23 冒険者《略奪者》トームとヨーク
前回までの粗筋
ホラの街から脱出したティアとムンドーは、山越えコースでファベルの村へ入る。ところがファベルの村は何者かに襲撃されて数人の死体と燃え盛る家々が残されていた。怒りに身を焦がしたティアの視界は別のものになり、正体不明の相手からその胸に攻撃を受けてしまった。
★帝歴2500年初冬 冒険者トームとヨーク
「ちっ、しけた村だったぜ」
冒険者のトームは馬に揺られながら、さっき略奪した村での戦利品を見ながら毒づく。
「全くだ、亜人のファベル村だから魔石武器や防具がたんまり有ると思ったら、全然じゃねーかよ。
前にファベル村にお邪魔した時は、素直にもっと多く出してきて儲かったのにな」
俺に返事をして毒づいたのは、相棒のヨーク。
周りにいるのは、冒険者として時々一緒に仕事を組んでいた奴等だ。
俺たち冒険者は5人、それと雇用者のホラの騎士であるライナー様の全部で6人でホラの街へ帰っている。
何度かご一緒させてもらっていたライナー様の仕事で、ちょっといつもの出稼ぎに来ていたのだ。
最近ホラの街は景気が悪い、街の主要な収入だった金鉱脈からの金が枯れてきて、残りは、資金力に物を言わせて開梱した耕作地からの食料だけが、今のホラの収入だ。
お陰で、それまで俺たち冒険者に美味しい仕事が下りてきていたのがピタッと止まり、危険な魔獣討伐や、安い商人の護衛依頼ぐらいしか仕事が無い。その商人の仕事ですら最近はホラの街の景気が悪く、仕事が減って俺たちに下りてこない。
まあ、時々途中で商人を脅して余分に頂いていたからなんだろうけどな。
危険な魔獣討伐なんてさらさらする気なんて無いし、好んで魔獣討伐やってる奴らの気がしれない。
「おい、ヨークどうするよ、稼ぎが少なすぎて借金が返せないぞ」
「そうだな、期日も近いしヤバいな。もっと魔石武器が手に入ると思ったんだが、これじゃどうにもならねえ」
最初の予定では、ヒューパのお姫様を攫ってたんまりと頂く予定だった。なんと魔石や魔剣まで持っているらしい。
大きな儲けになる話だった。
騎士ライナー様が言うには、ヒューパの騎士達はまだ会談があるので移動ができない。
街でライナー様の騎士従弟が騒ぎを起こしているので、大した護衛も無いままヒューパの娘は燻り出されて来るだろうと言っていた。
そして『もしヒューパの騎士が出てきても、それはそれで目的を達するから他から金が出る』とも言っていた。
街道の繁みで見張っていた時、離れた川の対岸の道をダークエルフの乗った馬が少女を前に乗せて行くのが見えて、ライナー様に報告すると今回のターゲットだと気がついた。
見えていた2人は、そのまま山の中に向かって行ったので、俺たちには追いかけることが出来なくなる。
計画の失敗で手近の立木に当たり散らした騎士のライナー様は、予定を変更して、今回の騒動の手紙を送ってきたファベル村に行くと言い出した。
おかげで今回の給料は、スポンサーのライナー様からのスズメの涙ほどの初期依頼料と、現地収穫品の分け前だけだ。
現地で稼がないといけなかったが、村の広場で遊んでいた亜人に俺逹のボウガンで見せしめをしたら、あっという間に逃げられてしまい、やっとの事で逃げ遅れた女を捕まえて案内をさせたが、全く獲物が出てこなくてガッカリすることになる。
最終的に手に入った分け前は、それなりに強力な魔石武器ではあるが、水精霊特性の魔石が埋め込まれた矢が1人頭2本だけ。
もっと需要のある剣や槍は、一足違いで商人が買い取って無くなっていた。
現金に関しても、村の生活品や食料品の買い付けと、素材の買い付けで大半を商人に渡していて残っていないと言うオマケ付き。
敬虔なセト教徒である俺たちに、神様は微笑んではくれないらしい。
