47、現実~冷たい真実~
この作品はフィクションです。
……………。
ぼんやりと、何かが伝わってくる。
まだ、何も見えてこない。だが、自分を包み込むこの空間は、明らかに今までとは違う感覚だ。
思い出した。
全てを。
私は、現実を思い出したのだ。
逃げ込んでいた妄想の世界から、現実へと戻ってきたのだ。
戻りたくなかった、現実へと。
親の跡を継ぐのが嫌だった。
媚びるような笑顔で、偉そうな人にペコペコ頭を下げて。
そうかと思ったら、そうじゃない相手には大声で怒鳴ったり冷たい言葉を突きつけたり。
うちが、普通の宿屋じゃない、ってことは、子供の私にもなんとなく理解できた。
だって。
自分の子供に宿の用心棒をやらせるなんて、おかしいじゃない?親として。しかも女の子によ?
良かったことといえば、結果的に、格闘術や短剣の腕前が上がったことくらい。
狂ってる。
私の親も、その周りの人間たちも。
みんな狂ってる。
そんな家と親を、私は激しく嫌い、
そして、
家を飛び出した。
冒険者。
己の腕を頼りに、世界中を巡る者たち。
その自由に憧れた。
そして私も、
自然と、その道を歩き始めた。
少しだけ覚えがあった、戦いの感覚だけを頼りに。
数年が経ち、
私は冒険者として、どこかの崖の上にいた。
賞金首を追い詰めていたのだ。
冒険者に固定給はない。稼ぐには、ギルドで依頼を受けるのが手っ取り早い。
賞金首の討伐、というのも、よくある依頼の一つだ。
そして私も、すでに何人かの賞金首を討伐した経験があった。
だから、少なからず、自信もあった。
それが、いけなかったのかもしれない。
「っ、!?」
足が宙を踏んだ。
視点が宙を舞った。
完全に追い詰めたと思った。
だが、
もしかしたら、私は誘い込まれていたのかもしれない。
この、断崖からの奈落へと。
なすすべもなく、自分の体が落下していく。
何とか何かを掴もうと、岸壁に手を伸ばす。が、微かに触れた瞬間、激しい痛みと共に、指先が血を吹いた。
青の空に、赤い線。
綺麗だ。
そう思ってしまったのは、恐怖でどうにかなってしまったからか。
それとも、
私も、狂っていたためか。
水面に、
叩きつけられた。
その時点で、すでに私には、意識がなかった。落下中に頭部を打ち、意識を失ったのだ。いや、この時点で即死していたのかもしれない。
痛みを感じずに済んだのは、皮肉な幸いと言うべきか。
そして私は、
海へと沈んで行ったのだ。




