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46 戦闘

前回までの粗筋

ホラとの戦が近づき慌ただしい生活をおくるティアに、お母さんの妊娠が知らされる。

妊娠しちゃったものはしょうがない、全力でお母さんとお腹の赤ちゃんを守るため、本来はお母さんの役目だった後方支援のお仕事をティアが切り盛りすることになった中、ホラの侵攻が始まる。

★帝歴2501年 10月1日午前10時 ヒューパ領境 ホラ男爵 (イエルク・フォン・ホラ)



「イエルク様、敵の陣地が確認されました、これより約1km先の街道に約300、ほぼパイク(長槍)兵。陣地には障害物と馬防柵がほどこしてあり、騎士殿の接近を阻んでおります」


 領境のホラ領内の村から今朝発って、昼前にヒューパ領に入って早々、行軍中のホラ男爵の元へ、斥候からの報告が入ってきた。

「わかった、下がって良い」


 一度斥候を下がらせ、報告のあった敵陣が目視できる500m程手前で、軍を停止させ、自陣を開く。

 500m離れたヒューパ陣には、ヒューパ男爵家の旗がはためいている。獲物はここに到着しているようだ。


 ホラ男爵は陣営の天幕に騎士5名とヤーコプ神父を集めて、地図を見ながら軍議を始めた。

 以前少しおかしな動きをしていた騎士のライナーとベルトルトは、城の守備のためにここにはいない。ヤーコプ神父が嫌な感じがすると進言して、留守番部隊に入れられたからだ。


 ホラ男爵は、地図と自分自身がその目で見た地形を合わせながら、ヒューパの陣容を予想してみるが、恐らく目の前の馬防柵と障害物だけで守る陣容ではなく、左に見える崖側に何かの伏兵をおいているのではと考えていた。


 ホラ男爵は自分の考えを整理するためにも、参謀のヤーコプ神父の意見を聞いてみることにする。


「ヤーコプ神父、この地図を見て、どう思うか?」


「はっ、地形を見るに、崖と川に挟まれた狭い隘路に陣地を設営しておりまするな、これは兵力差があり兵数の多い軍を相手に戦うのに有効な陣構えです。

 我々の軍勢を狭い場所に誘い込み、包囲されないよう実力を封じ込めるつもりでしょう。

 目に見える範囲ですが、二重に作られた馬防柵や障害物等、第一防衛ライン、第二防衛ラインと敵のいる場所まで距離があります、単なる騎兵への足止め対策とは考えにくいですな、飛び道具を注意する必要があります。

 以上の事から、反対側の崖の上に弓兵等の伏兵を配置すれば、馬防柵や障害物を乗り越えている間に弓矢を降らせ、我々ホラ軍を相手に互角の戦いとされてしまうのではないかと予想されます。

 伏兵の確認と敵の強さを量るために、少数の傭兵と貧民兵を使って威力偵察を行ってみるはいかがでしょうか。

 威力偵察の結果次第では、迂回路を取る事を進言いたします」


「なるほどな、では威力偵察の件は却下する。

 敵陣の旗を見よ、わざわざヒューパ男爵自身までやってきて全勢力をここに結集しているではないか、狭い場所で叩き潰してしまえば、たった一回で全ては終わる。確かに手強い陣構えだが、これは逆にチャンスだ。

 貧民兵を突入させ馬防柵や障害物を取り除かせる。奴らを一気に叩くぞ」


 ホラ男爵は学問を収めてはいないが、幼い頃から数多くの喧嘩や戦いに参加してきた実績がある。勝負の勘所は決して悪くはなかった。


 ヤーコプ神父もホラ男爵の勝負勘に少々驚きを持ちながら、その意図を汲み取る。

「かしこまりました、では貧民兵が敵の正面まで取り付く事ができたら、イエルク様他騎士の皆様には、最も危険で最も華々しい役割をお願い致しましてもよろしいでしょうか」


 ホラ男爵は、自分の真意を汲みとったヤーコプ神父の深謀にニヤリとうなずき、作戦の許可を出す。


「全軍に指示を、貧民兵を率いる傭兵頭に通達、全貧民兵500を前進させよ、馬防柵及び、障害物の撤去と敵最前線への攻撃を命ずる。

 騎士殿達と傭兵200は私の指示があるまで、ここの陣営で待機」



 貧民兵500が前進を開始しする。



★帝歴2501年10月1日午後1時 ヒューパ領境 ヒューパ男爵 (アルベルト・フォン・ヒューパ)