「おい、どうする?」
「そうだな、このままじゃ帰れないな」
俺とヨークの二人は、またファベル村に戻って焼け落ちた家の中から何か目ぼしい獲物が出てこないか探しに行くことにした。
別れ際にライナー様が。
「もしかしたらさっきのダークエルフ達が来るかもしれない、ダークエルフは腕が立つので見つけたらさっさと逃げろ。もし捕まっても我々の名前を出すな。出したら必ず殺すからな、これは命令だ」
騎士様が言うのならヤバいのかもしれない。他の冒険者達を誘ったが断られた。
ふんっ腰抜けが、ダークエルフを殺せば、ヒューパの姫が持つ魔石や魔剣が俺たちの物になるじゃないか。
バカな奴らだ。
俺達2人はボウガンに、さっきの報酬で貰った魔石武器の矢をつがえた。
……
ファベルの村に着くと、広場に馬に乗った小さな幼女がいる。
まさか? 俺は目を疑った。大物の獲物が一人きりでいる、しかも俺たちの事を睨んでこっち向かって馬を走らせてきた。
隣にいるヨークに素早く指示を出す。
「あのガキを撃て、落ちたガキを拾ってさっさと逃げ出すぞ。ダークエルフが戻ってくる前に、ガキの懐の物を頂いたら俺達は金持ちだ」
ヨークが急いでガキに狙いをつける。
こんな事なら、ダークエルフ用に魔石武器の矢をつがえておかずに、普通の矢で良かったな。ヨークは悔やむ。
強力なダルマを持つ相手が発するプラーナ防壁を一発でブチ抜くには、貧相な魔力のヨークでは、不意打ちでプラーナ防壁を発生させる前に撃ち込むか、強い魔石武器の魔力に頼らないとダメだが、今回のガキ相手に魔石武器はもったいなさ過ぎた。
ボウガンの引き金を引く。
バシュッ!
ボウガンから放たれた魔石武器矢は、綺麗な放物線を描いて、馬で迫ってくるガキの胸に吸い込まれて、その体のど真ん中に当たった。
★帝歴2500年初冬 ファベルの村 ティア
…痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い……
この痛みはアイツのせいか! あれは敵だ!
頭の中を怒りが支配して目が曇る。
この痛みは、正面にあった良くない光のせいだ、禍々しく渦巻いている。
1秒でも早くこれを消し去らなければならない。
良くない光は黒く渦巻いて形を取り、二つの馬に乗った人の形になっていく。
私は胸に仕舞っていた黒のナイフを取り出す。
右腕を真横に真っ直ぐ差し出し、黒のナイフを上に向けて握りしめ構えながらタオスの脇腹を蹴りつける。
目の前の人の形をした敵へタオスの速度を上げ、胸の痛みなど御構い無しに、私の口からは甲高い奇声が飛び出していた。
「YAAAAAAAAAAAAAA」
敵の馬は怯えて暴れている。
もう少しで敵、という所まで近付いた時、またさっきのイメージが見えた。
今度は後ろから影が伸びてきて、目の前の敵の腕に当たる。すると敵の持っていた長い黒い物が後ろに逸らされて、その身体が無防備になったのが見えた。
私はタオスの背中で黒のナイフ片手に立ち上がった、その時、空中に残っていた影の線に黄色い光がなぞって飛び込み、敵の腕を貫く。
私は敵とのすれ違いざま、そのまま自分の身体を、敵の咽喉元へと一直線に投げ出した。
私の意識はここで途切れた。
★ダークエルフのムンドー
村の裏で村人達の足跡を調べていたら、周りに放っていた精霊だけでなく、自分の周辺の精霊達まで騒ぎ出す。
姫様に危険が迫っていると、数百年ぶりかの風魔法を使った全力疾走で姫様の元へと走った。
中央の広場まで走り抜けた時、姫様が前にいる冒険者の二人組へと馬で突っ込んで行っている。二人組は暴れている馬をなだめながらも剣を抜いている。
「いかん!」
ワシは走りながら矢を矢筒から取り出して弓につがえ、一番近い冒険者の腕を狙って撃った。
