8、開店中〜女性退出〜
この作品はフィクションです。
憧れは、妄想へと、一番繋がりやすいキーワードだ。
何かへの憧れ。誰かへの憧れ。自分ではない自分への憧れ。
ポジティブな憧れは、ポジティブな妄想を生む。それは、とてもよいことなのだ。
「このナイト様、かっこいいわよね。女性らしい凛々しさと、荒々しい強さの両立っていうの?現実にいたら、女性にモテモテになりそうな感じ?」
「……………。」
図星、なのは間違いなさそうだけど、すっかり喋らなくなってしまった彼女。図星すぎて言葉を返せないのだろうか?
「私もこんな風になれたらなぁ、って、思ったりもするわ〜。かっこいいもんね、理屈抜きで。」
「……………。」
「妹である姫様を一途に護り続けるその姿がなんとも…」
「………あ、あの…」
お。何か言うのか?
「ん?何?」
「……………お会計、を…。」
……………。
「あ、ごめんなさいごめんなさい。そうよねそうよね〜。他にお客さんいないから、ついついペラペラ喋っちゃったわ〜ごめんなさいね。」
「………い、いえ…」
…ま、普通に考えればそうよね。今日出会ったばかりの相手に、こんなにペラペラ喋られても困惑するだけだわ。
「は〜い。じゃあ合計で、920円になります〜。」
「は、はい。」
緊張気味に1000円札を差し出す彼女。受け取って、お釣りの80円と、
「これ、おまけね。」
おまけ、を、手渡す。
「え………?」
「開店記念的な?うちのオリジナルグッズ。」
「は、はぁ………」
手渡された、それ。ノミクジラキーホルダーを手に、少々困惑気味の彼女。
デザイン的には悪くないと思うんだけどなぁ。クジラの背中にノミの足みたいなのが、ぴょこんぴょこん、って、生えてる感じ。
後輩くんに発注して作ってもらったキーホルダー。だからまぁ、ウケが悪いのは後輩くんのせいってことで。…デザインは私がしたんだけど、そこは気にしないことにする。
「まぁ、あれよ。輝かしき妄想ライフの御守り、的な?。枕元にでも置いてもらえると、いい妄想が出来る、かも?」
「妄想…………。」
「そう。この世で最高に幸せな行為である妄想。これは、その妄想の御守りなの。是非持ってって。」
「……………。」
無言で、その御守りを見つめる彼女。そして、
「…。」
買ったものと一緒にバッグの中にしまうと、ペコリと一礼。そのまま足早に店を出ていった。
「う〜ん。まぁ、ファーストコンタクトとしては、あんなものかしらね。」
ほとんど私の顔見てもらえなかったけど、まぁ、そんなもんなんだろうと思う。妄想の同志は、奥ゆかしくてシャイなものだから。私みたいに。




