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63 ブドウ狩り

前回までの粗筋

稼ぐために魔獣討伐にでかけたティア達一行は無事、雪オオカミの群れの討伐に成功して報奨金と魔石を手に入れて帰ってきたのは良いが、お父さんに黙って出て行ったのでこっぴどく叱られる。そんな中ティアは白ワイン製造の言質を取ることに成功して、翌日からアルぶどうを使ってとあるワインを作ろうと画策していた。

★帝歴2501年10月27日早朝 ヒューパ ティア



「フオオオオオ、さ寒い」


 朝です、ティアです、おはようございます。

 朝晩すっかり寒くなってきた今日この頃です、さて、今日の予定は、ブドウ狩り。

 ここ数日の追い詰められてギリギリだった心から一転、超ハイテンションでたーのしみー。

 銭がない、銭がないのは首がないのと同じだって誰かが言っていました。ちょっと前までの私の心境でしたよ。


 とーこーろーが、多分これが上手く行けば何とか成る。

 なぜなら、わたくしの目の前には、一筋の光明があるからですよおおおおおお。

 そう、白ワイン。

 あの白ワイン用のブドウ、カビてましたよねー、腐ってましたよねー。

 アレ見れば10人が12人皆絶対ダメだった思うよね。※2人増えたのは野次馬が余計な事を言いに来たのを表現してみました。

 ウッヒョー、ハイテンション過ぎてわっけ分かんない。


 さて、ベッドから起きて、ベック少年を起こしに行かなきゃ。



 私はベッドから飛び起きると急いで着替えて、部屋の窓から忍び出る。

 お父さんとお母さんに見つかったら何を言われるか分からないしね、急いで門番詰め所小屋に行かないと。


 お城の窓から抜け出ると、外はすっかりヒンヤリとして霜が降りている。

「さ、さぶー」

 ああ、女の子たち大丈夫かなあ…ううう、って落ち込んでる暇などない、急ごう。



 門番詰め所小屋に着くと、私はドアを引く。

 ギギッ あれ? 鍵かかってる。前にはかかってなかったのに。


 ドンドンドンドン

「ベックー起きてるー」

 ドンドンドンドン

「ちょっと起きなさいよ、起きないと、ドアの鍵をこの魔剣で切り裂いて部屋に入るわよ」

 ドンドンドンドン

 起きてこない。


 しょうがないなあ。私は胸に吊るした魔剣・黒のナイフを革製の鞘からソッと抜いて、門番詰め所小屋のドアの隙間に差し込もうとした。


 カリカリカリカリ、ガリッ、カリ…


「ふわあああああ、姫様辞めてー、ゴメンナサイ辞めてください、起きました、僕起きましたから」


 何よ、起きてるじゃない。

「最初から出てきなさいよ、それより、トラビス達ももうすぐ来るからワインの貯蔵小屋にブドウ摘み用の籠が有ったはず、アレをありったけ持って来なさい。私の名前とお父さんの名前を出したら文句言われないわ、領主の命令来ましたって言うのよ」


「わかりました、姫様」


「よし、じゃあ頼んだわよ」


 昨日の魔獣討伐で手に入れたお金と魔石は、シーツを買う予定だったが、今日から行うブドウ収穫のための資金に予定変更だ。

 この子達には悪いが、もう少し我慢してもらわなければいけない。



 門番詰め所小屋から宿泊所へと移動して、中の様子を確かめる。そろそろ何人かは起きてきていて、朝ごはんの準備中だった。


「お早うございます姫様」「姫様おはようございます」「姫様ー」

 うんうん、私の可愛い家来たちよ、今日も元気そうだ。


「おはよう、皆昨日は眠れた? 風邪引いてる娘はいない? 何かあったらすぐ私に知らせるのよ、ゲネスの子分達に嫌なことされたらこの魔剣で切り刻んでやるからすぐに言ってね、本当に切っちゃうから」


「ひっ、だ、大丈夫です。朝ごはん早めに食べて今日いく場所への準備済ませておきます」



 私は皆にまた後でくるねーっと挨拶して城へと引き返す。

 今日は朝ごはんの時に、お母さんにちゃんと許可を貰って外出するつもりだ。


 お城に戻って私は朝ごはんの席に着く。


「ティアおはよう、お尻大丈夫? 痛くない?」


「お母さんおはよう、大丈夫、痛いけど大丈夫」

 うん、ジンジンしてる。


「ああ、そうなの、じゃあ今日もお仕事をお願いしようかしら」


「お母さん、ごめんなさい。今日は白ワインの製造をするため、ブドウを採りに行かないとダメなの。昨日お父さんからちゃんと白ワイン製造の許可もらったの」


「え、あれ? 確か白ワインはダメに成ったんじゃなかったの?」


「ウフフフ大丈夫よ、お母さん。それに今日ブドウ狩りに行くのは、女の子達やベック他の子供達ばかりよ。ゲネスとか武闘派の人とは行かないから、絶対に危ないことはしないわ」


 お母さんがコメカミを抑えて何か考えているみたい、しばらくしたらお父さんも起きてきて、一緒に朝ごはんを食べる。


「お父さん、昨日はありがとう、私ね今日ね、ブドウ狩りに行ってきますね」


「……はああ? ティア何言ってるんだ、ダメだぞ今日はお城でいるだ」


「はい? お父さん、昨日私に言ったじゃないですか、『お前には白ワインがある、それで頑張りなさい』って、私その話し通りに白ワインを作るためにブドウを採りに行かないといけないのです。約束通りですよ」


