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72 人の恋路を邪魔するやつは

★帝歴2502年12月7日 ヒューパ ティア



「おいこら、ちょっとそこ詰めろ」

「姫様こそ詰めてくださいよ」

「うるさいな、ちっこい私に詰めろとはどういうことだ」

「何言ってるんですか姫様、余計なもの持ち込み過ぎですよ、オヤツとか必要ないでしょ」

「ちょっとぐらい良いじゃないか、楽しく鑑賞するためには、この試作品のオヤツが必要だ。

 それよりお前たち、ちょっと賭けをしないか? あいつがフラれる方に大ツチブタの魔石1個」

「えー、姫様悪い趣味ですね、賭け事は大人がやることですよ…俺は上手く行く方に斑目カエルの魔石2個」「おれも上手く行く方に大ツチブタの魔石1個だ」「いやフラれる方に1個」……

「皆ちょっとうるさいです、静かに、あ、来ました2人、ちゃんと連れてきてます、静かに願います」

「「了解」」



 皆さんこんにちは、ティアです、狭いです、覗き中です。


 現在ヒューパ城内に立てた私立学校の校舎裏にある物置小屋で、ゲネスの子分達10人と一緒にこれから始まるショーを楽しく見物をしようとしています。


★昨日


 事の起こりは、昨日、ホリー先生の読み書き教室の時間の事でした。

 いつもは、うちの子供だけでの授業ですが、この日は魔獣討伐のお仕事が一休みになったゲネスと子分達も一緒に授業を受けることになってます。

 最近ムンドーじいじの監視の元、私は勇者特訓を兼ねて、ゲネス達と一緒に魔獣討伐に参加していました。

 ムンドーじいじのずば抜けた索敵能力とゲネス達の集団戦術が上手くマッチして、村や街周辺の魔獣討伐も効率良く進み、お休みが取れるようになっていたのです。


 勉強って大事、ゲネスは元貴族のお家だったので文字を読み書きできるけど、子分達は全然ダメだったので私が強引に参加させることにしたんだよね。


「それでは、この文章を前に来て読んで下さい…えっと、ではゲネスさんお願いできますか」

「ああ分かった、えーっと、『あのイーハトーヴォのすきとおった風、夏でも底に冷たさをもつ青いそら、うつくしい森で飾られたモリーオ市、郊外のぎらぎらひかる草の波』……聖者ケンジの残した詩ですか」

「さすがゲネスさん、ご存知でしたね。かつてこの世界で勇者の印を得たにも関わらず、一切の戦いを拒み、農業改革や孤児院の設立等の人助けに一生を捧げた聖者ケンジ様の残した詩です。今になってはこの言葉の意味が分からない部分もありますが、とても好きな詩なのです」


 私はこの詩をどこかで聞いた気がするが、どこで聞いたのだろうと考えていた時、ゲネスの視線に気がついた。

 ホリー先生が私達の方を見てこの詩の事を説明していた時、ゲネスのヤツの目がホリー先生の横顔を見つめていた。

 私はこれを見てピンっと来たね、あ、これは恋する男子の目だと。

 うんうん、人族の私から見ても猫族のホリー先生綺麗だからねえ、美人さんなんだよなあ……って、ハッ! もし狼族の血を持つゲネスと猫族の血を持つホリー先生が結婚したら、子供とかどうなるの? 猫狼? 狼猫……やだ、ちょと可愛いかも。

 等とどうでもいい事を考えている内に、その日の授業は終わって外に出ると、ゲネスの子分達が騒いでいた。

 何を騒いでいるのか聞いてみたら誰も教えてくれない、しょうがないので1人拉致って尋問したら素直に自供した。

「姫様すいません、ゲネスの親分が…じゃないゲネス隊長が今度ホリー先生に告白すると決めた話しをしていました。明日の授業終わりに、校舎の裏にホリー先生を呼び出して愛の告白をするそうです」


