49、現実2~只今卒業制作中!~
この作品はフィクションです。
OKの声と共に、
私は台本を下ろし、ふぅ、と、息をついた。
「お疲れ様~。声チェックするから、出てきて休憩してて~。」
ヘッドフォンから聞こえてくる相手の声に肯定の返事を返すと、私はそれを外して、ブースの外へと出た。
「ふう。」
思わず声が出た。
やはり防音の密室であるブースの中と外とでは開放感が違う。ついでにのびの一つもしたい気分だ。
録音スタッフたちは、今しがた録ったばかりの私の声をチェックしている。真剣な表情だ。後ろからおどかしてやろうかと思えるくらいの真剣さだ。
まぁ、これが私たちの卒業制作になるわけだから、真剣にならざるを得ないだろうが。
「笹の原ボイスアカデミー」
声優、ナレーター、アナウンサー、歌手など。
自分の声を仕事にしたい若者たちが集う専門学校。一年目は基礎を学び、二年目で、それぞれが希望するコースへと進む。そして三年目の卒業まで、専門的な技術や知識をしっかりと学ぶことが出来る。
私はそこの、声優コースの三年生。そして今は、卒業制作の真っ最中。
録音スタッフをやってくれているのは、音響や照明の技術を学ぶ、姉妹校の三年生。演者と裏方。どちらが欠けても表現は成り立たない。そして、私の卒業制作は、彼らにとっても卒業制作なのだ。
まぁ、なんだか説明くさい言葉を並べてしまったが、
要は、未熟なりにも皆真剣、ということだ。
「お疲れ様。」
「お疲れ様~。」
ミキシングルームを出ると、廊下に出る。そこに設置された椅子に、他の演者たちが座って休憩していた。皆、私のクラスメートだ。
「あ~、つっかれた~。後輩くん~、飲み物~。」
「おいおい。いつまでボイスドラマの設定持ち込んでんだよ。実際はタメだろ。」
「クリスマスとハロウィンとバレンタインデーと正月を包括した飲み物でよろしく。」
「聞いてねぇな。そもそもなんだよ、その無茶苦茶な飲み物。ねぇよ、んなの。」
「あるわよ。乳酸菌飲料。」
「なせだ。」
「1年365日、いつ何時飲んでも美味しいからよ。」
「ただのおまえの好みじゃねぇか。」
苦笑する後輩くん役の彼。役から離れれば、気のいい同級生だ。
「じゃあ、あたし買ってくるよ。コンビニ行くつもりだったからさ。ついでになんか買ってくるものある?」
内気な少女役だった彼女が立ち上がる。実際の彼女は、驚くほどアクティブで世話好きだ。
そのギャップがまた面白かったりもする。それも、演技の世界の魅力だと思う。