「え、いや…言ったか、確かに言ったが、だがな」


「お父さん、ちゃんと言った約束は守ってください、これはお金に関わる話しですので今更変えられる訳にはまいりません、もうすでに城の外では収穫のための準備が整っております。

 私は食事が済んだらすぐに出かけなければなりません」


「なっ、すでに準備まで済ませておると言うのか……いや、お前たち道中の危険は大丈夫なのか? ちゃんと冒険者を雇って警護はしているのか?」


「そんなお金有るわけ無いですよ、だから馬車で隊列組んで大勢で移動する予定です。一週間ぐらいを予定してるだけど、いいかな?」


「なに、しかしな……うーん、分かった、ならば騎士のトートを警護に連れて行け、道中どのような魔獣に襲われるか分からない」


「はーい、お父さんありがとう、大好き」


 ティアが部屋から去った後、残された2人は一緒に頭を抱え込んでいた。



 私は、朝ごはんを食べたらすぐに城を飛び出して、トートさんを呼んで出てきてもらう。

 そして宿泊所へ到着すると、皆が集合している。

 うちの可愛い女の子達と、トラビス以下悪ガキ組の中で、手先が器用で目端の利く、ハイト:ホビット族11歳男と、リョーム:人族10歳男の2人を加えて居る。

 特にこの悪ガキ組には、馬車の運転をさせなければならない、何度か大人の手伝いで馬車を動かした経験があったので一発で採用した。

 これにベックを加える、彼も馬車の運転役だ。


 準備の整った馬車の中には、数日間泊まりがけで移動できるように、ホロをかけ、馬車の中で寝むれる様に毛布も持ち込んでいる。因みに毛布の数はヒューパの軍物資置き場から、倍ほどくすねてきた、後で返すから良いだろう。

 そして食料と燃料、馬の飼葉も準備万端だ。


「よーし、皆行くよー」


 私の合図とともに、馬車の隊列は移動を開始した。

 先頭には、巨大な軍馬に乗ったトートさん。

 私はその前にチョコンと座って乗っている。そろそろ乗馬も覚えたいなあ。



★帝歴2501年10月27日昼前 ハカミ村 ティア



 馬車なので歩みは早くは無いが、昼前にはハカミ村に到着する。

 村長さんには、昨日来た時に伝えてあったので、村の外でブドウの収穫をスムーズに行えた。


挿絵(By みてみん)


 私達が、馬車からゾロゾロと降りてくると、露骨に顔を歪ませる者もいたが、大半はこんな小さな子供が大変だっただろうと労をねぎらってくれる。


 村長さんには悪いが、村の復興作業をしている中から、普段ブドウの栽培や収穫作業を行っている人を3人程呼んで手伝ってもらう。

 今年私達がやろうとしている事が本当に成功したら、来年からこの村の人達にやってもらわなければならない作業だ。

 私の持っている知識を伝えなければならないし、普段の仕事としてブドウ栽培をしている彼らの知識を伝えてもらわなければならない。


 ここで行う収穫作業によって得られる利益の一つは、ヒューパのブドウ栽培技術向上とノウハウの確立だ。

 いずれ、ヒューパ全体に広げて大きな利益を上げて行くためにも、ここで頑張る。



 最初にブドウの実を見せて、何が必要かを皆に理解してもらう。

 カビによってシワシワになったブドウの実を見分ける方法を教え、実際にやってみてもらう。

 初めは村の人も拒否反応をしめした。当然だ、だってカビて腐った葡萄の実だもん、でもこの実を実際に口に含んで、その味を確かめさせると全員が目を見開いて驚いていた。

 私はこのブドウで、ある特殊で高貴なワインを作るつもりだ。


 こうして最初のレクチャーに時間をかけた後、女の子たちを3班に分け実際の作業に移った。

 一つの班につき、1人、村の人も混ぜて籠の中がいっぱいになったら、男の子達に運んでもらう。

 本当は男の子達にも作業を覚えてもらいたいのだけど、効率よくいかないと、ブドウ畑は広大でいつまで経っても終わらないだろう。

 男の子達には、籠を回収の時に、間違ったブドウが入ってないかをチェックするようにさせた。


 私は、彼女たちの作業を何度も回って、籠の中を見てOKを出し、間違っていたら指摘して、何が間違っているのかを修正させていく。



 お城の執務室から少々頂いてきた筆記用具のインク…これってどうみても墨汁なんだけど、墨汁の作り方を私のような別の転生者が伝えたのかな?

 私は作業で気づいたことを一つ一つ、このインクで木の板にメモを残していく。

 私が居なくなった後の人でも分かるようにするためだ。

 人の命は短く有限だが、人の叡智は生き続けてさらにその上に新しい叡智が書き足される。


 私はこのワインで歴史を刻むのだ。

 私が死んだ後に誰かがこのメモの内容を読んで、書き足す、そんな世の中で有って欲しい。

 私がこの世界に望まれているのは、何度も再生を断念し、叡智のバトンリレーが途切れたこの世界に、次へ繋げる力を与える事なのかもしれない。


 作業に没頭しながら、自分の存在する意味を考えていた。


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