 うん、ゲネスのヤツ、さすが我が家臣団の隊長だな、この娯楽が少ない世界で私のために娯楽を提供してくれるとは。

「よし、分かったゲネスを応援してやろうではないか」

「あ、姫様、実はゲネス隊長からは、姫様にだけは教えるなって言われてまして……俺が喋った事は内緒にしてもらえないでしょうか?」


 何!なぜだ? 私は良い子だぞ、良い子で有る上にご主人様の私に内緒でだと、グヌヌヌ。

 しょうがないので、ゲネスの先回りをして物置小屋の中で監視作業をすることになったのです。



★現在


「どうかなさったのですかゲネスさん、こんな所に呼び出して」

「いえ、あの先生……」


 ペチョペチョ、くっ、どうしたゲネス、頑張らんか…ペチョペチョ。


「変な方ですね。用がなければ帰ってもいいですか?」

「いや、ちょっとまって先生、あーそうだ、あれ、あの聖者ケンジの詩、先生はあの詩を好きなのですか?」


 ペチョペチョ、ゲネス何やってるんだ、そうじゃないだろ、愛の告白だろうが、ペチョペチョ。

(小声)「姫様、姫様、その堅パンをペチョペチョ食べるのうるさいです、聞こえちゃいますよ」

(小声)「うるさい、堅パンが硬いから舐めて柔らかくしてるんだ、お前こそ黙ってろ」

 この前作った砂糖と小麦粉で、軍隊糧食用に長期保存ができる堅焼きパン(水分を限界まで飛ばしたクッキーですね)を開発していたのでしたが、芯までカッチカチの堅パンになりきらず水分が残って保存用にはならないのですが、油断をすると前歯クラッシャーへと変貌するお菓子です、最近前歯の調子がおかしいのよねえ、怖いから口の中でペチョペチョと柔らかくして食べてました。


「ああ、ゲネスさんも聖者ケンジ様の詩がお好きなのですか?」

「ええ、先生、大好きです」


 ん?もしかして今のが告白のつもりか? それじゃ通じないじゃないか、なにやってるんだゲネス。ペチョペチョ。

 ああもう、じれったい。


「私は聖者ケンジ様の描く透き通った世界観が好きなのです、ゲネスさんはどちらで読まれたのですか?」

「ええ、幼いころ、生家の書庫で読んだので……って私はこんな話しをしにきたのではないのです、ホリー先生、聞いてください」


 お、ついに勇気を出して告白をするつもりか…ガリガリ、カリッ。


「え、あ、あの」

「先生、実は私は、私は貴女の事が好きなのです。愛しています、貴女以外の女など目に入らないのです、どうか私の愛を受け取ってください」


 おお、ちょっとアレだがついに告白したか、ホリー先生返事はどうだ? 上手く行ったらチューを見られるのか? ワクワクガリガリ、コリッ。


「え、あー、ごめんなさい、お付き合いはできません」

「…ははは」


 ガリガリ、ポロッ……あーあチューを見るのはお預けか。


「ははは~♪はははは~♪」

 ゲネスは謎の音程をつけたハハハを残して走って行った。残されたホリー先生もすぐに反対側へと早歩きで消えていく。

 私の今日の収穫は、賭けで手に入れた魔石と、堅パン齧って抜けた前歯一本だけだった。


 いやー、面白かったなー、ゲネスのヤツ、ショック受けるとあんな顔するんだー。


 翌日ゲネスの子分達は一生懸命落ち込んでるゲネスを励まそうとしていたが、本人はしばらく引きこもりになっていた。

 私もちょっと可愛そうになったので、堅パンの試作品を持って御見舞に行ったら、翌日ゲネスの前歯が一本折れてた。

 うふ、やっちゃった。



 この後、お城の関係者他の男性陣がホリー先生に告白をしたが、どの男性陣もフラれた。

 そしてなぜか皆、校舎裏に先生を呼び出して、告白するってパターンまで同じだった。

 全部見てたので、色んな告白を学べた。


 中でもヒューパ領で大蔵大臣になったアルマ商会さんが、自分と一緒になったらどんなに良い待遇になるかを大きな板に書いて熱烈なプレゼンをしてまでの告白だったが、見事に撃沈してショックのあまり身動きできなくなったのは見ものだったな。

 彼らと堅パンのおかげで、私の前歯の乳歯は全部抜けて、新しい歯が生えるのを待つ始末だ。


 因みに、ホリー先生を校舎裏に呼び出そうとした男性陣の中に1人身内がいて、うちのお母さんに密告して事なきを得ました。浮気はダメですよね。



 それからどうでもいいですが、異種族間婚姻について子分達に後で聞いたら、異種族間でも子供はできるそうですね。多くはどちらか強い方の血が勝って、一方の属性で産まれるそうです。

 が、ごく少数ですが、両方の性質を受け持ったハーフが産まれる事があるのだけれども、そのハーフは見た目の特徴以上に、魔力や体力に特異が現れる事があり、強い個体になる事があるそうなのです。

 うちの騎士のトードさんが巨人族と人間族とのハーフでそうなんだよねえ、すっごい強いもん。

 ただ残念な事に、ハーフは、以前世界を滅ぼしたハーフオークの事があって、忌み嫌われる存在として迫害を受けやすいそうです。


 なので異種族間婚姻はもしもハーフ化した子供が産まれる事考えると、あまり多くは行われておらず、勇気がいる行為なのだそうです。



 皆勇気は出してみたんだろうけど、それって、ホリー先生の負担もちょっとは考えてあげなきゃダメよね。

 先生は断って正解だったのかしら。と、前歯が無い顔で考えるティアであった。





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