25 お父さんの昔 ★お父さんはカッコいい
前回までの粗筋
ホラの街から脱出したティアは、焼き討ちに遭ったファベル村で、略奪品を漁ろうと戻ってきた冒険者の二人組と鉢合わせになる。ティアとムンドーの活躍でこれを退け、生き残りの冒険者から、ホラの現状とヒューパの関係が見えてきた。
★避難所 ティア
坑道に着くと、大勢のドワーフ達が避難していた。
途中の道でジョフ親方と会って、坑道に避難所を作っていたので、ドワーフの多くは無事だと聞かされホッとする。
坑道の入り口付近でベック少年がツルハシを持って、門番をしていた。
お、ベック少年やるねえ、カッコいいよ。
隣では、ジョフ親方や大人の村人とムンドーじいじの情報交換が行われている。
そして私の後ろでは、生き残っていた冒険者が馬から下され、村人達の手で森の中へと連れて行かれた。
「楽に死ねると思うなよ」
大変物騒な言葉と悲鳴が聞こえてくる。
確かにムンドーじいじは、彼を殺さなかったようだ。
それにしても…こわひ
私はそのまま坑道の中に入って、女の人達と一緒に固まってその晩は寝ることになった。
夜、私は昼間の興奮が残っていて寝付けない、人と命の取り合いをしたのだ、神経がささくれ立っていて眠れない。
周りにも中々寝付けない人が居る。
近くに私より少し小さな女の子が1人でいた。その子も震えてすすり泣いている。
私はその子を抱き寄せて背中をゆっくりさすっていたら、その子は眠ってしまい、いつの間にか私も眠っていた。
翌朝起きるとムンドーじいじに呼ばれた。
じいじの横にはジョフ親方もいる。
「姫様、家までの護衛ですが、ここから先はこのジョフにお願いしました。私はこれからホラに戻って、父上に危険が迫っている事を伝えなければなりません」
えー、じいじ行っちゃうの。確かにこの先は危険が少ないかもしれないけれど、大丈夫なのかな?
親方達は一度村に帰っていたようで、使えそうな荷物を取りに行ってたのだと言う。
親方の家は完全に燃やされていて(じいじが尋問の時に激しく燃やした家だった)使えそうな物は残ってなくうちには帰れないので、一緒にヒューパの城まで案内して、しばらくあっちでいるそうだ。
ちょっと責任感じますね。
「僕も行きますよ」
お、ベック少年も来るのね。
私はポケットに残っていた魔石を、全部その場に残った村の代表に渡して、ヒューパからの救援を約束してその場を離れる。
先にムンドーじいじがホラの街へと馬で出て行った。
私達も昨日の冒険者が乗っていた馬2頭でヒューパの城を目指す。
私は親方の前にちょこんと乗る、そして私達の馬の後ろに紐で連結された馬に乗ってプルプルしているベック少年。
ベック少年は最初、馬に舐められて落とされていたが、1時間も乗ると乗馬のコツが掴めたようだ。
男の子は乗り物が上手だな。
一つ山を越えて降りた所で、村があり、その村の先にある川に渡し船があるのでその船を利用することになる。
移動中気になっていた事を尋ねた。
「ジョフ親方、もしかしてムンドーじいじと仲がいいんですか? なんだか喋り方がとても仲良さそうに見えたので」
ジョフ親方がニコリとしながら答える。
「そうですよ、お嬢さん。冒険者をしていた頃に色々な知識を分けていただきました、精霊魔法の事もですし、冶金技術の知識など、どれも素晴らしい知識です。
冒険者を引退して、以前住んでいた街で親友と一緒に開いた鍛冶屋をやってた頃には、ムンドーさんの剣を打った事があります。そして同じ街で住んでいたご縁で、姫様の父上の剣も打ったことがありますよ」
「え、お父さんのも?」
「はい、今から10年以上前の話しです」
「その頃のお父さんは、どうだったの? カッコよかった?」
ジョフ親方は笑いながら答える。
「ええ、そうですよ、大層おモテになってましたよ、色々なお嬢さん方の憧れの的でした。その中でも最も輝いてお父様を射止めたのが、お母様のマリア様ですよ」
へー、お父さんモテてたんだー、そうだよねえ、カッコいいもん。
「うん、うん、そうだね、お父さんカッコいいからね。
ところで、その頃はお父さん達は、別の街でいたってことなの? うちはずっとここじゃなかったんだねえ」
私は何気なく疑問を口にした。
すると親方は少し困ったような顔をして、私達とベックを交互に見る。そして何かを決めた顔になった。
「そうですね、こんな事になったし……ええ、知ってもらっても良いでしょうか……そうだ、ベックお前も聞いておきなさい」
「親方?」
ベック少年が困ったような顔で親方を見る。
「以前、私達がお父様にして頂いたご恩のお話をしましょう」
あれ?何気なく聞いた疑問が変な方向にきちゃったぞ。
お父さんとお母さんが以前出会った街の事を聞いたつもりだったのに。
「それは今から10年ほど前の話になります」
私は黙ってその話を聴きいった。
「以前、私達は神聖ピタゴラ帝国の一地方都市ダイスに住んでいました。
その頃帝国ではまだ同じ街の中に、人族、獣人、亜人が一緒に住んでいました。
まあ、多少の亜人獣人への風当たりはありましたが、私達ドワーフも普通にピタゴラ帝国内の街で、人族に混じって鍛冶屋の腕を振るっていました」
なんだか嫌な予感がする出だしだな。
「お嬢さん、少し長くなりますが……省略」
……長い、ややこしいし物凄く長いので要約すると。
「つまり教皇庁って悪者がいて、世界中の戦争の余波で起きた宗教弾圧に巻き込まれた皆んなを、お父さんの大活躍で助けて、このエウレカ公国にやって来たのですね」
……
「お嬢さん、要約し過ぎです」
ジョフ親方は、要約され過ぎたさっき話した内容を思い出していた。
お父さんの昔編が伸びたのでタイトル変更しました。
前編→お父さんはカッコいい
次回
今日の午前7時と昼15時に掲載予定