そのまま矢継ぎ早に、隣のもう1人の冒険者の手足へと矢を撃ち込み落馬させる。
この時、ワシは信じられない光景を目撃する。
姫様が走る馬から立ち上がって、手前の冒険者へと飛び込んだのだ。
しかも右腕には黒の魔剣を握ったまま、冒険者の首元へと飛んでいく。
姫様はぶつかった衝撃で投げ出され、冒険者と一緒にそのまま地面を転がった。
「姫様っ!」
姫様の元へと駆け寄り、呼吸を見た。
呼吸は…有る。
プラーナ防壁を失って気絶はしているが生きている。
急いで腰のポーチからプラーナ魔力を補充するためのポーションを取り出す。自分が今までの冒険の中でも最も効果の高かった、取って置きの薬だ。
小さな口を開かせ、薬を流し込む。
すると周りから精霊達が集まり、姫様の身体をまるで赤子を抱くように優しく包み込んだ。
今までに見た事のない光景だ。これまで数多の戦場で戦い、仲間の為にポーションを使い、倒れていた戦友達を癒してきた。だがこれは600年間で初めての経験だ。
姫様の呼吸が安定する、ケホッケホッと咳き込んで、ゆっくりとその目を開いた。
ん? 一瞬その目に、かつて見た事のある輝きが見えた気がする。
黄金色? いや、姫様の黒い瞳だ。
「うグググ、いだだだ、いだいー痛いよー」
当たり前だ、肉体を破壊されなかったとは言え、あんな無茶をして自分の身体に攻撃を当てさせれば、プラーナ防壁で怪我はしない代わりに痛みはそのまま身体に残る。
大人の戦士達は、その痛みの中を強引に突き抜け、ポーションで回復をしながら戦いを続ける。
小さな姫様がやった無茶の代償だ。キチンと痛みを噛み締めてもらいたい。
このワシも今数百年ぶりの無茶の代償で、身体がガタガタになってしまっている。
それにしても異常だ、このプラーナ防壁量やさっきの飛び込んだ勢いは、プラーナ魔力による肉体強化の物だ、それは5歳の少女にしてはありえない程の物だった。
昨日聴いた、姫様がワイバーンを倒して光が飛び込んだと言う話し、ワイバーンから大量のダルマを得たのはどうやら本当の事だったようだ。
姫様はワイバーンから振り落とされたと言っていたが、姫様が見つかった場所とワイバーンが見つかった場所は、山一つ分かれて離れている。それはどれほどの高さだったのか?
それでもこの大量のダルマから生じたプラーナ防壁のお陰で生き延びたのだろう。
何と運の強いお方だろうか。
周りを見渡すと、冒険者の二人組は落馬をして下で倒れている。
姫様がぶつかった冒険者の首には深々と魔剣が刺さり、即死していた。
恐らく魔石もダルマ魔力も、この身体が作り出す暇はなかったのだろう。
もう1人の冒険者は、弓矢を手足に受けて落ちた時の衝撃で気絶している。
その時、姫様がワシに助けを求めてきた。
「じいじ、私の胸に何か刺さってる、急いで抜いて、何かが胸から背中に突き抜けている」
…そんな馬鹿な、姫様の身体には何も残っていない。まさかそれだけの攻撃を胸もらっていたというのか?
確かに服の胸の部分には切れた跡があるが、服をめくって触って確かめても何も刺さってない。
「姫様、大丈夫です、何も刺さっていませんよ」
姫様は痛みに顔をしかめながら答える。
「え、本当? でもこの痛みは何? あ、いたたたた」
姫様は自分で胸を触って確認しているが、きょとんとしてる。
…幾つかの疑問点は残るが、どうやら大丈夫のようだ、ワシは先ほど放っていた警戒の風魔法の精霊をもう一度放って周りを確認した。
そして、倒れている生き残っていた冒険者を蹴り上げて起こす。
こいつには聞かないといけない事がある。
次回
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