表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/82

36 付加価値でGO

前回までの粗筋

ホラの街からの脅威対抗するため、ティアは化学物質を作るための資金作りにワインを選んだ。

日本時代の知識をフル活用して、ワインを再生産に成功したティアは、その冬を自分の知識のために使って過ごした。


今回はバケ学回です。

色々と危険な物質の事を書いていますが、かなりボカしてさらに嘘も混ぜていますので真似すると死にますってぐらい危険です。

★帝歴2501年3月9日 ヒューパ ティア



 年が明けて3月、山の上の方はまだまだ白いけれど、うちの周辺の雪は減ってきた、もうすぐ春がくる、今日は日差しが明るく春のご陽気に誘われて、私の教育熱と化学実験熱は加速している。


「ベック君、私の出した宿題の足し算はできたかなあ…」チャカチャカチャカ


「ひっ! で、できました…多分 」


 チャカチャカチャカ

 どれどれ、確かめてみましょうか。

 私の教育方針により、読み書きソロバンが、ベック少年への教育カリキュラムになっている。

 ドワーフのジョフ親方に発注してソロバンを作ったのだ。

 このソロバンはベック少年への教育に実に役に立った。


 今では彼は、簡単な文章なら読めるようになり、そして簡単な足し算の習得しようと必死で頑張っている。ソロバンのお陰だ。


「で、できました、だからソ、ソロバンだけは許して下さい。か、角がー、ゴリゴリはいやです」


 『読み書きソロバン』とは、昔の人は良く言ったもので、全くソロバンは便利な道具だ。特注で頑丈に作って良かった。


 私はお父さんの書庫から取ってきた本を読んで地理と、旧帝国史の勉強をしていた。




 今日はこれが終わったら、同じくジョフ親方に発注していた実験器具を使って、ある化学物質を作る予定だ。


 もし、私が日本でいた頃、予定の化学物質を一から家で作ろうとしたら、大型の実験器具を自作か購入でもしない限り事故になって、とてもじゃないが無理な話しだったが、この世界に来て知った知識の中で、物理法則を無視しきった物質がいくつか有り、それを使えば何とかなりそうなことが解った。



 まず、世界樹セトがこの世界にある。だいたいあんな巨大な質量の樹木が自立できるとか物理法則無視しきっているのでお察しなのだが、その物理法則を無視した樹木も、枯れて、長い年月が経つと化石になると言う。


 元が巨大な樹木なので、化石になっても大量の素材としてこの世界の建築だけでなく、特殊な性質を買われて、色々な用途に使われている。


 世界樹セトの化石の大きな特徴の一つに、火に強いというのがある。

 さすが世界樹、生えている場所は各地の火山だそうで、地球のマグマの熱エネルギーに楽々耐えてその巨体を維持している。そして化石になってもその性質を引き継ぎ、火に強く、耐火レンガ以上の耐火レンガになるので、製鉄をやっている鍛冶屋では重宝されているそうだ。


 そしてもう一つの特徴に、魔力を通しやすく火の精霊魔法を使えば、耐火レンガとしての性能がさらに上がって、より高い温度に耐えられる特性があるので、ジョフ親方のように火の精霊魔法が使えるのは、鍛冶屋として必須う条件でもあるそうだ。

 ベック少年よ、頑張って火の精霊魔法を覚えなさい。


 この材質の特徴が知ったのは、ジョフ親方達が建設していた工房で解ったことだ。


 少し前に遡るが、ワイン作りが終わって、ヒマ…もとい、時間ができてた私達は、工房建設現場に毎日通って親方達の仕事ぶりを監督(邪魔)していた。

 けして街の人達が『姫様、姫様』と果実を干したお菓子をくれたり、チヤホヤしてくれるのが嬉しくて毎日人が大勢いる現場に通っていたわけではない。(お正月にワインを街の人達に配って良かった)


 私はこの世界の未知なる物への探究心で通っていたのだ。


 親方たちやヒューパの街の人達総出で建設していた川沿いの旧水車小屋跡地は、私が最初に思っていた日本の古い田舎にある小さな水車小屋ではなく、旧帝国が何かの工場にしていたような広さの場所だった。

 上の建物は一切なかったが、土台の基礎はまるでコンクリートのような硬くてすこしツルッとした材質の床面だ。もしかしたらローマ時代の建築物に使われている火山灰を使ったコンクリートかもしれない。

 この辺りでも普通のコンクリートの大本の石灰石がたくさん取れるので、将来的にはコンクリートを使ったお城にしてもいいかもしれないが、今からホラとの戦いに備えるとなると間に合わないと思うので、サンプルを多少手に入れて後はパスだ。