挿絵(By みてみん)


 前日夜、アルベルトは、ホラからの敵軍出発の報から丸一日で領境の防衛陣地まで到着して、防衛陣地構築を任せていた騎士トードから現地の状況などを確認した。

 トードの報告では、パイクを持たせた住民たちの士気は悪くなく、自分たちの土地を守るために戦う気は満ちている。


 朝には、ホラ軍の動きを監視していたムンドーが陣地に到着し、ホラ軍の進路は予想通りここへとまっすぐやってきていたのを確認、そして弓兵100をムンドーに預けて、崖上へと通じる山道を使って上からの援護射撃を指示していた。


 今のところは、予定通り進んでいて問題はない、後方からの支援の体制もティアが予想外に頑張ってくれているおかげでなんとかなりそうだ。

 後は、この場所で防衛に徹し、ホラ軍を一ヶ月か二ヶ月釘付けにしてしまえば、敵の主力部隊の傭兵団は略奪も行えず、配下への給料の支払いが膨大に膨れ上がって、自然とホラ軍は瓦解するだろう。

 兵力差はあるが、ホラ軍の弱点は資金にある、正面から殴りあうだけが戦争ではない、敵の弱点を上手く付けば戦いになるだろう。



 昼過ぎ、敵のホラ軍が動き出す、まず動いたのは、盾と短槍を持っただけの貧相な装備をした軍だ、よく見ると人族もいるが獣人や亜人が多く、その姿は痩せ細っている。

 ムンドー達弓兵が上から、通常の弓矢を敵の頭上に降らせて倒していくが、敵は最初から矢が降ってくるのを予想していたのか、盾を上に向けて移動していたため、思ったほどの戦果はなさそうで、そのまま第一防衛ラインの馬防柵へと取り付かれてしまった。

 馬防柵を取り除く作業をしていた時はさすがに、上からの弓矢を防ぐ事は難しく、どんどん倒れていくが、彼らは粘り強く第一防衛ラインを突破してしまった。


 第一防衛ラインと第二防衛ラインの間の障害物も同様に排除されていく。上から降ってくる弓矢の中での作業で、最初は約500程いた敵部隊は、3分の1を犠牲にして300人程度まで減りながら、第二防衛ラインにいるパイク(長槍)兵の前まで迫ってきた。

 よく見ると、逃げ出そうとしている兵士を後ろにいる傭兵らしき指揮官が切り捨てて、恐怖を推進力にして前に出てきてるじゃないか。

 ろくでもない方法で兵を運用してやがる。


挿絵(By みてみん)


 最初の予定とはかなり違っているが、(いくさ)は予定通りに動いた試しが無い。一度動き出したらその勢いをどう自分のものにするのかが戦の要点だ。

 今回の動きはちょっとマズイ方向に動いていたが、まだこちら側のパイク(長槍)のリーチが長いおかげで、馬防柵に取り付いた敵を簡単に倒していってるので、市民募集の兵隊にしては、粘り強い戦いをしてくれている。


 これは勝てそうだ、アルベルトは思った。

 奴らは自分から兵力を無駄に損耗させてくれている。後方の傭兵約200と騎士達はまだ動いていない。

 むしろ傭兵達がそのまま残って損耗しなければ、ますますホラの必要とする資金は減っていく。

 一番恐ろしい騎士は、今目の前の馬防柵にとりついているホラの兵士達が邪魔で、騎士が動けるスペースが生まれる頃には、今目の前に来ている集団は軍としての体をなしてないだろう。



