9、開店中〜後輩訪問〜
この作品はフィクションです。
「…とりあえず、その塩抹茶のゴミを捨ててきてください。」
シャイな彼女が店を出てから、約5分後。後輩くんが店へとやって来た。で、挨拶もそこそこに出た言葉が、冒頭の、あれ。
「え〜。今捨てても閉店までにまだまだ飲むもの。最後にまとめて捨てた方が効率いいでしょ?」
「一応、店なんですから。レジカウンターの中とはいえ、お客さんから見える場所にゴミが散乱しているのは、悪印象しか与えません。せめて、足元にゴミ箱でも置いて、そこに捨ててください。」
「ゴミ箱なんてないもの。」
「どんな開き直り方ですか…。店には置いてあるじゃないですか、ゴミ箱。」
「あれは商品だもの。」
「…じゃあ、自費で買って使いなさい。」
「あれはお客さんの妄想補助アイテムだもの。私が買うわけにはいかないわ。」
「………本当、変なところで律儀というか頑固というか…。」
腰に手を当ててため息をつく後輩くん。
「じゃあせめて、ビニール袋に入れてまとめておいてください。」
「ビニール袋なんてないもの。」
「あげますから。」
コンビニの袋を後輩くんから受けとる。
「……………。」
「…何してるんですか。」
「…ペペロンチーノ食べた?」
「袋の残り香で勝手な妄想しないでください。………まぁ、食べましたけど。」
「で、どうなんですか?お店の方は。…まぁ、この塩抹茶の消費ペースを見るに、なんとなく予想はつきますけどね。」
「それはどういう意味よ。まるで私が、四六時中暇してるみたいじゃないの。」
「違うんですか?」
「違うわよ。さっきまで接客してたもの。」
「……………え?」
「………予想外!!、って思いが、これでもかっ!!ってくらい、表情にでてるわね。」
「…いや、だって…、こんな怪しい名前の店に、お客さんが来るとは思ってなくて…。」
「失礼なっ!妄想の同志に謝れっ!」
「なんなんですか妄想の同志って…。秘密結社でも立ち上げるつもりですか?」
「そんな物騒なもんじゃないわよ。妄想の同志は、この店にやってくる妄想大好きな仲間のことよ。そう呼ぶことに決めたの。」
「…はぁ。まぁ、呼び方は自由ですけどね。」
「キミも頑張れば同志になれるわよ?」
「遠慮しておきます。」
「え〜、なんでよ。」
「私は、しっかり現実を見つめて生きていたいので。」
「別に妄想=現実逃避ではないわよ。妄想はあくまで、辛い現実に幸福感を与えるスパイスなんだから。」
「だとしたら、先輩はスパイス過多ですね。生活習慣病レベル。」
「…嫌味なやつ。」