 工房建設現場の中では製鉄炉を作っていて、その材質に興味があったので、聞いてみると火に強い世界樹セトの化石があるのが解り、私の実験のために幾つかベック少年に命じて頂いてきた。


 このいただき物を使って、実験炉を風通しの良い街からちょっと離れて風下側になる場所に、大人の人に頼んで建設した。

この時点で私の初期資金は尽き果てたので涙目になる。


 街からちょっと離れた屋外に実験炉を作ったのは理由がある。電気と実験器具さえあれば簡単()に作れる予定の物は、電気のないこの世界で作るための知恵を絞る必要があった。


 今回の実験は、ある物をガッツリと温度上げるたり色々して作れるのだけれども、色んな工程で有毒ガスも出るので街中で作るには危ないから外にした。

 そして、ろくな実験器具や防護装置も無いのに、室内で実験したら私達も危ないから、ウフフ。



 私がまず最初に用があったのは硫酸だ。


 私は日本時代に仕事をしていた化学工場で、こいつも作っていたので、高校までの化学授業の知識と共に硫酸の歴史も齧って知っている。

 この硫酸を利用できるようになった歴史は、中世ヨーロッパが近世に移り、錬金術士が大流行になった頃、その性質と利用法が確立して工業化に使われた比較的新しい物質だ。



 私は一応、こんな強い酸はないのかを親方たち鍛冶屋職人に聞いたが、誰も知らなかった。

 多分、この世界にはまだ生まれてない物質だ。


 鉛室法を使って、硝石とか硫黄と水蒸気と反応させれば、比較的簡単に作れるのだけれども、硝石が簡単に手に入らない。


 硝石に関しては、中世の錬金術士(ヨーロッパの場合初期はお坊さんが火薬を作っていた)たちが使っていた方法で簡単に作れるが、物凄く個人的に作りたくない。

 ウンチとオシッコを使うから。


 日本の戦国時代、硝石を得るために、古い家の下の土から硝石を作る技術があったが、ウンチとオシッコから直接作る方が、あれよりずっと簡単で効率がいい。

 こちらは化学の知識を使う方法だ、錬金術士達が開発し、中世の知識人お坊さん達が編み出した手法。


 ウンチとオシッコを食べる細菌の中に硝化細菌がいて、この細菌は、窒素を含む分子を硝酸塩へと変える働きが有る。

 古い肥溜めの蓋に白い硝酸塩の結晶がついている、あれが硝石だ。


 …都会の海の方に行けばもう少し効率的な硝化細菌もいるのだけれど、ヒューパには海はないからなあ……

 海さえあれば、他の重要な化学物質がいっぱい作れて、知識チートの最たる工業化も夢じゃないのに……

 

 話しがちょっと横道にそれた。

 硝化細菌を使い、ウンチとオシッコから、カルシュウムを使った簡単な方法でこの硝酸塩を取り出し、カリウムとカルシュウムのイオン交換をおこなえば、炭酸カルシウムと、硝酸カリウムが手に入る。

 専門の言葉で書いたが、作業としては超簡単作業だ。中世ヨーロッパで広まり、あっという間に戦場で大砲撃ちまくったり鉄砲が登場するようになったのは、この技術のお陰だ。

 後はこれを使えば、お手軽に硝石の出来上がり。


 将来的なお世話になるかもしれないけれど、工業的な手法で硝酸塩を取り出す方向に行きたいので、この方法は最後の手段としておく。



 ここヒューパには硫黄やミョウバンやらの火山性の硫化物が数々ある。これらの物を焼いたり蒸留水に混ぜたりして硫酸を作り出すのが目的だ。


 今回の実験で、少量だけれども硫酸を取り出すのに成功した。

「うふふふふ、やったわ、これで私の覇道が一歩前進する」


 化学チートの最たる物を作り出すための基礎物質の製造に成功したお祝いに、ベック少年と一緒に工房建設現場でもらっていた干しぶどう(この世界に来て貴重な甘味)を『手掴みで食べる』で解禁して思いっきり食べた。


 ベック少年は初めての贅沢に泣いて喜んでいたので、たまにはご褒美を用意しようと心に誓うティアであった。



★帝歴2501年3月10日 ヒューパ ティア



 翌日、ヒューパに待望のモノを荷馬車に満載したアルマ商会さんがやってきた。馬車は5台もいる。


「お嬢様、約束していた例のものができあがりました、どうぞご確認くださいませ」


 私はアルマ商会さんが連れてきた荷馬車に飛び乗り、木箱の中身を確認した


 中に入っていたのは、ガラス瓶。

 一つの箱に3×4列で12本入っている。この入れ方が一番安定的に運べたそうだ。

 これが一台の馬車につき100箱。

 ガラス瓶でワインボトルを6千本作ってもらったのだ。


 中世ヨーロッパでワインボトルの流通が始まったのは、とある物の利用方法が、古代ローマ時代から蘇った技術を蘇らせて使うようになった16世紀から17世紀ごろの比較的新しい技術。