 敵は軍同士の連携が全く取れてないので、それほど恐れる必要もなく、アルベルトは淡々と指示を出し、余裕のなくなった場所へ予備兵力を投入して、交代と休息を与えていた。


 これはある種のスキ、油断であったのだろう、歴史上の優秀な将軍でも魔に取り憑かれる瞬間がある。この時のアルベルトがそうであった。



 ヒューパ軍の左翼、川側には、川の中を通って抜けてこられないよう一番兵力を分厚く当てていた。

 ある程度勝利の目算がついた頃、この左翼側に急に敵兵の圧力が増してしまい、急遽そちらに予備兵力を回したため、予備に回せる兵力が一度尽きてしまう。

 これによって、一瞬の魔の時間が生まれてしまった。


挿絵(By みてみん)


 ドドドドドドド、wgだdたt…やめて…れー…glだmっlj…うわー


 何か様子がおかしい、敵の後方から地鳴りと叫んでいる声がヒューパ軍の後方から指揮をしていたアルベルトの元まで届いてきた。


 異変に気がついて、音の方向を見た時にはすでに遅かった、敵の騎士は自分たちの兵士の上を踏み潰しながら6体の騎士が並んで最前線へと突き進み、後ろからの圧力で前に押しつぶされた敵兵ごと精霊魔法の乗った魔石槍で馬防柵ごと吹き飛ばすと、ヒューパ軍の中へと飛び込んで、その戦列に大穴を開けようとしていた。


 予備兵力によって穴を塞ごうとしたが、その予備兵力が無い。

 最悪だ。


 それにしても、奴らは鬼かっ!


 密集した味方を後ろから踏み潰して道を強引に作り、味方の肉体ごと馬防柵を吹き飛ばす、その酷薄な用兵にアルベルトは戦慄をしながら、次の一手を考える。



 騎士の乗る馬は、通常のサラブレッドのような競走馬と違い、巨大な体躯で金属鎧に身を包んだ騎士を乗せて走るため、品種改良により強く大きくなった。

 この巨大な馬に乗った騎士が、味方の軍勢を踏み潰しながら最前線へと突き進み、その後ろからは、傭兵隊200が続いていた。



 崖の上にいるムンドー達からの弓矢が降り注ぐが、さっきまでの勢いはすでにない。矢の補給が間に合わず、多くの弓兵は矢を撃ちたくても撃てない状態になっていた。最悪のタイミングに最悪の状態になっている。



 馬防柵を吹き飛ばし、乗り込んできた騎士の勢いの前に、ヒューパのパイク兵は対応が間に合わなくなる。

 離れた相手に密集状態で突き出される長槍の威力は、集団の接近戦において非常に有効な攻撃手段ではあるのだが、一度戦列を突破されると、長い槍のため、急な方向転換ができず、あっという間に騎士の馬蹄の下敷きになり、兵士たちは挽肉に変わって行く。

 騎士のこじ開けた隙間からは、傭兵たち約200が殺到してくる。


 こうなると、硬く強固だった防御ラインもあっという間に崩壊して、兵士たちは散り散りに逃げ出す。

 ヒューパの騎士たちの戦線に留まるよう指示する声も無視して、狂憤に駆られた兵士たちは、パイクを投げ捨て、鉄兜を放り投げてバラバラに走って逃げ出していく。


挿絵(By みてみん) 


 この頃になるとようやく、崖上のムンドー率いる弓兵達への補給が間に合い、弓矢が降り注ぎだしたが、時はすでに遅く前線の崩壊は決定的になっていた。

 それでもムンドーは、逃げまわるヒューパの兵士を襲っている騎士を狙い、魔石付きの矢で狙撃をしていくが、倒しきる事はできず、騎士たちは悠々と後方へと下がっていく。

 ホラの騎士達は逃げ去ったが、傭兵たちの追撃の勢いはなかなか止まらず、味方の撤退を支援するためムンドー達弓兵は必死で矢をつがえ続ける。




 下では、ヒューパ男爵アルベルトが、前線から少し離れた場所で休息をしていた兵士たち約50名をまとめ、散り散りに逃げようとする味方の撤退支援の殿軍を行おうとしていた。



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