑っている」

 お父さんが、ニヤニヤしている私にたずねてきた。


「はい、お父さん、だって私本当の犯人を見つけたから笑っているんですよ」

「「はあ?」」

 皆がハア顔になっててよけい笑っちゃいそう。


「そうですよね、メイプルさん、この壺を塩だとすぐに分かったのは、メイプルさんがスパイだからです。貴女、文字が読めますね」

 メイプルさんの目がグラグラと動いている、今まで全然尻尾を出さなかったスパイの癖に動揺しすぎでしょ。

「い、いえ、違います、姫様何をおっしゃっているのですが、わたくし、文字など生まれてこの方読めたことがないです」

「何嘘を言ってるの? 読めるじゃない、さっき貴女が居ない間に私が中身を入れ替えた塩の壺へ『シオ』ってこの黒のナイフで書いたのよ。別の壺に入れ替えていたのに、メイプルさんは中身も確認せず、すぐにこの壺を取ったでしょ、貴女が文字を読める証拠です」

 メイプルさんは脂汗を流して、その場にへたり込んだ。


「連れて行け」

 お父さんが、メイプルさんを睨みつけて周りに命令する。


「お父さん、よろしいですね、この2人の容疑は晴れましたね」

 私は念を押して、泣き崩れているヘラとベルマの頭を抱きよせ、お父さんから隠す。


「分かった、もういい」

 お父さん達が部屋から出ていく。


「ごめんね、怖い思いさせてごめんなさい」

 2人と一緒に私もワンワン泣いてしまった。



 本当に大変だった、まだ他に解決してない部分もある、油断はできないけど、この娘達と一緒に泣いて色々吐き出したいのです。



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