 それは、コルク栓。


 オーク樫の木の皮に、弾力のある層があり、その層を剥がして円筒状に打ちぬいたのがコルク栓。

 このコルクは弾力があるので、ガラス瓶の中身と外の空気を遮断してくれる。

 空気と遮断されることで、ワインが酸素と反応しなくなるので劣化が進まず、ワインの保存が飛躍的に伸びる。そして保存期間が伸びたおかげで、ワインを長期間寝かせることで熟成され美味しくなる物が生まれる恩恵が追加される。


 私が冬にムンドーじいじとベック少年と一緒に、森のオーク樫の木から採取したコルク層だ。



 私のヒューパ産赤ワインに、新たな付加価値を加えるための準備ができた。



 私はアルマ商会さんに、ワイバーンの牙の販売代金から今回のガラス瓶代を支払い、残りの余ったお金を受け取る。

 競り市では意外と値段が上がって、ワイバーンの牙は金貨72枚でセリ落ちたそうだ。

手数料とワインボトルの製造代を引いて、私の手元に金貨32枚が手に入った。

 だいたいボトル二本で、銀貨一枚ぐらいの値段だ。


 ちょっとお金持ちな私、ウフフフ。



 さて、今回のメインの赤ワインをアルマ商会さんにも試して貰わないといけない。

 早速ワイン工房に連れて行き、赤ワインを試飲してもらった。


「お嬢様、いったいこのワインに何をしたのですか? 全くの別の酒になっています」

 と驚かれたので成功だ。


 今後、エウレカ公国の首都で販売するための金額を決めないといけない。

 お父さん達と一緒に話すことになったので、とりあえず、アルマ商会さんとはここで別れて、私とベック少年は、去年の秋にワイン工房で働いた近所のおばちゃん達を集め、ガラス瓶の中にワインを入れる作業を行う。


 おばちゃん達には、この作業を覚えてもらわないといけないので、皆の前で実演をしながらワインを入れていく。

 隣では、ワインの入った瓶にコルク栓を専用の器具で、キュッキュと詰め込んで完成だ。


 ワインボトルの数が足らず、樽のままで何本かは置いておく事になる。

 これらは、樽の栓をコルク栓に取り換えて、厳重に管理する。

 随時ワインボトルを仕入れて詰め替えていき、もっと良い環境の保管場所で、熟成ワインにするつもりだ。

 ヒューパのワインは、酸味と渋みが強めのワインなので、熟成が進んで角が取れる将来が楽しみだ。私が成長してからのお楽しみ。


 いざ、作業を始めると、ワインボトルはあまりよい質のガラスではできてなく、脆く割れそうだったので、急遽ワラ束を近くの農家から集めさせ、ワインボトル一本一本をワラで包み、麻縄で縛りクッションにして出荷準備を整えていった。



 城に帰ると、いつもの執務室ではアルマ商会さん他、いつものメンバーに、お母さんもいる。

 アルマ商会さんは、エウレカ国王からの親書を持ってきていた。


 首都メデスで春に行われる、社交界に私も誘われていたのだ。


 社交界は、普段は独立勢力である自領に引っ込んで中央に寄り付かない貴族も、お年ごろの子息令嬢達が結婚相手を見つけたり、周りの情勢を探りあうための大事な情報交換会でもあるそうだ。



 ふむふむ…結婚相手選びね……えー私5歳児だよ、超早婚だった前田利家の奥さんのまつさんより年下じゃん、ムリムリ。


 私が5歳児で結婚なんかムリだと伝えると、そこにいた全員が笑って『ワイバーンを倒したと有名なティア嬢を一目見たいと、多くの貴族から要請があったそうだ』と言われた。



 …ならば。

「行く! 私行くよ、面白そうだもん」


 ホラからの脅威は残ったままだが、王との協定があるのとホラの男爵も社交界へ行かないといけないらしい。


 ヒューパとホラ、戦争を仕掛ける側も防ぐ側も、どちらも味方になってくれる周辺貴族の取り込み外交が必要ということ。


 お父さんとお母さん、私の三人、そしてお供のムンドーじいじは、城の留守を騎士のカインさんとトードさんに任せ、ワインの出荷準備ができた荷馬車達と一緒にヒューパの街を出た。



 ベック少年は親方の元で鍛冶屋修行をするので、親方に預けた。

 もちろん、宿題は出しておいたので、城を出る前にソロバンを親方に預けて指導を頼んでおいた。


次回

明日午前0時頃更新予定

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