26 お父さんの昔 ★宗教戦争(改)
前回までの粗筋
ティアにヒューパ男爵アルベルトの過去を聞かれたジョフは、昔の話しを始める。
要約すると
『つまり教皇庁って悪者がいて、世界中の戦争の余波で起きた宗教弾圧に巻き込まれた皆んなを、お父さんの大活躍で助けて、このエウレカ公国にやって来たのですね』
今日は3回更新しています。二回目
★帝暦2490年 神聖ピタゴラ帝国 ダイスの街 ジョフ
「うう、外は寒いな、ベッグス、昼飯買って戻ってきたぞー、お前の分ここ置いておくからな」
「おう、ジョフすまないな、飯にするか」
この頃俺は、冒険者としてコンビを組んでいた同じドワーフのベッグスと一緒に、武器屋『ジョフベッグスの剣店』を開店。
俺達は、以前冒険中に知り合って、交友を結んだダークエルフのムンドーさんに教えてもらった冶金技術で、切っ先は鋭くよく切れるのに、剣としては、しなやかで折れにくい鋼の作り方と組み合わせ方を学んだ。
そしてベッグスの得意とする精霊魔法を更に効率よく使う術を学び、2人で質の高い魔石武器を作り出す。
俺達コンビの作る武器は、多くの冒険者や騎士達からの評判を得て、街でも人気の店になりつつあった。
当時の俺は、近所にできたドワーフが経営する飯屋の看板娘ターナの気を引こうと、毎日昼飯を買いに行ってたんだ。
「今日はどうだった?」
ベッグスが俺に尋ねる。
「ああ、全然相手にしてくれねえ、どうにか振り向いてもらいたいんだがなあ」
「そうか、しょうがないな、もっと良い子がいるさ」
今考えると、この頃からこいつら2人は付き合っていたんだろう。
飯屋のターナとベッグスの2人は、この時から2年後に産まれるベックの両親だ。
「それより、今月は大量の武器の注文が入っている。どうやら近い内に大戦が始まるぞ」
「やっぱり、あそこか?」
俺はベッグスに相づちを打ちながら、思い当たる国を頭の地図に書き出す。
帝国の北西に位置する、獣・亜人連合国フェズだ。
フェズは、今から30年以上前(2450年代頃)に、西にあるヘウメス平原諸国で起きた宗教弾圧を逃れて、帝国内に集まってきた獣人や亜人が開拓した土地からできた国だ。彼らの宗教派閥は新教派と呼ばれていて、教皇庁から目の敵にされている。
正直、元から帝国の国籍を持っていた俺達亜人族や獣人族からすれば、迷惑な話しだった。
急に入ってきた難民は仕事もなく、街の治安を悪くすると言われて、元から住んでいた亜人族や獣人族までもが白眼視されるようになった。
神聖ピタゴラ帝国は初めの内、技術者や学者をしている者を喜んで受け入れいたが、それに続いて続々と大量に入ってきた難民に手を焼き、開拓地開発と言う名前で放逐する。
棄民というやつだ。
だが難民達は粘り強く大地と格闘した。その結果、困難な土地を開拓して自分達の土地を手に入れることになり、帝暦2471年独立を果たす。
俺たちの暮らすこの神聖ピタゴラ帝国にも、こいつらの新教派教義が入り込んできていて、その理念に賛同する獣人や亜人も増えてきていたが、俺はあまり興味がなかった。
俺にはドワーフのゴブニュ神があるし、セト教は形だけの信仰心だったので、セト教徒同士の争いには興味がない。
それより戦で、俺たちの店が大儲けできる期待の方が大きかった。
店のドアが開く、外からまた客がやって来たようだ。
見覚えのある人だ。
帝国騎士団のアルベルト(現ヒューパ男爵)様だ。
「修理を頼んでいた物はできているか?」
アルベルト様から頼まれていた物は、黒のナイフ…つまり魔剣だ。魔剣を握るの柄の部分の修理を請け負っていた。
以前持ち込まれた時は、初めて見る魔剣に武器鍛冶職人としての震えが止まらなかった。
魔剣は伝説だけの物ではなかったんだと感動した。
持ち込まれた魔剣を確認すると、硬いオークの木で作られていた持ち手の肢の部分は、真っ二つに砕けている。
いったいどんな使い方をすれば、こうなるのか……
この時は粘土で型を取り、アルベルト様の使いやすい大きさに作ろうとしたが、女性でも持てるように細くしてくれと頼まれた。
アルベルト様の紋章を彫り込んで、細めの握りにした肢を持ってきた黒の魔剣に装着させる、ピタッと決まり、自分でも会心の仕事だった。
「うん、いい出来だ」
俺は自分達の仕事が褒められて嬉しかった。
「ありがとうございます、またのお越しをお待ちしております」
「うん、お前達もこれから忙しくなるぞ、しっかり儲けろよ」
そうだ、俺には戦は関係ない、戦は儲けを運んでくれるだけの物だ。
俺には関係ない、この頃は俺もそう思っていた。
お父さんの昔編が伸びたのでタイトル変更しました。
中編 ジョフ視点→宗教戦争
今日はもう一回投稿予定です。
次回 お父さんの昔 歴史年表編
地図ありです
15時頃更新予定